呪いの源までの道のり
黒い泥を無力化した後二人は襲われた子供の元へ呪いは解けたか確認するため向かう。
ただ、ルアザはある程度予測していた嫌な予感を感じ不安に駆られる。
(アレ自体は遠距離から対応すれば、そこまで難しい相手じゃない。だからこそ、なぜ簡単に仕留められる相手を封印していたのだろうか?)
呪いという物は厄介な代物だが、原因というものが明確にあり、それを対処すれば呪い解決できる物だ。
死を振り撒く黒い泥はそれ自体が呪いを血肉とする呪いの塊のような存在は真っ先に抹殺される存在であるため、封印する理由が見つからない。
一時的な封印の場合は子供達に近づくなと、もっと強く言い聞かせるはずだ。
それに、祠を包んでいた結界は子供の力ごときで砕ける程脆くはないはずであったと確認している。
ルアザは黒い泥が本当に危険なのか、と疑問に思う。
「危険ではないと願おう」
杞憂であれば、それで良い。
◆◆◆
ルアザ達は黒い泥に掴まれた子供を見つけ、呪い探知の魔術を行使する。
この魔術の仕組みは、まず呪いの元が必要であり、呪いの元の属性を増幅させる。
被害者に呪いがある場合は行使者が共鳴された被害者の呪いを知るという仕組みだ。
「っ! ……残念ですけど呪いが残っています」
結果は呪われていることが判明しルアザを含めた大人達は唇を噛み締める。
「……お、お前のせいだろ! お前が来なければこんな事にはならなかった!」
大人な認めたくない思いと無惨な現実から逃れるように思いを怒りに変えルアザに放つ。
「……! …………僕を責めるよりも、まず先にこの子を助ける方が先では?」
大人が今持つどこか狂気のある雰囲気と瞳にルアザは既視感を覚え、その既視感の正体は過去の自分だとわかると、ルアザは理不尽を反論しようとは思わなかった。
母親と父親に何も返せずに、そして、苦しんで亡くなった事を認めるわけにはいかなかった過去の自分とそっくりだった。
(話の道筋を変えてしまう程、興奮している姿が、自身と一緒だな。だけど、彼もわかっているのだろう。これは歴とした現実だと)
「くっ! そうだった……!」
大人はルアザの言葉で我にかえると、横を向き、走ろうとするが止まる。
走る方向には杖をもったリャムラと複数人がいた。
「だが、お主が原因という可能性は消えていないだろう?」
「……何もやっていませんよ」
リャムラの鋭い意見にルアザは一瞬狼狽えるが、この村の滞在中は危険な事などしていないはずなため、一抹の不安を抱えながらも自信を持って無実と答える。
「村の外では怪しい事をやっていたじゃないかい?」
「どんな村か見ていただけですよ」
「そうかね。仮面と全身を隠すように外套を纏っていたのに?」
「少なくとも貴方達に危害を加える事はしませんよ。逆に役に立ちたいです」
「そうかい。じゃあ、一つ頼みがあるから聞いておくれ」
「構いません」
「呪いの元を倒してきておくれ」
「いいですよ」
ルアザはリャムラに嵌められたが、気づいてない。
それに対してルアザは今すぐにも呪いの源の元へ向かいたかったところで支援をしてくれる存在が自分の思惑通り支援してくれるくらいの感覚であった。
「でも、私達はお主のことを信用できない。めんどうごめんと逃げるかもしれないからね。だから、お主もこの呪いを受けてもらうよ」
「……場所と呪いの源の程度で返答は変わりますから、まず情報を。」
ルアザもさすがに死が確定するような呪いを受けたくないため、口を濁すのは必然であった。
(あー、怯えてないで堂々と足を入れれば良かったかな)
そして、リャムラがルアザに対して厳しい要求をしてくるのは反論できなかった。
自分の行動を鑑みると、慎重と称して物怖じして怪しい行動を起こし、いざ入ってみれば多少は厳しい目があったが、悪いとは感じなかった。
ルアザは無意識に恐怖の圧力で選ぶべき分岐点を間違え迷っていたことに嘲笑する。
鑑みれば全て空振っていた。
(だが、良い機会だろう。早めに気づいて良かった)
恐怖は見えれば、なんて事はない存在だ。
「……村の最寄りの川を下った先に大元と言える呪いの塊を封印した祠がある。そこに向かうと良い」
リャムラはルアザの冷静か反応に思う所はあるが、解呪するために必要な情報はルアザに与える。
「解呪方法は?」
「それと同じくらいに細かくすれば、呪いは薄くなって、自然に溶けていくよ」
リャムラは現在、手に持つ凍った呪いの欠片を指差しそう言う。
「わかりました。さすがに死の呪いを受けたくないので……この剣を預けましょう」
ルアザは呪いの代わりにクラウの剣を手渡す。
ルアザにとってはこの剣は手足内臓に匹敵する程の物だ。
「そんなもので」
「いや、いいよ。私も長く生きているから、覚悟の程度はわかるよ」
リャムラはルアザの顔を見ながら、そう言う。
剣を鞘から少し抜くと、リャムラは微かな笑みを浮かべる。
「良かったです」
ルアザは緊張していた顔に力が抜け、安堵して軽い笑みを浮かべる。
「じゃあ、早速行って来なさい。祠は目立つ場所にあるからね」
ルアザは小さく頷き、呪いの源を目指し、足を前に出す。
◆◆◆
ルアザは最寄りの川の濡れた側を滑ったり転ぶ事なく駆ける。
