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初代勇者~表裏一体  作者: ヘリコプター
第五章
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学び奪う

 鮮やかなに見える肉色と血色部分を再生し、元に戻る【溟孔龍(バハムート)】は今までの涼しげな瞳ではなく、どこか不気味な瞳でメラトリオとセミナを見据える。


「貴方は右を担当しなさい。私は左を相手にするわ」


 深淵の怪物をセミナと対抗できるようにさらなる力を与えると、深淵の怪物は枝のような体を成長させ、大きな格子状の影を作る。


「さぁ、来なさい。私が貴女の相手よ。せいぜい足掻いてみなさい。評価してあげるわ」


溟孔龍(バハムート)】はメラトリオに優雅に指を指し、ほとんど勝利宣言に近い物を言う。


「その油断が貴女の敗因であるということを思い知らせてあげるわ」


 剣を一つ【溟孔龍(バハムート)】に向け、煌めく刃がお前を切る、と語るようであった。


「覚悟しなさい」


 その啖呵を合図に戦いが始まる。


 メラトリオは空間の主の権能を使い、【溟孔龍(バハムート)】と自身の体のサイズに大きな差を作る。


溟孔龍(バハムート)】から見ればメラトリオは山谷の体現者である巨身に見えるだろう。


 仮に【溟孔龍(バハムート)】が本来の姿である山脈如きの体に戻っても、加工がされた空間と次元の作用により身体サイズの差は埋まらないし変わらない


 メラトリオは巨大な足を落とし、【溟孔龍(バハムート)】を踏み潰そうとする。


 巨大隕石が衝突するような衝撃が周囲に飛び散るが、メラトリオは晴れた顔色せずに、逆に曇り空の顔色をしていた。


「見かけだけで、軽いわね」


 片手でメラトリオの巨大な足を平気な顔色で受け止める【溟孔龍(バハムート)】であった。


 メラトリオは一筋縄ではいかない事を再度認識し、一瞬だけセミナのいる方向に視線を向ける。


 次の攻撃を仕掛ける。




 ◆◆◆


 メラトリオと【溟孔龍(バハムート)】の戦場から離れた場所にて。


「汝が相手か。手加減せぬぞ」


 樹木のように広がる体そのものが武器となり、セミナへと無数の枝が振るわれる。


「そちらもだ……!」


 素早く泳ぎ通れる隙間へ体を入れ、傷一つ無く深淵の怪物の攻撃を避けて見せた。

 避けきった場所でセミナは手に極細の糸のような物を持っており、微かに引くと一部の深淵の怪物の体が切れる。


 セミナは開けた穴を通り深淵の怪物の本体と言えそう枝の集合部分である巨大な固まりへと一直線へと向かう。


 赤槍が泡立ち水の抵抗を無視した、強烈な一撃を深淵の怪物に食らわす前に認識できない蔦が己の尾を掴んでいる事に気づく。


 セミナの体に重くのしかかる遠心力が働く。


 尾を強く引っ張られ尖った枝先に振り落とそうとしてくるが、セミナは衝突の瞬間に身軽に回避した後すぐに横向きになっている枝を掴む。


 尾に巻き付いているのは一本の細い蔦である。

 そのため大した力は無く、セミナを引き千切れる程の力は無い。


 蔦が強く張った状態が一番外からの刺激に弱くなる。

 その瞬間逃さずセミナは蔦を切り裂き、掴んでいる大きく曲がった枝が元の形に戻ろうと勢いよく跳ね上がる。


 初速から極めて速い状態から改めて本体であろう集合部分へと向かうが、頭上から鋭く尖った枝が無数に降り注ぐ。


 このまま降り注ぐ槍枝に当たる事を前提で進めば、もしかしたら深淵の怪物を討伐できるかもしれないが、命をかける程度の相手では無いため、すぐに回避行動に移る。


 滑るように抵抗を感じさせない身軽な動きで避け、深淵の怪物の包囲網から一度逃れる。


(さて。穴は作ったが、速度と破壊力が足りない)


