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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
第二章
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森から林へ、そして平原へ

「うおぉぉ! やばい!」


 ルアザは現在、所狭しと樹木が生えていた森を抜け、逆に木漏れ日が樹木より多くなってきた林の中を森と同じように汗をたらしながら進んでいた。

 異なる点は走っていることだろう。


 倒木を飛び越え、草葉や枯れ葉で見えぬ根っこを巧みに避けてスピードを落とすことなく走っていた。


 それに反してルアザの視線は左右上下と忙しく動かし、時には後ろを振り返ったりと、何かを探り、逃げているかのような様子であった。


「ガゥッ! ガゥッ!」


「ガォン! ガォン!」


 二つの荒々しい音がルアザの間を通過すると、ルアザよりも巧みに林の影や裏に隠れ走っていたものが姿を現す。


(今の絶対! 攻撃の合図だよね! 鳴いた瞬間出てきたもん!)


 ルアザは今の鳴き声を死神の呼び声だと判断し、警戒を強める。


 だが、狼はルアザが警戒を強めるため警戒力そのものに意識する刹那を逃さず、木の上からルアザへと襲い掛かる。


「くっ!」


 ルアザは警戒していることは変わらないため、最低警戒ラインまでは反応できるため、上からの攻撃を上手く避ける。


 だが、狼はルアザの横左右から唾を引く牙をルアザの首を狙い大きく口を開けてくる。


 それを頭を降ろして避けるが次から次へとあらゆる方向からルアザを弱らせようと襲いかかる。


 ルアザはなんとか弾いたりしたりして回避してるが、唾が服や顔にかかる程、近くで弾いているため、体は熱いのに、一つ一つの対応が心臓をヒヤリとさせていた。


 魔術で全方位に衝撃波を放ちたいところだが、術式を組んで、効果が現れるのも数秒程かかり、鮮血が見える隙を晒してしまうため使用できなかった。


「……あれは! 平らな大地!」


 対応の限界に近付いて、じり貧になってきているルアザに一つの光明が見え、すぐ後に木々が限りなく少ない平原が遠くにあることを確認した。


 ルアザは涙を流す感動の前に狼の処理に意識を向けていた。


 ルアザは勢い良く走っていたが、途中で急停止し、後ろを振り返り林の方へと向かう。


 狼は獲物の予想外の行動に驚き、急停止できず獲物との間をかなりとってしまった。

 狼が獲物へと方向転換するときに雷光の枝木が狼の元へ倒れる。


 狼は血が沸騰するかのような痛みで叫びたいが、体に走る電気が体の中に入り込む鎖となりを行動を縛りつけていた。


 ルアザはその隙を生み出したら、一瞬の自由を利用し、体を上へと飛ばす魔術を行使してこの場を脱出する。


 空気で体が押し潰されそうになり、顔を少し歪めるが、徐々にその圧力が弱くなってきたので、歪めた顔を元の顔へと直す。


 そして、空中に板状の結界を作り、その上に着地する。


「これにて餌の立場は終わりだ。匂いで追われると思うし、空飛んで行くか」


 上から狼の群れを見下ろし、未だに鼻を高く上げたり、地面につけたりしてルアザを鋭い目付きで探していた。


(ありきたりの動物達も一切油断ができないな)


 ルアザは所詮は獣と、動物を弱い存在だと見れなかった。


 ルアザは狼の進行方向が予測される前に、進もうと思い、空を飛び空気を切り裂いていく。


 真っ直ぐな地平線が見えることに、ルアザは涙腺を刺激させる感動を体を浸らせる。

 ルアザは親も故郷も失って、2ヶ月以上もたった。


 やっとルアザは何かを得たのだと、確信したのだった。


 森林の中では視線の先は故郷の森のように安全は無く、常に怯えながら進んでいた。

 正直、辛かった。

 途中で生きた巨大過ぎる困難の壁が何度もあり、その巨大な壁は越えられず、横を通っていったりと成長する機会を避けざる得ない状況もあった。

 だが、夢見る未来と己の進む道を信じて歩き続けた。


 ルアザが嫌う日光が最も強い正午さえも感動の見えない壁は貫けなかった。


 普通の平原だが、ルアザにとっては努力の成果の証だった。

 心なしか、平原の花が輝き、数が増えているようにも見えた。


「飛ぶのは止めよう。風を感じたい」


 結界を三次元的に動かして結果的に纏っている自分が動くという仕組みの飛行魔術の術式を解く。


 纏われた結界を解くと、故郷の涼しい風とは違う生暖かい空気が髪の間を通る。

 決して気持ち悪いわけではなく、何か記憶に干渉するような感覚を覚える。


 結界で構築された見えざる足場の上に立ち、

 ルアザは風髪を感じながら景色を眺める。


「♪♪」


 竪琴を奏でながら、空中をゆっくりと見えざる足場から踏み外さないように一歩一歩歩む。


 決して奥行きのある幻想的な光景とは言えないが、現実感のある光景であった。

 そこに穏やかでスローテンポな鳴り色が着色されれば、聞き入れたくなる楽しさではなく、自分にもできそうだという共に奏でたくなるような楽しさが垣間見れた。


「この足裏全体で大地を立っている。素晴らしいことだ」


 ルアザは結界の足場から降りて、地面の上に肩幅程足を広げ平原の真ん中で佇んでいた。

 地を踏み、感覚を足裏に集め達成感に浸っていた。


 ルアザはしばらく達成感に浸り、気を切り替える。


「何か、ないだろうか?」


 平原は何もない。

 ルアザはまだ続く旅を何もない平原で過ごすのは難しいと考えていた。

 森の恵みという言葉がある、しかし、平原の恵みという言葉は聞かない。

 つまり、平原は何かを得るには少量で、期待ができないという環境と気候である。

 但し、障害物が少なく、平らな大地のため、非常に視野が広く、何か危険な存在が近づいた場合すぐに気付きやすいという側面がある。


「川も近いし、どこかで見つかるだろう」


 幸いルアザの近くには川の恵みがあり、川の災いさえ警戒して冷静に対処すれば良い。


「それに、良い土だ」


 ルアザは地面の土を軽く拾う。

 匂いを嗅げば、養分が多く含んだ独特の調和された匂いがあり、地面に水を少し垂らせば、水はすぐに地の底に吸収され、その部分を少し足で掘ればしっかりと湿っており染み込んでいることがわかる。


