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ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~  作者: 浅海 景


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㉚嵐の前の静けさ

「サーシャさんは伯爵令息とも婚約者さんとも一度距離を置いた方が良いですわ」

ふわりと柔らかな笑みを浮かべながらも、きっぱりと告げるアヴリルにソフィーも同意を示す。

「サーシャが仲良くなりたいと思っても今のままだと平行線。騎士団長の息子とは関わらないに越したことがないから、お昼は私たちとサロンで摂ればいいわ」

「ソフィー様、さすがにそれは畏れ多いご提案ですわ。友人がおりますので大丈夫です」


諸事情によりアーサーのような王族が利用できるサロンというものがある。王族専用ではないが、高位貴族の中でもアーサーが許可した者でなければ使用できない。ソフィーは婚約者、そしてその友人であるアヴリルも立ち入りを許されているようだが、サーシャには分不相応の場所であり、さらにはアーサーと遭遇する可能性はなるべく減らしておきたい。


「サーシャさん、ソフィーがお昼をご一緒したいだけですよ」

笑いを含んだ言葉にソフィーが顔を赤くしながら反論する。

「アヴリル!違うわよ。ただそのほうが、サーシャがそいつに絡まれなくて済むと思っただけだから。私も忙しいからいつも話を聞けるとも限らないし、といっても別に会いたいと思っているわけじゃないのよ」

(ソフィー様、なんて可愛らしいの!これがツンデレの魅力……)

前世ではあまり理解できないジャンルだったが、転生してからツンデレについて再認識させられるとは思わなかった。


「そういうわけなので、明日はご友人も一緒にサロンにいらっしゃいませんこと?」

ミレーヌたちに確認する旨を伝えてサーシャはソフィーの部屋をあとにした。来た時には沈んでいた心がすっかり軽くなっている。レイチェルのことは悲しかったが、いつかまた言葉を交わせる日が来ることを待つしかない。


(友達出来ればいいな、ぐらいだったのに気づかないうちにどんどん欲張りになっていたのね)

同級生たちとは友人になれなくても適度な距離を保てればいいと思っていた。交友関係を築いたとしてもそれは学園の中だけのこと。卒業すれば身分が違うから顔を合わせることも難しくなる。そんなひねくれた考え方が恥ずかしくなるぐらい、一緒に過ごす大切な友人たちが出来た。

今はレイチェルの気持ちを尊重しようと決めたサーシャは、友人たちの存在に改めて感謝した。



「ソフィー様、アヴリル様、本日はお招きいただきありがとうございます。ミレーヌ・ダラスと申します」

いつも明るいミレーヌの表情が緊張で強張っている。侯爵家の中でも筆頭であるコベール侯爵家の令嬢と食事だなんて恐れ多いと言っていたミレーヌだが、サーシャが経緯を伝えると心配してついてきてくれたのだ。


「ああ、ダラス伯のご令嬢ということは、サーシャのお義兄様の婚約者なのね。他の方々もそんなに緊張せず楽にしていいわよ」

アヴリルは大勢の前で話すことが苦手らしく、微笑みを浮かべているものの終始無言を貫いている。自己紹介を終えたあと、会話はほとんどがソフィーとサーシャ、そしてミレーヌが中心となった。


「そういえばミレーヌは婚約者であるシモン様と良好な関係を築いているとか。何か秘訣でもありますの?」

ソフィーの言葉にミレーヌは一瞬で赤面し慌てていると、リリーが助け舟を出す。

「サーシャ様が協力してくれたおかげかと。一緒にシモン様のお好きなお菓子を作ってお渡ししてから仲が深まったように思います」

「ええ、料理などしたことがなかったので拙いものでしたが、喜んでくださいましたわ」

ミレーヌは恥ずかしそうに頬に手を当てながらも、幸せそうな笑みがこぼれている。


「そういえば殿下も気に入ってらっしゃったわね……」

「え、殿下はサーシャのお菓子を召し上がったことがあるのですか?!」

思わずといった様子でベスは口にしたが、慌てて口を押さえる。非礼にあたると思ったようだが、ソフィーは気にした風もない。

「ええ、ちょっとした行き違いでお茶会の席にお越しになった時にね。私とアヴリルもいただいたけど美味しかったわ」

ぎこちない雰囲気だったがその話題を契機に話が弾み、昼食の時間が終わるころには和やかな雰囲気に変わっていた。


その後も一緒に食事を摂る機会も増え、サーシャの指導のもとお菓子教室を開いたりと穏やかな日々が過ぎていった。

一人で行動する機会を減らし、顔を合わせた際も声を掛けないように努めた結果、自然とジョルジュとの距離を取ることにも成功した。ジョルジュ自身も思うところがあったのか、教室に押し掛けることもなくなり、ソフィーの影響も相まってサーシャの不名誉な噂が囁かれることもなくなった。


そんなサーシャの平穏が終わりを告げたのは、秋が深まったある日のことだった。

「サーシャ嬢、卒業式のダンスは私と踊ってくれないか?」

何でもないことのように軽い口調で、満面の笑みを浮かべたままアーサーは衝撃的な言葉を告げた。


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