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サエナ遺跡

戦いとは愚かな行為

戦う意味も知らず戦い続ける

戦場では甘い感情は一切が無

人は生き延びる為に人を傷つけてゆく



 第八話 『サエナ遺跡』



 アジジ率いる砂の海賊と同行したタケル達一行。

ダハンの村から離れ、一週間が経とうとしていた。


「くはぁ~……相変わらずアッチィなぁ……」

「タケル! なにサボってんの、まだ仕事残ってるでしょ?」

キリリがタケルを叱った。

「だってよう、船の床の溝につまったホコリとりなんてよぉ、イライラしてくんだよ!」

タケルは、手にしていた爪楊枝をピッと投げた。爪楊枝は壁に刺さった。

「あんたってば、相変わらずナマケモノねぇ。船の上は清潔にしないと気分悪いでしょ?」

「この作業の方が、よっぽど気分ワリィよ! もう、やめた!」

タケルは、床に寝転んでしまった。タケルの顔から汗がこぼれる。

それを見た呆れ顔のキリリ。


「それにしてもよぉ、サエナ遺跡にはいつ着くんだよ?」

「距離的にはそろそろだと思うけど……こっちのエリアは砂の起伏が激しいから進みにくいのよ」

「まったく、このオンボロ船はよぉ」

「文句ばっか言わない。ん? なに、このフサフサしたものは?」

キリリは、樽の上からはみ出している、フサフサしたものを引っ張った。

「イテェだぎゃ! 誰だぎゃ? 人がせっかく気持ち良く昼寝してるのに!……あ……」


 樽のフタを開けて出てきたベンは絶句した。

そこには口をヒクつかせているキリリが仁王立ちしていた。


「あんたは晩メシぬき! それと甲板掃除の追加にマストの帆調整に武器の整備! それに!」

「ひ、ひぃ~! そんなにやったら死んでしまうだぎゃぁ!」

「ふ~ん、じゃあ、死ねば?」

この女の言ったことは必ずやらされる。

ベンは、あまりの仕事量に目がまわって倒れてしまった。


「あ~あ、ブッ倒れちまった……仕方ねぇか、この暑さだもんなぁ……」

執拗に照りつける太陽は、空を曇らせる素振りなど微塵も見せなかった。

「ところでポリニャックちゃんはどうしたの?」

「それがよ、あのダハンの村の一件依頼、なんだか元気がねぇんだよなぁ。どうしちまったんだか」

「そう……わたし、ちょっと様子見てくるわ」

そう言ってキリリは船内に入っていった。


「おいベンよー、そういえばポリニャックが砂虫に襲われた時のシャボンって、アレなんだったんだ?」

床に倒れていたベンは、気だるそうな顔でムクリと起き上がった。

「さぁ、オラもよくわからないだけども、インガの力で作り出した玉じゃないだぎゃか?」

「ふ~ん……ポリニャックのインガって何だか不思議だよなぁ?

俺が戦っている時のインガとは全然別モノって感じだよな。なんつーか繊細って言うか」

「そうだぎゃねぇ……アニキの場合はガサツってことだぎゃよ」

「んだと! テメェ!」

「そんな事よりも腹減っただぎゃ……キリリは本当にメシくれないだぎゃかぁ……」

ベンは、タケルとケンカする気力もないようだ。

「はは! あいつがナシといったらナシだな。事実上この船をまとめてるのはキリリだし、ま、あきらめな」

「そんなぁ~……」

グギュルル~……ベンの腹の音が、むなしく鳴り響いた。


 キリリは船のブリッジへ向かっていた。

その時、ちょうどアジジが無線機で通信を受けていた。

「なにィ!……ふん、ふん、そうか……わかった、ごくろう……」 ガチャリ

アジジは、イスの背もたれに思いっきり寄りかかった。

「ふぅ~! まさかダハンの村が壊滅したとはな……これは誰にも言わないほうがいいな……」


 バタン!

そこに突然やってきたキリリ。

「うわっと! どうしたいキリリ!?」

「何そんなにおどろいてんのよ?」

「い、いや、べつに何でもねぇぞ、ワレ」

「それよりさぁ、ポリニャックちゃんが元気ないみたいだけど、どこにいるか知ってる?」

「さ、さぁなぁ、き、今日はワシも見てないぞ、ワレ」

アジジは村の事を隠そうとして、しどろもどろになっていた。


 ガチャ。そこにドアを開ける音。

「悪い予感がするだっぴょ。アジジ、何か変わったことないだっぴょか?」

突然部屋にやってきたポリニャック。あまりにもタイミングのよさにアジジは驚いた。

「い、いや! な、何もない! ないぞ絶対! それより突然どうしたんだ、ワレ?」

「う~ん……何かが起こりそうな予感がしてるだっぴょ、それで……」

「ポリニャックちゃんは暑さで疲れてるのよ。さぁ、あっちでジュースでも飲みましょ」

キリリが、ポリニャックをなだめて連れていこうとした、その時。

「うっ! いたい! あ、頭がいたいだっぴょ!」

突然、ポリニャックが頭を押さえて苦しみだした。

「どうしたのポリニャックちゃん! しっかりして!」


 ブーッ! ブーッ!