「きっと、この平原のどこかに人里があるはずだ」


 土を手から払い、そう言う。

 良い土があるということは、農業に適した場所が広がっていると、導き出される。

 農業を行うのは人類だけだと母親とクラウに教わったため、時間と努力さえあれば高確率で見つかる希望に歓喜する。


「とりあえず今日はこの辺の調査をしよう」


 だが、ルアザは慎重だった。

 平原は危険が少ないと予想できるが、無知の自分が予想したから、自分の予想もあまりあてにはならないと思っていた。


 だから、予想外を一つでも無くすため、知識をつけることにした。

 それが、自分の安全と困難の壁を乗り越える最も最適な方法を得ることに繋がると、考えたからだ。


 そして、ルアザは周りを見渡し、とりあえず水が流れる音が耳に入る方向へと向かう。


 動物がいればラッキーだ。

 動物の見た目や様子である程度ここの動物の習性や環境の方向がよくわかる。

 もし、家程の大きさがある、大型動物の場合で群れを作っていたら、相当危険な場所なのではないかと予想できる。

 自然界にも関わらず、群れを作るのは基本的に弱者の習性に近しいものだ。

 自分よりの強者から身を守るために。




 ◆◆◆



 パチリと音をたて火が燃え盛り、辺りに明かりをもたらしている。


 ルアザは今日の調査で集めた情報を地面にまとめている。

 地面には木々の枝のように伸びた絵が描かれていた。


「この辺の地形から見ると、人はいないな」


 ルアザが描いていたのは川が流れている位置だった。


「氾濫が起こったら全て流される場所だから、自分もなるべく速めにここから離れた方が良い」


 この辺の地形は川の支流が多く密度が高い、川が合流したり分流したりと網目のように複雑に張り巡らされた地理をしていた。


 川一つ一つは小さいが、大きく湾曲した場所もあり、密度も高いため、一度氾濫したら他の川も氾濫する可能性は高く、小さな川から溢れた水が川同士を繋ぎ一つの大河へと変えてしまう。


 その証拠に斑に生えている木々の幹の上や葉に乾いた泥のようなものがついていた。


 この辺は雨が突発的で多く降る。

 今は夜だから、僅かな月明かりと音を頼りにすごさなければならない。


「動物の欠片一つもなかったのも、全て流されたのだろうな」


 見たのは空を自由に飛ぶ鳥だけだった。


「ここの植物かなり強力だ」


 細かな粉状の土がついた草を握り、引っ張ると、周りの草と土ごと抜けた。


「草葉は千切れなく、根は互いに複雑に絡まり合い、相互的に支え合っている。必然的に病気にも強くなる」


 ルアザはこの数ヶ月の生活で環境によって違う特徴に興味を持ち、調べることが今ではちょっとした趣味となった。


「ちょっと遅くなったけどご飯作ろうか」


 ルアザは引き抜いたところに焚き火を移し、薪を追加する。

 そして、焚き火の横にY字型の枝二つを挟むように刺して固定し、Y字の股の部分に鍋を通した、枝一本を置く。


 さらにルアザは妖精の鞄から氷付けにされた肉と山菜や根野菜を取り出し氷付けにされたままの食材を叩き割りそのまま鍋の中へと入れる。


 ルアザは細かくするなら切るより砕く方が速く楽だという一つの知恵をこの旅で得た。


 お玉、スプーン、お椀を取り出し、煮込み料理をいただく。


 疲れた体に出汁が豊富に含まれた汁が染み渡る。

 肉を噛む時の反発感が食欲を増大させる弾力となっている。


(料理は体のための栄養と心のための栄養の二つが含まれているな)


「フフ。あー、今日は幸せかも。些細な事がなぜか幸せに感じる。あの頃に戻ったみたいだ……」


 ルアザはクスリと笑い、それと同時にどこか張りつめていた表情が柔らかくなる。


 ルアザは家族と共に暮らしていた時の光景を目蓋の裏に写し出す。

 小さな事を話し笑い合う、それが幸せだと理解する。


「やっぱり安全に安心していたんだな自分は」


 ルアザはこの幸せの出所は安心だと悟る。

 森林はいつも何かしら、隠れているものがあり、それを常に意識を向けていた。


 平原の場合はそんな障害物は少ないため、意識を向けなくとも、最低限の警戒を残しておけば良い。


 この自分の物事の対応できる容量が普段以上に余裕ができたためだろう。


 この光景の懐かしさという面もルアザの幸福の原因でもあった。


「光の足跡を残し♪闇の森の♪暗い渓谷♪を越えていく──」


「灯火の町が♪見えると♪笑い声が♪聞こえる──」


 ルアザはこの原初の黒のような静寂な世界に美しい声を飾り、静かな空間を支配せずに共存し合い調和させるような繊細な響きがあった。


 歌を歌う。

 それは余裕の証、幸せを望む証だ。

 ルアザはエウレアとクラウに誓ったように確実に成長をしている。


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