「想いはいつも板の上」 -Let’s PLAY again ー
ちょうどこれを書いていたとき、某都道府県の知事が、「公共施設潰し」をやってて、実際にその施設に変装して潜り込んで施設の粗探しをする、なんてことが話題になってました、、、 それを、ネタにw
舞台は、「Let’s PLAY」から5年後・・・
当時、まだサブだったハナモトがホールチーフとなり、バイトの上野山は正式にこのホールスタッフに就職した模様。
照明のミカも一人前のチーフとなり、音響は、あのあとジーザスと電撃結婚した!wツバメが、ホール付き音響となっている、という体です。
【想いはいつも板の上】
― Let‘s Play ‘AGAIN’ ―
作・演出 : 倉橋 里実
《キャスト》
ハナモト ホール管理 舞台担当チーフ
ウエノヤマ ホール管理 舞台スタッフ
ミカ ホール管理 照明
ハルカ ホール管理 照明 新人
ツバメ ホール管理 音響
イシカワ ホール事務員
ハトヤマ 黒崎高校演劇部 顧問
アユミ 〃 部長 3年
サヨリ 〃 部員 1年
ウズラ 現役ドラマ女優
おばちゃん 掃除のおばちゃん
ソラエモン 造型アーティスト
-----------------------------------------------------------
キンソンが盛り上がり、暗転の中緞帳が上がって・・・
いく途中でいきなり緞帳が止まる
ウエノ 「あれ?!」
ハナモト「ストップストップ! 一旦止めまーす!」
アユミ 「どうしたんですか?」
ハナモト「ごめんね。ミカちゃん、地明かりちょうだい!」
ミカ(声「はーい!」
舞台中、明かり入る
でも緞帳は途中で止まったまま
(作註・役者の顔がちょうど見えないくらいのタッパが理想です)
緞帳の中では、衣装を着た黒崎高校演劇部のアユミとサヨリ、
舞台スタッフのハナモト・ウエノヤマ・ツバメ・ハルカの姿が(半分だけ)
見える
サヨリ 「なにかトラブルですか?」
ウエノ 「いやあ、えっと」
ハナモト「ウエノくん! 操作盤の予備電源!」
ウエノ 「やってますよ!」
ミカ(声「客電入れますね」
客席照明も点く
客席から現れるイシカワ
イシカワ「えー、またトラブルですかぁ? 折角楽しみにしてたのに最悪ぅ~~」
ハナモト「イシカワちゃん? またサボってたの?」
イシカワ「このホールに事務仕事なんてあるんですか?! あるんですか?!!」
ウエノ 「逆ギレ?」
ミカ(声「ハルカ! チェック!」
ハルカ 「ふ、ふ、、フロア電源はきてます! こっちは問題は」
ミカ(声「ホントに?!!」
ハルカ 「ほ、ほ、ホントですぅ。ホント・・・う、うわぁーーん(号泣)」
ミカ(声「すぐ泣くな!!」
ツバメ 「音響ブースも問題ないですよ。やっぱ舞台機構の方じゃないっすか?」
ハナモト「みんな、ホントに申し訳ない。復旧作業急ぐから、とりあえず楽屋で待機
ってて」
サヨリ 「でも!」
アユミ 「サヨリちゃん、ここは舞台スタッフさんの言う通りに、ね」
サヨリ 「・・・はい、アユミ先輩」
イシカワ「(舞台に上がってきて)もう! なによこのコ邪魔!! (手で緞帳を上げ
ようとする)」
ハナモト「イシカワちゃん、無茶しないで!」
イシカワ「(舞台中に入りながら)だって折角のゲネプロが」
ウエノ 「ハナさん、予備電源きました!! 緞帳UPします!」
ハナモト「あいよ」
緞帳が上がるかと思いきやダウンする
ハナモト「下がってるよ!!」
ウエノ 「あれ??」
イシカワ「ダメだこりゃ」
暗転
ブリッジM
暗転中でホントに緞帳が飛んでゆく
溶明
某県立そよかぜホール 舞台下手袖
操作卓を囲んで、ハナモト・ウエノヤマ、黒崎高校演劇部・顧問のハトヤマがいる。
周りにはミカ・ハルカ・ツバメが各自機材のチェックなど
ハナモト「とりあえず各部、復旧はできましたが」
ハトヤマ「今からの時間だと、もう一度ゲネプロは無理そうですね」
ハナモト「ホント申し訳ないです、ハトヤマ先生。このホールも老朽化が激しくて」
ハトヤマ「いやいや。場当たりとキッカケ合わせまではできていますから大丈夫だと思い
ます。顧問の僕なんかより生徒たちの方がよっぽどしっかりしてますから」
ウエノ 「ホントですね~」
ハトヤマ「はい~。ははは・・・もう役立たずの僕なんかいっそ死んじゃった方が」
一同 「ダメダメダメ!!」
ミカ 「相変わらずネガティブ先生ですね」
ハトヤマ「これはまあ生まれ持っての性格ですから」
ツバメ 「自覚はあったんだ」
ハトヤマ「それに加えて今回の公演が最期という事が余計に」
一同 「え?」
ハトヤマ「毎年、我が黒崎高校演劇部の発表公演をこのそよかぜホールでやらせて頂いて
おりましたが・・・ご覧頂いてわかるでしょう。今年はついに部員はあの2人
だけになってしまいました」
一同 「・・・」
BGM・悲しい音楽
ハトヤマ「部長で3年生のアユミくん。彼女が卒業すれば部員は1年のサヨリくんひとり。
演技経験の少ないサヨリくんだけでは、とてもこの演劇部は・・・」
ミカ 「じゃあ廃部? そんな」
ハルカ 「びぇーーん!!(号泣)」
ミカ 「泣くな!!」
