海中連闘
海の魔物に襲われ、海中へと引きずり込まれるルアザとクエレブレは海から脱出しようと必死になる。
特にルアザは陸上の生き物であるため、命の危機感に逆らわずにいた。
ルアザは自身と掴む触手ごと凍らせ、奪った熱を魔術で増幅させ解放すると海水が一瞬のうちに沸騰して水が気化する。
急速な気化速度と膨大な量の水が気体へと変わり水蒸気爆発に似た高圧力下で生まれる強力な爆発を起こす。
無数の泡と圧力からの解放による強力な衝撃が氷をバラバラに砕く。
ルアザは体表面に防御魔術を張っていたため、氷の粉砕から免れる。
水流を操り、急上昇することによる体への悪影響を魔術で誤魔化し多少の傷は治癒魔術で治していく。
広大かつ複雑な泡の乱射地帯から抜け出した瞬間、クエレブレの冷凍光線に襲われる。
「!」
強力な防御魔術と纏う水流によって威力と冷気は減衰するが、低体温症になる程の冷気にルアザは後退せざるおえない。
ルアザは明らかに自分の思惑以上の後退に下を向くと泡を吸い込む巨大な円状の穴のような口が開いていた。
タコやイカのような体なのに口は嘴では無くギザギザとした歯が一層化物感を増す。
強烈な渦を巻く水流にルアザが操る水流が僅かに負け、徐々に徐々に円状の口へと向かい落ちていく。
ルアザは自分よりも下にある海水を巨大な氷塊に変え盾にするが、剛腕の触手により破壊され僅かな時間稼ぎにしかならず、ついには触手がルアザに向かって伸ばしていた。
(上は殺意溢れるクエレブレ、横からは強靭な触手達、下には冥界の入口である巨大な口……)
四方共に塞がれる状況にルアザは嘆き、光差す活路を探していた。
まだ手札は残しており、工夫すれば脱出できる状況だ、と諦めるには速いのだ
ルアザは水流に逆らうのを止め、渦を巻きながら暗黒の景色が見える口の中に落ちていく。
闇の腕がルアザを掴み取るように渦は圧力が増して行く。
渦巻く水流の外縁部に行き、遠心力などが多くの力が働く場所に移動する。
そして、水流の流れに乗り、ルアザ自身もスピードを出す。
加速していき一定の速度になると、渦の支配領域から外れられる。
渦のエネルギーとルアザが放出するエネルギーを足し合わせると渦のエネルギーよりも多くなるため、支配から抜け出せるのだ。
だが、クエレブレの脅威からは抜け出せておらず、クエレブレは衝撃波を放ち、ルアザを狙い撃ちしてくる。
液体のため、気体に比べ高速で衝撃波が伝わるため、対応が間に合わず薄い結界が砕け散り、ルアザに直撃する。
「グファッ!!」
口から泡を吹き出し、苦悶の表情を浮かべる。
(渦の中にいた方が安全かもな)
渦に支配されるのは厄介だが、一種の壁にもなってくれるため、ルアザは一度仕切り直すべきではないかと、考える。
高位存在のクエレブレが本気を出せば渦とか関係無く辺り一帯に災害を生み出せるはずである。
(こちらから攻めて、隙を見て隠れるしかないか)
活路を見出すには自分で作らなければならないと結論を出し、輪廻の息吹を使用し、得た力をオーラで制御し体を強化する。
ルアザは輪廻の息吹を使用していて気づいた事は使用中は体の強度が上がることである。
エネルギー的な保存量が増える事により、通常以上の体温を持っていても調子が悪くなったり、タンパク質が変性せずに生命維持が可能なのだ。
加えて、体の強化条件は輪廻の息吹使用時だけではなく、輪廻の息吹から得たエネルギーを保持し続ける場合にも適用される。
(この効果は莫大なエネルギーに使用者が耐えれるようにした仕様なのだろう)
ルアザは結界を展開するリソースを無くし、攻めにリソースを振るために、防御力を引き上げた。
水中を蹴るように進み、クエレブレに肉薄をする。
クエレブレは近づいてくるルアザを長い尾で叩き潰そうとして、液体の抵抗を感じさせない速度で尾を振るう。
海水を引き裂くを尾の断撃をルアザは誘うように避けて行き、クエレブレに一層近づくが、クエレブレが纏う高速の水流に阻まれてしまった。
