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救出

 外の街は既に夕暮れを迎えていた。ブラインドの隙間から、僅かに夕日のオレンジ色の光がローラ達の居るビルの部屋へ射し込んでいる。ローラは手を後ろ手に縛られて、椅子に座らされていた。


「飛行機の準備はまだなのか?」

一人の男がイライラした口調で訊いた。

「まあ、連中にとっても急な事だろうからな。先ずお偉いさんに相談して、議論して……とか何とか、そんなまだるっこしい事をやってるんだろうさ」

「まさか、このまま放置っていう事は無いよな?」

「心配するな。こっちは人質を取っているんだぞ。しかも奴等の仲間だ。見捨てる訳がねえよ」

「……そうだよな。しかし、こうして見ると中々良い女じゃないか。俺は堪らなくなって来たぜ」

男がローラに近付く。男の邪な笑みを見て、ローラは体を硬直させた。

「今はやめておけ。無事飛行機で国外へ脱出するまではな。何、アジトへ着けば好きにしたら良いさ」

リーダー格の男がたしなめる。ローラはホッと胸を撫で下ろした。それにしても、本当に飛行機を手配するだろうか? ローラが助かるにはそれしかないが、かと言って手配されてしまえば、こいつらはローラを連れて何処だか知れない国外のアジトとやらに逃亡してしまうのだ。そうなれば捜査はおろか、ローラの命も保証はされないだろう。


 男がさも残念そうにローラから離れた時である。壊れたビルの入り口の方から、割れたガラスを踏む音がした。四人の男達に緊張が走る。

「おい、今の音……」

「シッ。静かにしろ」

男達は一斉に銃を構えて部屋のドアに向けた。足音は段々部屋へ近付いてきて、ドアの向こうで止まった。一瞬静寂が訪れた。次の瞬間四人は先を争うようにドアに向かって銃弾を放つ。弾丸は木製のドアを貫通した。再び無音が空間に満ちた。


「殺ったのか?」

「……多分な。確認しよう」

リーダーの男はそう言うと、ドアの真横に立ち、片手でドアノブを回した。残りの三人もドアの脇の壁際へ立って、銃を構えている。リーダーは、思い切って勢い良くドアを開けると、銃を廊下へ向かって突き付けた。大柄の黒いコートを着た男が向かいの壁にもたれ掛かって立っている。ガックリと頭を垂れ、ピクリとも動かない。体に無数の銃痕があった。

「死んでるのか?」

「……分からん」

リーダーはそう言いながらコートの男に数発打ち込んだ。それでもコートの男は動かなかった。

「ハ……ハハハ。どうやら死んでいる様だな」

「何者なんだ?」

「俺が知るか。まあ、どのみち死んじまったんだ。何者かどうかなんて関係ねえよ」

リーダーは安堵の溜め息をつく。死体に背を向けて部屋へ入ろうとした時である。

「それで終わりか?」

背後から低い声がした。リーダーはビクッと体を震わせ、即座に振り向いた。コートの男が懐から銃を抜くのと同時だった。


ドンドンッ!


リーダーの額に銃弾がめり込む。そのままリーダーは後ろに倒れた。

「野郎!」

三人がコートの男に向かって引き金を引こうとしたが、コートの男の方が早かった。発砲音と共に三人の体に弾丸が突き刺さる。三人は呻いてその場に崩れ落ちた。コートの男はゆっくり三人に近付くと、空になった弾倉を新しい弾倉に入れ替え、床をのたうち回る三人の頭に止めを刺した。コートの男は乱れた金髪を左手で撫で付けると、部屋へ足を踏み入れた。


「伯爵!」

ローラが叫ぶ。そう、コートの男はグレイ伯だった。

「無事かね?」

「え、ええ……。でもどうしてここに? いえ、銃弾が当たったのに何故?」

「ああ、これか」

伯爵は銃痕を眺めると静かに目を閉じた。大きく息を吸いこんで止めると、身体中の筋肉に力を入れる。


コン!


伯爵の体から弾丸が押し出されて床に転がった。弾丸は次々に体から排出されていく。

「……貴方は一体何者なの?」

呆気にとられたローラが掠れる声で訊いた。

「その質問に答える前に、先ずはここから脱出すべきではないかね?」

伯爵はそう言うとローラの拘束を解いた。

「立てるか?」

「ええ。大丈夫よ」

ローラはヨロヨロと立ち上がった。

「では行こうか」

「えっ?」

伯爵はローラをフワリと抱き締める。驚いたローラが思わず体を硬直させた瞬間、二人の体は中に浮き、凄まじいスピードで部屋をすり抜けビルの外へ出た。


 外は既に日が落ちて、街には灯りが灯っていたが、そんな様子を確認する間も無く、二人は高速で空を飛んでゆく。他の人間には二人の姿は見えていない様であった。伯爵の腕の中で、ローラは一抹の安堵と共に、言い知れぬ恐怖に包まれていた。彼は明らかに人間では無い。では何なのか? あれこれ想像する事は出来るが、そのどれも現実感が無かった。もっとも、こんな風に空を飛んでいるという事自体がまるで夢の中の出来事の様だったが。街を越え、畑を越え、二人はみるみる伯爵の館へと近付いて行く。深い紺色の夜空に銀色の星が輝き、明るい満月が煌々と辺りに妖しい光を放っていた。




 

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