表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~  作者: 浅海 景


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/73

㊽平穏

制服を脱いですぐにベッドに入った。頭痛は止まらず少し熱も出てきたようで、頬が熱い。医務室で薬だけでももらえば良かったと後悔したが、寝ていれば治ると自分に言い聞かせて目を閉じる。頭の痛みを感じながら微睡んでいると、ノックの音が聞こえた。


扉を開けた瞬間、サーシャは夢を見ているのかと思った。ミレーヌをはじめレイチェルとソフィー、そしてソフィー付きの侍女であるサラの姿まである。


「シモン様から薬を預かってまいりましたわ。サーシャはベッドに戻ってくださいね」

断る間もなく部屋に入ってきた彼女たちを止める気力もなかった。サラから簡単な問診を受けている間、普段一人の部屋に小さいが賑やかな声が飛び交う。


自分だけベッドでのんびりしている訳にもいかないと、起き上がろうとすれば誰かが気づいてまるで子供のように寝かしつけられる。何度か繰り返せば流石に申し訳ない気持ちが勝って、大人しくしていると、甘い香りが漂ってきた。


枕元に置かれたのはシモン特製の薬とサラの淹れた紅茶とすりおろした林檎。林檎にはつやつやしたハチミツとスパイスが掛けられていて甘く食欲をそそる香りがする。


「サーシャ、一方的に非難するような言い方をして悪かったわ。とりあえず今は身体を治すことだけ考えていなさい」

「ソフィー様、私のほうこそ――」

「謝ったら怒るわよ。林檎も食べさせてあげないんだから」


反射的に謝罪の言葉を告げようとしたが、ソフィーから止められてしまった。そんなやり取りを見てミレーヌが優しい顔で声を掛ける。

「ソフィー様、それは私の領地で採れた林檎ですよ。一番早く収穫されたものをお父様が送ってくれたんです」

だから取り上げては駄目だとやんわりした口調で伝えている。


「あの、蜂蜜をご用意してくれたのはソフィー様で、シナモンは身体を温める効能があるので掛けてみました。確か苦手ではなかったと思うのですが…」

レイチェルの言葉を聞いて、目頭が熱くなったサーシャは俯いた。


一定の距離を置いていると指摘されたのに、彼女たちはそれでもサーシャに優しい。そのことが嬉しいような申し訳ないような気分になる。

「皆様、ありがとうございます」

やっとのことでサーシャは感謝の気持ちを口にすると、銘々が労わりの言葉を掛けてくれた。


(ここにいる間だけの関係だと思っていたし、それは今も変わらないのだけど)

将来のことを考えすぎて現在を大切にすることを疎かにしていたのかもしれない。踏み出せなかった距離をもう少し縮めても彼女たちは許してくれるのではないだろうか。

甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた友人たちがいなくなった部屋で、サーシャはそんなことを考えていた。


そうして迎えた夏休み、サーシャは昨年のように別荘で侍女として働いた。ミレーヌのいるダラス領には同行しなかったが、シモンとジュールが1週間ほど滞在していた。帰宅したあとのシモンはいつもに増してにこやかな笑みを浮かべていて、たくさんのお土産とともに語られる話は楽しかった。


イリアも社交界デビューが近いせいか、憎まれ口を叩かれることも随分と減った。学園のことに興味があるらしく、お茶を淹れながら義妹と過ごす時間は思いのほか楽しく話が弾んだ。ソフィーやレイチェルをはじめとした友人たちとは手紙でやり取りを行い、忙しくも充実した日々を送っていた。


穏やかな日々を満喫していたサーシャは、転生者であるエマや強制力についてすっかり失念していたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