警戒音とともに、アジジに通信が入る。

「船長! や、ヤマトですぜっ! ヤマト軍の襲撃ですぜ! かなりの数だ!」

「なっ、なんだとワレ! くそっ、全クルーに告ぐ! 第一種警戒態勢をとるんだ! 急げっ!」

アジジの大声が船中に流れる。戦闘準備である。船内に緊張感が走った。


 甲板にいたタケルとベンは、その音を聞き急いでブリッジに向かった。

だが、ベンはブリッジを通り過ぎて食堂へ走った。

「おい、ベン! ブリッジはそっちじゃねぇぞ!」

「ひひ! このスキに食いモンをゲットするチャンスだぎゃ! アニキは先にいっててくれだぎゃ!」

「ち!……しょうがねぇヤツだな。ま、俺もメシぬきだったらそうするかもな。おうぃオッサン!」


 バァン!

ブリッジに飛び込んできたタケル。

「おうタケル! 大変なことになったぞ、ワレ! ヤマトの軍勢が、こちらに接近しているんだ!」

「ヤマト!……あいつらか!」

「しかし、今まではワシらに直接手を出してこなかったヤツラが、

なんで急に接近してくるのかわからねぇ……とにかく只事じゃねぇぞ! ワレ!」

「どうやら、あんまし穏やかじゃなさそうだな……もし向こうが襲ってきたらどうするんだ? やるのか?」

「もちろん、売られたらケンカは買う! しかし、ヤツらの強大な戦力にはハッキリ言って勝ち目がねぇ!

真っ向勝負を避け、頭脳戦でいくぜ、ワレ!」

「オッサンにそんなことできるのか? そんなのまどろっこしいぜ! 俺がいく!」

そう言うと、タケルはブリッジを飛び出し、格納庫に向かった。


「あ、オイ! 待ちやがれワレ!……まだやると決まったワケじゃないんだぞ! 先走るんじゃねぇ!」

「だけどアジジ、もしパトロール隊だとしても、こんな辺境の砂漠に、

そう多くの軍勢を投入してくるとは考えづらいね……」

「確かにな。最近のヤマト軍には不審な動きがある……」

「目の上のタンコブである私たちを潰すのが目的かもしれないよ、アジジ」

「ああ、可能性はあるな……よし、ヤマトのヤツラに目にもの見せてやるか!」

「そうこなくっちゃね! 私もヤマトのヤツラには借りがあるんだ……オヤジの恨み、ここで晴らす!」

拳を強く握りしめるキリリ。ヤマトは親の仇だからそれも当然かもしれない。

「キリリ、熱くなり過ぎるな! あくまでも、ヤマトの奴らが攻撃してきた場合だ、ワレ」

「わかっているよ!……じゃあ、行ってくる!」

キリリはブリッジを飛び出した。


「タケル、キリリ、この船のヤツラはみんな戦い好きだからな、

我慢しろってのが無理かもしれねぇな……そして、この俺もな……」

アジジは思った。

(しかし、ヤマトの連中、なんだって今になってワシらに関わってくる?……

もし、ダハンの村を壊滅させたのがヤマトだとしたら、俺たちの補給を絶つためだとも考えられる……

それとも、まさかワシらの向かうサエナ遺跡に、触れられたくない何かがあるってのか?……

どっちにしてもここは正念場だぞ! タケル!)


 灼熱の熱砂、ジュジュエンの砂漠では、今、激しい猛攻が繰り広げられようとしていた。

ヤマトの軍vs砂の海賊。

アジジとタケル達一行は、強大な力に巻き込まれつつあった。



 ドドドォン!