(作った穴も一直線では無いから、十分な加速ができない…………………)


「一掃しよう」


 セミナは自身に纏う結界を剥がし、手元に凝縮させる。


 中の水を蒸発させ、魔術で深淵の怪物の元へと飛ばす。


 セミナの魂力操作圏内から外れた瞬間、結界の玉は大爆発を起こり、衝撃の波が周囲を揺らす。


 水は液体から気体に変化した場合、体積が約千七百倍となる。

 液体から気体に変じた水が結界という壁で外に漏れぬように閉じ込められている。

 結界内は高圧力下であり、結界が薄れた瞬間に結界の耐久力を宿る力で容易く打ち破り、暴力的な力を解放させたのだ。


「……網目状というのは厄介だな」


 深淵の怪物の体には大きく目立つ程のダメージは見えず、セミナの目論見通りにはいかなかった。


 爆発は深淵の怪物のかなり近場で起きたため、衝撃と放たれる圧力は直撃に等しい力だろう。


 だが、深淵の怪物の体は効率良く衝撃を流し、分散させる構造しており、爆発の威力が見事に弱体化した。


「こちらのばんだ。喰らうがいい」


 本体であろう場所が口を開くように上下に開き熱放射をする青白い光玉が出現した。

 輝く光が水の流れで揺らめく光景は美しいが、セミナは光玉に秘められたエネルギーに警戒する。


 水を蒸発させる事により気体の薄い膜が水の抵抗を受け流し、一直線でセミナへと向かうが、光玉が発射されたと同時にセミナは既に移動している。


 しかし、光玉は床に着弾すると思いきや、弧を描いて曲がりセミナへと追従する。


(! 掴まれた時にマーキングされたか!)


 尾をよく観察すると、深淵の怪物の魔術が隠れていた。


(間に合わない。迎撃だ)


 今から術式を破壊か解除する時間は無く、光玉と相対することを決定する。


「もう一発だ」


 セミナは後ろから現れた光と熱に気づいた時、訪れて欲しくない可能性の一つが出てきた事に思考が凝縮されるような感覚と共に緊張が走る。


(少し消耗する……。だが、無事ではすまないはずだ……)


 セミナは二つの光玉の位置と距離を一瞬、視線を回すだけで確認する。

 自分を中心に二つの光玉をちょうど同じ距離になるように微調整を行う。


 そして、同じ距離になるのを確認したら少しでも良いから防護結界を展開する。


 距離が縮まる程セミナは冷静になっていき、頭の中のシュミュレーション通りになるように体に事前情報を教え込む。


 光玉の威力を物語る熱と光がが近づき、熱いと認識した瞬間セミナは赤槍を床に強く突く。

 片手を槍の石付き部分を掴む。

 立てられた槍を支柱に己の体を素早く持ち上げる。


 客観的に見てセミナが逆さまになった瞬間、光玉は曲がり切れず赤槍に着弾する。

 同時にセミナは手を離し、瞬きの間で広がる熱と衝撃から結界で防ぎながら逃げた。


 セミナという重りが無くなった赤槍は宙に勢いよく舞い上がると、セミナの〈念動力(サイコキネシス)〉で引き寄せられセミナの手の中へと戻る。


 セミナは後ろから襲い掛かる衝撃によって生まれた水流の渦を背に流し急速な加速を実現し、一息で深淵の怪物に迫る。


(そうであったな……。彼女は困難を乗り越える英雄であったな)


