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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
第二章
33/149

彼の探し物

 村へと戻ってきたら、もうすでに夕方になっており、村の所々に細い煙が上がっており、料理の匂いが村を包んでいた。


 だが、夕方になっても子供達は外におり、集まって誰かの話を大人しく聞いている様子がある。


 夕方とは言っても、片方の空は少しだが、青空が残っており、影を使った日時計を見てもまだ、時間はある。


 ルアザは子供達が集まっているのが、気になるが、確認すべきことがあるため、リャムラの元へと向かい、方向を変える。


 村の中を歩いていると、最初連れていかれた時と同じくらいの人々はいるが、ルアザを視界内に入れると、一目散にルアザから逃げていく。


「……。(変わった?)」


 ルアザは村の雰囲気が変化したことに気づく。

 元々自分には冷たく殺伐としていたが、今回は嫌悪されていることに違和感を感じる。

 しかし、それを気にした様子はなく、感情が揺れ動く事もなく歩みを止めない。


 そして、リャムラの前へと立つ。


「呪いは消えたはずですよね?」


 ルアザは危機迫ったようには言わずに、極めて冷静だった。

 なぜなら、ルアザの予想では無事だと確信できるからだ。

 間違いを恐れるはずがないから、興奮もせず通常の状態で聞ける。


「あぁ、解けた。感謝するよ」


 リャムラもルアザと同様に平常心を保ち、大きく感謝するわけでもなかった。


 短い言葉を互いに言った後、元々静寂な空間だったが、更に気配や音が無くなり、逆に静かという属性の気配と空気が溢れる。


「死の呪いなどないでしょう?」


 ルアザがその高くなっていた空気の圧をゲリラ豪雨のような一言で払う。


「……そうだね。よくわかったね」


 それも予想通りなのかリャムラは先程と変わらず平常心を持って言う。


「不可解な事が多かった。なぜこのような嘘を?」


 開き直った態度もルアザは無数に描いた予想の一つだ。

 不可解な事がわかりやすくなっていたから必然な事であり、進行の妨げにはならない。


「その答えを言う前に、お主にはこの村から今日中に出てもらう。当初よりも少し村人達がお主の事を恐れている」


「なぜ?」


「因果とも言うべき偶然だね。よくある事だよ。噂が真実から遠く離れてしまうことは」


 因果その一。

 ルアザ自体が不幸の象徴のような存在なこと。

 因果その二。

 悲しいことにルアザが村に滞在中かつ、村の宝である子供達の近くにいた。

 そして子供達不幸が降りかかったこと。


 この負の性質を多く含んだ二つが組み合わさせれば、原因がルアザだと偏り思い込んでしまう人がいても仕方ない。


(噂、こわっ!)


