王者の誘い
倒壊し、門と僅かな壁しか残っていないラテマアの封印神殿に深淵の怪物達が【溟孔龍】に向かい跪いているきおえうたあえかなあえくてかえく
「封印の解放おめでとうございます。【溟孔龍】様」
得て体当てええ絶えお大饗い?
最前列にいる言葉を話せる深淵の怪物が代表して【溟孔龍】の解放のお慶びの言葉を言う。
「しかし、創造主様。 いつもの姿とは違いますね。なぜ人の姿を象っているので? 本来の姿の方が威容に満ちた素晴らしいお姿でしたのに。あ、もちろん今のお姿も大変お似合いでございます」
二本の手足と髪の生えた頭が繋がる胴体で構成された体を【溟孔龍】をしていた。
「…………さぁ、ね……。私の気まぐれ、かし、ら……」
涼しげな瞳を細め、己の体を眺める【溟孔龍】は、眷属の質問に感慨も無く答える。
「そうでありましたか。……創造主様がよろしければで良いのですが、一糸纏わぬ姿は創造主様の威光にも影響しますので、お召し物を身に着けてはいかがでしょうか?」
「お前はバカか。【溟孔龍】様が服を身に付けない程度で威光が濁りが生まれると思うのか!?」
骨のような白い甲殻物に覆われた体を持つ深淵の怪物が血族には普段決して言わない事を言い放つ。
「…………」
【溟孔龍】の白磁の体に相反するような漆黒と鮮やかな藍色が織り込まれる。
全身を纏う服装は幻想的な品位を携えつつも、威容と果てしなさの属性を含ませていた。
端的に言えば、かなりセンスが良い。
「主様、何個かの質問をよろしいでしょうか?」
異形種が揃う中、人の姿を酷似した深淵の怪物が立ち上がり【溟孔龍】としっかりと目を合わせる。
「……構わないわ……」
【溟孔龍】も他の眷属とは違う彼の揺るぎない視線に僅かな興味を持つ。
「ありがとうございます。主様の目的をご教示頂けないでしょうか?」
「……………」
「な、何か、私は無作法な事を……!、?」
【溟孔龍】は答えずに彼を先程の無表情ではなく、僅かに目を見開き何かを思い出そうとするように彼を観察していた。
「……貴方、名前は……?」
「ハントでございます」
「……サリアスと一緒にいた者ね……」
「確かに私は封印前はサリアスさんと共に行動をしておりました。それがどうか致しましたでしょうか?」
「貴方の質問はわかっているわ。私の目的を聞きたいのでしょう?」
先程までの儚い口調が薄れ、明確な輪郭を描く口調へと【溟孔龍】変わる。
「はい、主様が何をしたいのか? 我々はなぜ生まれたのか? を知りたいです。そして、できれば主様の眷属化を個人の自由意志で決められるようにしたいです」
ハントはサリアスと共に行動し、同じ目標を持っていた。
長い時間がかかったが、やっと自分が追い求めていた事を成し遂げられる。
サリアスが無念に散った思いを今ここで叶える。
「…………………そうね。ただ気が赴くままに行っただけよ。貴方達を作った理由も自分の力を確かめるために無差別に行った物」
暫くの間思考を巡らせた後、冷淡な尊大さを感じさせる物言いハントの質問に答える。
「なるほど」
「これで満足かしら?」
「ありがとうございます。眷属化の選択権の方はいかが致しましょうか?」
ハントにとって、眷属化の選択権の方の答えの方が気になっていた。
己でどんな姿になるかの決める権利さえあれば、都市勢力との戦いをする必要が無くなり、大切な血族が命を失う数は皆無となるからだ。
「……」
【溟孔龍】はハントの求めには答えずに視線だけハントの隣にいる暗い色をした巨大なタコのような眷属に目を向ける。
すると、その深淵の怪物は【溟孔龍】の目の前まで引っ張られ、人魚の姿に変えられる。
「イメス!?」
ハントは突如引っ張られる深淵の怪物──イメスに驚愕をしながらも手を伸ばす。
「…………貴方、誰かしら?……」
肉体は自身の眷属だが、中身は全く違うものへと変わっている事に気づいたのだ。
「……アハハハハハッ! さすがだ! 魔王如きものが言った通りだな!」
