プロローグ
暗闇の中で怪しく光る紅が二つ。
雲に隠れていた月が徐々に顔を見せ始めた事で、ぼんやりとしか分からなかったシルエットが漸くはっきりしてきた。
長い髪に、黒っぽいスカートと襟が風に揺れる。
あれは、確かウチの女子の制服じゃなかっただろうか。
まだあまり馴染みが無いし、まじまじと見た事はない──実際にそれをやったら変態として通報されそうだ──から同じかどうかは分からないけど、この辺りでセーラー服と言えばウチの学園以外には無かった筈だし。
そんな事を考えている間に真円を描く月がその姿を全て現し、その明かりによって彼女の全貌も晒される事になった。
柔らかな月光の中でも分かる、触り心地の良さそうな艶やかな長い黒髪。
後ろ姿だから左胸に校章があるかどうかが見えないから分からないけど、多分やっぱりあれはウチの学園の制服だと思う。
赤いラインの入った物は珍しくないけど、他とはデザインが絶妙に違っていて、可愛かったから受験したのだと言っていたクラスの女子の会話を思い出す。
人の事を言えた義理じゃないけど、こんな時間。しかもまだ制服を着たままでどうしたんだろうか。
流石にこんな時間にうろついているのは危ないから見過ごせない。
その後ろ姿に嫌な予感を覚えながらも、声を掛けようと歩き出した瞬間、振り向いた彼女を見て思わず嘆息する。
声を掛けようと思わず、早々に立ち去るべきだった。
そんな内心を嘲笑うかの如く、彼女はこちらに気が付くと笑みさえ浮かべて近付いてくるのを見て、また溜息を吐いた。