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⑤義兄からのお誘い

アーサーとシモンの表記が間違っている箇所がありました(11/8修正)

誤字報告くださり、ありがとうございます!

学長挨拶から始まった入学式は、厳かな雰囲気の中で進行していく。

緊張感を孕んだ空気が変わったのは、ダークブロンドの理知的な瞳をした生徒が壇上に上がってからだ。

「生徒会長を務めるユーゴ・デュランだ。在校生代表として君たちに歓迎の言葉と祝辞を送ろう」

涼やかで落ち着きのある声に一部の女生徒からため息が漏れる。


学園での振る舞いや注意事項などを述べて祝いの言葉で締めくくりかけた時、ユーゴの言葉が一瞬途切れた。疑問の声が上がる前に、何事もなかったかのように言葉を続けてユーゴは降壇した。

ほんの僅かな間だったため、ほとんどの生徒は気に留めていないようだ。

(何か、目が合った気がする……)

自意識過剰なのかもしれないが、あのときユーゴはサーシャを見てはっと息を呑んだようだった。接点がないはずなのにどうしてあんな反応をしたのだろう。


入学式の後、クラスに分かれて教師から明日の予定と注意事項の申し送りが終わると、今日の予定は終了だった。寮に戻って荷物の片付けをしていると、遠慮がちなノックの音が聞こえてサーシャは返事をする。

「サーシャ、今いいかな?」

聞こえてきた義兄の声にサーシャは思わず硬直してしまった。

(女子寮なのに、何でお義兄様がいるの?!)


落ち着いて考えれば家族なので、受付で申請さえすれば可能なのだろう。

入学祝いだから夕食の誘いに来たというシモンに対して断る理由が思いつかず、一緒に夕食を取ることになった。よくよく考えてみれば、シモンが入学して以来二人きりで話すことなどなかった。

(お義兄様には確かめたいことがあったのだから、ちょうど良い機会かもしれない)

頭を切り替えてサーシャは出かける準備に取り掛かった。


10分前に支度を済ませて玄関ホールに向かうと、すでにシモンが待っていた。寮を出て数歩踏み出したところで、シモンが立ち止まる。

不思議に思ったサーシャが目線を辿ると、一人の男子生徒の姿があった。

「やあ、奇遇だね」

にこやかな笑みを浮かべた青年は、夕暮れの中でも輝くような黄金色の髪と透き通るような青い瞳の持ち主だ。


「…アーサー様、義妹のサーシャです。サーシャ、こちらはアーサー・ドゥ・ランバート殿下だ」

その言葉にサーシャは膝を折ってカーテシーを取ろうとするが、止められた。

「サーシャ嬢、学園では身分の差を問わず勉学に励むよう過度な礼儀作法は不要だ」

確かに入学前の通知にもそのような注意事項が記載されていた。

「ご教授いただきましてありがとうございます。いつも兄がお世話になっております」

控えめに礼をすると楽しそうな口調でアーサーが続ける。


「どちらかというと私が世話になっているほうだ。シモンは優秀だからね」

「ええ、私どもの自慢の義兄ですわ。殿下のおかげで義兄も恙なく学園生活を過ごしているようで安心いたしました」

顔を上げるとアーサーは少し驚いたような表情を浮かべている。

「サーシャ嬢、君は――あ、いや何でもない。足止めしてしまって悪かったね」

そう言ってアーサーはその場を離れてしまった。

「お義兄様、私は何か粗相をしてしまったでしょうか?」

「いいや、大丈夫だ。サーシャは何も気にしなくていいよ」

いつも通りの義兄の顔を見て、サーシャはそれ以上気にするのをやめた。


義兄との食事は思いのほか楽しかった。サーシャはほとんど聞き役だったが、シモンの最近の研究結果や最近読んだ本の話は興味深く、時折質問をすると分かりやすく的確な答えが返ってきた。

幼いころから植物に関心があったシモンは、現在薬学について独自に研究開発を進めている。既にシモンが発表した研究結果の中には実用化されたものもあり、今も致死率の高い疫病に効果的な薬の開発に力を入れているところだという。


「お義兄様の研究は本当に素晴らしいです。殿下が優秀だとおっしゃるのも当然ですね」

内心の興奮とは裏腹にサーシャの表情は変わらない。傍から見れば皮肉を言っているように受け取られても仕方がないのだが、シモンにとってはいつものことだった。

「サーシャにそう言ってもらえるのが一番嬉しいな。――ところでサーシャはアーサー様に興味はないの?」

唐突な質問にサーシャは思わず口に含んだお茶を吹き出しそうになった。

「……特にございません」


王族なんていう最高権力者と関わり合いになりたくない。何よりサーシャの予想ではアーサーも攻略対象候補だ。悪役令嬢のように下手を打って国外追放や死罪になる可能性だって十分に考えられるのだから、一定の距離を置きたいと考えている。

「そうか。……良かった」

後半部分の小さな呟きは無意識のものだろうが、サーシャの耳にも届いていた。嫌な予感に心臓が大きく音を立てる。


平静を装ってシモンを見れば、いつもの優しい笑顔だが瞳に熱がこもっているように感じるのは気のせいだろうか。

店を出るとシモンはおもむろにサーシャの手を取った。

「夜は危ないからね」

「子供扱いなさらないでください」

危ないからと言って手を繋ぐのは子供の時までだ。はっきりと拒絶の意を示すと、困ったような笑みを浮かべたものの、シモンはそれ以上何も言わなかった。

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