 そこに、ヤマト軍の攻撃が始まった。

「ヤロウ! やっぱ攻撃してきやがったか! おいっ! 砂蜥蜴すなとかげの準備はどうなんだ?」

「了解でありますッ、船長!!」

「よぉし! 第一班は右に迂回、第二班は敵の後方に回り込んで挟み撃ちにしろ、ワレ!」

船長アジジの的確な命令で、船員たちがテキパキと行動している。


 ブリッジのアジジのもとに、タケルからの通信が入った。

「おい、オッサン! 俺もそのスナトカゲっていう武神機で出させろ!」

「ふふ、あれはちょっと特殊だぜ? てめぇに乗りこなせるのか、ワレ?」

タケルは鼻の頭を擦り、ヘヘン! と笑った。

「俺のインガをナメてもらっちゃ困るぜ! ダハンの村での戦いを見てただろ!」

「ヘッ! いっぱしの口を聞きやがる! たのんだぜタケル!」

「おうッ! まかせろ!」


 タケルは、下の階へ続くパイプをするると真下に滑り落ち、武神機を格納してあるデッキへと走った。

そこに見える武神機、砂蜥蜴すなとかげ

その特徴的なフォルムは。例えるならムカデのようなバイクに腕が生えているようだった。

前タイヤには鋭いスパイク。カニのような大きなツメ。

タケルが今までに見た武神機のイメージとは、全くの別物だった。


「なるほどッ! こいつはちょっと特殊だな。でも、バイクの運転なら得意だぜっ!」

タケルは自信ありげに、鼻の頭をこすった。

「ダーリン! ウチも行くだっぴょ!」

そこに、ポリニャックがコクピットに割り込んできた。

「ばかやろう! これから命のやりとりするってのに、おまえを連れていけるかッ!」

「ダーリン……それほどまでウチのことを心配してくれるなんて……うれしいだっぴょ!」

「い、いや、そうじゃなくてだな……」 

(本当に邪魔なんだよなぁ……)

この年頃の夢見る少女には、何を言っても無駄だとタケルは思った。


「ダーリン、敵の中に、バザーで腕相撲した女の子がいるだっぴょよ!」

「なんだって?! わかるのかポリニャック?……だとすると、あの銀杏ってガキはヤマト軍なのか?」

「ウチにはわかるだっぴょ……あの子、不思議な力を持っているだっぴょ!」

ポリニャックの持つインガと勘の鋭さ……タケルはそれにちょっぴり期待した。

「わかったぜポリニャック! 俺と一緒に来い! 頼りにしてるぜッ!」

「嬉しいだっぴょ! ダーリンのお役にたちたいだっぴょ!」

(本当は、ダーリンとあの子を近づかせたくないだっぴょよ!……くひひ)

ポリニャックは、銀杏という少女とタケルとの浮気を、勝手に心配しているようだ。


 様々な思いが交差する中、

タケルの乗る武神機、砂蜥蜴すなとかげはゆっくりと動き出した。


「タケル、いきなりアクセル全開にはするな! パワーがありすぎてスッ転ぶぞ、ワレ!」

アジジが心配して、モニターから連絡を入れてきた。

「ハンッ、心配すんなって! こんなの俺のテクニックにかかれば簡単……ウオッ!」

グワオンッ!

アジジの忠告を無視して、アクセル全開にしたタケルの砂蜥蜴は、

猛スピードでカタパルトデッキを飛び出していった。

ボッゴォン!

そして、砂地の地面へ勢い良く頭から突っ込んでいった。

「あ、あのバカ! だから言ったじゃねぇか、ワレ!!」


 タケルの砂蜥蜴は砂の中に半分埋まり、身動きできなくなっていた。

「たはっ! ちょっと調子に乗りすぎたぜ!」 

「イタタ……もうダーリンったら!」

ドグォン!

その時、砂の中から赤い目が光った。

「うお! こいつは!?」

以前、サントサーペント号に襲い掛かった赤目と呼ばれる敵だった。

赤目は、回転しながら飛び掛り、タケルの機体のすぐ側をかすめた。

「キャアだっぴょ!」

「小さいくせに、素早い動きしやがるぜ!」

円盤状の赤目からは、ノコギリのような歯が剥き出しになっていた。

その衝撃で、激しく揺れる砂蜥蜴のコクピット。


「このッ……おんどりゃーーーオォ!!」

雄々しい雄叫びと共に、タケルの砂蜥蜴が大きくジャンプし、砂から飛び出した。

ギャギャギャオン!

そして、タケルの乗った砂蜥蜴は、赤目の頭上を踏みつけ、また大きくバウンドした。

砂蜥蜴の前輪のスパイクが、赤目をズタズタに引き裂いた。

「イヤッホー!!」

まさにサーカスのような曲芸に、味方一同ア然としている。

「きゃはは! ダーリン最高だっぴょ!」

ポリニャックは大喜びだ。

「へっ! やるじゃねぇかぁよ、タケル!」

アジジはニヤリと笑い鼻をこすった。

「オラオラオラぁ! 邪魔だ邪魔だぁッ!」


 タケルの駆る砂蜥蜴は、大きなフロントタイヤを持ち上げて、

ウイリー走行のまま敵の射程内に突っ込んで行く。

ドドドドッ!!

砂蜥蜴のスパイクに、赤目たちは蹴散らかされていく。

ボォォン! ドゴォン!

