㊷手伝い
「サーシャさんのクラスに変わった子がいると聞いたけど、大丈夫ですか?」
心配そうなアヴリルにサーシャは何と答えていいか言葉につまった。その様子にミレーヌやリリー、ベスの全員がサーシャに同情的な視線を向ける。
新しいクラスや環境に慣れ始めた頃、アヴリルにお茶会に誘われた。いつもはソフィーから声が掛かるのだが、今回は生徒会の仕事が多忙だからという理由で欠席だという。
しかしアヴリルの質問を聞いて、エマについて詳しく話を聞くためにあえて時期を見計らって声を掛けられたのかもしれないとサーシャは思った。
「何だかサーシャ様が気を遣っているようだとシモン様もおっしゃっていましたわ」
「お友達からもちょっと距離感がつかめない方だと伺ったことがあります」
エマはクラスの同級生から少し距離を置かれている。特に令嬢たちは意図的に関わりを避けている節があるのだが、それを何と説明したらよいだろう。
迂闊に声を掛ければ高圧的だと捉えられ、異性との距離感についてやんわり注意をすれば苛められたと瞳を潤ませるエマと、距離を置きたくなるのも仕方がない。
一部の令息たちが面白がってちょっかいを掛けているが、エマ自身はそれを喜んでいる様子で、はしたないと眉を顰める令嬢もいる。
苦手意識もあるためそのまま説明すれば、先入観を与えてしまいそうでサーシャは考え込んでしまった。
それを見たアヴリルたちはサーシャが困っていると思ったのだろう。
「クラスも学年も違いますが、何か力になれることがあればいつでも言ってくださいね」
「同じクラスのエリーゼ様は頼りになる方ですわ。困った時はご相談してみてください」
口々に慰めやフォローの言葉を掛けてくれる友人たちの存在に心が軽くなる。幸い、あれ以降エマはサーシャの存在を無視するようになり、関わることはなくなった。
このまま距離を保ったままいたいと願うが、強制力のせいかヒロインの行動力のせいか、サーシャは関わりを余儀なくされることになる。
「え、エマ様が?」
翌朝憂鬱な表情でレイチェルが昨日の出来事を話してくれた。生徒会室に現れたエマは手伝いを申し出てきたというのだ。先日のテストの結果でレイチェルを抜いて首位に躍り出たエマは確かに優秀なようだ。
『自分の能力を活かすため生徒会の手伝いをしたい。2年間しかないから色々と体験させてほしい』
そうシモンに直談判したらしい。常に首位をキープしていたからこそ生徒会の一員となったレイチェルとしては、自分よりも良い成績を修めたエマに対して何も言うことが出来なかった。
生徒会としても繁忙期は猫の手も借りたいぐらい忙しいので、人手は確保しておきたい。結局、少し様子を見てからという条件付きではあったものの、エマは生徒会室の出入りを許可された。
「ソフィー様はちょっと面白くなかったようですが、会長の決めたことに反論することもなく了承されました。でも殿下が、笑顔でしたのに……何だかちょっと怖かったです」
サーシャは内心納得した。先日はソフィーに手作りランチを作ってもらうために、エマとの会話を利用したが愛しの婚約者への態度を許してはいないだろう。これから起きるであろういざこざが容易に想像できた。
「ということで、サーシャ嬢も手伝ってくれませんか?」
下校前のサーシャを呼び止めてヒューから声を掛けられた。脈絡のない問いかけに意味が分からないと断ろうとしたが、「サーシャ嬢なら状況は把握しているでしょう?」と軽くいなされる。
さすがアーサーの侍従だと感心して無駄な抵抗を止めた。断っても最終的に結果が同じなら早々に受け入れたほうが効率的だし、精神衛生上にも優しい。
「本当に話が早くて助かります」
珍しく笑みを浮かべるヒューに、サーシャは嫌な予感を覚えた。
「シモン様~、これってどういう意味ですかぁ?」
生徒会室に入った途端、甘ったるい声で身を寄せるエマの姿が目に入った。
「ああ、これは貴族の礼節についての説明だよ。サーシャ、ちょうど良かった。エマ嬢に教えてあげてくれるかい?」
さりげなく距離を置くシモンの態度に安堵を覚えつつも、室内の空気は正直このまま帰りたいぐらいだ。
自分にも他人にも厳しいソフィーはエマの態度に苛立ちを覚えているし、アーサーは我関せずの姿勢を貫き、そんな様子にレイチェルは居たたまれない様子で落ち着きをなくしている。おまけに当のエマ本人からも邪魔をするなと睨まれる始末だ。
恨みがましい視線をヒューに向けるが、涼しい表情で受け流される。厄介事を押し付けられたサーシャはため息を押し殺してシモンから書類を受け取った。