ウエノ 「この公演が最後なんですか」
ハトヤマ「はい・・・」
ハナモト「そうでしたか。・・・ツバメちゃん」
ツバメ 「はい」
ハナモト「BGMはいいから」
ツバメ 「はい」
BGM、止まる
やってくるアユミとサヨリ
アユミ 「あの・・・ いかがでしょうか?」
ハナモト「ゴメンね、時間的にもっかいゲネは無理だわ」
サヨリ 「そんな! 私、不安です! リハーサル無しでなんて」
ハナモト「申し訳ない(深く頭を下げる)」
アユミ 「サヨリちゃん。スタッフさんは一生懸命やってくださってるのよ」
サヨリ 「わかってます、アユミ先輩。でも」
ハトヤマ「舞台は生ものです。こういうトラブルもあるものなんですよ」
サヨリ 「先生・・・」
ハトヤマ「うん」
サヨリ 「・・・いたんですか?」
ハトヤマ「!! やっぱり僕なんて!!(走り去る)」
ウエノ 「あーあ」
アユミ 「まあ、いつものことですから」
ミカ 「ヒドっ」
ツバメ 「てか、よくわかってる」
ハナモト「ともかく、本番までキッカケを中心に返し稽古ってことで・・・お願いできな
い?」
アユミ 「いい? サヨリちゃん」
サヨリ 「・・・はい。頑張ります」
ツバメ 「任せといてよ。(自分を指し)デキるOGがスタッフにいるんだからさ」
ミカ 「あんただってこの子ら位の時、本番前はわたわたしてたじゃない」
ツバメ 「わ、ミカさんそれ言いっこなし。 今は一応ホール付きの音響なんで」
ハルカ 「え、ツバメさんここの演劇部だったんですか?」
ツバメ 「うん。だから廃部なんて聞くと淋しいよ。私もこのホールにずっとお世話に
なってて、その縁で今スタッフの仕事貰ってさ。なんとかなんない・・・」
サヨリ 「すみません」
ツバメ 「・・・なんないんだね」
ウエノ 「しかし可愛かったよね~。あの頃のツバメちゃん、制服姿で」
ミカ 「オヤジ臭いよ」
ウエノ 「そういうミカさんだって、昔はすぐ泣いて」
ウエノヤマ、ミカに殴られる
ウエノ 「いてぇ~、ホントの事じゃないですかぁ」
ハナモト「ま、逞しくなったモンね」
ハルカ 「わ、わ、わ、私もミカさんみたいにたたた逞しくなれますかぁ?!!」
しばし、間
ウエノ 「ま、まぁ・・・頑張れば?」
ハルカ 「はい!!」
ハナモト「ほら、打ち合わせという名の息抜き終わり! アタマから返すよ!」
ツバメ 「音はいつでもオッケーですよ(音響卓につく)」
アユミ 「板付きます! サヨリちゃん!(舞台上にハケる)」
サヨリ 「はい!(追いかけてハケる)」
ミカ 「チェックに10分頂戴!」
ハナモト「5分で!」
ミカ 「はいはい!」
ハルカ 「えー?!!」
ミカ 「大丈夫、サバ読んだから」
ハルカ 「逞しい・・・」
ミカ・ハルカ、ハケる
ウエノ 「上手付きます!」
ハナモト「あいよ!」
下手袖にはハナモトとツバメが残る
ウエ(声「上手オッケーです」
ミカ(声「明かりオッケー」
ハナモト「(インカムで)よし。じゃ、キンソンから緞帳UP。問題なければ4ページの
場面転換まで流します」
と、やってくる掃除のおばちゃん
ツバメ 「あ、おばちゃん! ここはいいから!」
ハナモト「クリーンスタッフさん?! 舞台周りはこっちでやりますから! すみません、
今からリハーサルなもんで」
おば 「す、すいません。 (去ろうとするが立ち止まり)あ、あの・・・ちょっと
だけ見学しててもよろしいですか?」
ツバメ 「ハナさん?」
ハナモト「(ツバメに小声で)ま、珍しいんでしょ。邪魔しないように隅っこでね」
おば 「ありがとうございます」
ツバメ 「キンソン、キッカケ待ちです」
ハナモト「(インカムで)失礼。では緞帳UPスタンバイ」
操作盤のスイッチを入れるが動かない
ハナモト「また! (操作盤をぶっ叩き)くそ!くそ! 動けー!!」
なんとか電源が入る
おば 「大変ですねぇ」
ハナモト「まぁね。 ではキンソン入りまーす!」
M・照明変化
キッカケ合わせをしている演劇部・スタッフのオフ芝居
(作註・動きは稽古場でつけます)
ハナモト「はーい、止めまーす!」
M・照明、戻る
袖中にはハナモト・ウエノヤマ・ツバメ・ハルカ
そしてアユミ・サヨリ
ウエノ 「ふう、ここまでは問題ないみたいですね」
ハナモト「なんとかね」
と、操作卓上の内線が鳴る(音は無しで光る)
ムシするハナモト
ハナモト「何時?」
ウエノ 「16時50分です。開場まであと1時間10分」
ハナモト「手直し含めてなんとかなんとかだね」
アユミ 「あとはラストシーンからカーテンコールなのですが」
ツバメ 「コール曲もらってないよ」
サヨリ 「ハトヤマ先生からはここはもうちょっと待ってくれ、と」
ハナモト「(ウエノヤマに)僕ちゃん先生呼んできて。どうせ楽屋でニコ動でも観てるん
でしょ」
サヨリ 「あ、私が行きます!(去る)」
ウエノ 「ってか、ハナさん内線光ってますけど」
ハナモト「忙しい。どうせイシカワちゃんの無駄話でしょ」
いつの間にかやってきているイシカワ。手には電話子機
イシカワ「ほほほ! そう言われるだろうと思ったわ! 生憎だけど『花より男子』の
話題はまた後で。さっきから外線で偉そうな女が演劇部に繋げと」