「さすがアニキ!やるだぎゃ!」

それを見ていたベンは、タケルの活躍に一喜した。


「タケル! こいつらはヤマトの無人機だ! 他にもいるハズだぜ、ワレ!」

アジジが無線でタケルに叫んだ。

「ああ、そうでなくちゃあオモシロクねぇ! もっと歯応えのあるヤツだ!」

「ダーリン! カッコイイだっぴょ!」



 タケル達の戦っている場所から少し上空。

そこから様子を見ている武神機の姿があった。

「あっは☆ あれに乗ってるのは、チョンマゲのおにいちゃんかな? さすがだねっ☆」

上空を浮遊している銀杏の武神機は、低空飛行に切り替えタケルに接近してきた。

ズドドドッ! 突如、砂煙が上がる。


「う、上だっぴょ! ダーリン!」

それにいち早く勘付いたポリニャック。

「OK! あらよっと!」

上空からの攻撃を、器用にスラローム走行でかわすタケル。

「う、うまいっ!」 サンドサーペント号の船員達は思わず叫んだ。

「よーし! タケルを先頭にし、左右から援護するんだ、ワレ!」

アジジの命令で、船員達の乗る砂蜥蜴が、どんどん発進していった。


 タケルを上空から襲う武神機。

そして、目の前には、新たに二機の武神機が現れた。

「今度はふたり掛かりかよ!?」

目の前の武神機は、剣道のようなヨロイに包まれた武神機だった。

その武神機は、手にしている竹刀のような棒を振り回してきた。

「へん! トロイ動きだぜ!」

タケルの砂蜥蜴は、目の前の武神機の攻撃をかわし、両腕のハサミで反撃した。

バッチィン!

その攻撃を受けた武神機は、たまらずシリモチをついて転んでしまった。

そこに、船員達の砂蜥蜴も応戦し、ヤマトの部隊はやや押され気味だ。


「ちょっと待って、何かおかしいと思わない?」

ブリッジにいるキリリが、神妙な顔で口を開いた。

「どうしたっていうんだ、キリリ? 戦況はこちらが有利なんだぜ、ワレ」

「ちがうの……確かにこっちが有利だけど、なんとなくワザと誘導されているような気がする……」

「誘導? でもこの方向は、ちょうどサエナ遺跡に向かっているだぎゃ! それなら好都合だぎゃ!」

「うん、考えすぎかな……それなら良いんだけど……」

キリリの表情に不安が残る。

確かに、一見するとタケル達の攻撃が優勢に見える。

だが、敵軍はワザと防御にまわり、こちらの疲労を待っているかのようにも見えた。


「オラオラ! オラオラー~ッ! 防御してるだけじゃ勝てないぜッ!」

タケルの砂蜥蜴は、上空を飛ぶ武神機を挑発した。

「うふふ!☆ やっぱり、タケルと遊ぶのはおもしろいねッ!☆」

「なに? 今の声……ポリニャックの言うとおり、あの武神機には銀杏ってガキが乗っているのか!」

「ぴんぽ~ん☆ タケル、この武神機、 春紫苑はるじょおんで遊んでね!」

「くっ!」

「ダーリン、あの子楽しんでいるだっぴょ!」

「なにぃ、楽しんでるだって? それがわかるのか、ポリニャック?」


 ポリニャックのインガがそう察知しているのか、銀杏の考えがわかるようだった。


「楽しんでいるのはこっちも同じだぜ! どうってこたぁねぇぜ、ポリニャック!」

上空から鳥のように攻撃を仕掛ける銀杏の春紫苑。

しかし、その軌道はタケルには読めない。

「くそ! あんなのアリかよ? 武神機って飛べるのか!?」

「目の前の飛んでる姿を見る以上、そのようだっぴょ」

「くチョコマカと逃げ回りやがって! よし、それなら空中戦だァ!」

「ダーリン! だめだっぴょ!」

バキィン!

