語り、ドロリ
ルアザは子供達に囲まれ、子供達の秘密基地とやらに向かった。
「ここ、ここ」
「えっ! ちょっと。ここ大人の人が近づかないようにって言ってたじゃない」
男子と女子とで、様子の差が出る。
男の性のせいか、適当で楽観的な価値観と男より常に一、二歳、精神年齢が上な女との差であろう。
子供達の秘密基地は村の中心地から少し外れた場所にある、軽い林となった場所であった。
そして、その林の開けた場所に祠のような物体がある。
祠は古びているが、苔や埃、枯れ葉などに覆われていなかった。
その原因はルアザは見抜いている、それは結界が張られていたからだ。
「大丈夫だ。何度もここに来てるけど、何もねぇから大丈夫だって」
「うーん、だったら良いけど……」
男子は現実に実際、危険な物などないことは経験から確認されており、女子も若干、不安気だが男子の経験を信じる事にした。
ルアザも結界の強度をから推測するに、余程の事がない限り大丈夫だろうと予測した。
「よし。じゃあ、あそこの切り株で語ろうか」
ルアザは何となく祠から距離を取った方が良いと思い、少し離れた場所の日陰で覆われた切り株を指定する。
それに祠という物は何を祀っているのかわからないため、警戒しておいて損はない。
「よーし、待ってました!」
子供達は先に向かっているルアザと共に元気良く地を駆ける。
そしてルアザが例の果実を一人ずつ渡して座らせる。
「そうだね。何を話そうか……」
ルアザも時間稼ぎした中で何個かの話題を用意していた。
その中から何を話そうか悩む。
「僕はね、旅人と同時に冒険者なんだよ。だからこれまで見た美しい景色や不思議な冒険の話をしよう」
ルアザは冒険者という言葉を使い誤魔化す。
ルアザ自身は他の冒険者の事は存じてないが、少なくとも自然界に住んでいた長さは負けないと思っている。
だから、長く住んだ自分が珍しいと思える物は世間でも珍しいのではないかと考えた。
男子は不思議は冒険という言葉に反応し、まばたきの回数が僅かに少なくなり、女子は美しい景色という言葉に反応し、無意識に互いに一瞬目を合わせる。
ルアザは竪琴を取り出し、吟遊詩人風に語り出す。
「夢のような景色と世界に憧れを持った一人の男の子がおりました──」
◆◆◆
男子はルアザの戦いの話に夢中になり、耳を傾けているが、女子は興味が無いのか切り株から離れおままごとをしていた。
「森の中での戦いは本当にキツかったよ」
実はルアザは森林の中では狼だけではなく、様々な物に襲われ対処していた。
狼のような群れのタイプから絶対的強さを誇るな個のタイプまで様々な物と一緒だった。
ルアザは一通り自分の旅の話が終わった後に男子達から話して欲しいと言われたので、話している。
「虫系が厄介だったね。速い、強い、硬い、たまに賢いと隙が無かったよ」
目元に影を作りながら言う。
たまに巨大な物まで、踏み潰せる程度の基本小型の虫達までいた。
特に厄介だったのが、巨大な体での罠や待ち伏せだった。
基本的にそいつらは、毒持ちか必殺のどちらかだった。
幸いルアザの体は妖精と融合したため、毒物が効きにくいが、必殺に関しては多少の耐久力が上がっても容易く貫かれる。
ルアザは一度だけ、その必殺を受けてしまったが、常時的に結界を纏っており、それが盾となり、ルアザの命を守った。
「虫かよ。もうちょっとカッコいいのないの?」
ルアザが地味な虫との戦いの話に入りそうだったため、子供達はルアザに不満気な顔でルアザを止める。
「どんなのが良いのかな?」
「ドラゴン!」
「無茶を言わないでくれ」
英雄譚にてドラゴンは様々な立場、場面で活躍する。
悪役であれば、厳しい戦いの中で倒され、味方であれば、強力なスケットなどとあらゆる方面から人気な生物だ。
だが、現実は人間など羽虫の如く殺される存在であり、種類によってだが、誰もが立ち向かおうとは思えない。