と、勢い良く駆け込んでくるハデな格好にサングラス姿の女
持っていたバッグでイシカワをぶん殴る
イシカワ「ぎゃひー!」
女 「ちょっと!! ここはいつまで電話待たせるのよ!!」
ウエノ 「すいません! てか、なんですかあたなは」
女 「うるさい!!」
ウズラ、ウエノを殴る
ウエノ 「容赦なしかぁー!!」
ハナモト「ちょっと! なんですかあなた。今はリハーサル中です。関係者以外は」
女 「関係者ぁ~? ふふん」
そこにサヨリに連れられて駆け込んで来るハトヤマ
ハトヤマ「なんなんですか! せっかく初音ミクちゃんと遊んでたのに!」
と、ハトヤマ、ウズラに目が留まり
ハトヤマ「・・・君は」
ゆっくりとサングラスを外す女
女 「久しぶり。相変わらずね、ハトヤマ君」
一同 「え?!!」
ハトヤマ「・・・・・どなたでしょう?」
女 「おい!!!(殴る)」
サヨリ 「あー、この人!」
アユミ 「知ってるの?」
サヨリ 「ほら! 2時間ドラマとかによく出てる」
ウズラ 「ふふん♪」
ハナモト「ああ、探偵役で」
イシカワ「え? ああ、そういえば」
ツバメ 「崖でよく犯人を追い詰めてますよね」
イシカワ「そうそう。で、絶対犯人は飛び込み自殺するの。追い詰めなきゃいいのに」
ハナモト「なんて名前だっけ? えーっと」
一同 「うーん・・・」
ハルカ 「!! 崖っぷち女優!」
一同 「ああ!(納得)」
ウズラ 「こるぁあ!!」
ハルカ 「うわーん!(泣く)」
ハトヤマ「カンドリ ウズラ。そう、ドラマで活躍中の女優さんですよ。そして・・・
我が演劇部のOGで創立メンバーです」
一同 「ええー!!」
ウズラ 「やっと思い出した?」
ハトヤマ「いやぁ、ウズラさん、すっかりキレイになったもんだから」
ウズラ 「あら、ハトヤマくんでもお世辞を覚えたのね」
ウエノ 「社交辞令とも言いま」
ウズラ 「!!(睨む)」
ツバメ 「てか先生、この女優さんとエラく親しいみたいですが」
ウズラ 「あら、みんな知らなかったの? ハトヤマくんも私と同じ演劇部の創立
メンバーだったのよ。というか、二人で立ち上げたんだよね」
一同 「えええー!!」
アユミ 「先生が・・・役者を? 意外・・・」
サヨリ 「私、なんだか自信が沸いてきました」
ハトヤマ「ええええ、どうせ僕なんか役者に向いてないんです。いっそ死」
ウズラ 「死ぬとかすぐ言わない」
ハトヤマ「どーん」
ハナモト「昔っからこうなんだ」
と、やってくるミカ
後からこっそり掃除のおばちゃんも付いてきている
ミカ 「ちょっと! ラスト残して止めたまんまどうなってるんですか? (ウズラ
を見て)え?え? あー! うそ、この人、えっと・・・崖っぷち女優の」
ウズラ 「ああん??!!!」
ハナモト「ゴメン、ミカちゃん。ちょっとトラブルが。(ウズラに)えと、OGとして見学
は結構なんですが、今時間の無い中キッカケ合わせ中で」
ウズラ 「あら、それは失礼。(空気を読み)どうやらお邪魔のようね。本番、観させて
もらうから、それまで適当にぶらついてるわ。(アユミとサヨリに)じゃ、楽
しみにしてるわよ」
ウズラ、去る
サヨリ 「うわー、現役の女優さんが観るなんて・・・私が崖っぷちです」
イシカワ「旨いね」
ハナモト「で、えーと」
ウエノ 「ハナさん、コール曲」
ツバメ 「そうそう」
アユミ 「ハトヤマ先生。カーテンコールだけはまだ段取りも曲も決めていらっしゃいま
せんでしたが、どのように」
ハトヤマ「(焦って)ああ、その件なんですが・・・ !!ウズラさんが来てくれたのも何
かのめぐり合わせだ。皆さん! ちょ、ちょっとだけ、ちょーっとだけ待って
もらえませんか?! すみません! う、ウズラさーん!!」
ハトヤマ、走り去る
ウエノ 「なんなんでしょう」
ハナモト「待てって言われても時間がなぁ」
サヨリ 「アユミ先輩・・・」
アユミ 「大丈夫よ。(ハナモトに)申し訳ありません。先生にもなにかお考えがあっての
ことと思います」
ハナモト「よし。とりあえず今は仮で、こっちの手持ちで適当な曲を選ぶからよくある
パターンのカーテンコールで」
ツバメ 「だね。んじゃミカさん、曲の程よいとこでレベル煽るから」
ミカ 「うん、程よく明かり入れる」
ウエノ 「じゃ、程よく上手回りますんで」
ハナモト「程よく緞帳ダウンするわ」
イシカワ「客出しも程よくで」
おば 「程よく掃除します」
ミカ 「ハルカ、程よくピンでサーチだよ」
ハルサヨ「程よくってなんですかぁ~~??!!!」
アユミ 「さすがスタッフさん方、心強いです。ハトヤマ先生からの指示があり次第差し
替えということで」
ハナモト「本番中でも変更大丈夫だよ。対応できるから焦らないで」
アユミ 「ありがとうございます」
ウエノ 「んじゃ、やっちゃいますか」
アユミ 「よろしくお願い致します。いきますよ、サヨリちゃん」
サヨリ 「はい!」
アユミ・サヨリ、舞台の方に去る
ミカ 「調光室上がります。ハルカ! センターね!」
ハルカ 「え? せ、せんた・・・え??」
ミカ 「(歯軋りしながら)セ・ン・タ・ァ・ピ・ン・ス・ポ・ッ・ト・ラ・イ・ト!
