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電話ボックスとテレホンカード

作者: ウォーカー

 これは、携帯電話の電池が切れて公衆電話を探している、ある若い男の話。


 「参ったな。今どき公衆電話なんて見つからないな。

 こんなことなら、ちゃんとスマホの充電をしてくるんだった。」

その若い男は、公衆電話を探して町をうろうろしていた。

しかし公衆電話は見つからず、

いつの間にか人気のない町外れまで来てしまっていた。

日が暮れて、辺りは暗くなっていた。

そんな人気のない町外れで、ボゥ・・と光るものが見えた。

「あれは・・・電話ボックスかな。」

その若い男は、明かりの方へ向かった。


 明かりの正体は、やはり電話ボックスだった。

やっと目当ての公衆電話を見つけたその若い男は、

喜んでその電話ボックスに近付いていった。

しかし、その電話ボックスを近くで見て足を止めた。

その電話ボックスは、全体が真っ黒だった。

ガラス張りのガラスには黒いフィルムが貼られ、

それが取り付けられた枠組みまで黒い色をしている。

黒いフィルム越しに中を覗くと、

中にある電話機まで黒いようにみえた。

「黒い電話ボックスなんて初めて見たな。

 修理中かな。でも、ドアは開くんだな。」

その若い男が黒い電話ボックスのドアを引くと、

ギィーっと耳障りな音を立てて、折りたたみ式のドアが開いた。

隙間から漏れていた明かりが、開いたドアから外にこぼれる。

その明かりは、古い電球のようで妙に薄暗い。

「なんか気味が悪いな。

 でも、公衆電話を探すのにはもう疲れたし、

 早く電話だけ済ませて出よう。」

その若い男は、黒い電話ボックスの中に入った。

ギィー。

その黒い電話ボックスのドアは、入る時と同じ耳障りな音を立てて閉まった。


 その黒い電話ボックスの中は薄暗く、

薄汚れていて古めかしく見えた。

そしてその中には、やはり真っ黒な電話機があった。

「財布財布っと。・・あれ?」

よく見るとその黒い電話機には、硬貨を入れる穴が見当たらない。

その黒い電話機にあるのは、テレホンカードの挿入口だけだった。

「古い電話機のようなのに、テレホンカード専用なのか。

 テレホンカードなんてもう持ってないし、どうしよう。」

その若い男が黒い電話機の上を見ると、そこには黒いカードが置かれていた。

手に取ってみると、その黒いカードには小さな穴がいくつか空いている。

どうやらその黒いカードはテレホンカードのようだった。

「忘れ物かな。残高はまだありそうだし、使わせてもらおうか。」

その若い男は、受話器を手に取って、

黒いテレホンカードを黒い電話機に挿入した。


 ツーーーー。

黒いテレホンカードを挿入すると、黒い受話器からは電話が通じた音がした。

その若い男は、記憶してある電話番号のボタンを押していく。

プルルル・・プルルル・・ガチャッ。

「・・もしもし、母さん?俺。

 父さんの具合、また悪くなったんだって?

 ・・・うん、うん。そうか、大事じゃなかったら良いんだ。

 知らせを聞いて心配だっただけだよ。

 週末にはそっちに戻れるようにするから。」

その若い男が電話をしている間、黒い電話機の表示部に赤い数字で、

黒いテレホンカードの残高が表示されていた。

カチッ。カチッ。

赤い数字で表示された残高が、少しずつ減っていった。


 「それじゃ、また電話するから。」

相手が電話を切るのを確認して、その若い男は黒い受話器を置こうとした。

「・・あれ?電話が切れない。」

何度受話器を置こうとしても、その黒い電話機のフックは下がらなかった。

仕方がなく、下がらないフックに受話器を掛けて外に出ようとした。

しかし黒い電話ボックスのドアは、固まったように動かなかった。

「何か引っかかったのかな。」

その若い男が黒い電話ボックスのドアを開けようと四苦八苦していると、

ガチャッ。

受話器から、どこかに電話が繋がったような音がした。

「も、もしもし・・?」

その若い男は、ドアを押すのを止めて、受話器に恐る恐る話しかけた。

「・・ご利用ありがとうございました。」

受話器からは機械音声が聞こえてきた。

「なんだ、相手は人じゃないのか。」

しかし電話を切ることも出来ず、赤い数字の残高がどんどん減っていく。

バキッ。バキッ。

それに合わせて、今度はどこからか何かが割れるような音が聞こえてきた。


 「この音は何だ?」

その若い男が辺りを見回すが、黒い電話ボックスの中に変化は無い。

ふと足元を見ると、黒い電話ボックスの床に、

小さな穴が空いていくのが分かった。

「何だこの穴。だんだん増えていってる。」

小さな穴は、赤い数字の残高が減るのに従って、どんどん増えていった。

最初は小さな穴だったのが、穴と穴が繋がって次第に大きな穴になっていく。

大きな穴からは床下が見えたが、

その黒い電話ボックスの床下は、地面ではなく空間だった。

床が落ちていった底は真っ暗で見えず、風が吹いてくるところから、

その空間は果てしなく深く広いようで、

まるで地底に繋がっているようだった。

「このままじゃ立っている場所が無くなってしまう。」

しかし、黒い電話機のフックは下がらないので電話は切れず、

黒いテレホンカードの残高はどんどん減っていく。

黒い電話ボックスのドアは固まったように動かない。

そしてとうとう、その若い男の足元が崩れて大きな穴が空いた。


 「うわっ!」

その若い男は、崩れた足元の床とともに穴に落ちたが、

落ちる時に手を伸ばし、崩れかけた床の縁に辛うじて掴まった。

電話を切って残高が減るのを防ごうと、震える手を黒い受話器に伸ばす。

黒い受話器をフックにかけようとするが、どうしても手が届かない。

そうしている内に、その若い男が掴まっている縁にも穴が空いていき、

とうとう残っていた床の縁も崩れてしまった。

その若い男は、崩れた床とともに、真っ暗な穴の中に落ちていった。

「・・ご利用ありがとうございました・・ご利用ありがとうございました。」

誰もいなくなった黒い電話ボックスの中で、

ブラブラとぶら下がった受話器から、

その機械音声だけが繰り返し聞こえていた。




終わり。


 今回は怖さだけを表現しようと思って書きました。

電話ボックスのドアが開けにくくて怖かった思い出と、

テレホンカードの残高の穴が床に空いていくイメージを合わせました。


お読み頂きありがとうございました。


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