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第四話 決意

「俺が無能…… ?」


 何を言っているんだこいつは。


「ちょっと待って、壮馬が無能ってどういうこと! 」

「そんなことあるはずないよ! 」

「ちょっと落ち着きなよ二人とも。別に壮馬が魔力を持っていなかったとしても、呪術があるんだからさ。もし僕たちが魔法を使えたとしても、壮馬よりも強くなれると思うかい?」


 その一言に二人の顔から少し不安が消えた。現代最強の陰陽師「土御門壮馬」その強さは圧倒的であり、たとえ魔法が使えないとしても無能とは程遠い存在であった。

 そうだ、俺には呪術がある。無能という言葉があまりにもここに突き刺さって忘れていた。叶に感謝だな。


「ほら壮馬、セレスさんに君の呪術を見せて、さっきの言葉撤回してもらいなよ。」

「ああ、そうだな…… 」


 俺は、目の前の水晶に向けて【光剣一閃】を放った。

 否、放たれなかった。


「呪術が発動しない…… ?」

「やはり…… そうでしたか。」

「どういうことだ! 」

「勇者召喚で召喚される者たちは高い魔力量を保有しているといいました。ではその魔力を貯めるための器はどこにあると思いですか? 」

「貯めるための器?この世界に来たと同時に作られるものじゃないのか。」

「いいえ、違います。その器とはこちらに来る前に持っていた能力の器です。今回であればその呪力という器が、魔力をためる器へと『変換』されたことになります。」

「じゃあなんで俺には魔力がないんだよ!」


 俺は怒りじみた声で叫んだ。そんな俺を見るセレナさんの目はまるで可哀そうな人を見ているようだった。


「こちらの世界に来る時に魔力の器への変換に失敗し、その器を失ってしまったということなのではないかと思われます…… すいません、こんな事態になったことは勇者召喚の歴史上初めてで、我々にも原因はわかりません。」

「なら今の俺は何もすることができない無能ってことか…… 」

「言いにくいですがそうなります。そして今回の魔王討伐には参加させることはできません。ごめんなさい。」



 俺は、何の疑いの余地のない無能となった。なってしまった。ははっ、俺が無能か…… あまりの、突然の事実は俺の頭をひどく痛めつける。


「「「壮馬(君)! 」」」


 その事実を受け止めきれなかった俺は意識を失った。




-----------------------------


 目が覚めると見知らぬ天井があった。どうやら俺はベッドへと運ばれたらしい。あの時間は夢だったのだろうか。

 するとコンコンっと部屋の扉がノックされた。返事をすると、入ってきたのは叶だった。


「あの出来事は夢……ではなかったか。」

「残念ながらね。」


 叶が少し笑いながら言う。その笑い方は馬鹿にするものではなく、俺のことを気遣ったものだった。

 叶は俺のベッドの横に椅子を置き座ったので、俺も上半身を起こす。


「凛音としおりはどうしてる? 」

「二人とも壮馬の具合を毎秒気にしてて、ちょっとした失神だよって言っても全然落ち着かなくてさ。挙句の果てに、起きるまでそばにいるって言いだすから大変だったよ」

「ははっ、それは大変だったな。で、叶がそんな二人を連れてこずに一人で来るってことは、聞かせたくない何かが起きたんだろ。一体俺が寝てる間に何があった。」


 俺に聞かれた叶は右下に少し視線をそらした。

 

「前々からあまり壮馬のことをよく思っていなかった奴らが、さっきの出来事を境に表立って不満を漏らし始めてね。このままだと壮馬に危害を出してくる奴が出てくるかもしれない。」


 なるほどな、そういうことか。

 俺のことを多少なりとも嫌って居る奴がいるのは知っていた。まあ同年代に圧倒的な強さを持った奴がいて、そいつとずっと比べられてきたら嫌いになることも無理はない。

 

 そんな奴が突然、なにもできないやつになったから不満を晴らそうって感じか。だがその状況は非常にまずいな。


「なら、俺だけ向こうの世界に帰らすのか? 」

「いいや、それはできない。僕たちの世界に帰らす魔法を使うことができるのは、最低でも1年はかかるらしい。それに…… いまの壮馬の状態じゃ、向こうの世界に帰ったとしても呪力が戻るかわからない。」