・・・あそこにあってねぇ、そこからぁ、あの階段上ったらぁ、こぉんな
おっきなメガバズーカランチャーみたいなのをぉ、アンタがぁ」
ハルカ 「わぁーん! わ、わかりましたぁ~~(泣き)」
ミカ・ハルカ、去る
ウエノ 「ミカさん、程ほどに!」
ハナモト「ツバメちゃん、なんか適当に曲ね」
ツバメ 「(卓につきながら)はいな」
ハナモト「ハードコア以外ね」
ツバメ 「ちぇ」
イシカワ「ねね、ここで観てていい?」
ハナモト「仕事」
イシカワ「ない!(即答)」
ウエノ 「罪悪感というのもはないのか」
イシカワ「だってさぁ、もう潰れるかもしれないホールになんの仕事が」
一同 「え?!!」
ハナモト「イシカワちゃん、今なんて?!」
イシカワ「え? 何? えっと・・・え?」
ミカ(声「ハナさん、キューまだですか?」
ハナモト「(インカムを取り)ゴメンゴメン、すぐ。(舞台に)んじゃ54ページの村娘
の長ゼリからお願いします」
ウエノ 「イシカワさん、今の話」
ハナモト「後でゆっくり聞かせてもらうからね! それと!」
イシカワ「なんですか?」
ハナモト「おばちゃん、ここの掃除はいいって」
おば 「はぁ」
各々、作業をしている動きの中
暗転
ブリッジM
溶明
袖には、ハナモト・ツバメ・ミカ・ハルカ
そしてイシカワ
なんだか重い空気
小走りでやってくるウエノヤマ
ウエノ 「客入れ15分前でーす。ロビーはもうお客さんでいっぱいで・・・(空気を
察し)あ」
ハナモト「で、どういうこと? イシカワちゃん」
イシカワ「いやその・・・皆さん知っているものだと」
ミカ 「ま、薄々は感じてたけどね」
ツバメ 「ボロイ機材の入れ替えや補修も全然聞き入れてくれなかったですし。ね、
ハナさん」
ハナモト「とうとうここも、かぁ。あの新しい県知事になってから、ここも標的になる
んじゃないかとは思ってたけど」
ウエノ 「え?」
ミカ 「チクシよ。チクシ県知事。鳴り物入りで知事に当選したあの女」
ハルカ 「ああ! テレビで観ました! かっこいいですよねー」
ミカ 「どこが?」
ハルカ 「えー、また私なにかいけないことでも(涙目)・・・」
ウエノ 「しかし、チクちけん(噛む)、しくち(噛む) ・・・言いにくいなぁ」
ハナモト「誰かに試されてるみたいな名前ね」
イシカワ「その県知事が」
ウエノ 「あ、楽した」
イシカワ「採算の取れない県内の公共施設を次々に潰しているのは、みんなも知ってる
でしょ?」
ツバメ 「うん。いくら赤字だからって酷いよね」
ハナモト「儲けるための施設じゃないのに」
イシカワ「またやり方もキタナイというか・・・対象の施設に潜り込んで粗捜しするん
だって」
ミカ 「潰す原因を?」
ハルカ 「え?え? じゃあ、このホールにも来てるかもしれないってことですかぁ?」
一瞬、間
ハナモト以外のメンバー、わたわたし出す
ハナモト「落ち着いて! 今更バタバタしても仕方ないでしょ。今日来てるかどうかも
わからないんだし」
ウエノ 「あ、そっか」
ハナモト「とにかく今はやれることを全力でやる。今やれること、それは」
ウエノ 「それは?」
ハナモト「それは・・・」
と、やってくるアユミとサヨリ
サヨリ 「スタッフの皆さん、お弁当のご用意できてます!」
ミカ 「・・・メシね」
ツバメ 「メシメシ」
ハナモト「だね」
スタッフたち、口々に「メシ~」と言いながら去る
ひとり、想いにふけるサヨリ
アユミ 「サヨリちゃん、どうしたの?」
サヨリ 「アユミ先輩・・・このホールも、無くなっちゃうんですって」
アユミ 「え? ・・・そう。(ホール内を見渡し)時と共に、ひとつひとつ失われていく
のね。私たちと同じように。(台本に目をやり)まるで今日私たちが演じる物語
と同じね」
サヨリ 「先輩・・・」
アユミ 「でも、(台詞口調になり)『大丈夫。物は消えても、想いはそこに残る。ここに、
そして僕たちの胸の中に』・・・ね?」
サヨリ 「はい(涙ぐむ)」
アユミ 「ほら、泣かないの。スタッフさんも言ってらしたでしょう? 今は私たちに
できることを全力でやらなきゃ。ね」
サヨリ 「は、はい」
アユミ 「さ、舞台周りをチェックしておきましょう。小道具もね。なんせ私たちふたり
しかいないんだから」
サヨリ 「はい」
アユミ、サヨリを連れて去る
少ししてやってくる掃除のおばちゃん
アユミたちが去った方を見やり、ホール内にも目を配る
何かを思い、別方向に去る
少しして、ウズラとハトヤマがやってくる
ウズラ 「アンタ馬鹿?! 何言ってるのよ!」
ハトヤマ「そう言われると思いました」