 迷いの無い澄んだ瞳が迫る度に、見えている以上に大きくなっていく。


 セミナが槍を本気で突くと、波紋が広がるように脅威が時間が経つ事に大きく広がり巨大になるのを覚える。


 突かれた場所にある直線上にある物は穿たれ、硬い物は弾け飛んだ。


「ここからが本番か! 英雄セミナ!」


「死にたくなくば、貴殿も本気を見せるがいい!」


 互いに力量を把握し始め、様子見の時間が終わるのが暗に告げられる。


 深淵の怪物が先が鋭利な枝をセミナに向かい降り注ぐ。

 降り注ぐ場所もセミナの動きを制限するようにして正確に狙っている。


 セミナは降り注ぐ枝へと自ら進むと、赤い一閃が刹那の間で無数に放たれ、枝は弾け飛ぶ。


(正面から破壊するか。では絡め)


 柔軟性のある蔦や枝がセミナを囲い込み、一本また一本とすぐに千切っても次々と現れる蔦と枝であった。


 水流が渦巻き、水が個体と液体の両方の性質を兼ね備えた物質にし赤槍に鋭い刃として装着した。


「軟弱だ!」


 液体なのに液体を二つに分ける様は恐怖を覚える。


 槍を先頭して進むだけで、包囲網は紙を破くようにして分かれて行く。


(包囲網から出た瞬間、ぶつけるつもりだな……)


 セミナは包囲網を通る中、右上辺りに巨大な何かを視認し正体を鈍器に類する物だと推察した。


(──と思っているだろう。それは確実に捕えるための物だ)


 包囲網から抜け出した瞬間、巨大な何かは花が咲くように開く。

 セミナは槍を向けるが、大幅に増える表面積に対応しきれず食べられるように包みこまれる。


 深淵の怪物は予め用意していた太い槍枝を四方八方から水流を掻き分けながら突き刺す。


(当たっていない!? なぜだ!?)


 槍枝から伝わる感触から肉を突き刺し、骨を貫くように抵抗感は伝わっていない事に深淵の怪物は理解できず驚愕した。


 セミナを閉じ込めた物は完全に密閉空間となっておりセミナが回避するための余白空間は無い。


 だからほとんど突き刺した時点が勝利を革新していた。


(……いや、待て。なぜすぐに出てこない?)


 改めて深淵の怪物はセミナを閉じ込める物をよく見る。


(自身に作用する術式を使い一定時間の間、外部からの作用に対して何らかの抵抗を作るを使ったのか? それならば辻褄は合う──)


「──ッガァッ!!!」


 認識外の場所から自身を穿つ、強い衝撃が走る。


 目の前でセミナが自身の核部と言える場所を貫いていた。


(…………そう、か。幻覚を見せられていた。あの中には赤槍だけしかない)


 深淵の怪物を貫くセミナの腕から光が生じると迸る光線により真っ二つに核部は割れると同時に深淵の怪物は意識を急速に透けていく。


(……申し訳ございません、主様。願わくは主様の安寧を。主様は責任感のあるお方です、か、ら…………)


 力を失い生命という体の支えが消え、深淵の怪物は倒れ伏す。


 セミナは動かぬ深淵の怪物を見下ろす。


「……加勢を」


 愛用の赤槍を回収して、メラトリオの戦場へと向かおうとする時、深淵の怪物はピクリと僅かに震える。


「!!?」


 すぐにいつでも対応できるように高位置につき、術式の九割を完成させいつで放てるようにする。


 深淵の怪物の死体は起き上がった。


 同時に【溟孔龍(バハムート)】の力が新たな海流を生み出し、メラトリオの神域に陰りを落とし始めた。


 同時にメラトリオから連絡を受けた。


「!!」


 セミナは与えられた権能をすぐに使うと、深淵の怪物の体から絡め取るような白い糸が生え始める。


 ◆◆◆




 双剣を重ね合わせ、襲いかかってくる一撃を防ぐ。


(これで透過効果も。あと少し)


