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2トミタのおばちゃん

トミタのおばちゃんは口数の少ない人。エキゾチックな雰囲気を持った顔の濃い女だった。私の記憶ではトミタのおばちゃんには家庭があり、夫と小学生くらいの娘さんがいた。1度、母は私をトミタのおばちゃんに半日ほど預けたことがあった、私とトミタのおばちゃんは一緒に車で出かけた。トミタのおばちゃんは私に優しく居心地の良い時間だった。車は小学校の前に停車し、しばらくすると『お母さんありがとーね!』と言いながら女の子が車に乗り込んだ。トミタのおばちゃんの娘だ。トミタのおばちゃんの娘も私に優しかった、一緒に絵を描いて遊んだりしてその日はずっと私の相手をしてくれた。帰宅したトミタのおばちゃんは台所で夕飯の支度をして、その傍らで私とトミタのおばちゃんの娘は遊んでいた。トミタのおばちゃんの家はマンションでそのダイニングにはソファーがあり暖色系の薄暗い照明だった。今思い出しても洒落た家だったなと思う。そのうちトミタのおばちゃんの夫が帰宅し、私を含めた4人で食卓を囲んで晩ご飯を食べた。トミタのおばちゃんの夫はパーマに三日月みたいな形をした小さい目の男だった。いや、三日月みたいな目ではなかったのかもしれない、笑顔の印象が強く三日月みたいな目の人と記憶してしまったのかもしれない。それぐらいトミタのおばちゃんの家庭は暖かく幸せだった。私が人生で初めて味わった一家団欒だった。お父さんとお母さんとお姉ちゃん、そして私の楽しい食卓。一般的な家族の日常的な風景だが私にはそれこそが非日常だった。母1人子1人の母子家庭というスタイルが私の当たり前だったからだ。しかしトミタのおばちゃんは家族の前から消え、私達と一緒にいた。私はトミタのおばちゃんが家族と別れて何故私達と逃げていたのか、何から逃げていたのか、その理由を今も知らない。兎にも角にも突然私と母とトミタのおばちゃんの3人の生活が始まることになったのだ。


走り続ける車の中で私はいつの間にか眠ってしまっていた。目を覚ますと暗闇の中にカーステレオから歌が流れていた。中古で買った赤い軽自動車のエアコンの効きは悪く桜の咲く頃とはいえ夜は冷える。大量の荷物によって窮屈になった後部座席で私は凍えながら小さく丸くなりうとうとと夢と現実を行ったり来たりしながらゆっくりと再び眠りに入っていった。

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