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アッ君のお父さん

 そんなこんなで特に問題なく城に滞在する許可も降りて、ソウちゃんと暫くはのんびりとしていた。

城下町にも行ってみたし、城の中を探検したりもした。宝物庫に入りそうになって怒られた。


 そして、本日はとうとう王様とのご対面である。


「王様ってどんな人なんだろうね?」


 ソウちゃんは相変わらず人見知りが激しい。城の中を見て回っても周りは知らない大人だらけだったから、あまり楽しめなかったかもしれない。俺の我儘に付き合わせてしまった感がある。


「王様じゃなくて、アッ君のお父さんと考えてみたらいいんじゃないかな」

「お父さん…」


 顔を伏せるソウちゃん。しまった、最近は元気なほうだったから忘れていたけど、ソウちゃんは両親を亡くしているんだった。


「ごめんね」


 思わず謝ってしまうほどにその顔は暗い。


「んーん。お兄ちゃんがいるから大丈夫。でも…ちょっとだけ、寂しいかも」


 その言葉に俺は嬉しさがこみ上げてきた。俺のことを親代わりとしてみようとしてくれている一方で、親が居ない寂しさを打ち明けてくれた。



「ありがとう。その寂しさは、お父さんお母さんを忘れてない証拠だ。悪いことじゃないよ」

「ありがとう、お兄ちゃん」


 そういってソウちゃんは俺に抱き着いてくる。最近は向こうから来てくれることも増えた。人の温もりにようやく慣れてきたと言ったところだろう。


ソウちゃんを落ち着かせてから、改めて謁見の間に入る。


 爺さんはほかの貴族と同様、脇で見守ることになっているから、入った後は俺とソウちゃんだけで王と対峙しなければならない。一応、何かあれば口をはさむことはすると言ってくれたがな。


「異世界からの賓客2名御入場です」


 兵士の言葉と共に歩いて入る。正式な異世界人のお目見えとなると、やはり皆が気になっていたのだろう。相当数の貴族が謁見の間にはいた。


 ソウちゃんはその人数に緊張しているようで、やはり俺の影に隠れながらも付いてくる。

やらなければいけないことだと分かっているのだろう。強くなったと思った。


「こちらで跪いて、顔を下げてお待ちください」


 一応何度かリハーサル的なこともやったが、緊張からどこか抜けるだろうと配慮されて、付いてきてくれた兵士が指示を出してくれる。それに従い、リハの通りに跪いて王様を待つ。


「国王ヴィルヘルム。ロドリス様のおなーりー」


 時代劇で聞いたようなセリフに少しだけ笑ってしまう。幸い誰も気づかなかったようだ。


 そうして待っていると、玉座に誰かが座る気配がした。


「異世界の客人達よ、面を上げよ」


 ソウちゃんがいる手前、可能な限り優しく話しかけようという意思が伝わる声音だが、それでも威厳のある口調だ。まぁ、これだけ貴族がいることから分かっていたことだが、アッ君のようにフレンドリーには話してくれない。それにしても若い声だ。30くらいだろうか。アッ君のお父さんだというからそれくらいではあるだろうが、王様となるともう少し年食ってるイメージがある為、違和感が凄い。


 顔を上げると、正しくアッ君が30代になったような美丈夫が座っていた。


「余が、この王国を統べる国王ヴィルヘルムである。貴殿等の名を聞かせてくれるか?」


 声音からも分かっていたことだが、その顔は優しげだ。ソウちゃんもアッ君の家族と言うこともあってか、緊張もそこそこに声を出すことが出来た。


「い、伊藤宗玄です」


 少しだけどもったが許容範囲だろう。まだ幼い見た目からくる自己紹介はそれだけで空気を緩めた。


 ソウちゃんに続いて、俺も自己紹介をする。


「うむ、二人共よくぞ我が国の召喚に応じてくれた。礼を言おう」


 勝手に連れてこられただけ、俺に至っては巻き込まれた結果ではあるが、周囲には同意したうえでの召喚だよということを周知しておきたいようだ。まぁ、前の異世界人は勇者的な人だったみたいだし、同じ世界の住人を拉致しましたなんて言おうものなら俺達を保護するという名目で抱え込もうとしたり、下手すれば反乱なんてことも考えられる。


「いえ、我々がお役に立てるならばと思った次第ですので」


 リハの通りの返事を返す。俺達は国から離反したりするつもりはありませんよ、という意思表示だそうだ。何の力も伝手もない異世界人二人、そもそも庇護なくしては長く生きられないが、改めて俺達の口から言うことで周囲を安堵させる。余計な混乱は俺達だって願い下げだからな。


「うむ。因みに、召喚してから少し時間があったが、この世界はどうであるか」


 ここからは特に決めていたことはない。爺さんからは悪いことはオブラートに包んで、良いことはストレートに言って欲しいと言う事だったが。


「皆に良くしてもらっています。城下町も賑わい、我々もこの国であれば馴染むのにそう時間はかからないでしょう」


 思ったことはそれだけ。しかし、まごうことなき本心だ。


 この国の人は良い人ばかりだ。まぁ、王子の護衛さんは例外だと思う。というか、そもそも悪い人ばかりの国なんて早々に立ち行かなくなるだろうし、ぶっちゃけて言えば辺り触りの無い答えともいえる。


「そうか、嬉しいことを言ってくれる。ソウゲン殿のほうはどうであるか」


 ここでソウちゃんに質問するかぁ…。いや、個別に聞かれるかもとは言われていたけど、正直な話俺だけで対応しておきたかった。


「は、はいっ。えっと、楽しいです」


 自己表現できるようになったソウちゃんの姿に涙を流しそうだ。その笑顔はまごう事なき本物で、本心から言っているのだと伝わっていることだろう。


「それは良かった。これからも我が国で暮らしていくこととなる。我々も、可能な限り貴殿等が心地よく過ごせるよう取り図る故、貴殿等も我が国をより良く出来るよう協力願う」


「「はい」」


 これで謁見は終わりだ。流石の俺も緊張したわぁ。


「ではこれにて謁見を終える。二人共、また後程」

「国王陛下のご退場です!」


 …ん?なんか今変なことが聞こえたな。


 聞こえなかったということで。

お読みいただきありがとうございます。


アイデア下さい…私に連載するだけの力をー!

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