ウズラ 「最期なのよ。なのになんで」
ハトヤマ「今回の作品・・・演劇部最期の作品は、僕たちが初めて演じた作品で・・・
ウズラさんが書いて、僕が構成して」
ウズラ 「そうよ。(台本を取り)『想いはいつも板の上』・・・戦争で潰されようとして
いる村、そこにただひとつ残った野外のステージを護ろうとする村の少女と
兵士の物語。最期の演目にはぴったりね。悲しいくらいに」
ハトヤマ「すみません」
ウズラ 「何言ってんの。この作品をやるって聞いたから、撮影ほっぽり出して飛んで
きたんじゃない。でも・・・なんでカーテンコールをやめるなんて思ってるの」
ハトヤマ「本当に」
ウズラ 「え?」
BGM・悲しい音楽2
ハトヤマ「本当に終わってしまいそうで・・・ カーテンコールは『ありがとうございま
した;』とお客様に感謝をするものです。でもそれとは別に、『次はもっといい
作品を用意しますので、また是非お越し下さい』という願いも込められている。
でも僕たちには次はもうない。あのコたちが頭を下げた瞬間、もう僕たちはお
芝居ができなくなってしまいそうで・・・・・ツバメくん、BGMありがとう」
ツバメ 「はーい」
いつの間にか戻ってきていたハナモト・ウエノヤマ・ツバメ
ツバメ、BGMを止める
ウズラ 「アンタ馬鹿? 何言ってるの。この作品の本当の意味解ってる?」
ハトヤマ「本当の意味?」
と、舞台側からガタン!という大きな音と何かが壊れる音が響く
サヨ(声「きゃー!」
アユ(声「大丈夫? サヨリちゃん!!」
舞台の方へ駆け寄る一同
ハナモト「どうしたの?!」
ウエノ 「(舞台を見て)ああ!!」
ハナモト「ちょっと大変!」
袖に戻ってくるアユミ
ハトヤマ「大丈夫かい?!」
アユミ 「すみません、舞台が」
ハナモト「そんなのはいいから」
ウエノ 「見てきます!」
ウエノヤマ、舞台の方へ去る
アユミ 「私は何ともありませんから。それよりも大事な小道具が」
ハナモト「え?」
と、割れた壺のカケラを持って戻ってくるサヨリ
ハトヤマ「サヨリくん、それまさか・・・」
サヨリ 「う、う・・・すみませぇん(泣き)」
ウエノ 「(戻ってきて)ちょっと、素手じゃ危ないから!」
ウエノヤマ、手袋をはめた手で破片を受け取る
ハナモト「ウエノくん」
ウエノ 「すみません、箱馬がボロボロで不安定だったみたいで平台が崩れてしまって」
ハナモト「何やってたのよアンタ!!」
ウエノ 「すみません!!」
ツバメ 「(アユミたちに)ケガはない?」
アユミ 「はい。申し訳ありません、折角組んで頂いた舞台が。それに照明機材も」
ハナモト「いいのよそんなの気にしなくて」
駆け込んでくるミカとハルカ
ハナモト「ミカちゃん!」
ミカ 「聞こえた。ハルカ、コロガシの破損チェックとシュートし直し!」
ハルカ 「はい!!」
ミカ・ハルカ、舞台の方へ走って去る
ハナモト「先生、みんな、本当に申し訳ありません。私の責任です」
ハトヤマ「いえ・・・まぁ、ケガはなかったんですから」
サヨリ 「(泣きじゃくりながら)でも・・・壺が・・・大事な・・・ 申し訳ありません
・・・」
アユミ 「あなたのせいでも・・・誰のせいでもないわ。不可抗力なんだから」
ウエノ 「すみません・・・ 平台、復旧してきます」
ハナモト「お願い。 ・・・怒鳴って悪かったね」
ウエノ 「・・・いえ」
ウエノヤマ、ガチ袋を腰にはめて舞台の方に去る
ウズラ 「ハトヤマくん、確かにこの作品では壺は重要なアイテムだけど・・・今回、
そんなに高価なものを用意したの?」
ハトヤマ「はい。実は今年就任したチクシ県知事が学校に寄贈してくれたものなんです。
校長先生が『演劇部の最期の舞台だから、いいものをお使いなさい』と言って
お貸し下さったんですが」
ツバメ 「好意がアダになっちゃったか」
いつの間にか、壺の破片をチリトリに集めた掃除のおばちゃんがやってきている
ハナモト「そんなに高価なんですか、これ」
ハトヤマ「伊万里焼きで・・・確か市価百数十万とか」
一同 「ひぃー!!」
サヨリ 「うわぁーん!!(号泣)」
ハナモト「ととととりあえず、本番用に何か代わりの壺を用意するとして」
ハトヤマ「いえ、それもマズイような」
ツバメ 「どうしてですか?」
ハトヤマ「校長先生も本番観に来られます。もし違う壺を使っているのがわかったら」
一同、ため息
ハナモト「よりによって・・・こんな時に・・・」
ウズラ 「どちらにしても、元に戻すしかないわね」
ハナモト「どうやって?! あんな粉々に(と、おばちゃんのチリトリに目が留まり)