「もっと引き出しなさい。じゃなきゃ死ぬわよ」


 結界内部に擬似的な絶対零度を再現し、絶対零度行く先の物質の状態となる。


 メラトリオは結界を表裏反転させつつも内部の状態を隔離する。

 内部が裏返っているのに中の物は漏れ出さないが裏返っているため絶対零度は外へと出ているという不思議な結界構造を作り出す。


 絶対零度になるどあらゆる物質は運動を止め、エネルギー差が無い状態となる。

 エネルギー差が無いという事はあらゆる物質は同じ場所に行き着いているということのため、物質が一つとなる。


 エネルギーゼロをメラトリオは空間の主の権能を使用し再現した。


 絶対零度=物質統合結界を双剣に纏う。

 そんな事せずともさっさと【溟孔龍(バハムート)】に直接、結界で包み内部を絶対零度にすればいいと思うかもしれないが、今のメラトリオはそれをしない。


 物理階層の物質ならば防ぐ事は不可能である剣の二振りが放たれる。


「あら? どうしたのかしら? それじゃあ上から触れれば良いだけよ?」


 物質階層では究極的な状態の一つである極技は【溟孔龍(バハムート)】の両手により無傷で容易く掴まれる。


 掴まれた直後、膝蹴りを放つが【溟孔龍(バハムート)】も膝蹴りを放つ。


溟孔龍(バハムート)】の膝蹴りはメラトリオに比べるとキレも無いが、衝突し合うと潰されるのはメラトリオであった。


 そのまま吹き飛ばされたメラトリオは素早く受け身を取り、ダメージを抑える。


 倒れるメラトリオは起き上がろうとし、見上げるとこちらを静かに重くのしかかるように見詰めている【溟孔龍(バハムート)】がいた。


「これで何個、貴女の力を意味の無い物に変えたのかしらね」


 潰れた膝を無事だった過去の状態に置き換える事により治す。

 横に転がり距離を取るが、重く微動だにしない瞳が空間を曲げ、時間が巻き戻るようにメラトリオは【溟孔龍(バハムート)】の足元に戻る。


「今の力もわかったわ。逆に使えばこうね」


 メラトリオの膝は先程の潰れた状態に戻る。


「遠点効果」


 二つの点は距離感は視点位置によって変わる。

 上から見ると二つの点は視界内に捉えられる事ができるが、地上から見ると二つの点は視界内に捉えられない。


「段階的な法則操作」


 魔術も一種の法則操作だが、もっと直接的だ。


「未来選択」


 未来というのは無数にあるため、どの未来に繋がるかは訪れてみないとわからない。

 固有空間限定だが、繋げる未来を選べる。


「過去改変」


 過去の改変により、因果関係の操作を行う。


「エネルギー操作」


 固有空間限定の物のエネルギーをゼロからマックスまで再現でき、上限下限を好きに変えられる。


「あとは色々あるけれど、最後の現実置換」


 固有空間内限定の並行世界を入れ替える事が可能な権能だ。


「貴女が積み上げて来た技術と力は私が意識して力を振るうだけで無意味となるのよ」


 メラトリオの固有空間内での権限のほとんどを使い【溟孔龍(バハムート)】と相対したが、地力の差がありすぎた。

溟孔龍(メラトリオ)】の言う通り、巨大で圧倒的な力にメラトリオは翻弄されるままであった。


 メラトリオは【溟孔龍(バハムート)】の不自然に広がる影に押さえつけられ吸い込まれるような威圧の中心となった両目に見つめられていた。


「だからなに。勝利宣言なの?」


 目を手で隠し、満身創痍の状態だが、不敵な笑みを深く浮かべるメラトリオに【溟孔龍(メラトリオ)】は不思議に思う。


「その自信がどこから来るかは知らないけれど、貴女の言う通り。私の勝ちというのは一目瞭然」


「そう……。評価はどう?」


「存外悪くなかったわ」


 感情を感じさせない淡々とした物言いで、【溟孔龍(バハムート)】の小さく巨大な手が迫る。


「じゃあね」


 水流が泡立ち、新たなる海の源泉が生まれる。


「──いつ私が負けたと認めた?」


 目に伏せられた手の隙間には【溟孔龍(バハムート)】以上の強烈な眼光を迸らせる烈光の瞳が開いていた。


「なにを? ──っ!」


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