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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
第二章
32/149

ナベロンとクエレブレの裁判

 川を更に下った先に水平線が見える程大きい巨大な湖があった。

 新緑と晴天のコントラストが良く映えている場所が悠々と広がっていた。


 そこにルアザとナベロンの二人は湖の縁にいる。


「龍よ。弁明をしに来た。姿を現せ」


(龍か、始めて見るな。どういったものなのだろうか)


 ルアザが今回のリスクの高い依頼を受けた理由の一つとして、興味本位であった。

 男として生まれてきたのだから、最強という言葉にはそそられるものがある。


 警戒しつつも、胸を踊らせワクワクしていた。


「来たか」


 ナベロンの呟きにルアザはナベロンの見つめる方向に目線を集中させると、蛇のように細長い体を持ち、重厚な鱗に、強靭な角を水面にみせながら、こちらに近づいて来ていた。


(……最悪戦いになると言ったな。死ぬ確定だ)


 ルアザは龍から発せられる強烈な力の気配に顔をひきつらせ絶望をし、逃走計画をすでに考案していた。


 胸が恐怖で痛かった。


 そしてとうとう水飛沫が届く距離になると、その長大な全貌が露になる。


 白に薄い緑が霞み混ざった体色に短い手足についた煌めく爪、覇気ある縦に割れた瞳。

 あらゆる生物の特徴が付いた体が、世界最強の種族だと、理解させられる。


「あれが、龍……!」


 恐怖など忘れ、その雄大さに感銘をし、自分が持つ恐怖など龍の雄大さに比べなんと矮小な物だと、ルアザは恐れではなく、敬愛のような憧れを持つ。


 水面から顔を出すだけで、大小様々な滝ができてしまう巨体がルアザとナベロンの前に現れる。


 見え隠れする牙は人の足程ある太さと長さがあり、どの牙も皹や凹みはなく鋭く険しい艶を放っており、無数に並んでいた。


 龍の銀の瞳がルアザとナベロンに視線を合わせる。


 龍の威圧にルアザは目を見開いたまま、硬直していた。

 今ここで死んでも後悔はしない興奮感と足を後ろに出したい恐怖感が拮抗して次の行動に移せなかった。


「ナベロン、そこの人間はなんだ?」


 水面に波紋は生み出さない静かな声だが、巨大な力が含まれている声で問う。


「仲介者だ。お前と二人と話し合っても全く話が進まぬからな」


 ナベロンは何度も話しているから、一切怖じけずに皮肉のような文章を返す。


「仲介者だと? まぁ、良いだろう。お前の意見も一理ある」


(どう考えても一理じゃなくて全理あるだろ。ここでこんなこと言っても時間の無駄だろうから止めておこう)


 ナベロンは龍の言動と態度に呆れてしまうが、プライドの高い龍が認められたのだから、一歩前進したのだと、割りきる。


「仲介者。お前の名前は?」


「る、ルアザです」


 唐突に話がこちらに向いて来るルアザは心臓の鼓動を跳ね上がらせる。


「そうか。我が名はクエレブレだ。憶えておくと良い」


「クエレブレ様ですね。よろしくお願い致します」


 ルアザはこの時、生きた心地がしなかった。

 龍からの返答するまでの間は時間感覚が何倍にも引き伸ばされるかのような感覚に支配されていた。


「では、早速始めようか。まず審判に情報の提供と擦り合わせを行う」


 ナベロンから始まりの宣言が為され、ルアザもその宣言に合わせ思考を切り替える。


 審判を担当しているのだから、現在の立場は高位存在である二体と同等もしくは上という位に就いている。

 絶対中立の立場だから、どちらの肩入れはできないが、それは互いに同じことだ。

 ルアザは今の状況と自分の立ち位置を分析すると不安定だが、命の危機ではないことを理解する。


 恐怖による、思考の縮小と狭小が無くなり、完璧に冷静な思考が戻り、思考が冴え渡る気がした。


「ではまず、私からだ。私は彼の龍の妻の事を知っていると疑われている。そして、私の答えは知らないだ。彼の龍から聞いた特徴から私には一切、見聞きしたことがない人物だからだ」


 話が終わり、次にルアザはクエレブレの方へと視線を向ける。


「次に我だな。妻につけた魔術の残り香がこの辺りにあり、ここで残り香が消えている。龍である我が付けた特別な魔術だ。そう簡単に消えるはずがない。消極的だが、こいつが原因だ」