ルアザは子供に、死んできた? と言われているようなもの。
苦笑いを禁じえない。
「そうだね。派手な鳥と戦ったね」
顎に手を当て、そう呟く。
妖精の鞄から、血が叩きつけられたような真っ赤な一枚の大きな羽を取り出す。
子供の顔を優に越える長さを持っていた。
「おぉ!」
男子達から驚きによる感嘆の声が漏れる。
「形はこんなんかな」
ルアザが指を横に振ると、炎の渦が生まれ、巨大な四枚の翼を持つ迫力のある鳥へと変化する。
「名前は知らないけど、ずっと僕をしつこく追ってきたから、攻撃させてもらった」
林の中で追い回されたルアザは、常にその赤い鳥に気を配る必要性があり、目障りな存在であったため、処理をしようとした。
「こういう感じにね」
風を纏ったもう片方の手の指を炎の鳥へと突っ込み炎を散らし消滅させる。
ルアザは竜巻の豪槍を赤い鳥に投げつけ追い払ったのだ。
実際はルアザが莫大な属性を溜め、組み合わせているときに赤い鳥はその巨大な属性の気配を察知して放つ前に急旋回して逃げたのを当てたのだが。
「この羽は戦利品みたいな物だ」
羽をクルクルと回しながら言う。
実際、矢の部分の羽へと変えている。
「すっげー! 旅人さん! 俺もそんな戦いをしてみたい!」
彼は興奮した様子でルアザを尊敬と憧れの眼差しを向ける。
「危ないよ」
ルアザは賞賛の眼差しを向けられるのは普通に気分を明るくさせ、嬉しいが、戦いに憧れを持つのは止める。
「ナベロン様に守ってもらう平和の村のは飽きたんだよ」
ため息を吐く。
「ん? ナベロン様っていうのは?」
ルアザは気になる発言があったため、それをついて質問をする。
「この村の守護精霊だよ。知らないの?」
「それは何か祭りとか対価を支払うみたいなやつ?」
「そうそう」
「なるほどね」
ルアザが解釈した守護精霊とは契約をした精霊に対価を払うことにより、村に何かしらの良好な効果を提供する関係である。
ナベロン様というのは恐らく、この村の守護精霊だろう。
ルアザも故郷にいたころは同じことをやっていたため、それが、村単位まで大規模になっただけのことだ。
村の人々を守り、栄えた暮らしをするには必要があり重要なことだ。
この世界は人間の敵となりえるものが多いからこそだ。
「よし、皆でチャンバラごっこしようぜ」
ルアザが考えに耽るような表情をすると、子供達はその身に籠った興奮を吐き出すことを表すように少々荒々しい遊びを始める。
ルアザも特に止めようとはしない、自分もよくやっていた遊びだったからだ。
(ということは、あの結界は守護精霊が展開している結界なのか? なんとなく人為的な意思
ある結界だなと思ったが)
結界の違和感の正体は精霊の仕業だった。
基本的に精霊と人を比べ魔術の技術力は精霊の方が圧倒的に上だ。
だからこそ、洗練されすぎているため、ルアザは精霊の腕による物だと、わからなかった。
「自分はどの程度なのだろうか?」
ルアザは自身が一般的にどの位置にいるのか興味を持つ。
あらゆるパラメーターでの視点でルアザは今どの程度か気になる。
ルアザ自身の自己評価は総合的には下の方だろうと考えている。
常識というあらゆる基準点がないからだ。
計ることに値しない場所にいる。
「速く知らないと」
ルアザは気が滅入りそうな状態から抜け出したいのだ。
「やべぇ……!」
何か重い物が叩かれる音が聞こえ、音の方向に目をやると祠が崩れていた。
すぐ側には、口を開けて体が止まっている子供が祠に木の枝が触れているのを見てルアザは察する。
しかし、疑問を持つと同時に祠から黒い泥のようなものが現れると側にいる子供を掴む。
ルアザは突如現れた黒い泥に仰天し、立ち上がる。
子供達は驚愕と同時に得体の知れない纏わりつくような恐怖感を覚える。
「怪物め! 離せ!」
側にいた男子が恐ろしい相手を物ともせずに友達を助けようとする。
「な!? 止めろ!」