ルアザはその壁を無理矢理〈雷撃砲〉で突き破り、命中と同時に電圧を急激に引き上げる。
ルアザは帯電により磁力が強く働くクエレブレを吸引力を働かし、自身の元へ引っ張り、海の魔物にぶつけようと画策する。
ルアザは途中で磁力を切り、慣性に則ったクエレブレは海の魔物の元へと投げ落とされる。
ぶつかりはしなかったが、海の魔物の触手に捕らわれたクエレブレは全身から衝撃波を放ち巻き付く触手を強引に弾き千切った。
クエレブレはルアザを食い殺そうと狩猟的で獰猛な瞳をルアザがいた場所に向けるが、ルアザはそこにはいなく遥か先に移動していた。
「逃げるなぁ!!」
クエレブレもルアザを上回る勢いでルアザを追う。
クエレブレの強烈な気配をルアザは当然感知するが、振り返る事無く前を見て進んでいた。
氷結の波動がルアザに伸びるが、ルアザは輪廻の息吹から得たエネルギーを放出することにより、エネルギーを推進力に変え加速を繰り返していた。
逃走劇を暫く続け、ルアザは何か障害は無いかと探っていると砂状の地面が見えて来たため、速度が落ちない角度で徐々に降下していく。
ルアザは霧を生み出すように自分の後方部に細かい氷の粒を作り大きく広げる。
加えて、氷の粒の作成の際に奪った熱で海水を沸騰させ大量の泡を作り、ルアザの後方を真っ白に変える。
龍であるクエレブレの鋭い感覚があるため、完全には逃れ切れないが、一瞬の隙を生み出せる。
ルアザはその隙を狙い輪廻の息吹で溜め込んでいたエネルギーを解放して急降下をする。
地面に近づくと砂を操作しようとした瞬間、砂中に隠れていた巨大で薄く広い魚にルアザは一飲みされる。
「うわっ!!」
突如現れたルアザ十人分程の魚の口内で驚きつつもユーハとの訓練の賜り物である反射的な結界構築がルアザを鋭い歯から守る。
口の奥にルアザは移動し、食べられた餌のように静かにジッとする。
(クエレブレから身を隠すのはちょうど良いかもしれない)
砂中に隠る予定であったが、水中の反応速度や環境に溶け込む能力は魚の方が上であるため、自身の気配は隠せるかもしれない。
龍の気配は濃密であるため、ルアザ側からは明確に気配を感じ取れる。
この差が上手く効果が現れば、ルアザはクエレブレが離れるまで静かに何もせず待っていれば良い。
不安による重苦しい心臓の鼓動音が唯一の刺激となるが、ルアザは落ち着いて不安の原因が去るのを待つ。
この思いは薄く広い魚にも伝わったのか、魚も静かに眠るように砂中に潜っていた。
魚とルアザの脈動や呼吸が混ざり始めると、互いの脈動や呼吸が軽くなる雰囲気を感じ始める。
だが、次の瞬間クエレブレ以上の強力な気配が突如現れるを察知する。
当初出会ったクエレブレ以上に気性の激しさを感じる災害のような強烈さがあった。
魚はその威圧に恐怖し、砂中から素早く抜け出し全力で今いる場所から逃げ去る。
口内にいるルアザは突如働く慣性をフォースでコントロールする。
属性操作による環境の揺れにクエレブレと突如現れた脅威に気づかれぬ事を願う。
残念ながらルアザの願いは叶わず、攻撃的な何かの着弾による衝撃によって魚は木っ端微塵となり、ルアザも欠片の一つとして散らばる。
「人魚?」
上を向き、何が起きたのか確認すると異様な気配を放つ人魚に視線が行く。
「でも、なんか体は透明だし、紫の水晶のような物が生えているな」
幽霊のように透けた色を持ちつつも、しっかりとした存在感を含んだ体に、フジツボなどが貼り付くよう煌めきのある紫色の鉱石物が生えていた。
異型の人魚は隠れながら状況を探るルアザに気づいたのか狂気と苦悶に染まった顔を向け叫んだ。
甲高い音が切れ味を忍び込ませながら、ルアザを二つに分けようとするが、ルアザは顔を向けられた瞬間にはその場から離れていた。
切れる叫びは大地を横断して、狭い海溝を作り上げる。
(高位存在並か!)
