森を抜けて・・・
あの狼の指し示した方向を走って約1時間が経つ。
スピードもかなり出しているが、やはり周りの景色は森一色である。
俺は上から状況を確かめるため、思いっきり跳躍する。
前は5メートルほどしかジャンプ出来なかったが(それでも高いが)、この世界に来てから身体が軽くなったと思ったし、ダッシュも格段に速くなったので、さぞかしそれは高いジャンプが出来るだろうと思っていたが、予想外だった。
足が地面を離れたと思ったら次の瞬間には地上から100メートルほどまでジャンプ出来てしまった。
もしかしてこの世界の重力は前の世界よりないんじゃないのか?
さっきの狼のぶっ飛びようといい、足の速さといい。
そういうことにした。
そして空中で狼の指し示した方向を見てもやはり森が延々と続くばかりだ。
騙されたか。
そう思ったが森の他に何が見える訳でもないので、狼の言うことを信じるしかないだろう。
そして地上に降り立つと、さっきの二倍の速さで走る。
流れてくるような木を躱しつつ、前へ進む。
そして2時間後。
時刻は昼頃であろうか。
あいも変わらず森の中を颯爽と駆け抜けていると、何やら人の気配を感じた。
気配を感じたほうへ向かうと、どうやら人が2人倒れているらしい。
俺は急いで2人の元へ向かうと、心臓が正常か確かめる。
俺は正常であるとわかるとホッと胸を撫で下ろした。
2人の性別は女性でおそらく同じくらいの歳だろう。
身なりはボロボロである。
しかし服の生地自体は良い感じがする。
また2人の顔はそっくりである。
髪の毛の色は1人が緑色でもう一人は青色である。
髪の毛の色が違わなければ見た目の差はほとんどない。
2人ともスタイルが良い。
バストーーウエストーーヒップーーーー合格っっ!!っといかんいかん。
我を失いかけた。
俺は気持ちを入れ替えてよく見ると、身体には緊急性を伴うような傷は見当たらないが、所々擦り傷や痣になっている部分がある。
危うく見えてはいけない所がーーっていかんいかん。
むぅ、何かの獣に襲われたのか?
いくら考えたところでそれは推論に過ぎない。
しかし彼の頭には彼女らを助けないという選択肢は無いーー可愛いからとかでは決してない。
単に困っている人を助けたいと思っているだけだ。
この気持ちに嘘はない、うん。
俺は思いっきりジャンプして周りを見渡す。
あの狼の指し示した方向約10キロほど向こうに街があるのが確認できた。
俺は地上に降りると、その2人を両脇に抱えて再び走り始める。
そして、走り始めて、数分後。
どうやら狼の群れに出くわしたようだ。
唸り声がそこかしこから聞こえてくる。
俺は足を止めると、周りを囲まれる。
このまま走り逃げてもいいのだが、万が一街までついてこられては大変だからな。
俺はそいつらと対峙する。見た目はさっきの狼と変わらない。
しかし特徴的だった炎を纏っていない。
さっきの奴より弱そうだな。
俺が抱いた気持ちはそうだった。
しかし、
「逃げて下さいっ!!!」
俺の懐から声が聞こえる。
俺が目をやると、どうやら双子の1人、青色の髪の女の子が周りの状況をみて、俺に抱き抱えられてることよりもこいつらに囲まれていることのほうがよっぽど最悪だと思っているのだろう。
彼女の震えが俺の腕に伝わってくる。
可愛いです。
緑髪の子の方は全く起きる気配がない。
可愛いらしい寝息をたてている。
可愛いです。
俺は青色の髪の女の子を地面にそっとおろし、緑色の髪の女の子を預ける。
「え、一体どうなさるのですか?」
恐怖に震えた声で尋ねてくる。
「どうって、倒すんですよ。この招かれざる客をね。」
俺は答える。
「そんな・・無理です!このビットウルフはCランクモンスターです!しかもこんなたくさん・・。貴方は装備もしっかりなさっていないようですし!貴方だけでもお逃げください!!」
彼女は声を振り絞る。
ビットウルフっていうのか。
Cランクがどの程度か分からないが、大丈夫だろう。
