66 本心
週末はソフィーの部屋で過ごすことになった。アヴリルやミレーヌ、レイチェルも招かれて夜遅くまで話したため、侍女のサラから全員叱られてしまったほどだ。おかげで襲われたショックを紛らわすことができ、友人たちの気遣いにサーシャは感謝した。
「サーシャさんは少し表情が柔らかくなりましたね」
アヴリルの指摘に驚くが、サーシャ以外の全員が頷いている。
「やっぱり、それってシュバルツ王太子殿下が関係していますの?」
興味津々といった様子のミレーヌに何と返していいものか。
「エリ…、シュバルツ王太子殿下とは少し行き違いがあっただけで、私のことを想っているわけではありませんわ」
番の効果が薄れている今、エリアスが自分に固執する理由はない。
「王太子殿下のことはさておいて、サーシャはどうなの?」
直接的な質問を投げかけるのはソフィーだ。エリアスについては事情を知っているため、聞く必要もないのだろう。
(だからといって私の気持ちと言われても、答えようがないわ)
最初こそ苦手だったが、番の本能のせいだと理解すれば可哀そうだと思った。サーシャが体験した強制力と似ていて同情のような気持ちを抱いた。寄せられる好意に本人の意思が含まれていないなら、どれだけ情熱的な言葉でも心が動かない。
最近のエリアスは穏やかな態度で傍にいても心地よいし、サーシャを助けてくれて軽率な行動を窘めてくれた。そのことはとても嬉しかったし、感謝している。だからそれ以上は望んではいけない。
「とても、素敵な方ですから、幸せになって頂きたいと思っています…っふぇ」
ソフィーが突然サーシャの頬を軽くつねったため、痛いと思うよりも驚いて変な声が出た。
「王太子殿下が平民でも同じことを言うの?」
(ソフィー様には敵わないわ…)
心配そうな友人たちの顔を見てサーシャは気づいた。いつも一人で抱え込んでしまう自分を見守ってくれていたことに。
「私、エリアス殿下が好きです」
エリアスの愛情が番に向けられていると分かっていたのに、いつの間にか好きになっていた。自分を見て欲しいと思うことなど分不相応だと思ったから、諦められなくなる前に早く離れようと体質改善に力を注いだ。
「サーシャは心配性の上に考えすぎなのよ。たまには素直に甘えてもいいのに」
「そこがサーシャさんの良いところでもありますから。ソフィーも他人のこと言えないでしょう?」
含み笑いを浮かべるアヴリルと不貞腐れたようなソフィーに笑い声が上がった。
「人を好きになるのは自由ですわ。サーシャが誰かを好きになったこと、それはとても素晴らしいことだと思います」
ミレーヌの言葉にサーシャは素直にうなずいて、心の中に芽生えた気持ちを愛しく思った。
サーシャが襲われたことから臨時集会が開かれることになった。傷害事件に発展する可能性が明らかになった今、ただの噂と放置しておけない。ましてや将来王家に仕える可能性が高い貴族子女が噂に惑わされるなど看過出来ることではなかった。
本来は会長であるシモンが代表として立つ壇上にアーサーが姿を現わしたことでざわめきが起こる。
今回の議題は学園内に蔓延する噂についてだ。ただの噂を王族であるアーサーが否定することに意味があった。
「魔女の存在について否定する要素はないが、同様にその存在についても肯定する証拠はない。おとぎ話を信じるのは自由だが、他者を巻き込むことは許されない行為だ」
アーサーの発言に同意する者、懐疑的な者と反応は分かれる。
想定内の反応だったため番についての説明を行うことになっている。魔女の存在を打ち消すためにはエリアスの事情を明らかにすることが不可欠だ。シュバルツ国内では知られていることであるため、特に問題ないとエリアスから許可が出ていた。
頃合いを見計らい、アーサーがそのことに触れようとする前に1人の女子生徒の手が上がる。無視できない存在にアーサーは発言を許可した。
「魔女の証明は可能です」
どよめきの声が上がる周囲をよそにエマは嫣然と微笑んでいた。