斬痕を見たルアザは異型の人魚をそう評する。
輪廻の息吹を使用し、いつでも攻撃と防御をできるように構え、武器を手に取る。
オーラがルアザを包み込む。
同時にルアザは後ろにいるクエレブレにも意識を配り、挟まれる形となってしまった。
異型の人魚は頭を強く抑え、眼球を周囲に何周も回す。
紫の鉱石物を掴み無理矢理引き剥がしており、その結果で血が吹き出し、見るからに痛々しかった。
(自傷行為……。明らかに異常な状態だ。ならば殺めたくはない)
紫の鉱石物を剥がした場所から新たな紫の鉱石物が出現しており、異常な生成速度にルアザは紫の鉱石物に意識が向く。
特に右手は肩から指先まで紫色に染まっており、完全に支配されているように見える。
「ウアアァアァァァァァァァァ!!!」
異型の人魚は悪魔に取り憑かれていそうな声でさけびながら、硬そうな右手を振りかぶりながら、ルアザに突っ込んで来る。
豪快な猛突進をルアザは難なく受け流すが、海中に浮いている状態のルアザを抑えつける物は無いため、大きく弾かれる。
異型の人魚は静かにしていたクエレブレの元にまで右手を先頭に突進していく。
クエレブレは冷静に狙いを定め、口内に溜めていた莫大な属性を指向性を持たせ放つ。
水を上位の属性へと変換した青色の光線が異型の人魚を飲み込むが生存を確認できる影が青色の光線の中に見えていた。
クエレブレも異型の人魚の生存を確認できるが、少しずつ削れているのはわかる。
だからこそ、不思議だった。
(おかしい。破片の量からにして、体積分の量は無くなっているはずだ)
計算と合わない答えに迷いが生まれる。
思考に歪みが生れた瞬間にクエレブレは無数の触手に掴まれており、凄まじい速さで深く引きずり込まれる。
クエレブレはブレスを吐くのに集中していたため、突如現れた海の魔物に対応しきれなかった。
あっという間に海の魔物とクエレブレは海に溶け込むように姿を消して行く。
「何も、かもが、憎い……」
異型の人魚は先程よりも多くの紫の鉱石物を全身に纏わせており、右手は紫の鉱石物で肥大化していた。
真っ黒な感情に染まった声が絞り出すように吐き出される。
ルアザは彼女と目が合い、見えざる威覇に怖気づく。
どこか歪んだ怒りを感じルアザは警戒心を強める。
明らかに正気ではなく、狂気に満ちている彼女に一層集中する。
「全、てが、敵、ぁ」
ルアザは強く弾き飛ばされるが、水の強い抵抗がクッションとなり然程ダメージは受けておらず、異型の人魚を落ち着いて観察する。
それから異型の人魚の連撃がルアザを襲うが、ルアザは危ない攻撃だけはいなし、時折反撃などをして、どのような反応を返すか確かめる。
(理性は薄いから、基本的に直線的な行動はしない)
肩が動き、肘が伸びルアザを掴もうとする腕を胸を逸らす事で避け、伸び切った腕を肘と膝で挟み打つ。
輪廻の息吹も魔術も使用してないとはいえ、肘打ちと膝蹴りを同時に喰らった腕は折れると思われるが、痣一つも無かった。
(何よりも厄介なのが、高すぎる身体的能力)
異型の人魚の尾がルアザを掠める。
当たりはしないが、生まれる余波がルアザを巻き込み、魔術で中和していく。
(少しずつだが、身体能力も全体的に高まってきている)
ルアザは衝撃波を拳に込めて胸に一撃を与え、異型の人魚を怯ませる。
そして、練っていた術式が展開されると輪状の結界が複数、異型の人魚を囲む。
「動くな」
輪は収縮して首を締め付け、両腕、両手を胴体に押し付け、尾を縛る。
自由に身を動かせなくなった異型の人魚は激しく暴れる。
思うように泳げず、敵を抹殺できない苦しみと怒りを紫の鉱石物は感応し、淡く煌めくと、輪状の結界の一部が砕ける。
「……今のは」
繋がりが消えた輪状の結界は容易く破られしまったが、ルアザは輪状の結界の一部が砕けた瞬間の感触に意識が向く。
「アァァァァア!!!」
紫の鉱石物が光を纏い始め、ルアザは思考の海から抜け出し、なにが起きても対応しやすいように距離を取り警戒する。
「死ね!!!!!」
まるで高い場所から落下した時の重力加速度の恩恵を受けたかのような恐ろしい速度でルアザを向かってくる。
今までとは段違いに違う速度で異型の人魚とルアザの距離を一瞬にして縮める。
「!!」
ルアザは体を大きく曲げ、紙一重で回避する。
態勢が崩れてはいるが、次の攻撃を避けるために、異型の人魚の首を右手で掴み取り下へと自分ごと、沈める。
急速落下していくが、ルアザは途中で手を放し当初考えていた、地面に押し付けて完全に拘束する案を止めた。
(明らかに落下速度が速くなっているな)
計算していた落下速度よりも速い事にルアザは危険信号を発した。
慎重さを優先させて、チャンスを手放す。
水の抵抗で勢いは死に、異型の人魚は海底に衝突する寸前に巧みに身を翻した。