 セレナさんは今の俺の状態は器の変換に失敗して、器そのものが失われたと言っていたか。

 幸い向こうの時間は経過していないわけだから、器を取り戻すまではここにいた方が賢明か。


「じゃあ俺はこのベッドの上で、お前らが魔王を退治して器が戻るまで待っとけってことか? 学校が憂鬱だった俺でもそれはきつい。」

「本当は今言ったようにしててほしいんだけど、壮馬にできるわけないと思ってね。そこで…… 入ってください! 」


 叶が部屋の扉に向かって呼ぶと、セレナさんと全身に鉄の鎧を着て、腰に剣を携えた俺たちと同じくらいの背丈をした戦士が入ってきた。えっ俺、剣術でも習うの


「壮馬様、先ほどは申し訳ありませんでした。」

「セレナさん、顔を上げてください。もう大丈夫ですから。」


 このやり取りを見て、隣で叶が少し驚いた。


「何がおかしい。」

「いやあ、ふつうこんな事態が起きたら、一回寝ただけでは許せないよ。前から思ったけど壮馬って意外と寛容だよね。」

「まあ、過ぎたことだしな。それに叶なら、魔王を倒して器の戻し方も見つけてくれるだろ。」

「僕のこと信頼しすぎじゃないかな?」

「お前のことは世界一信用してるからな。まあ世界一祓いたいのもお前だけどな。」


 こいつのことは俺が世界一知っているし信用もしている、それは逆も同じだろう。

 だから俺にはこいつがいるから、こんな事態にあっても少しも絶望せずにいられている。


「叶様、その…… 」

「ああ、すいませんセレナさん。さっきの話に戻るけど、壮馬にベッドの上で大人しくしていることは不可能に近い。「いや、うるせえよ。」そこで、セレナさん?」

「はい。ソフィア、兜を取りなさい。」


 ソフィアと呼ばれた全身に鎧を着た戦士は、兜をとった。その兜の中から出てきたのは、青く長い髪を持つ、俺たちと年齢が変わらなそうな可憐な少女だった。


「初めまして壮馬様。 私はこのランゴバルト王国第二騎士団所属、ソフィア=クーレンスと申します。 本日から壮馬様の護衛として務めさせていただきます。 」

「ご、護衛? 」


 余りにも衝突な発言で少し圧倒されてしまった。そんな俺を見て叶がクスッと笑っている。何をしたこいつ。


「叶、これは一体どういうことだ。」

「そのままだけど? 」

「そのままがわからないんだよ。 」

「壮馬には今日からこの世界を旅してもらうから。そのために護衛が必要だろ? だからセレナさんに優秀な兵を一人選出してもらったんだ。」

「ソフィアは齢16歳でありながら、第二騎士団にまで上り詰めた優秀な子です。壮馬様の護衛を完璧に成し遂げられると思います。」

「このソフィア、命に代えてでもお守りさせていただきます! 」

「いや、頭がパンクしそうなんだけど、あと俺のために命を懸けるな。」


 なんだ今日は、妖怪討伐の時でさえ頭がパンクしそうになったことないんだぞ。一体何の冗談だ。そんな風に考えていた俺だが、周りは全員真剣だった。


「壮馬。」

「なんだ。」

「一年後、僕たちが魔王を倒し器も取り戻して、自分たちの帰還した後、すぐに卒業して僕は右京家の当主に、壮馬は土御門家の当主となり、妖怪を祓い続けるだろう。そうなればもう僕たちは死ぬまで陰陽師として…… だからこんなことを言ってはダメなんだろうが、異世界に来たという状況は僕たちにとっての最初で最後の陰陽師とは無縁の生活を送れる機会なんだ。それに君は僕よりも前から陰陽師として活躍してきて、その圧倒的な力に僕らはこれまでも、そしてこれからも頼ることになるだろう。」

「それが俺の使命だろ。何をいまさら…… 」

「しかし今、僕たちは君よりも強い。だからこの世界では僕たちを頼ってほしい。だから壮馬、今は休め。」


 これまでの人生で『休め』と言われたのは初めてだった。なぜならば、生まれた時から誰よりも強い力を持っていたから。妖怪を祓うことのみが存在意義であり使命だといわれてきたから。その力をみんなが頼るから。


 そして叶は俺の方が陰陽師として活躍するのが早かったといったがその差は半年程度であり、ないに等しいものだ。だからこいつも休みたいはずなのだが、俺に休めと言ってくる。俺はなぜか少し涙を流していた。


「俺は、休んでもいいのか? 俺は必要ないのか…… ? 」

「ああ、必要ないどころか『戦力外』だよ。だから僕たちの代わりに旅してきて、帰ってきたとき旅の話を聞かせてくれ。」


 叶はいつものように少し馬鹿にしたような笑い方でそう言った。だが、俺は一切、悪い気はしなかった。ああ、やっぱりこいつはずるいな。その言葉に甘えるしかないじゃないか。


「わかった…… じゃあ俺は今日から休むことにする。そしてこの世界を旅してくるよ。」





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