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ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~  作者: 浅海 景


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㉑森での遭遇

アーサーの突然の訪問から1週間が経った。

「うふふ、ようやく今日から解禁だわ!」

まだ日が昇りきらない早朝にサーシャはわくわくした気分で目を覚ました。説教が終わったあと、シモンから無情にも罰を与えられたのだ。


『1週間侍女として働くことは禁止。令嬢として生活するように』

侍女として過ごすために別荘に来たのに、それでは何の意味もない。さすがにそれは許して欲しいと懇願したが、話を聞きつけた父までシモンの肩を持つ始末。

唯一お茶とお菓子作りだけは許可してもらったので、隙を見ては厨房に出入りする日々を送った。おかげで体重が増えたとイリアから八つ当たりされてしまったが、サーシャのせいではなくシモンとジュールのせいだと言いたい。


(まだ早いけど、せっかくだから邸内を飾る花の準備でもしようかしら)

落ち着いた雰囲気のダイニングや玄関ホールだが、少し寂しさを感じていた。色とりどりの花を活ければきっと華やかになるだろう。

いそいそと侍女用のドレスに身を包み、そっと表に出るとひんやりとした空気が心地よい。


庭のバラやトルコギキョウなどを剪定していると、裏門から続く森の中にふっくらとしたアナベルが咲いているのを見つけた。

(せっかく別荘にいるのだから、この辺りで咲く花を加えてもいいかも。ついでにお義兄様に研究に使える薬草なんかも見つけたら持って帰ってあげよう)

そうすれば完全に機嫌を直してくれるに違いない、若干打算的な気持ちを抱えつつサーシャは森へと足を向けた。


「これぐらいかしら」

手に下げた籠の中身は色とりどりの花と薬草がぎっしりと詰まっていた。夢中になって少々採りすぎたかもしれない。

そろそろ屋敷に戻ろうと踵を返したサーシャの足が止まった。すぐ近くで馬の鳴き声が聞こえたのだ。森の中は私有地ではないが、領主の別荘地に隣接しているため禁漁区となっている。また街道に面していないため通常人の出入りも少なく、このような早朝ならなおさらだ。


(不審者かどうか分からないけれど、一応知らせておいたほうが良さそうね)

鳴き声が聞こえた方向を確認して立ち去ろうとしたとき、がさりと草をかき分ける音がして思わず硬直した。

「なっ、……サーシャ嬢?」

驚愕の表情を浮かべながら木々の間から姿を現したのは、ユーゴ・デュラン侯爵令息だった。


「ユーゴ様……どうしてこちらへ?」

確かに訊ねてきて良いと手紙を出したが、手紙や先触れもなく現れたユーゴにサーシャは戸惑った。約束のない訪問は無作法とされているはずだが、アーサーといいユーゴといい高位貴族である彼らはどうして貴族のしきたりを守らないのか…。


そんなサーシャの呟きが届いたようで、ユーゴは気まずそうに視線を逸らして話し始めた。

「……申し訳ない。返信はしたのだが、手紙より私のほうが早く着いてしまったようだ」

手違いが起こり手紙に気づいたのが3日前のこと。急ぎ返信をしたもののこのままではサーシャが別荘にいる間に訪問することが難しいかもしれないと思ったため、馬で単身ここまで駆けつけたというわけだ。

「思いの外早い到着となったため、森で馬を休ませていたところだった。……すまない、サーシャ嬢。すぐ戻るから少し待っててくれ」


先ほど出てきた場所を早足で戻るユーゴの様子に、置いてきた馬を連れて戻ってくるのだろうと後ろ姿を見送る。多少行き違いがあったが、ガルシア家の来客には違いない。父と義兄への報告やユーゴ様に休んでいただくための部屋の準備など段取りを考えていると、思いのほか早くユーゴが戻ってきた。周囲に馬は見当たらず、不思議に思っているとユーゴはハンカチを差し出した。


「………?」

見るからに高級そうなハンカチは細かい刺繍が入っていて思わず見とれてしまいそうなほどだったが、よくよく見るとそれが水分を含んで濡れていることに気づいた。

「サーシャ嬢、失礼する」

そう言ってユーゴはサーシャの手を取ると指先を丁寧に拭い始めた。


「ユーゴ様?!ハンカチが汚れてしまいます!」

サーシャの両手は草花の汁や土ですっかり汚れてしまっていた。サーシャにとっては大したことではなかったが、貴族令嬢の手が土まみれであることにユーゴは驚いたのだろう。

「ただの布だ。それにハンカチなどより君のほうが…いや何でもない」


顔を伏せられたためユーゴの表情は確認できなかったが、耳が赤く染まっているのが見えて釣られるようにサーシャの顔も熱を帯びてきた。

(お、落ち着いて私―!ユーゴ様が可愛いすぎるからと言って、私まで赤くなってどうすんの!)

普段クールなユーゴ様の純情な一面にギャップ萌えという言葉を思い出す。動揺を宥めようと必死のサーシャに、ユーゴは痛みをこらえるように言葉を漏らした。


「……それにしても、シモンのことは信頼のおける男だと思っていたが私もまだまだ人を見る目がないようだ」

「……ユーゴ様、何か誤解をされていらっしゃいませんか?」

「家を継いでいないとはいえシモンは嫡男だろう?義妹がこんな目に遭っているのに何も行動をしないなんてどうかしている」


(うん、しっかり誤解してらっしゃるわ)

侍女の恰好をして早朝に森まで花の調達を命じられている令嬢――普通に考えれば虐げられているようにしか見えないだろう。

謹慎が解けてようやく侍女生活に戻れると安心していた矢先の出来事に、サーシャは頭を抱えたくなった。


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