可憐な顔貌で品位を感じさせない口調が発せられ、愉快に期待通りの展開に体全体を震わせて笑っている。
「貴様何者だ!」
近くにいる深淵の怪物達ががイメスではない者を囲み触手を靡かせる。
「俺は自由を愛する魔族! たが、自由に動くための体が無い精神体だから、俺のためにこの体を器としてもらっただけだ!」
無邪気に体を強奪した、と堂々と宣言する。
「ほ〜う、じゃあ、今すぐイメスの体から出てけ」
無邪気な子供でもずうずうしく、非道徳敵な事を言えば、寛大な大人でも頭に血が登り、罪悪感がかなり薄れて子供に痛い目に合わせたくなる。
「嫌だ! 俺の体が無くなるだろうが!」
「いや、お前の体じゃないだろ」
「知るか! 俺は困りたくない! 俺の負担はお前らが負担しろ」
「よし、みんな。こいつを消そう!」
自己中な態度に怒りが湧くよりもあまりにも身勝手すぎるため呆れの感情が勝つ。
怒れば、『みんな! こいつをぶっ殺すぞ!!』と荒げた声で言うセリフが、冷静に目的だけを告げるだけになってしまう。
「へー、生命階層以上の次元に干渉できるのお前達の中にいたっけか? どうやって消すのかなぁ? 気になるなぁ? ん?」
勝利を確信した自信を根拠に遠慮無く嘲笑う、魔族であった。
「チッ!! クソ魔族がっ!!」
触手や拳、魔術器官が殺意と共に力むが、この力を感情のまま解放すれば、大切な血族の体を傷つけてしまう。
事前知識として魔族は卑劣で悪そのものというのはあるが、いざ目の前で卑劣な行為をやられると怒りが湧く。
その怒りも一番不快な怒りである。
サリアスのように外部的な圧力で感情を解放できないのではなく、自ら解放を我慢して怒りを抑えるため、一層不快感が強くなる。
「その顔が見たかった! 超嬉しい!」
ゲラゲラと下品に笑うイメスを器とした魔族であった。
「どうする〜? どうするッウゥッ!」
調子に乗り、深淵の怪物達を弄んでいると、魂を直接握られるような感覚に魔族は陥る。
悶える表情の視線の先には【溟孔龍】があった。
「創造主様!?」
深淵の怪物は魔族の視線の先に体を一斉に向ける。
「……猶予を、与えるわ……。……今すぐ、別の体に変えて、来なさい……。……貴方は、生理的に、受付、無いもの……」
中心になっていく程、暗い色になっている【溟孔龍】の蒼孔眼が視線を遠ざけるようひ目を細める。
「……全く魔王如きもの全然話が違うじゃないか! 器として良い相手がいると、言ったのに!」
先程の満面の笑みとは真逆に納得いかなさそうな睨みつけるような表情をする。
「文句ばかり言ってないで、速く行けぇ! ゲスが! 俺達もお前は生理的に受け付けねぇからな!」
「うるせぇな。わかった、わかった。行けばいいんでしょ。ったく、そんな大きな声を出さなくとも聞こえるっつーの。キチガイかよ」
殺気が充満した空間に魔族はさすがに危機感を覚えたが、最後に捨て台詞だけを残し、新たな体を探しに向かった。
「創造主様! なぜ、魔族を殺さなかったのですか!? 魔族はこの世の悪ですよ!」
深淵の怪物全員が血族を汚されて憤りを持っており、同じ意見を持っていた。
「……貴方達には関係ないわ……」
「しかし……──!」
【溟孔龍】に反論しようと、振り返った時に【溟孔龍】の目が合った。
改めてよく見ると酷く怜悧な瞳をしており、飲み込まれるような巨大さを秘めた覇気と徐々に深くなっていく色彩に引き込まれるような感覚に陥る。
──自分はおこがましかった。眷属とし主の意見を反論するなど。
「……承知致しました。ですが、魔族をどうするので?」
「……あんな物、何が脅威だと言うの?……」
「わかりました」
彼には口は無いが、口があればフッと小さく笑っていただろう。
(さすがは創造主様だ。創造主様から見れば、あのような魔族は塵芥にすぎぬのだろう。……だが、あれだけの力がありながら、なぜ封印されたのだろうか?)
