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俺と真相

 さて。この物語の主人公であり語り部である松原たかしが途中退場――はっきり言ってしまえば死んでしまったので、代わりに私が終わりを締めくくるとしましょう。


 私、本山真由美が語ることにしましょう。


 そもそも、今回の一連の事件を計画したのは私でしたし、協力者である兄、本山あたるには語り部という役割は荷が重過ぎます。


 ただでさえ、自分の親友の殺害に加担していること自体が、兄の心を深く傷つけているのに、さらに負担をかけることはしたくはありません。


 そのくらいの配慮は私にもあるのです。


 元カレを殺した私でも。


 まあ実際手を下したわけでもないですから、この言い方は正しくはありません。


 見殺しにしたと言い換えるのが適当でしょう。正当でしょうね。


 見殺し――目の前で死なせたのは、確実に死んだことを確認するためであり、死に往く最期をこの眼で見ることが目的でした。


 先輩の最期は何が何だか分からないという心境でしたので、少し不満が残ります。


 私が関わっていると自覚してから死んでほしかったのに。とても残念です。


 私の笑顔で気づくかなと思いましたけど、察しの悪い先輩でしたから、きっと分からずじまいだったのでしょう。


 最期に思ったことは、想像ですけどこんなところに住まなきゃ良かった――でしょうね。


 もう少し、死までの時間があれば誰かを恨んだりしたはず。そうなれば悪霊になって、私が祓えたのに。


 それも――とても残念でした。


 腹立たしいほど――残念でした。


 おっと、そろそろ計画について話さなければいけませんね。


 先輩に対する恨みで話が長くなってしまうのを避けなければいけません。


 語り部としての役割を果たさなければいけませんね。


 計画と言っても、ここまで成功するとは思えませんでした。間違いなく失敗すると思っていました。


 成功率は三割ぐらいと想定していました。


 それでも――やらざるを得ませんでした。


 まず、この計画を思いついたのは、先輩の通っている大学が、三回生になったらキャンパス移動のあることに気づいたことです。


 そしてあの裏野ハイツが大学の近くにあるということも気づいていました。


 裏野ハイツ。


 あの悪霊と腕が跳梁跋扈する魔の巣窟。


 そこを管理しているのは、私の親戚だったことは偶然ではありません。


 あの裏野ハイツを管理するために、霊感を持つ相沢さんが雇われているのは、むしろ必然と言う他ありません。


 まあ本人は怖がりなので、家鳴りがするだけで動揺する心の持ち主でしたけど。


 その相沢さんに、先輩に裏野ハイツを薦めるように言っておきました。


 あの人は霊感がないから、何も感じないと言っておくのも忘れずに。


 相沢さんもいつまでも裏野ハイツを空き家にしておくのを嫌がっていましたから、利害は一致したわけです。


 それと、兄さんに先輩へ不動産屋を紹介することをそれとなく言いました。


 その前に、既に物件を決めていたのは予想外でしたけど、先輩のことだからきっと冷やかしに行くだろうと思っていました。


 なんて性格の悪い男でしょうか。


 悪口を言い続けたらキリがないので、ここまでにしておきますけど。


 裏野ハイツに決めるかどうかは賭けでしたけど、決めてくれたことで計画を進めることができました。


 まずは霊現象を体験してもらいました。


 私が先輩にあげた呪札を持っていれば、たいていの霊現象や悪霊は追い払えるはずでした。


 目の前で死んでくれないといけませんでしたから、悪霊に憑かれては計画が水泡に帰してしまいます。


 そして予想通り、悪霊は先輩に危害を加えました。


 しかし、逆に予想外だったのは、呪札を風呂場に忘れたことでした。


 流石に焦りましたね。


 兄さんに頼んで、清涼水を持っていかなければ、死にはしないでしょうけど、その場で引っ越す可能性が出てきましたから。


 そう。先輩には選択肢があったのです。


 何もかもそのままにしておいて、引っ越すという選択肢が。


 でも先輩の思考を考慮すると、それはないと思っていました。


 やられたらやり返すのが先輩でしたし、知り合いに悪霊祓いの兄妹が居るのを利用しないのは先輩らしくありませんでしたから。


 そしてこれも予想通り、私たちに依頼してきました。


 正直、笑みが零れるのを防ぐことができませんでした。


 ここまでは計画通りでしたので。


 しかし先輩を連れて裏野ハイツに向かうのも賭けでした。


 俺は神社で待ってるから。その一言を言う可能性も無くもないですし。


 先輩の性格上、この目で見ないと信用できないと考えるのが半分くらいだと思っていました。だけど不安だったのは事実です。


 でも、ようやく計画を遂行できることができました。


 ここで賢明なる方々なら疑問に思うことがあるのかもしれません。


 どうして、祓う専門である私たち一族が、裏野ハイツの悪霊を放置していたのか。


 悪霊をそのままにしておいたのか。


 それは――ひとえに悪霊によって怨霊を封じていたからです。


 百八本の腕によって、二本の腕を封じていたからです。


 百八本の腕は言うまでも無く被害者の腕です。


 では二本の腕とは?


 兄さんが語ったように、百八本の腕を切り落とした張本人である芸術家の腕のことです。


 悪霊を超えた怨霊。


 芸術家の魂は既に浄化されたと思いますが、彼の腕だけはいくら浄化しても決してなくなりません。


 祓っても祓っても、祓いきれないのです。


 だから被害者の腕を放置せざるを得なかったのです。


 被害者の腕が住人に危害を加えていたのは、住人を追い出すことで芸術家の腕から守るためでした。


 まあ身体中に纏わりついたのは、助けてほしいことの現われでもありました。


 溺れている人間が藁でも掴む心境と一緒です。


 だから、生きている人間を掴もうとしていたのです。


 ここまでの計画をまとめますと、芸術家の腕に先輩を殺させるためだけに、ここまで手の込んだことを私はしたのです。


 だって、実際に殺したら、殺人犯になってしまうじゃないですか。


 それで何年も刑務所に行くのは嫌でした。


 何で先輩なんかのために刑務所に行かなければならないのでしょう。


 だから、怨霊に殺してもらうのが一番でした。


 結果として、心臓を握りつぶされた先輩は、心臓麻痺として処理されましたし。


 その場に居た私たちは警察に突然苦しみだして死んだと言いました。


 疑われはしましたけど、外部に不審な点もありませんでしたし、一応話を聞いただけで、すぐに解放されました。


 これで、計画は完了しました。疑いが晴れるまでが、計画の内でしたから。


 これで私の殺人計画は終わりです。


 えっ? どうして先輩を殺そうとしたのか? 


 それは、先輩が浮気したからです。


 私の他に女を作って裏切ったからです。


 絶対に許すことはできませんでした。


 まあ人が人を恨む理由としては真っ当なものだと思いませんか?


 それでも今回の計画が上手くいくとは思えませんでした。


 裏野ハイツに入居しなかったら、それだけでアウトでしたしね。


 それに、復讐は何も生み出さないのは真理でしたね。


 達成感も罪悪感も湧きませんでした。


 生み出されるとするなら、虚無感ですね。


 何も感じません。


 これも自分の手で行なっていないからでしょうか。


 まあいいです。


 こんな綱渡りな計画はもう二度としません。


 祓った悪霊も元通りにしましたし、裏野ハイツは今でも悪霊の溜まり場です。


 相沢さんには悪いけど、怨霊を完全に祓うことはできませんしね。


 それでは語り部としての役割は終えましたので、これにて幕を引きましょう。


 最後に一言だけ言って終わりにしましょう。


 人殺しは怨霊にやらせるのが一番ですね。


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