海底を叩き再びルアザに向かうが、ルアザは既に上へと向かい海面から出ようとしていた。
輪廻の息吹から得たエネルギーを放出し、加速的にスピードを上げる。
急上昇による水圧変化による体の影響はオーラとフォースで受け流している。
「!」
急上昇するルアザは突然速度が下がった事に驚く。
「引き寄せられている……?」
海流の渦のような横からの巻き込まれるような感覚ではない。
重力のような直線的で滑り落ちるような感覚であった。
「傾いているのか!」
僅かにだが進行方向がズレた事に気づいたルアザは何が傾いているのかを探る。
(海流が不自然に歪んだのはわかったが、何が傾いた? 感覚器官の不具合かもしれないが、魂感は差を認識しているから、その線の可能性は少ない)
人は視覚を外界から得る情報の六割としている、そして魂感は数%の触覚より、やや少なめの割合を持っている。
魂感の特徴の一つとして、狂いづらさである。
他の感覚は病気などの他の影響を受けて、壊れる事はあるが、魂感はそのような事は無い。
(輪廻の息吹から鑑みると、空間に近いかな? 重力が強まっている)
ルアザは試しに小さな氷を作り、推定される傾きのある領域と無い領域に二つの氷を投げ入れると、自身の近くにある氷の方が速く落ちた。
「たぶん、重力かな?」
ルアザは属性を強く働かせた瞬間にルアザは強く下に引っ張られる。
突如強くなった重力にルアザは大きく引き寄せられ、現在の輪廻の息吹の推進力では沈んでしまう程であった。
(輪廻の息吹も仕様上、もっとエネルギーを得られるけど、体に慣れが生まれて無いから、危険だしな)
つい最近に輪廻の息吹を与えられた物のため、使用者である自分は輪廻の息吹を使う体に適してはいない。
使用し続けていれば、自動的に最適化されていき、今よりも多くのエネルギーを得られる。
(そのことよりも、どんどん強くなっている)
現在の位置の維持が困難になり始め、自分の有利な現状も傾きが比例している事も自覚している。
再びルアザは輪状の結界を生み出し、異型の人魚を縛る。
当然同じように破られるが、一定時間は行動を止める事ができる。
一定時間を利用し素早く別の結界で縛り、重ねていく。
引き寄せられる力は止められないが、距離を詰められても大丈夫なようにするのが目的だ。
最後に物理的にも巨大な氷で包んで封じ込めて長い時間稼ぎを狙える。
その間に距離を取り、重力圏ギリギリの場所で一瞬だけだが、輪廻の息吹を限界以上に使用した瞬間、異型の人魚を包む氷が爆発するように砕け散った。
「なっ!?」
轟音が鳴り響いた瞬間ルアザはすぐに後ろを振り向く、既に肌が触れそうなところまで目前へと異型の人魚が迫っていた。
ルアザの腹部に貫くような一撃が穿たれ、ルアザは一瞬、脳内が眩く白く染まる。
すぐに鮮明な色を取り戻し、牽制しようと剣を振るうが、目の前にいたはずの異型の人魚はいなく。
ルアザは剣だけを背中に向かわせ、何とか直撃を防ぐ。
剣に働く自身を押し出す力を利用し、身を捻るように体を動かす事により素早く回転できる。
そして勢いそのまま、剣を振り下ろす。
紫の鉱石物が刃を阻める。
斬撃が異型の人魚の口先から呟かれ、ルアザを細切れにしようとする強靭な刃が襲う。
だが、同時にルアザの剣先からも雷光を咆えており、音と雷は絶対に雷の方が速いため、不完全な状態で多刃の音が発動される。
不完全な刃はルアザの右腕一振りで花びらを払うように散る。
異型の人魚は胸部の紫の鉱石物を大きく生やし、それを強く掴みへし折る。
槍のように尖った紫の鉱石物をルアザに向ける。
槍は棒のように激しく振るわれ、水の抵抗を感じさせない速度で振るわれる。
ルアザは目を潰す眩い光を明滅させ、狙いが定まらなぬように視界を奪っていた。
音も自然界では有り得ない、不快感を伴う歪んだ甲高い音を発して視界と共に聴覚も混乱させている。
海の人種は地上の人種よりも優れた感覚器官を持っている。
故にこういった強すぎる刺激は地上の人種よりも強い影響を受けやすいのだ。
ルアザは術式に合わせたフィルターを張っているため、眩しく騒がしいが、平気である。
異型の人魚は目と耳を抑え混沌した感覚に囚われていた。
自分の居場所が塗りつぶされるような状況に不快感による苦悶が浮かぶ。
異型の人魚は逃げるように、明滅する光と混沌とした音から離れる。
光と音の空間からルアザは油断しないで異型の人魚が距離を取り、海の彼方に消える様を見つめる。
「……とりあえず撃退かな?」
水中ではため息は吐けないが、動作だけのため息を行い一息つく。
視線を右にやると、海の人種達の群れが見え、こちらに近づいてくる。
本来なら一つの章を書き終わって、投稿という流れですが、夏休みなので一足早く投稿します。
投稿頻度は短いわけではないですけれど、作者の頑張りとして見てください。