ルアザは焦りながら、攻撃を仕掛けるのを止めるように叫ぶ。
叫びながらもルアザも掴まれた子供を助ける溜めに、黒い泥へと向かい走りこむ。
黒い泥は意思を持っているかのように、攻撃をした子供に黒い槍を向ける。
その反撃をルアザが子供の前に結界の壁を何枚か作り出し、彼の命を奪われることを防ぐ。
そして、足に強力な力を纏わせて黒い泥を蹴りあげる。
黒い泥はルアザの鋭烈な蹴りで二つに別れるが、流動体であるため、すぐに別れた体を一つに集め。
だが、ルアザにとってはその隙さえあれば、子供を救出できる。
救出を完了をしたルアザはまだ近くに固まっている子供達も回収して距離を取る。
「皆は大人達に連絡をして」
「旅人さんは?」
「僕はこれと対処する」
「!」
「さぁ、速く!」
そう強く言うと、子供達はルアザを心配に満ちた顔で離れて行く。
「行ったね……。(〈生動液体〉か?)」
黒い泥が〈生動液体〉と呼ばれる、液体状の生物にそっくりなため、それに属する生物だとルアザは予測する。
ルアザが剣を構え、一つに集合し終わりそうな黒い泥を観察をする。
「プゴアガァア」
黒い泥が鳴き声のような音を出すと、ルアザへと黒い弾丸を何十発と放ってくる。
ルアザはその弾丸は自分を容易く貫けると理解し、体を地面スレスレまで屈み避けきる。
そして、曲げた太ももを一気に伸ばし、勢い良く黒い泥に近づく。
そして結界を張り黒い泥を閉じ込める。
魔術というものは基本的に行使者と近いほど強い効果を発揮するため、危険を被りず近づいたのだ。
一度閉じ込めればすでにルアザの勝利が決まる。
相手が結界を壊そうとするが、ルアザの方が結界を構築する速度が上なため、次々と結界を重ねられる。
「あっちだよ!」
「よし、見えた。お前はここから離れろ!」
ルアザが封じ込め作業に入っている中、林の中から先程逃げた子供の切羽詰まった声と覚悟を決めた力強い大人の声が届く。
「むっ!? 忌み子!」
彼はルアザの前に黒い泥があるのを確認すると、ルアザの仕業と思ったが、強力な結界の気配を感じ、気配の出所がルアザだとわかると疑いが晴れる。
「状況わかります?」
また誤解を避けるために、ルアザは相手の認識具合を聞く。
「子供達が自分で祠を壊して、襲われたと聞いている」
認識の乖離がないと判断したルアザは今の状況の説明に入る。
「とりあえず、結界で封じ込めていますけど、これなんですか? 〈生動液体〉ですか?」
「いや、〈生動液体〉じゃない。こいつ自体の名前はないが、魔物の一種だ」
魔物の定義は曖昧だが、とりあえず危険な物だと、ルアザは理解する。
「何か危険な技や性質とか持っています?」
「触れたら呪いがかかり、五日程で衰弱しきって死ぬ」
「なっ!? それは! じゃあ、襲われた子供は五日後に亡くなるということじゃありませんか!」
ルアザは危険極まりない性質に目を見開き驚愕し、焦る。
体全体に浸かってしまった子供がいるからだ。
「触れてしまったのか!?」
大人はルアザの言った言葉を否定し、疑うようにルアザの胸蔵を掴む。
「えぇ、ですから。早く対処しないと」
焦燥感に満ちた大人とは違いルアザも焦っているが、次の行動を既にわかっているため冷静だ。
ルアザは結界の中の温度を下げ始める。
炎で燃やすとなると、どう変化するかわからないためだ。
エネルギーを与えるよりエネルギーを奪う方が安全だとルアザは考えた。
地面に霜が付き、地中の水分を凍らせる程の温度となると、黒い泥も動きが鈍り始め、当初出てきた時のように黒い沼のようになり、更に温度が低くなると個体へと変わる。
そしてルアザは止めに衝撃波を生み出し粉々に砕き散らす。
「死んだかはわかりませんけど、とりあえず長い時間稼ぎになるでしょう」
そもそも黒い沼が何をもって死ぬかわからないため、行動不能な状態にしておく。
動けず何もできなかったら、死んでいると同質だからだ。