しかし、上空を飛ぶ銀杏の春紫苑に目を奪われ、地上にいる武神機の攻撃を喰らってしまった。

「うごッ! こいつら!」

タケルは、地上にいる武神機に反撃をしようとした。その時……


「そこまでね! もう、観念しなさい!」

その武神機から、タケルに向かって声が聞こえてきた。


「にゃんだとぉ~? なに寝ぼけたこと言ってやがんだ!」

タケルはその武神機に飛び掛ろうとした。

「ダーリン、待つだっぴょ! アレ!」

ポリニャックが指差す方向。そこには、味方の砂蜥蜴が無数の赤目に包囲されていた。

それは、サンドサーペント号も同じ状態であった。


「やっぱり、完全にはめられたわね……ヤツら、アタイたちを捕獲するのが目的だったようだね……」

これだけの敵の数に囲まれては、砂の海賊もお手上げ。

サンドサーペント号の甲板には、銀杏の春紫苑が、ブリッジに銃を突きつけていた。

「くっ! やつらを甘くみたぜワレ!」

「やつら、オラ達をどうする気だぎゃ!?」


 地上にいた二機の武神機からは、オカマのような格好をした人間が降りた。

そして、ピンクの花びらのように華麗な武神機、春紫苑からはひとりの少女が現れた。


「あ! アイツは!」

キリリとアジジが同時に叫んだ。

「あの少女はバザーにいただぎゃ。たしか、銀杏とかって名前だぎゃ。知ってるだぎゃか?」

「あいつは、ここら辺一帯を取り仕切る、ヤマトの攻撃部隊隊長……銀杏!」

キリリは下唇をかみ締め、震える声で叫んだ。

「隊長!? あのちっちゃな女の子がヤマトの隊長? とても信じられないだぎゃ……」

「幼い概観に騙されるな……あいつは、初代船長を……キリリの親父を殺した女だ、ワレ……」

「な、なんだと!?」

「し、信じられないだっぴょ……」

その話を通信で聞いていたタケル、ポリニャックは驚きのあまり言葉を失ってしまった。


 ジュジュエンの砂漠を統括する、ヤマト軍攻撃部隊隊長、銀杏。

その少女は、武神機から降りると、無邪気な笑みのままトコトコとアジジ達の前に近づいてきた。

それはまるで、年端もいかない少女が、警戒という言葉を知らずに歩み寄ってくる様であった。

タケル達も仕方なく降参し、武神機から降りてサンドサーペント号の甲板に上がった。



「やっぱりあの時のガキか……」

「おひさしぶりだねー、タケル☆」

「ヘン! てめぇ、あの時のかりを返してやるぜ!」

「まぁ、待て、タケル」

アジジがタケルを止めた。

「ところで、ヤマトの軍が俺たちに何の用なんだ? ワレ」

「今日はねぇ、そっちのチョンマゲオダンゴのおにいちゃんに用があってきたんだよぉ☆」

「チョンマゲオダンゴ?……って誰のことだ? なぁポリニャック」

「間違いなくダーリンのことだと思うけど……」

「お、俺かっ? やっぱ俺に用があったのか、そんなら話は早いぜッ!」

タケルは腕をグルグルと振り上げ、手を差し出した。

それは、腕相撲のリベンジのようだった。


「あはっ☆ やっぱオモシロイね、タケルってさ☆ でも腕相撲じゃないんだよ。

銀杏たちと一緒に、サエナ遺跡にいくんだよっ☆」

そう言って銀杏は西の方角を指差した。

ジュジュエンの砂漠の最西端、そこは、サエナ遺跡と目と鼻の先であった。

この謎の少女、銀杏は、タケルをサエナ遺跡へ連れて行き、どうしようというのだろうか?


「あり? 腕相撲じゃないのか?」

「もう、ダーリンったら……全く状況がわかってないだっぴょね」

「じゃあ、さっそくいこうよ☆」

「ま、待ってくれ、ワレ! この状況で抵抗しようとは思わん。せめて、おれも連れて行ってくれ!」

アジジは、銀杏の腕を掴み、必死の形相で頼み込んだ。

「ちょっと、銀杏さまから離れなさい!」

「そうよ、ヒゲモジャさん?」

そこに、あのオカマのようなふたりの武神機乗りが声を出した。


「うげ~、こいつらの化粧はなんだよ? ホモってやつか?」

タケルは舌を出して気持ち悪がった。

「失礼ね! ホモじゃないわよ、オカマだわよ!」

「そうそう、そこんとこ、ハッキリしておいて欲しいわね!」

「どっちだって同じじゃんかよ……」

「もう、わからずやのチョンマゲさんね。だったら試してみるかしら?」

そのオカマは、タケルの顔に向かってチューをしようとした。

「うげっ! やめろ!」

「オイ! そんなことよりも俺を連れて行け! ワレ」

アジジが痺れを切らしたように叫んだ。

「あら? こちらのヒゲモジャ、良く見ればたくましいわね?」

「そうね、けっこうイケてるかもよ? なんだか、興奮してきたわぁ~、ハァハァ……」

ふたりのオカマは、顔を赤らめ息遣いが荒くなっていた。

「やめろ! ワレ! それより俺を連れてってくれるのか!?」

アジジはふたりのオカマを跳ね除けた。よほど真剣なのだろう。


「う~ん☆……タケルのお供は、オオカミさんとウサちゃん……

それに、もうひとりくらいならいいかな?☆ いいよ、ヒゲのおじさんも☆」

「ありがてぇ」

アジジはコクリとうなずき、キリリの方を無言で見つめた。

「アジジ……行くなって言ってもムダなんだろ?」

「キリリ、すまねぇ。俺の勝手を許してくれ。

もし、おれが帰ってこなかったら、サンドサーペント号の船長はおめぇが継げ」

「それは約束できないね」

「俺は、自分が何者だったのか、それを確かめる為にあの遺跡に行ってみようと思うんだ」

アジジの真剣な眼差しには強い意志が宿っていた。

それを見たキリリはため息をついた。

「わかったわアジジ。海賊の男は常に冒険を求めるもの。

あなたには過去を知る権利があるのだからね……いってらっしゃい」

それを聞いて頷いたアジジは、くるっと背を向けた。

「でも、でもね? ぜったいに帰ってきてよ!

