第八話 冒険者
「そうじゃ! わしのバックがなくなっておったのじゃ! 」
自己紹介が終わった後、テンは突然慌てふためき始めた。その様子を見てソフィアさんも思い出したように話す。
「私のリュックもここに転移した際に消えてしまいました。ましかしたらテン様のバックと一緒にどこかにあるかもしれません。」
「じゃあ、探しに行くか。」
「うむ、行くのじゃ! 」
こうして俺たちはテンが前を走り、その後ろに俺とソフィアさんが続くような隊列で森の中を探索することにした。本当はソフィアさんが前のほうがいいのだが、テンは見たことない景色にテンションが上がって、先に先に進みたいらしい。それに「この森に出る魔物であれば対処できますよ。」と彼女は言っていたので安心している。
そして探すこと数分後。
「あったのじゃ! まったくこんなところに転移されとったの…… 」
そこでテンの言葉が止まった。目の前にはバッグとそれを漁ろうとしていた黒い虎がいたからだ。虎は標的を変えて狐の少女を襲おうとかけ走る。その瞬間、俺の横にいたソフィアさんの姿が消え、目で追う頃には、虎の首を剣で切り離していたところであった。
「お怪我はありませんかテン様? 」
「うむ…… 助かったのじゃソフィア。」
「いえいえ。いつ魔物と遭遇するかわからないので、これからは周りを見ながら歩きましょうね? 」
「わかったのじゃ! 」
ソフィアさんは優しくテンに対して注意を促した。それにしてもまさか黒い虎が一刀両断とはな…… 陰陽師の中で剣を使う者はいたが、その者達よりも早い動きだった。これが異世界か。
「壮馬様。どうされましたか? 」
「いや、なんでもない。持ち物は無事だったか? 」
「はい、テン様も私も無事でした。」
そういってソフィアさんは背負っている大きなリュックを俺の方に向ける。横にかけていたバナナも無事だったようだ。テンのほうを見ると、肩にかけて横の腰下ぐらい入れるところがある少し大きい黄色の斜めがけバックだった。
「なあ、テン…… もしかして異世界に行く準備ってそのバックのことか? 」
「うむ! やはり遠出をするなら、持ち物は大切じゃからな。一日中考えたわしのベストセレクションじゃ! 」
一の指をした右手を上に掲げながら楽しそうに言った。その姿はまるで…… 袴を着た幼稚園児にしか見えないのだが。
テンはソフィアさんのリュックのほうを見て驚いた表情をした。
「お主、横にバナナをつけておるではないか! 」
「旅には必要なものだと聞いたので持ってきたんです。」
「中々に分かっておるな! 」
そう言うとテンは、自分のカバンの中をごそごそと漁り始めた。そして目当てのものが見つかったのか、ふふんを言う顔で俺たち二人を見てくる。まさかお前……
「わしもちゃんとバナナを持ってきたぞ! やっぱり遠足には必要なのでな! 」
「バナナはおやつには入らねえよ! 」
「なんじゃと!? 」
絶対に突っ込むところを間違えたとは思うが、どうしても言いたくなってしまった。それから俺たちは「おやつにバナナは入るのか」という討論をしながら、この森の外へと向かった。
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「風が気持ちいいのじゃああ。」
「ああ、そうだな。それに俺はこんな草原は初めて見た。」
森を抜けた俺たちを待っていたのは、広大な草原だった。人工物は一切なく、ただ広い草原は、向こうの世界では味わうことがなかった、風の気持ちよさを感じさせる。
「壮馬様の世界では、このような草原はないのですか?」
「向こうの世界ではほとんど人工物があるからな。それに俺の場合ずっと異界…… のどかな場所とは無縁の場所にいたから、こういう景色を見たのは初めてなんだ。」
「私はいつもの光景なのですが…… その、向こうの世界の話を聞いてみたいです! 」
「ああ、国に着いたら話すよ。」
二人で話しているのをよそにテンは腕を横に広げて草原を走り回っている。俺も少し腕を広げてみたが、風が良く当たるようになり、より一層感じることができた。それを見たソフィアさんに笑われたので恥ずかしくなってすぐやめたが。
「おーい! お前たちそこで何をやっているんだー! 」
少し遠くにいる、4人組の一人がこちらに向けて言ってきて、近づいてくる。
「誰だ、あの人たちは。」
「多分、冒険者の方ではないでしょうか。」
「冒険者? 」
「魔物を狩ることで生計を立てている方のことです。その中にはパーティを組んでいる方々もいらっしゃいます。」
説明を聞いていると、大剣を後ろに背負った30代くらいの大柄の男が話かけてきた。
「あんたら、こんな所に小さい子供を連れてくるのは危ないぞ。早々に立ち去った方がいい。」
「ご心配ありがとうございます。私たちは、ナタグニアという国に向かっている途中なのですが、どちらに向かってよいのか迷ってしまって。」
ソフィアさんは、俺たちが転移してきたことは伏せて話をしていた。あまり言わない方がいいのだろうか。すると4人組の内2人の女性が、テンのほうに向けて歩いて行った。
「ねえお嬢ちゃん、そこで何しているのかな? 」
「走ることで風を感じておるのじゃ。後、お嬢ちゃんではない、テンじゃ! 」
「そうかテンちゃんか! よーしよしいい子だね。」
「あっミーア、ずるいですよ! 私も撫でてみたいです! 」
「ちょ、ちょっとお主やめるのじゃ! 」
テンが2人の女性に遊ばれていた。少し嫌がっているみたいだがほっておくか。そんな光景を見ていたのは俺だけではなく、大柄の男も見ていたようで、手を額に当て少し溜息を吐いた。
「ナタグニアならここから右に歩けば、1日で着くはずだ。そこで提案なのだが、今から俺たちも向かおうと思っているんだ。そしてどうもあの狐の少女をあいつらが気に入ってしまったらしくこの後一緒に行きたいと言い出すと言い出すと思うのだが、よければ一緒に行かないか? 」
ソフィアさんが俺に向かって、どうしますかと目で訴えてくる。決定権はどうやら俺にあるらしい。まあ、断る義理もないだろう。
「ならよろしく頼むよ。俺の名前はソウマだ。」
「受け入れてもらえてありがたい。俺は冒険者パーティー『バージニア』のリーダー、ライオスだ。少しの間だがよろしく頼む。」
そして俺たち二人は握手を交わし、一緒に行動することが決まった。
するとテンのいる方向から、背中に弓を背負った猫耳の女性が歩いてきた。
「ねえ、リーダー! テン…… この人たち今から私たちも行こうとしてるナタグニアに向かうんだってさ。だから一緒に行きたいんだけど! 」
「ああ、お前がそう言いだすと思って、俺が先に聞いておいてやったよ。一緒に行ってもらえるそうだ。」
「やったー! ニア、テンちゃんと一緒に行けるんだって! 」
猫耳の女性は颯爽とテンのほうへ向かっていた。あの人ような耳が生えた人たちを獣人族と言うのだろうか。まあテンが受け入れられていることに安堵しよう。
そう思っていると、二人の女性から抜け出した狐に少女が俺の服をつかんできた。
「壮馬、助けておくれ! この者達がずっと撫でてくるのじゃ! 」
「別にいいじゃないか。気に入られたんだろう。」
「な!? なんで少し笑っているのじゃ! まさかお主たのしんで…… 」
「テーンーちゃーんー 」
後ろから、二つの影が少しづつ大きくなり、4つの手がテンに近づいてくる。
お前はいい奴だったよ…… さらばだ……
「誰かわしを助けてくれえええええ!! 」
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