・・・おばちゃん。今回だけはありがとうね」
おば 「いえ。捨てない方がいいんですね、これ」
ウズラ 「ええ。捨てたらダメよ、その破片も望みもね。こうなったら最後の手段・・・
彼の出番だわ」
ハナモト「え?」
ウズラ 「この粉々の壺を見事元通りに戻すことができる唯一の男を知っているわ」
一同 「ええ?!!」
ウズラ 「あまり期待しないでね。これは賭けよ」
ウズラ、携帯を取り出し電話をかけつつ去る
困惑する一同
と、戻ってくるウエノヤマ
ウエノ 「平台復旧オッケーです。ガチガチに固めておきました。 ・・・あれ? どう
したんですか?」
ハナモト「あの壺、元に戻るかもしれないんだって」
ウエノ 「まさか! (おばちゃんのチリトリを指し)こんな粉々なのに、っておば
ちゃん!」
おば 「大変ねぇ」
ハトヤマ「壺が出るのは物語の後半です。今はギリギリまでウズラさんに託しましょう」
ハナモト「それしかありませんね。そろそろ開場時間だし」
ミカ・ハルカが舞台から戻ってくる
ミカ 「照明オッケーです。そろそろ客入れでしょ? 緞帳閉めていいですよ」
ハナモト「ありがと。んじゃ・・・(アユミたちの方を伺う)」
アユミ 「はい、私たちは本番準備に入ります。ほら、サヨリちゃん、涙でメイクが台無
しよ。壺のことは皆さんにお任せして」
サヨリ 「でも・・・でも」
アユミ 「しっかりしなさい!!」
一同、沈黙
アユミ 「今、役者としてできることを考えなさい。そして信じなさい、私たちを支えて
下さっている皆さんのことを」
サヨリ 「・・・はい。すみませんでした」
アユミ 「では皆さん、本番よろしくお願い致します」
サユリ 「よろしくお願い致します」
アユミ・サヨリ、一礼して楽屋の方に去る
ツバメ 「いい後輩を持って幸せですよ、先生」
ハトヤマ「本当に」
ハナモト「よし! 私たちも信頼に足る仕事をしないとね。客入れ準備! 緞帳ダウン
しまーす!」
ウエノ 「はい!(上手に去る)」
ミカ 「客電スタンバりますね。ハルカ!」
ハルカ 「はい!」
ミカ 「フロアは任せたわよ。自信持ちな(去る)」
ハルカ 「は、はいっ!!」
ツバメ 「(卓について)客入れBGM、いつでもオッケーです」
ハナモト「先生?」
ハトヤマ「はい。お願いします」
ハナモト「では開場します。(内線電話で)イシカワちゃん、開場オッケーよ」
ハトヤマ「後はウズラさん頼みか・・・」
ハナモト「ええ」
BGMが流れる
照明変化(しばしの時間経過)
ハトヤマ、一礼して楽屋に去る
スタッフは各自、一息ついたり台本や機材をチェックしたり
(ウエノヤマも戻ってきている)
掃除のおばちゃんは、その間に破片を箱にキレイにまとめ、スタッフたちの行動を
少し見守った後、去る
しばしして照明戻り、
携帯を手にしたウズラが駆け込んでくる
ウズラ 「やったわ!!」
ハナモト「つかまったんですか?! その人!」
ウズラ 「ええ、奇跡的にね。もうこっちに向かってきてくれてるわ」
ウエノ 「何者なんですか、その人」
ウズラ 「コードネームは『ソラエモン』。本名・経歴一切不明。でもこの業界では有名な、
伝説の造型アーティストよ。美術セットや小道具・・・彼に造れないもの、復
旧できないものはこの世に無いと言われている、神の手を持つ男よ」
ハルカ 「『ゼロ』みたいですね」
ツバメ 「え? なんでルルーシュ?」
ハルカ 「いえ、里見桂の漫画の方です。『ザ・マン・オブ・ザ・クリエイション』」
ツバメ 「ハルカちゃん、マニアックすぎ」
ハルカ 「(半泣き)漫画くらいしか趣味がないもんでぇ」
ウズラ 「たまたまこの間映画の撮影で彼に出会ったの。見事な腕だったわ。一発撮り
だった別荘が焼け落ちるシーンを、監督の我が侭でリテイクになって。呼ばれ
た彼は、ものの2時間で別荘を元通りにしたわ」
一同 「凄すぎる・・・」
ウズラ 「撮影の後、私、彼と意気投合して・・・『困った時はいつでも呼びな』って連絡
先を教えてくれたの。アンタたちラッキーだったわね」
ハナモト「ホントにそんな凄い人なら、なんとかなるかも知れないわね」
と、やってくるイシカワ
イシカワ「あの、なんか変な人が来てるんですけど。『カンドリ ウズラ』に呼ばれて来た
って」
ウズラ 「彼よ!! ありがとうソラエモン! よく来て」
と、イシカワの後からやってきたのはウェディングドレス姿の女
女 「よっ。待たせたな」
一同 「え?!!」
ウズラ 「あ、あの・・・失礼ですが」
女 「俺だよ。ソラエモンだ」
一同 「ええー!!!!」
ウズラ 「ソラエモン?? 本当に??」