この船にはアンタが……砂漠の海賊には、船長アジジが必要なんだからっ!」

キリリは目に涙を浮かべて大声で叫んだ。

アジジはその場で立ち止まり、後ろを振り返る事無く左手を軽く上げ、キリリに別れを告げた。

(ぜったい帰ってきてよね……ぜったいなんだから!……)

キリリは、アジジが見えなくなるまで見送っていた。

いつまでも見送っていた。


「はーい☆ では、しゅっぱつでぇーっす!☆」

アジジの運転するオフロードバギーは、遺跡に向かって走り出した。

助手席にはタケル、後部座席にはベンとポリニャック……それに銀杏が乗っていた。

「なんで、おまえが乗っているんだよ?」

「だって、こっちの方が楽しそうなんだもーん☆」

「まったく、ガキのピクニックじゃねぇっつーの」

「うふふ、もし、おかしなことしたら、部下の武神機が攻撃しちゃうからねー☆ えへ」

タケル達バギーの後方には、オカマの乗る武神機が二機。

そして上空には、遠隔自動操縦された銀杏の武神機が飛行していた。


「どう考えても逃げ道はなしか……仕方ねぇ! しばらくドライブと洒落込むか!」

タケルはあっけらかんとした態度で、両腕を頭の上に組みシートをガクリと倒した。

「はっ! この状況で寝るたぁ、とことん肝の座ったヤロウだな、ワレ! はっはっ!」

アジジは、そんなタケルを見て豪快に笑った。

「うふふふ☆ なんだかとっても楽しくなりそうだねぇ~☆」

敵であるはずの銀杏も、無邪気にはしゃいだ。

「ホントだっぴょね、なんだか本当にピクニックに出掛ける気分だっぴょ!」

ポリニャックも、それにつられて笑っている。

(オイオイ……みんな笑っている場合じゃないだぎゃよ~。オラたちは人質なんだぎゃよ……)

ベンだけは、とてもそんな気分になれず、不安な顔をしていた。



 そんな状況のまま車を走らせ、1時間が過ぎた頃。

遂にサエナ遺跡はその姿を現した。

「あれがサエナ遺跡か……ワレ」

アジジが最初に口を開いた。

「あれれ☆ もうついちゃった☆」 

「あっという間だったっぴょ!」


 後部座席では、銀杏とポリニャックがあやとりをして遊んでいた。

どうやらお互い仲良しになったようだ。

「や、やっと着いただきゃ……」

ベンは、緊張の糸が切れたような声をこぼした。


「さーって! オボロギタケルの探検隊が行く! ってかァ!」

グッスリと熟睡していたタケルが、ムクリと起き上がりあたりを見回した。

そこはすでに砂漠ではなく、うっそうと草木が生い茂るジャングルだった。

地面には、遺跡らしい四角形の切り出した石が、ゴロゴロとあちらこちらに転がっていた。

「なんだかベンの村のあたりに似てないか、ここ?」

タケルが冗談交じりで言った。

「やめてくれだぎゃ、アニキ! オラの村とは似ても似つかないくらい、ここは不気味だぎゃよ!」


 確かにベンの言う通り、ここの重苦しい雰囲気は、不気味としか言い用がなかった。

ここ一帯の雰囲気は、遺跡の神秘さとは皆無で、得体の知れない怪しさが蔓延していた。

タケル達一行は、そんな重圧に挟まれながら、ジャングルの奥へと進んでいった。

それはまるで、大蛇の口の中へと飲み込まれるような悪寒に包まれていた。


「あ☆ すごーい!」

ふいに銀杏が何かを見つけたらしい。

「どうしたっぴょ、ギンナン?」

ポリニャックは銀杏の近くに寄ってみた。

一体何なのだろうか? 早くも、サエナ遺跡の謎が解明されたのだろうか?

「あわわ……は、早く、離れるだぎゃよーッ!」

突然ベンが大声を出して叫んだ。

それもそのはず。銀杏の見つけたものとは、大木ほどの太さもある大蛇だった。

垂れ下がっている大蛇とまわりの大木が似ていて、タケル達には見分けがつかなかったらしい。

シャァーーッ!!

その大木ほどの太さのある大蛇は、大口を開けてニョロニョロと襲いかかってきた。

真っ青な顔をして逃げるタケル達一同 (銀杏以外)

「に、逃げろー! 食われたらひとたまりもないぜ、ワレ!」

アジジが叫ぶ!

バキバキバキッ!

大蛇のスピードは速く、周りの木々メキメキとなぎ倒しながら迫ってきた。

「キャハハ☆ 楽し~い!」


 一瞬、逃げるのが遅れてしまったベンのすぐ後ろに、大蛇が口を開けて迫っていた。

「うわわ!……も、もうダメだぎゃーッ!!」

ガクンッ!

その時ベンは、木の根に足を引っ掛けバランスを崩して転倒してしまった。

「ひぇぇッ! たっ、助けてくれだぎゃー、アニキーっ!!」

バクンッ!

なんと、ベンはその大蛇の大きな口に飲み込まれてしまった。

「うわあーッ!ああああぁ!……」

大蛇に飲み込まれたベンの助け声が、虚しくも、大蛇の胃袋から聞こえてきた。

「ベン! すまんっ! やすらかに眠ってくれ!」

タケルは胸の前で十字をきった。

「あれ?☆ オオカミさんが食べられちゃった! だめだよ~、そういうことすると☆……」


 バシュンッ!