 噂。

 ルアザにとっては噂というものは始めて聞くものだった。

 初印象は自分を貶める物というはっきり言えば、敵だ。


「止めないのですか?」


 ルアザのこの声には止めて欲しいという願いが込められていた。

 噂という無形な物の対応の仕方は知らないから、リャムラに頼る。


「そうだね。私が言えば多少は収まるだろうね。でも、私は村の味方だ。あんたを排除すれば取り除かれる不安と得られる平和を優先する」


 何十年もこの村を守ってきたリャムラにとってはルアザとは平和を乱す悪なる存在だ。

 この何十年をルアザのような余所者に壊されるわけにはいかないのだ。

 外部から訪れた壊れる要因となるものは、消えてもらった方が良い。


「それは……!」


 納得できてしまう話だった。

 自分の大切な物が少しでも傷つくならば、傷付ける存在を排除するという事は非常に共感できることだ。


「わかりました。答えと剣はいつどこで返してもらえますか?」


 認めたくない事実だが、リャムラの言葉は無視できない。

 これを拒否すれば、更に最悪な方向へと突き進むかもしれないからだ。


 また、リャムラの言葉を思い出すと、質問の答えを教えてくれる。

 リャムラの言う因果という物の一つが、その答えの中に入っており、回答の開示内容にはリャムラの本音を僅かでも含んでいる気がした。


「村の入り口の先に大岩があるから、そこで待っておれ」


「ありましたね。では待ってます」


 気持ちの整理がついたわけではないが、次に移すべき行動はわかっているため、迷うことなくリャムラの元から離れて行く。




 ◆◆◆


 ルアザが村から離れていた頃の事である。


「たぶんこの村だろう」


 外套に身を包んだ彼は村の方に視線を置きつつ、手に持つ地図へと視線を向ける。


 地図を懐の中に入れ、村へと向かい歩いていく。


「ここは何と言う名前の村なんですか?」


 彼は村の入り口のすぐ近くにいた人にそう尋ねる。


「ここはナベロン村だよ。ようこそ」


 村人はルアザとは違い、彼には丁寧な対応であった。


「じゃあ、合っているか……」


 周りを見渡している彼を怪しく思ったのか、村人が怪訝な表情で話しかける。


「何か探し物でも?」


「ん? あー、そうで、す、……ね。この村にお宝があるらしく、やってきました」


「へー! うちの村にそんな物が」


 村人は彼の言うことに見た目も口調もわかりやすく驚く。

 この村人は壮年の見た目をしており、生まれも育ちもこの村だった。

 だからこそ、驚きを隠せなかった。

 この村の事は知り尽くしていると言っても良い程長くこの地で根を張り、暮らしていたからだ。


「とは言っても自分の一族にしか価値が無い物ですけどね」


 苦笑しながら、期待を無くすような事を言う。


「過去にあなたの親族がこの村に訪れたかもしれませんね」


 村人は彼の言葉で特に沈まず平常な姿で、過去に訪れた人々の顔を思い出す。

 しかし、遠い人物は形姿の輪郭まで曖昧だ。


「アハハ、そうかもしれませんね」


 親しみ性のある声で笑いながら、彼は喋る。


「場所は検討がついているので?」


「いや、これからです。探しながらこの村を楽しみますよ。数多の人里を訪れましたが、この村は良い村ですよ。貴方を話してわかりましたが、きっと村の皆さんは優しい人が多いのでしょう」


