序章 能力の開花
1
3月31日
俺は桜木光樹。ごく普通の中学校を卒業し、もうすぐ高校生になる。ただいま自室なう。
「早く高校生活始まんねぇかなーー」
高校生活への気持ちが俺を飲み込む。我慢できずにベッドに飛び込んだ。体の重さでベットは沈み、へこんで弾んだ。なんで俺がこんなに楽しみかって?高校への期待。それは、
彼女を作れることだ。
高校。それは青春の大舞台。つまり、人生を一番謳歌することができる場所なのだ。もしかしたらハーレムを作れるかもしれない。恋愛には接点なくても、もしかしたら凄い能力を手に入れて、学園最強になったりできるかもしれない。
俺は別にかっこよくはないが悪くはないし、運動はめっちゃできるわけじゃないが運動音痴というわけでもない。勇逸のチャームポイントは、高校生活のために染めた金髪だ。
「ぶぉぉ……ぶぉぉ……」
枕に食い込ませていたせいで、口がふさがっていた。
ーーくっ、苦しい
仰向けにかえる。眩しい部屋の電気に、不意に手を上にかざすと、疲れ切った俺の右手が見えた。
歯を食いしばって、じっと右手を見つめる。時間が経つにつれ、ピントが右手にあう。だんだんと疲れが鮮明になっていくように見えた。
「うっはーーーーぁぁぁぁ……」
大きなため息が部屋を充満する。空気が重くなっていく。
高校生活への期待に胸が高まる俺だったが、俺の中学校生活の過去を思い出すと、やがてその期待もそのため息とともに消えていった。
俺は、中学校の3年間を勉強のみに費やした。朝の時間も、休み時間も、放課後も、何もかも全て。
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聞こえる音は、周りの囁き声と笑い声。
教室の自分のせきに座っていると聞こえる声。
「うっわぁぁぁぁ(笑) あいつまた一人で勉強してるわww」
「一人でいて悲しくないのかねぇ」
休み時間廊下を歩いていると聞こえる声。
「いつも一人の桜木くんじゃんww」
「なにそれ(笑)人生半分以上損してんじゃんw」
指をさされ、笑われる日々。
「友だちいないのかねぇw」
「いるわけないだろww」
「wwww」
「wwww」
笑い声が空間を反響し、耳へと入って消えていく。
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俺は中学校で完全に孤立した。俺が優等生だったこともあり、いじめられはしなかった。が、友達は0。思い出も0。もちろん彼女なんてできるわけがなかった。得られたのは、優秀な有名進学先のみ。中学を勉強で過ごしたことは後悔してないって言いたいところだが、しているのだろう。高校から頑張ろうとか考えてる時点で。
まあつまり、中学の頃の俺は、いわゆる漫画やアニメのようなラブコメとは遥かに遠い存在だった。
ーー高校でも……。
胸を締め付けられるような痛み。将来への不安。孤独感。
「まあ、そんなこと起こる訳ないよな……。俺は、現実世界では脇役なんだから……。」
小声でそういい、右手を力なく下ろすと、不安を導くかの如く俺は眠りについた。
2
気がつくとそこは暗闇だった。なにも見えない。無限に広がる空間。
「おぉぉーーーーーい」
何度叫んでも物音も返事も聞こえない。聞こえるのは反響し、響き渡る俺の声。だが俺ももう15歳。これが夢ということくらい分かっている。が、こんな真っ暗闇の夢は初めてだったんだ。
すると突然、
"トントン"
右肩に感じる感覚。後ろを振り向くと、そこには宙に浮いた手のひらサイズの真っ白い箱がひとついた。
「さっきからうるせえよ」
少女のような幼い声。ザ反抗期みたいな。白い箱は、若干怒った感じで話しかけてきた。
「しゃ……喋ったぁぁぁぁ⁉︎」
唐突に言葉を発した白い箱にびっくりして、地面に尻をついた俺は二、三歩後ずさり。
「いやうるせえよ。夢なんだからそんなびっくりすんなよ」
俺の反応を見た白い箱は、もうすでに呆れた感じである。
ーー そういえば夢だったわ。
夢であることを思い出した俺は、喋る白い箱に話しかける。
「そっか。で、お前ナニモンだよ」
そう質問した俺に、白い箱は答えた。
「私は、夢の中のあなた専属の案内人だわ。あなたの根性の無さには呆れたわ。」
ーーうっさいわ
そう言いたかったが、幼子相手にそれはできん。ここは大人の対応をして挽回しなくては。
「そりゃ、どーも。俺は桜木。桜木光樹だ。よろしく」
「よろしくね」
俺は、まず疑問に思ったことを聞いてみた。
「俺に何用なんだ?」
俺は早速本質を射抜いてしまったらしい。いい質問をしたなと言わんばかりの雰囲気を醸し出して白い箱は答えた。
「あなたを夢の国に招待するわ!!」
ーー あっそんなことか。って……え?