俺はそう思って涙を浮かべている青髪の子の前にしゃがみ込み、優しく声を掛ける。
「安心して下さい。こう見えても俺、結構強いですから。俺が貴方がたをお守りします。」
俺はその青髪の子の瞳を真っ直ぐ見据えて言った。
青髪の子は何も言うことなく、頰を赤く染め俯く。
そして俺は立ち上がりそいつらと向かい合う。
1匹のビットウルフが襲いかかってくるのを合図に他のビットウルフたちも俺たち目掛けて襲いかかってくる。
青髪の子は目を瞑る。
そしてその子が次に目を開けると、そこには数十匹のビットウルフが倒れている。
その中に1人佇んでいる男性。
自分の目を疑った。
まさか全く何の装備もしてないこの方がこんなにもお強いなんて・・・。
俺は第一陣が襲いかかってきたとき、左ジャブ3発右ストレート1発左エルボー1発右ストレート1発で軽く捻り潰した。
数にして20匹ほどだろうか。
そして後ろで控えているビットウルフのところまでダッシュで移動して、殴って殴って殴り倒す。
血は吹き出さない程度に。
あの子達が見たら気絶でもしてしまうのではないかと思ったからだ。
そして最後の1匹を右アッパーで締めて、女の子たちの方を振り向くと、青髪の子は首を前にダランと垂れている。
どうやら気を失ってしまっている。
張り詰めた緊張が一気に抜けたんだろう。
緑色の髪の子はそんなこと知る由もなく、依然としてスヤスヤ眠っている。
ホント起きないな、この子は。
そして俺はまた2人を抱き抱え、街の方へ再出発した。
再出発してから1時間後、ようやく街の城壁らしきものが見えてきた。
そしてそこの城門の前には沢山の者が集まっている。
何やら騒がしいな。
俺は走りを緩めて近づく。
そしてその集団の後ろの1人が俺に気づく。
すると
「メルシャ様!ケルシア様!・・貴様!!その御二方を離しこちらに寄越せ!!」
その声に気付いた集団の者達が次々とこちらを物凄い形相で睨んでくる。
この2人はお偉いさんなのか?
従わないと不味そうだ。
そう思って素直にその2人をその場に置き、俺は両手を上げる。
「下がれ!!」
さっきの人が俺に言うと周りの者達が2人を抱え、街の方へ向かって行った。
俺はその場で物凄い目で睨み続けられている。
すると、その集団のなかから一際目立つ、茶髪でカッコイイ甲冑に身を包んだガタイの良い、筋骨隆々な男が前に出てくる。
集団の中には似たような甲冑を着た者がいる。
「私はミテクト騎士団団長ガランだ。お前の身柄を確保させてもらう。」
俺はこのままでは犯罪者扱いだ、と思い弁明しようとするが、
「言い訳は牢屋の中でたっぷりと聞かせてもらおう。」
と言って全然耳を貸してくれない。
俺は観念し、手首に鎖のついた錠を付けられ、鎖の端をガランが持つ。
そして俺はガランとその仲間と思われる者達に連れられ、街の中を進んで行く。
その道中、既に噂は広まっているようで、街の住民から罵声を浴びる。
特に男性陣が凄い形相で睨んできていた。
まぁ、あの2人可愛かったしな。
はぁ・・・。
あの青髪の子が目覚めてくれれば済む話なのに。
あの子がもし途中で起きてなかったらヤバかったな。
俺はその子が目覚める時を待つばかりであった。
そして、街の中心部に佇む城の中に入る。
なるほど、ここがお偉いさん方の住処ですか。
そして俺はそこの地下に連れられ、牢屋にぶち込まれる。
何とも固そうな布団が敷かれている。
「お前にはしばらくここに居てもらう。逃亡するなんて考えるなよ。刑が重くなるだけだ。とはいっても姫様2人を誘拐したんだ。死刑は免れんがな。」
そう言ってガランは去って行く。
「チョット待てって!本当に俺は何も・・・」
ドアが閉まる音が虚しく響く。
はぁ〜〜〜。
まぁ待つしかないかぁ〜〜〜。
日が沈みかけているのが、牢屋の小さい窓から見えた。
何もすることがない俺はその固い布団に潜り、眠りにつくのだった。
ーーあれ、そういえば日本語やん。