「アハハ、照れますね。若いのに、長い旅をしてここまで来たのですか。お疲れ様です」


「意外と楽しい物ですよ。(さて、警戒心は粗方取れたかな?)」


 互いに笑い合うが、彼の瞳の奥の先は笑っていなかった。

 表面上は気が合うから会話をしている二人だが、片方の目的はあくまでも探し物を見つけることだ。

 故に目的の速やかかつ、小さな障害を無くし発見するための第一歩として、村人との印象は良くしておこうの作戦を行う。


「例えば、こんな珍しい物とか手に入りますから」


 彼は鞄から、淡い黄色をした月色の石を取り出すと、村人は顔を近づけ、注目し観る。


「ほう、これは。幻福石げんふくせきですかね?」


「えぇ、世界中にどこにでもあるけど、数は少ないという石です。見つければ幸せが訪れると言われる物ですね」


 幻福石げんふくせきには、それが取れる特定の鉱山とかはない。

 なぜか、いつの間にか、そこにあるとされている不思議な生成がされる石だ。

 そのため、見つければ幸運の象徴として、喜ばれる物だ。

 幻のような存在であり幸せの存在それが幻福石げんふくせきだ。

 それ以外にも魔術的なパワーストーンでもある。

 よく金持ちが集めており沢山献上すれば、褒美が貰えるかもしれないから、拾っておいて損はない。


「一つあげましょうか?」


「いいんですか?」


「三つくらい持っているので、大丈夫です」


「それじゃあ、ありがたくいただきます」


 村人は喜色に満ちた笑みで、彼の策略に乗る。

 彼も相手を貶めるための策略ではないため、笑みを浮かべ渡す。


「太陽も傾いてきたので、そろそろ行こうと思います」


 渡すと同時に空をチラリと一瞬、視線を上げ太陽の位置を確認する。


「えぇ、では何もない村ですが、楽しんでください。では改めて、ナベロン村へようこそ」


「……! フッ」


 彼は村人のその表情と言い方に何を思ったのか、村人には聞こえない小さな微笑が溢れる。


 彼にとっては喉かな歓迎をする村人が含む何かに笑いを呼び起こす物があるのだった。


 彼は気分良く、村を歩いていく。

 探し物の欠片や端を残さず鋭い目付きで視野を広げ歩く。


 視野を広げた先には子供がおり、彼はそれに目が止まる。


「そろそろ、この生で子供を作るか?」


 脳裏に一人の女性の姿と影が現れ、そう呟く。


「なんの運命か今回は最初の頃の姿と同じだしな。もう何回廻ったのだろうか? 百あたりから数えるのを止めたな」


 目裏に映る長い長い過去の生活を回想し懐かしむ。


「珍しいな。今日は二人の旅人さんが来るなんて」


 側に小さな気配を感じ閉じていた目蓋を開け横下に視線をやる。


「こんにちは」


 子供は元気良く、彼に手を振りながら、挨拶をする。


「あぁ、こんにちは。何か用かい?」


 彼も明るい表情で挨拶を返す。


「旅人でしょ?」


「そうだね。………もしかして旅の話を聞きたいのかな?」


 彼は長い過去の中、旅をしてきた事も多かった。

 そのため、蓄積され続けられた記憶から無意識にこれからの場面状況が予想がついてしまう。


「!。 当たり! 何でわかった?」


 自分の胸の内を容易く見透かされるという、思わず大人でも驚愕してしまう事が子供は経験し、目を見開く。


「勘かな?」


 考えた上でもないのに、無意識に答えが出ただけだった。


「なにそれ?」


「さあ? まぁ、そんなことはどうでもいい。旅の話でもしようか」


「じゃあ、あっちで皆と一緒にね」


「あ、そうだ。白い人来なかった?」


「白い人? あぁ、もう一人の旅人さんかも」


「どんな姿?」 


「髪と肌は真っ白で、目は真っ赤だった」


「それだ。ありがとう」


 子供は指を指した方向に向かい走っていく。

 彼は子供について行きながら、小さく呟く。


「フィオナ。お前見てるだろ」


 空を見上げると、視界の中央に浮く雲の形が穴が空いた丸の形をしていた。




 ◆◆◆




 ルアザはリャムラの元から離れた後、村の少し外れにあるとある家の前にいた。


 その家の見た目は他の家と比べ古びているが、ルアザを引き寄せ、歩みを止まらせるようなどこか甘美な魅力があった。


(なんか、気に入ってしまうな。この家)


 家の中に残る家具の配置や纏う雰囲気が何かに似ていた。


「……お邪魔します」


 ドアを開け、周りを見渡しながら恐る恐る足を踏み入れる。

 漂う香りは埃臭いが、精神を反応させるような香りが僅かに残っていた。


「わからないな」


 違和感の原因となる答えは導き出されなくとも磨耗していた心が休まり、回復するような場所であった。


 ルアザは満足した後、家を出て村の出入口に向かう。

 ルアザが家から出る時、声はでなかったが僅かながらも口が無意識に動いていた。

 家から出る時何度も言ってきた言葉の形を。

 口角も弧を描いていた。




 ◆◆◆




「あ、来た来た。あれだよ。二人目の旅人さん」


 ルアザが出入口へと向かい歩いているところに子供は二人目の旅人である彼を連れて指を指す。


 それに気づいたルアザは子供の方を向き、どこか影のあった表情を一変させて微笑みを向ける。


(あ、運命の特異点)


 その一瞬のやり取りを一歩下がった所から見ていた彼はルアザを一目見た瞬間そう悟った。


「こんにちは。(絶世の美人という奴か)」


 端的に言ってルアザは非常に容姿が優れている。


「……こんにちは。あなたは? (自分と同じで外から来た人かな? 嫌悪されていない事を祈ろう)」


 現在のルアザの他人に期待することは嫌われない事だ。

 だから、一瞬だけ躊躇い、一拍遅れて挨拶を返す。


「あなたは同じ旅人のようですし、少し話しませんか?」


 例の村人と話した時のように好意的な口振りでそう提案した。


「僕の事を恐れないのですか?」


 好意的な態度にルアザは僅かに目を見開き、どこか警戒するように声質が固くし、切り返す。


「俺はそんな真似はしない」


 感情が見え隠れするくらい声に広がりと厚さが現れ、ルアザと彼との距離感が縮まったように見える。

 この何気ない変化がルアザは意識的にも無意識的にも築いていた他人と自分との壁を薄くさせていた。


「……ありがとうございます……!」


 正直、この村にいてあまり良い思いでが無いため、苦労の末に訪れた自分を認めてくれる人物に万感の思いで感謝の言葉を出す。


 ルアザにとっては彼は救世主だ。

 自分が持っていたじわじわと蝕み続ける不安感と悲観感の曇り空に一つの光明が差したような気分だった。


「あの、名前を聞かせてください」


 自分を認めてくれた人の名前は聞いておかなければならないと判断すると、声が喉から流れるように出た。


「ユーハ=オムニバスだ。君は?」


 もうすでに、丁寧語を外した言い方で名前を聞く。


「ルアザです」


「苗字は?」


「苗字? ないです」


「あー、なるほど。……うん、今はいいや。ルアザ君、君はこれからどうするんだい?」


 ユーハはルアザの反応を見て苗字の話は一旦置いておく事にした。


「村から出ようと思います。迷惑をかけているようでしたし」


 周りをチラッと見ると厳しい視線がルアザを襲っていた。

 その視線に暗い笑みを浮かべる。


「旅人さん達もう出てくの?」


「そうだね。用ができたから仕方ないさ」


 暗い笑みを浮かべていても、子供の前では明るい笑みを浮かべていた。

 もうすでに癖となって顔に染み付いていた。


「そう。残念だ。元気でね」


 あまり、悲しそうな顔はせず素早く納得した様子であった。


「うん、またいつか会おうか。皆によろしくね」


「うん」


 そしてルアザは背を向け村から出ていく。



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