ウエノ 「男じゃなかったんですか?」
ソラ 「え? (自分の姿を確認し)ああ、これ? ちょっと気分転換に性転換して
みた」
一同 「はぁ???」
ハルカ 「性別って気分でホイホイ転換できるんですかぁ?」
ウズラ 「(落ち着きを取り戻し)その破天荒さ、確かにソラエモンね。でもその格好は」
ソラ 「(ドレスを見て)ああ、気分転換ついでに結婚でもしてみようと思ってな。
披露宴の最中だったんだ」
ウズラ 「!! いいの? そんな時抜け出して来て!」
ソラ 「ふっ・・・他ならぬウズラさんのためだ。結婚なんていつでもできる。だが
ここにある危機は今しかない」
ウズラ 「ありがとう!」
イシカワ「なんだかわかんないけど、只者じゃないってことはわかったわ」
ソラ 「で、問題のブツは?」
ウエノ 「え? あ、これです!」
ウエノ、破片の入った箱をソラエモンに渡す
ソラ 「(箱を覗いて)ふん、古伊万里か。厄介だな」
ウズラ 「なんとかなりそう?」
ソラ 「時間は?」
ウズラ 「えと、もうすぐ開演だから・・・」
ハナモト「壺の出番まで約40分強」
ソラ 「(笑って)キツイなぁ」
ウズラ 「無理?!」
ソラ 「ふっ・・・任せな」
一同 「おおぉ!!」
早速作業にかかるソラエモン
と、やってくるハトヤマ・アユミ・サヨリ
ハトヤマ「あの壺、なんとかなりそうなんで(ソラエモンの姿を見て)って! え? 催
し物替わったんですか?!」
ウズラ 「ハトヤマくん、事情を話すと長くなるけど・・・ともかく、彼がなんとかして
くれるから安心して」
ハトヤマ「え? 彼?え?」
アユミ 「なるほど。よろしくお願い致します」
イシカワ「動じないわねこのコ」
サヨリ 「ホントに・・・ホントに大丈夫なんですね(泣き)」
アユミ 「大丈夫。見て、あの方の只ならぬ佇まい・・・只者ではありませんわ」
ウエノ 「そう言う君も只者じゃないよ」
アユミ 「お褒めに預かり光栄です。それよりハトヤマ先生、カーテンコールの件は?」
ハトヤマ「ああ・・・それなんですが(ウズラの方を見る)」
ウズラ 「やるわよ、もちろん。(ハトヤマに)ね?」
ハトヤマ「え?」
ウズラ 「このトッチャン坊やは、なんだか最期最期って感傷に浸ってるみたいだけど、
これが最期なんかじゃない! 芝居は・・・舞台は、いつどこにいたってでき
る。素晴らしい作品を届けようという役者とスタッフの想いがあればね。だか
ら、今日こそきっちりお客様にカーテンコールで感謝の気持ちを伝えなきゃ」
ハトヤマ「ウズラさん・・・」
アユミ 「おっしゃる通りですね。では曲は・・・(ハトヤマに耳打ち)CDは持ってきて
います。よろしいですか?」
ハトヤマ「え?! あ、はい。もちろん」
ツバメ 「決まりね。んじゃハナさん、そろそろ」
ハナモト「お、5分前だ。1ベル入れますよ! 役者、スタンバって!」
アユミ 「よろしくお願い致します」
サヨリ 「よろしくお願い致します!」
イシカワ「頑張ってね!」
ハナモト「イシカワちゃんもね(ロビーの方を指差す)」
イシカワ「いけね!(走り去る)」
一同、よろしく、などと
アユミ・サヨリ、舞台の方に去る
ハナモト「(インカムで)ミカちゃん、1ベルでーす」
ミカ(声「はーい」
ハナモト、ベルを入れる
鳴り響くベルの音
ウエノ 「ハナさん、影アナは?」
ハナモト「え?! あ! あー!! (舞台の方に)ちょっとアユミちゃん! えと」
わたわたする一同
と、作業をしていたソラエモン、すっと影アナマイクの方に近づき、ベル終わりで
ソラ 「(マイクで)間もなく開演でございます。ロビーにおいでのお客様はお早くお席
におつき下さい。尚、お客様にご注意とお願いがございます。場内は飲食喫煙
は禁止となっております。また、お手持ちの携帯電話は電源をお切り下さいま
すようお願い申し上げます。それでは開演まで今しばらくお待ち下さいませ」
一同、ぽかん
ソラ 「すまねぇ、出娑婆っちまったな(作業に戻る)」
一同 「完璧だ・・・」
ハトヤマ「ウズラさん、ありがとう。あとは客席でゆっくり」
ウズラ 「水の臭いがするわよ。ここで観させてよ」
ハトヤマ「えと(スタッフたちの方を気にする)」
ハナモト「いいですよ。丸イスしかありませんが」
ウズラ 「充分。ね、ハトヤマくん・・・あのコ、コールは何って?」
ハトヤマ「それがですね」
ウエノ 「オンタイムです! ハナさん」
ハナモト「(周りに)開演しますね?! ・・・では開演いたします。本番よろしくお願い
致します」
一同、各々よろしくなど
