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3/8

夕べはぐっすりでしたね

 ソウちゃんが大泣きしてくれて泣き疲れて寝てしまった為、その日は終了となった。


 案内された客室は俺には到底似合わないような豪華な部屋で、使うのも恐れ多いことを案内してくれたメイドさんに伝えはしたが、


『申し訳ありませんが現在この部屋しか空いていないのです』


 と言われてはどうしようもない。果たして寝られるだろうかという緊張と共にベッドへソウちゃんを降ろして水を一杯飲み、俺も就寝することにした。


 思ったより疲れが溜まっていたのか、気が付いたら朝でした。


「ふあぁー…ん?」


 上体を起こして伸びをしようとしたが、片腕が上がらなかった。


 そちらに目を向けると、ソウちゃんが俺の腕をがっちりと掴んでいた。更に足で足を拘束されていた。


 やはり不安は未だあるのだろう。その上で無意識に俺を頼ってくれているのが嬉しかった。


「ソウちゃん、起きな」

「うん…」


 もぞもぞと動くたびに腕がくすぐったくなる。起きたくないと駄々をこねるような仕草が可愛くて、無意識に顔を撫でる。


「ん…あ、お兄さん」

「起きたか?お早う」

「おはよう…あ…」


 ソウちゃんは自分の状態に気が付いたようで、意識が覚醒すると共に腕を離した。少しだけ、寂しいと感じてしまった。


「ご、ごめんなさい…」


 そんな捨てられそうな子犬みたいな顔をして謝ってくる。謝罪癖が付いているのだろう。これは良くない。


「謝らなくていい、寧ろ嬉しかったよ」

「え…?」

「ソウちゃんが、俺を頼ってくれているようでね」


 今度は恥ずかしそうに俯いてしまった。多感な時期だなぁと勝手に感動した。



‥‥……




 その後、昨日案内してくれたメイドさんが朝食の準備が出来たと迎えに来たので、ソウちゃんと向かうと


「おお、来たか」


 と爺さんもいた。


「おはよう爺さん。豪華な朝食だな、緊張して喉も通らなさそうだ」


 爺さんと言いながらタメ口を利くと、控えていたメイドさんやら執事さんがぎょっとしていた。


「ほっほ。朝からそれだけ言えるなら問題なかろう」


 まぁ、城の中で数少ない顔見知りがいたことでホッとしたことは確かだ。ソウちゃんも幾分か爺さんには気を許しているようだし。


「朝食を食べながらでいいからの」


 そういいながら爺さんは話を続けた。どうやらこの世界の常識や価値観についてのようだ。


 曰く、俺達が呼ばれた王国は贔屓目に見ずとも優れた国家であり、今代の王も賢王として安定した政治を行っているそうだ。

又、周辺国は多かれ少なかれ交易を行っており、世界は今の所安定していると言っていいとのこと。勿論、人類皆兄弟と言えるほどいい人ばかりではないだろうが。


 世界は魔術を中心として動いており、俺達の世界で言う電気から兵器までその役割は多い。かと言ってなんでもかんでも魔術で出来るわけではなく、大工や鍛冶、農業と言った人の手が必要な仕事は数多くあるとのこと。


 通貨単位はG(ゴルド)。100Gで銅貨、1000Gで銀貨、10000Gで金貨、10万Gで白金貨。物価としては100Gでパンが買える程度と、1Gはほぼ1円と見て困ることはなさそうだ。


 昨日話しにちらっと出た魔王という存在があるように、この世界には魔物がいる。動物との違いは、魔法を行使出来るかという点で差別化がされているそうだ。


 ゴブリンやスライムといった定番から、ドラゴンやらユニコーンという幻想種まで幅広い種類があり、一部の知能が高い種族とは交易を行うこともあるそうだ。この国が大国と呼ばれている所以には、ドラゴンから借り受けたワイバーンを使った交易や竜騎兵というロマンある存在による所が大きいとのこと。


「と、まぁ世界については大まかな説明が出来たと思うの」

「分かりやすかったよ、有難う」


 異世界召喚の魔法が確立していることから分かるように、以前にも異世界人は訪れており、その人から聞いた俺達との世界の差を聞かされた当時の国王と異世界人が、次に来るかもしれない異世界人の為に分かりやすく説明できるようにしてくれたらしい。ありがたい限りである。