銀杏は、一瞬で大蛇の頭上までぴょんとジャンプし、

そのまま回転してカカトを大蛇の頭へ振り下ろした。

スコーン!

一見なんの変哲もない攻撃であったが、大蛇の動きはその場で止まり、ドスンと崩れ落ちた。

「ひ! ひぃ! ヒドイ目にあったぎゃよ!!」

ベンは胃液まみれで、大蛇の口の中から這い出してきた。

「あ、アニキ、聞こえただぎゃよ……オラのこと見捨てるなんて薄情なアニキだぎゃね!」

ベンはタケルをじろりと睨んだ。

「ははっ、ま、まぁ良かったじゃねぇか! 見掛け倒しの弱い蛇でよ?!」

タケルは笑って誤魔化した。


 だがアジジは、銀杏の的確な急所攻撃を見逃さなかった。

(あの小娘、さすがヤマトの攻撃隊長だけはあるぜ……

一瞬にして相手の急所を見抜き、必要最小限の攻撃をしやがった……

相当な訓練を積んだ兵でなければ出来ない芸当だぜ……)

アジジは、無邪気にニコニコ笑う銀杏を見て、背筋がゾッと凍る思いをした。


 そんな危険だらけのジャングルをしばらく歩くと、今度は石畳で出来た道が現れた。

いよいよ本格的に遺跡へと足を踏み入れるタケル達一行。緊張感が自ずと高まってくる。


「うわあ~、すごいだっぴょ!」

タケル達の目の前には、古代の歴史を感じさせる大きな神殿が出現した。

ここには何か、神秘的で崇高なオーラが漂っていた。

その入り口の両脇には巨大な石で出来たトーテムポールが、

喜怒哀楽と様々な表情をしてタケル達を見下ろしていた。


「ありゃ? これって確かベンの村にもあったような……」

タケルはそのトーテムポールを指差した。

「アニキがブッ壊したやつだぎゃね。はーん、確かに似ているだぎゃね。

村の守り神を作ったのも長老だから、ひょっとして、ここに来たことがあったのかもしれないだぎゃね」


 獣人村のネズミの長老は、この遺跡とタケルの記憶の関係を知っているようだった。

そして、タケルにメッセージを託し、サエナ遺跡へ向かわせたのだ。

はたして、この神殿の先には何が待ち受けているのだろうか……


 いよいよ神殿内部へと進むタケルたち。薄暗くじめっと淀んだ冷たい空気。

コツーン……コツーン……と乾いた足音が神殿内に響きわたる。

通路はとても広く、武神機が軽々通れるくらいの幅があった。

また、天井には壁画がびっしりと埋め尽くされていた。

壁際には、不可解な模様が刻み込まれた柱が、隙間なくギッシリと立ち並んでいた。


「なんだよ……ここは一体……」

入り口からの明かりで、タケルたちの影が遠くまで伸び、それが妖しげに映る。

いつどこから何が襲ってきても、不思議ではない雰囲気であった。

「ウ、ウチはこういうとこ苦手だっぴょよ~……」 

「オ、オラだって苦手だぎゃよ……」

ベンもポリニャックも、ビクビクと不安げに辺りをキョロキョロと見回していた。

「お、おめぇらは臆病だなぁ~……こ、こんなとこ、どうってこたぁねぇぜ! ヘンっ!」

タケルは両腕を腰にあて、得意げに胸を仰け反らせ、ダンゴっ鼻を上へと突き上げた。

「さっ、さすがはアニキ! ここ一番頼りになるだぎゃ!」

「ま、まぁな……」


「わっ☆!!」


 そこにふざけた銀杏が、タケルを驚かす。

「ぎゃぁおっ!! お、おどろかすなッ!」

タケルは驚いて、ベンに抱きついていた。

じろ~っ……ベンとポリニャックは、そんなタケルに冷たい眼差しを送った。

「は、はは……実は俺も苦手なんだよな、こういうとこ……」

それを見た銀杏は、無邪気にケタケタと笑った。

「あのねー☆ ここから先はタケルひとりでいってもらうよー☆」

「えっ! お、俺ひとりで?マジ?……そ、そうだ、オッサンも一緒にいこうぜ!」

「もちろんだ! 俺自身の為にも俺は行くぜ、ワレ!」

「あ~っ、だめだめ☆ ここからは、タケルの試練なんだから☆」

「試練? 俺の……?」

「なにをワケのわかんねぇ事言ってやがるんだ! 行くったら行くぜ! ワレ」

「だ~か~ら~、だめだってー☆ 銀杏の言うこときかなきゃ怒るよ! プンプン☆」

可愛げな態度をとる銀杏であったが、この少女に逆らったら確実に殺される。アジジはそう察知した。

「ち! 仕方ねぇ。タケル、ひとりで行ってこいや、ワレ!」

「げっ! クソッ、わ~ったよ、行けばいいんだろ、行けばよッ!」


 タケルは、必死に強がって肩をいからせながら、しぶしぶと奥へ進んでいく。

どこまで続いているのかすらわからない漆黒の闇。

人は目に見えぬものを恐れるというが、暗闇を恐怖するのは人間の深層心理なのだろうか。

「ひぃ~……どうか何もでませんように……」


