どんな状況でも
この赤ちゃんは、これからどんな人生を歩むのかな。
いつか、この子がたくさんの人を幸せにするのかな。
いずれにしても、あなたの幸せは私達の幸せです。
「君のお母さんも、全く同じことを君に語りかけていたんだよ」
僕は赤ん坊を抱いた彼女、ミクに囁いた。当然、彼女の耳には届かない。それでも僕は続けた。
「結果的に、お母さんの言った通りになっただろう。君の幸せは僕達みんなの幸せで、だから君はたくさんの愛情を受けて育った。そしてほら、たくさんの人を幸せにした」
僕はミクに微笑んだ。ミクも微笑む。その相手は僕ではなく赤ん坊だ。
「僕は君の成長過程で側にいることができなかった。でも、ずっと君を見守っていたよ。だから、ミクもその子を大切にしてね」
僕の声は小さくなる。
「僕のことを忘れてしまっても、ミク、僕は今でも君の……」
途端、女性ははっとした。
「お父さん?」
隣にいた年配女性が目を見開いた。
「ミク、どうしたの、急に」
「お父さんの声が聞こえた気がした」
どんな状況であれ、誰かの誕生は誰かを幸せにする。
そして、その幸せはどんな状況でも、受け継がれていく。
ありがとう。
世の中をあたたかいものだと教えてくれて。