一抹の疑問を覚えつつも、【溟孔龍】の絶対的な力を信じている。
「……貴方達に、私が求める事は無いわ……。散りなさい……」
最後にその言葉を発し、深淵の怪物達は波が広がるように【溟孔龍】から離れ始める。
静寂な空間の中、纏う妖精のみとなった【溟孔龍】は近づいてくる一匹の魚に目を向ける。
「……はじめてして。私は神龍の代理人であり投影体です。名をリヴァイアサンとしています」
突如、【溟孔龍】な頭の中から声が聞こえる。
当然、【溟孔龍】は声の主の正体と居場所をわかっているため、驚きはせずに
首を小さく傾けて声の主である近づいてきた魚に向けていた。
「……それで、何用なの……?」
【溟孔龍】はどこか警戒するように鋭さを体全体から発せられる。
「汝の力はあまりにも巨大な物です。故に有効活用したいと、思っています」
壮年の男ようで若い女ような、もしくはその逆であるような、年齢や性別が不明瞭であった。
「……それで……?」
「我々と共に来てください」
「……来て何をさせるのかは、興味も無いけれど、私が求める物は無さそうね……」
「残念です……。ですが、これだけは、誓ってください。魔族に与することは無いということを」
リヴァイアサンは今まで淡々としていた声質であったが、魔族に関する言葉だけは強く揺らぎのある声である。
「……私の行動は私が決めるの……。……あなたに指示される筋合いは無いわ……」
「「「──よく言った。ハハハ、お前は我々に向いているぞ」」」
突如、空間が割れ、4つの腕と三つの顔を持つ魔神魔王如きものが【溟孔龍】とリヴァイアサンの間に現れた。
「魔王如きものですか。この場から離れなさい」
リヴァイアサンは冷たく辛辣な言葉を初手から放つが、魔王如きものの三つの顔は受け流すように笑っていた。
「「「久しぶりだな。リヴァイアサン。やはりお前もこの子の力を手にしたいのか?」」」
「えぇ、世界のためにです。それで貴様は自己利益しかない欲求のためですか?」
「「「向上心と言って欲しい物だ。さて、【溟孔龍】。こっちに来るんだ。誰にも縛られずに望むままに生きられるぞ」」」
一本の腕を【溟孔龍】の眼前に差し出し、誘うように軽く振るう。
「……」
「封印は辛かっただろう? 我々の本につけばそんな辛い思いをしなくても良いんだ。どうだ? お前が求めるものはきっと見つかる」
魔王如きものが【溟孔龍】の光を飲み込むような黒髪に触れようとした時、【溟孔龍】は自身に伸びる手を叩く。
「……行かないわ……」
リヴァイアサンとは違う冷気を漂わせる冷たさであった。
「「「……残念だ。気が変わるのを待とう……。あ、ついでに仲間の魔族連れてきたから、せいぜい体を取られぬようにきをつけといてね」」」
目を細め、切れ味を持たせた瞳を刹那の間したが、すぐに魔族らしい幸せそうな軽快な笑みを浮かべ、ふざけんなと、言いたくなる情報を置いて去っていく。
「……気が向いたら、そこらの魚に話しかけてください……」
リヴァイアサンも現在の【溟孔龍】に期待するのは辞め、一時的に様子見をすることにした。
「……休まらないわね……」
上を見上げ、新たな使者に目を細める。