「たぶん、自分は黒い泥とは違う方向で厄介な存在なんだろうね」
ルアザは自分達で対応すべき事を全く信用のない余所者に村の進退が決まるかもしれない問題を任せるとは思えない。
自分は忌み子だが、子供達にはそれなりの信頼を得られた。
しかし、重要な大人達から信頼を得られていないため、自分は忌み子という事実は変わらないのだろう。
ルアザは災厄の一括りにされているのだ。
ルアザはこの事に否定はしないし、認めもしない。
「僕が原因なら助けてくれよ」
自分が弱く弱点となるのなら、それを補ってくれと、ルアザは思ってしまう。
マイナスならプラスを分けてゼロにしてくれと思う。
(……図々しいな)
弱者救済の闇の面がルアザを唆すが、短所の部分が直るわけでもなく、逆に放置してしまい、何も改善されず一切成長しない。
ルアザはあの時から力を求めている。
どんな困難の壁でも乗り越えられる力を。
「あとは、なぜ祠の結界が壊れたのだろうか? 燃料切れか?」
結界は主に属性を操作する力その物で構成されている。
結界は一度作れば永遠に残るものではない。
力は少しくらいは残りはするが、空気のように不定形で軽く散りやすい。
形さえ与えれば散ることは少なくなるが、空気と似たような性質なため、少し時間がたてば淡い雪が風で吹き消えるように脆く消え去る。
だから、常に力を与えてやらないと結界は崩れてしまう。
ルアザはこの性質から、力の供給源から力が無くなり、そして偶然子供が裸の祠を叩いて崩れたと考察する。
もう一つの案として、災厄をもたらす可能性がある忌み子である自分を抹殺したいと思い、狙って力の供給を止めたという方法を思い付いた。
しかし、非効率極まりないため、却下した。
「疑問が尽きないな。またこれもおもしろい」
ルアザは自分の持つ疑問は明確な解答が存在すると、予想している。
答えという、それ以外考えられなくなるような強力な眩しい目標があるから、ルアザは虫のようにそこを目指ささずにはいられなかった。
解答があるから、己の愚かさを許せる。
(間違いを許せるとはこんなにも気持ちいいものだとは)
「フフフ」
気が軽いとはまさにこの事、失敗を恐れずに済むとは愉快で光悦的だ。
喜楽な音色を奏でてしまう。
ルアザは明るい風と共に空気を流す。
◆◆◆
「ここね……」
背の高い草を掻き分けた先に古びた五本の石柱が建っていた。
「妖精の輪。人工的に近い」
ルアザは周りを見渡し観察しながら、どういった封印をしているか見抜く。
「呪いの源の正体は妖精ということはわかる。そして源と相反する妖精が気に入るような場所にして中和させるという形かな?」
妖精の輪とは妖精の縄張りがあると示している場所である。
周りに元気良く上へと伸びている草も妖精が好む植物だった。
石柱は封印魔術を構成する術式の一つであると、ルアザは推察する。
「さてと、こちらも準備しよう」
封印を解くのは簡単だ。
行く前に貰った棒を石柱の中心で突き刺して、特定の魔術を行えば封印解除。
ルアザは焦って何も準備しないで、封印を解く程、熱くなっていない。
相手が何もできないのならば、その間にこちらが有利になるように環境を変えていく。
先程までは失敗を恐れてはいなかったが、今回は恐れている。
なぜなら、失敗したら一人の命が無くなるからだ。
ルアザはこれから何十年の時間のある一人の子供の未来を背負っている。
責任感重大な仕事だ。
ルアザは鞄から粉にした灰のような物が入った袋を取り出し、風に乗せて周りに撒く。
この粉は魔術触媒の一つであり、効果は妖精の活性化だ。
呪いの妖精は封印され、行動不能な状態なので粉を吸収できず、逆に相反する妖精は吸収できる。
ルアザの目的は呪いの妖精の弱体化だ。
ルアザはその他にも逃がした時用に、強力な結界を時間をかけて展開する。
最後に爆発の魔術を込めた圧縮に圧縮された結界を五つ作る。
そして、鍵である棒を地面に刺して、封印解除をする。
解除した瞬間ルアザは展開した結界の向こうへと走り抜け結界から出た瞬間、爆発の威力が何倍にもなった圧縮爆弾の結界を消失させる。
ルアザは耳に手を当てると同時に雷鳴の如くの轟音と大地を大きく揺らす衝撃がルアザを襲う。
展開された結界は壊れず、衝撃が結界内の中に渦巻き、行き場のない衝撃は地面へと向かいルアザのいる場所まで地面を陥没させた。
「地面にも結界広げれば良かった」
ルアザは土煙を纏いながら、陥没した穴から這い出て愚痴を漏らす。
ルアザは土埃を払いながら広げた結界内を鋭い目付きで観察する。
結界を広げると同時に物事を探知する結界を構築し、反応を待つ。
ルアザは少しの変化も逃さないよう、自然に溶け込むよう静かに警戒網を張っていた。
「……っ!」
ルアザは僅かに目を見開くと瓦礫を巻き込みながら結界を縮め始める。
さらに、ルアザも結界に向かい歩み、更に縮小速度を上昇させる。
そして、ルアザは瓦礫を混ぜ込みながら結界内を水で満たし、その中を迸る電気を走らせる。
先程の爆発にも相当する衝撃が結界を砕いた。
「ちっ! 予想以上に厄介な」
砕いた結界から現れたのは宙に浮く黒い玉であった。
ルアザはそれを見上げながら、次の行動へと移す。