「で、昨日も話したお主等を呼んだ理由じゃが…」

「あぁ、王子の遊び相手…」


 朝食を食べ終えて食後のコーヒーを嗜んでいる所で、扉が一切の軋みをあげずに開けられた。


「ここに異世界人がいると聞いたぞ!」


 扉のほうに目を向けると、そこには比較的背の高い中学生くらいの少年がいた。イケメンのテンプレともいえるような金髪に碧眼の美少年である。昨日からメイドさんとか執事さんとか見てるけど、顔の偏差値高いなこの世界。俺なんて一芸に秀でてないとすぐに捨てられそうだ。


 そんな葛藤を内心でしている間にも、少年は優雅に歩きながら近寄ってくる。所作は洗練されており、優雅が服を着て歩いていると言えるような完璧な動きだった。


「君がその異世界人か?!」

「あっ…えっ…」


 王子と思わしき人物は無遠慮にソウちゃんに話しかけるも、人見知りなソウちゃんは何と答えていいかわからず憔悴している。ほら、今も俺のほうに視線をよこしている。流石に見捨てることは出来ない。


「こらこら。ソウちゃんが困っているだろ。まずは自己紹介をしなさい」


 王子(仮)を相手にタメ口を利いた俺に対してまたもや周囲がザワッとする。子供相手にへりくだったところで調子に乗るだけなのは目に見えている。例え正しい教育を受けていても、経験がない子供は自己完結によって「自分は偉い」と勘違い(この場合は勘違いでもないのだが)し、結果教育が幾ら正しくとも歪んだ性格を産む、というのは俺の持論だ。だから子供ならどんな身分でも上の立場を取る。


「おお、すまない。私としたことが」


 どうやらこの子は正しく成長しているようだ。


「私はこの国の王ヴィルヘルム・ロドリスが嫡子アークライトである」


 嫡子と言う事は将来の国王候補筆頭、だから多少偉そうな口調でも問題はないだろう。だが…


「ひっ…」


 ソウちゃんには逆効果だ。明確に自分より上だと自己紹介されたようなもんだからな。上の人間=いじめるという構図が出来てしまっているから、こうして警戒と恐怖を抱いてしまう。まぁ、初対面でそれを見抜けと言われても無理な話か。経験があれば多少は気遣えるかもしれないがな。


「俺はこの子の兄だ」


 そう、俺は兄。お父さんというほどの年じゃないはずだ。


「おお!貴殿も異世界からのお客人であったか!して、そちらの子は…」

「ハッ…ハァッ…」


 不味い、ソウちゃんが極度の緊張と恐怖で過呼吸になってる。しがみつくように俺の服を握りしめているのは非常に可愛いがデレデレしてはいられん。

 ソウちゃんを抱きしめて、落ち着かせるように背中を軽く叩いて擦る。


「大丈夫だよ、大丈夫…」

「ハッ…ハッ…」

「…ふむ。アークライト王子。この者は少し体調が優れぬようです。一度時間を改めましょう」


 爺さんがフォローしてくれる。昨日の俺とソウちゃんのワンシーンを見ただけあって理解が早い。


「そうか…気が付かずすまなかった。復調したら声を掛けてくれ」

「あぁ」


 確かに王子はその年にしては賢いようだ。人の機微をもう少し勉強すれば間違いなく良い王様になるだろう。


 ソウちゃんが落ち着くまで、それから30分ほど掛かった。


「ご、ごめんなさい…せっかく王子様が来たのに…」

「いや、あれは向こうが悪い」

「うむ、王子の失態じゃの」


 相変わらず自分が悪いと思い込むソウちゃんの緊張を解きほぐしていく。因みにソウちゃんは俺の膝の上だ。すっごい軽い。んで結構柔らかい。


「で、でも…」

「俺達は客人だ。客人を気遣うのは当然だ」

「まぁ、お主のその態度を王子にまで向けるとは思わなんだがの」


 流石の儂もキモを冷やしたわい、と爺さんは愚痴る。


「こちらの常識にもまだ疎い、しかも片方は子供だぞ?あれくらいの態度で憤るお子様だったら、おさらばするだけだ」

「全くお主は…」


 俺と爺さんの痴話喧嘩でクスッと笑う声が聞こえた。


「ん?何か面白かったか?」

「ごめんなさい…お兄ちゃんが子供みたいに叱られてて」

「儂からすれば子供みたいなもんさね」


 クックック、と笑う爺さんとクスクスと笑うソウちゃん。ようやく雰囲気が戻ってきた。


「反省しますー」


 拗ねるふりをしてみると、また笑いが広がった。

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