 クエレブレの少し無理のある理由に思うところがあり思考に耽る。


 クエレブレにとっては最も最有力な者がナベロンのだろう。

 逆にナベロンではなかったら、何を探せばいいのかわからなくなってしまうのだろうか、とルアザは考察する。


「そのクエレブレ様の奥様について、もう少し教えてください」


「彼女は人型の精霊だ。元々は人間だからな」


「えっ! 人って精霊になれるのですか!?」


「あぁ、運と方法が良ければな」


 ルアザの質問に律儀に返す。


 ルアザはその後、他の情報を集め合理的に論理的に導きだし、審判とした答えを出す。


「ナベロン様は嘘をついていません。クエレブレ様も血眼になって探したのでしょう。ですからここでの捜索は諦めて下さい」


 ルアザは高位存在の二柱の瞳と合わせながら、はっきりと宣言をした。


「だから、言ったであろう。私が正しいと」


 ナベロンはクエレブレの顔の前まで羽ばたき、諭すようにクエレブレに言う。


「…………お前の言うとおりだったな」


 クエレブレに謝罪の言葉はなかったが、雰囲気とこれまでの流れから罪悪感を覚えていると、わかる。


 片方は長年、村を守護し見守り続けた偉大なる精霊と世界最強の一角の龍の長く続いた問答は矮小な人間でも解決できた。。


「しかし、困ったな。行く当てがないな」


 クエレブレも既にあらゆる場所を探していた。

 一つ一つ見て回り探した結果、最終的にここに絞られた。

 自分の努力を無駄にしたくなかったから、しつこくナベロンと問答をしていたのだ。


 クエレブレもその事は行動に現れていた。

 手っ取り早く、龍としての圧倒的な力を持って脅せば、真偽かどうか得られるはずだ。

 それをしなかったのは、自分が救われないからだろう。


「ちなみに、その奥様の名前は?」


 ルアザはクエレブレの様子を見て、何か力になってやりたかった。

 精霊であるナベロンも名も知らない人間に頼る程、めんどうな議題であったのだから、相当クエレブレは悩み困っているのだろうと、予想した。


 ルアザも始めて聞いた事だから、力に成れるとは思わないが、やれば0.00001パーセントだが、やらなければ0パーセントだと知っているため軽い気持ちで質問をする。


「ん? 妻の名前はシャナだ」


(ん、ん!? え? シャナ!?)


 ルアザの人生一番の驚愕がルアザに叩きつけられる。

 シャナという名前に心当たりしかなく、これは現実かと、疑いを持ち始め、打ち上げる驚愕が沈み込む欺瞞で打ち消され途端に冷静となる。


「……………その、最後に喧嘩でもしてませんか?」


 もう三年前の掠れてきた記憶がここまで、明確、明瞭に記憶の海から引き出せるとはルアザはまた、驚く。


「そうだが、なぜお前が知っている」


 クエレブレはルアザの図星を突くような、鋭い質問にギロリとルアザを見つめ、威圧を放つ。


「もしかしたら、同名なだけの他人かもしれませんけど」


「いや、その情報が確かならば、可能性は大だ。速く言え」


「最初に出会ったのが、三年前程です」


「何度もお前の元へ訪れていたのか?」


「そうですね。自分の親とよく話していました」


 ルアザはどこか、懐かしむように、記憶を回想させる。

 三年前までは退屈だったけど、平和で確かな幸せを感じていたことを。


「そして、親を連れてどこか行って帰ってきたら、もう見なくなりました。ですが、今年に突如現れました。その時のシャナさんは、シャナさんの姿をしたなにか別物の人物でした」


 ルアザはあの時の悲劇の記憶が今でも鮮明に深刻にこの身に焼き付けられたため、体全体が火傷を思い出すように疼き始める。


 疼きを止めるため、あの時の自分への怒りがエネルギーとなって拳を赤く強く握り締める。


(忌々しい記憶だ)


「どういうことだ?」


「形姿は一緒で中身が全く違うという感じでしたね」


「なるほどな」


 考え込むように目を瞑るクエレブレは情報を考察し始める。


「では、私は先に帰っている。また会おう」


 ナベロンも話の切りが良い所で、翼を広げ空へと飛び去っていく。


「えっ、ちょ!」


 去って行くナベロンにルアザは手を伸ばすが、もうすでに空の彼方へと行っており、伸ばした手は顔に影を作るだけであった。


 ナベロンは今のルアザにとって、ここにいるだけで命の安全を確保できる、この場で最も重要な存在だった。

 それが、今いなくなってしまったため、龍と人の二人っきりという極めて危険な状態にいるのだ。


「……」


「おい、シャナとお前の親はどこに向かった?」


「僕が知りたいくらいです。そこに目的があるので」


「そうか……。……………よし決めたぞ」


 思考の整理がついたクエレブレはルアザの方へと顔を近づかせ、ルアザの目を合わせる。

 ルアザは蛇に睨まれた蛙のように、体が硬直し恐怖と焦燥感で体が満ちていた。


「お前と我の目的の場所は偶然にも一致している。そこで、互いに情報交換し、効率良く探し当てられる。つまり、協力しようではないか」


 ルアザは驚きを隠せなかった、高位存在である龍が低位存在の人間と協力をするということに。


 人で言えば、蟻と協力するような物だ。


 己の身を毟ような屈辱的かつ劣等感の感情しか湧きあがらないはずなのに、クエレブレはその忌々しい冷えた泥のような感情を軽いそよ風のように、流したのだ。


「賛成です。ありがたい申し出に感謝します」


 だが、人であるルアザにとっては千人力ものだ。

 龍という絶対的な支援者兼協力者は人に身が余る。


 ルアザは歓喜の明善とした色で染め上がる。


 この偶然なのか運命なのかわからないが、素晴らしい出会いに感謝しかない。


「うむ、情報の共有のために、連絡手段を考えておく。お前は、ナベロンの所へと行くのだろう?」


「えぇ、少し様子見くらいは。今日か明日くらいには離れます」


「わかった。我はここにいるから、出る時はまたここに訪れろ」


「はい。では、頼みます」


 ルアザは空へとクエレブレは湖へと潜り泳いでいった。

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