 しばらく歩くと、遥か先に小さな明かりが見えた。タケルはそこが終点だと思い、早足で進んだ。

ところが不思議なことに、その明かりはタケルに一向に近づくことはなかった。

もしかしたら、逆に遠ざかっているのではないか? という感覚すら覚えさせた。

「う、うわあーッ!」

タケルはなんだか不安になって我武者羅に走った。

闇と自分自身の恐怖を振り払う為に。


 ダダダダッ……!


 しかし走っても走っても、そこは終わりなきラビリンス。

メビウスの輪の上で踊らされているような、じれったい不快感。

どんどん自分が小さく縮んでいって、このまま無くなってしまうような奇妙な感覚。


 後ろを振り返ると、紫色のマントを羽織った死神が、血塗られた半円月の鎌を研いでいた。

「わあぁッ!?」

タケルは一瞬ギョッとして目を疑ったが、どうやらそれは錯覚だった。

「ハァ、ハァ!……ど、どうなっているんだ、ここは! どこまで続いていやがるんだ!!」


「俺はいま、いったいどこを走っているんだ!?……」

そのうちタケルの感覚は、右と左はおろか、上と下の感覚までもが麻痺してしまった。

グルグルと回る螺旋階段を上っては下り、また上るような酷くだるい感覚。

タケルは恐怖で悲鳴を上げたかったが、萎縮した喉からは声が絞り出せなかった。

あまりの恐怖に、自分を全て拒否し、存在を消してしまいたい衝動に強く駆られた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

すると、やっと遠くに人の影が見えた。

「だれかがいた!……あれは……」

タケルは少しホッとした。


 この神殿に見ず知らずの人がいるのは怪しいが、

こんな空間にひとりぼっちでいるのだけは耐えられなかったからだ。


 だんだんと近づくにつれて、その人影は姿を現してきた。

あえて、その人影の心の色を表すなら、黒以外に形容できなかった。

それは自分。タケル自身であった。それも野獣のような形相をしている自分。


 そこにいたもうひとりのタケルは、相手に馬乗りになって殴り続け、

その相手の噴き出した血で体中を染めていた。

本能の身勝手さ。性欲の傲慢さ。それら両方をいっぺんに放出したようなドス黒い悪意。

タケルは、自分自身をみつめ、吐きそうになるほど気分が悪くなった。


「もうやめてくれ! それが俺なんだ! だから俺なんだ!!」

タケルは闇に向かってひとり吼えた。

誰かに答えを求める訳でもなく、咽び泣くように吼えた。

殴り続けるタケルが消えると、そこに、もうひとりのタケルがフッと現れた。

そのタケルは、身を乗り出して何やら不安そうに穴を覗き込んでいた。

そのまま穴を覗き続けていれば、いずれ穴に落ちてしまう事はタケルには分かっていた。

「その穴を覗くのをやめろ……お、落ちるぞ!」

しかし、その穴を覗きたいという衝動は止められず、タケルは深い穴に落ちていった。

目の前で穴に落ちたタケルを見ていたタケル。しかし、落ちているのは自分自身であった。

「うわわ! ああーッ!」

タケルは、どこまでも、どこまでも落ちていった……



「うう……」

気がつくとタケルは、広大な部屋に仰向けになって倒れていた。

部屋といっても、そこは巨大な空間で、向こうの端が霞んでやっと見えるくらい広かった。

冷たい床には薄緑色にぼんやり光る石畳が敷き詰められていて、

ドーム状の天井までも、その石畳で埋め尽くされてた。

その光る石畳のおかげで、充分とまではいかないが、なんとか視界は確保されていた。

「な、なんだよ……ここは?……」

タケルは辺りを見回した。そしてゆっくり起き上がると、目から冷たい水が頬をつたった。


(涙?……泣いていたのか俺は?……バカな……)


 涙を流す感情が自分にあった事に、少し驚き、少し腹を立てた。

幼い頃、両親を亡くし、親戚中に疎まれてきた存在であったタケル。

毎日が悲しくて切なくて、涙を流さない日はなかった。

やがて、その涙が枯れた時、タケルは決心したのだった。

泣いたら負けだ! 泣くという行為は弱者の証だ! どんな場合でも泣く事は許されない!

それがタケルのプライドであった。


『目覚めたか……タケルよ……』

不意に背後から声が聞こえ、タケルは驚いて振り返った。

「う、うわあぁぁぁっ!……な、なんだこれはっ!!」


突如現れた、謎の声の主は誰なのか?

そしてタケルは一体何を見て驚いたのだろうか?

タケルは、ある人物と運命の出会いをするのであった。

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