「は??今なんつった??」
ーー 言ってる意味が分からんのだが……。
俺の表情に白い箱はため息をついた。
「しょうがないわねぇ……もっかい言うわよ……」
反射的に俺は頷く。
『あなたを!!夢の国に!!招待するのーーーー!!』
白い箱は大声でそう言った。
ーーいや……
「全く理解できません」
俺は切実にそう言った。
3
「なぁ……いつ着くんだよ」
俺の声は、完全に疲れ声へと変わってしまっていた。
異次元すぎて、全く白い箱の話は理解できなかった俺だが、
ーーどうせ夢だし
なんて思って、とりあえず白い箱の言うことに従うことにした。夢の国は近くにあるって言われた俺は、夢の国に向かって歩き始めた。
は、いいものの……。もうすでに数時間歩いた。どんくらい歩いたか全く分からないが、現在進行形で何も見えない。最初は
ーー夢の国ってどんなところなんだろう
なんて思いを馳せながら、順調に歩いて行った。が、歩いても歩いても暗闇。見えるのは前で浮いている白い箱だけ。日頃現実世界でも運動をしない俺の背筋は曲がりに曲がり、顔が地面に着く勢いだ。
「お前は楽だよなぁ。浮いてればいいんだもん。」
皮肉にも言った。俺が頑張って歩いているのに対して、こいつはずっと浮いている。なんて楽なんだ。俺も浮かせろや。すると、すぐさまにも白い箱は答える。
「箱なんだから仕方ないでしょ!」
こいつはいつも通りらしい。
「なあ、瞬間移動とかできねえのか?夢なんだからできるだろ」
「できるわよ。当たり前でしょバカにしないでちょうだい」
「だよなぁって……」
沈黙が二人の空間を通り過ぎる。
「出来んのかよオイ!さっさと使えよオイ!」
俺は体を起こし、白い箱をとっ捕まえようとするが、プカプカと浮いて逃げられてしまった。
「うるさいわねぇ別にどっちでもいいでしょ。私寝てればいいだけだし」
だからさっきまで全く返事がなかったのか。さもなかったように俺の努力を無視しやがって。若干ながら、殺意を感じた。
「そんなことをしてるうちに!!ほら、見えてきたわよ!」
「!!」
後ろを振り向くと、そこには光。黄色と水色とピンク色が目立つ町の光は明るく感じる。俺の目に久しぶりの入っていく。俺は、ついに辿り着いたらしい。
「あぁぁぁ。目が生き返るーー」
あまりにも久しぶりの光に感動しながら浴びていると、白い箱が言った。
「上を方見て見なさい」
目線を上げると、上には馬鹿でかいアーチ門があった。高さにして十五メートルくらいだろうか。その真ん中にある看板には、
『welcome to dreamland』
の文字が。
「入っていいのか?」
入りづらくなった俺は小声ながらに聞いてみた。
「当たり前でしょ。入りなさい。」
一歩、二歩と。でかいアーチ門をくぐり、やがて越えた。俺は、"夢の国"へとやってきたのだ。
俺の高校生活の運命を大きく変えることになるとは、この時は全く思いもしなかった。