ハナモト「(舞台に)本ベルでーす! (インカムで)本ベルです。ベル終わりで影入って
・・・あ!」
また空気を察したソラエモン、影アナマイクの方に近づく
ソラ 「ふっ、水の臭いがするぜ。演目は?」
ウエノ 「はい!(台本を渡す)」
ソラ 「(表紙を見て)いいタイトルだな、ウズラさん。仕事のし甲斐がある」
ウズラ 「でしょ?」
ハナモト「(舞台とインカムへ)本ベルです!」
ハナモト、ベルを入れる
ベル終わりで
ソラ 「お待たせ致しました。只今より黒崎高校演劇部・定期公演『想いはいつも
板の上』を上演致します。最後までごゆっくりご鑑賞下さい」
鳴り響く拍手
ハナモト「緞帳UPです! ・・・動けよ」
しばしの間
無事に緞帳が上がり開演
劇中のBGMや効果音などが鳴り響き、芝居が始まった様子
ウエノ 「ふぅ・・・なんとか開きましたね」
ハナモト「なんとかね。 ・・・ハルカちゃん、大丈夫?」
ハルカ 「はい! ミカさんに任されたからには!」
ウエノ 「おー、一人前」
ハナモト「誰でも逆境を乗り越えて一人前になるものよ」
ハルカ 「うわーん!(号泣)」
ウエノ 「いきなり脱落?!」
ハルカ 「いえ・・・ 前半のこのシーン、泣けますよねぇ~(更に泣き)」
ハトヤマ「そう言って頂けると」
ハナモト「いやホント。お世辞抜きにいい芝居ですよ、これ」
ウズラ 「ふふん♪」
いつの間にかきている掃除のおばちゃん
ハナモト「戦争で占領され、焼き払われようとする村。そこに只ひとつ残ったステージを
護るひとりの村の少女」
ウエノ 「そこに攻め入る側の兵士が少女の想いに打たれ、軍に反旗を翻しステージを護
る手助けをする」
ウズラ 「(セリフで)『この村の・・・この舞台がみんなの唯一の心の拠り所だった。
この板の上で歌い、踊り、お話しを演じて・・・ ここを潰されたら私たちは』
なーんて」
一同 「おお~!」
ハトヤマ「(同じくセリフで)『護りたかった、ここを。護りたかった、君の・・・君たち
の想いを。でもここはもうダメだ。焼かれる・・・全てが焼かれてゆく』」
ウズラ 「ハトヤマくん?」
ハトヤマ「(熱が入り)『けれど大丈夫・・・物は消えても、想いはそこに残る。ここに、
そして僕たちの胸の中に!!』」
しばし間
ツバメ 「先生、かっこいいですよ」
ハルカ 「う・・・うわーーん!!(号泣)」
ハトヤマ「は!! 僕としたことが! お、お恥ずかしい」
ハナモト「なんか、他人事とは思えないですね」
ハトヤマ「え?」
ハナモト「このホールも潰されちゃうらしいんです。新しい県知事が赤字だからという
理由で。そりゃ今まで派手な催しはできませんでしたよ。カラオケ大会だった
り、幼稚園の発表会だったり、商店街の寄り合いだったり・・・地味なものば
かりでした」
ウズラ 「地味だけど、どれも大事なことだわ」
ハナモト「ええ。それだけここは地元のみんなにとって大事な場所だった。けど」
ウズラ 「(舞台の方を見やり)この舞台と正に同じね」
ウエノ 「さしずめチクシ県知事は村に攻めてくる敵軍、ですかね」
おば 「はは。上手いこと言う」
一同 「!!」
ハナモト「おば・・・ちゃん?」
おば 「!! あ、持病の癪が(去ろうとする)」
ツバメ 「(立ちふさがり)ちょっと! アンタ怪しいなぁ」
おば 「なにが?」
ウエノ 「おばちゃんなんでしょ?」
おば 「え?」
ハナモト「アンタそれっぽいよ」
おば 「ですからなにが?」
ウズラ 「なに? なんなの?」
ミカ(声「間もなく村娘がハケて暗転です」
ハナモト「! (インカムに)了解」
おば 「では私はこれで(去ろうとする)」
ハナモト「ちょっと!」
と、舞台から満身創痍で帰ってくるサヨリ
袖に入った途端、倒れ込む
ハトヤマ「サヨリくん!!」
ウズラ 「(駆け寄り)過呼吸よ。緊張しすぎたのね」
サヨリ 「す、すみませ・・・ん・・ 衣装の・・早替えが・・・」
ハナモト「この後は?!」
ウエノ 「(台本を繰り)兵士の夢のシーンです。娘がドレス姿で現れて」
ツバメ 「でもこんな状態じゃ無理ですよ! 先生?」
ウズラ 「サヨリくん・・・」
サヨリ 「(息の絶え絶えに)だ・い・じょうぶ・・です・・・わたし」
ツバメ 「BGM、間もなく終わります!」
ハナモト「リピート! できる限り伸ばして!」
ウエノ 「(インカムで)ミカさん、トラブルです。ちょっと暗転伸ばして下さい」
ハナモト「待って。ドレスって言ったわね」
一同、はっとしてソラエモンの方を見やる
ソラ 「(ゆっくり振り返り)おいおい」
ソラエモンに詰め寄る一同
ハナモト「これも・・・ドレスよね」
一同 「うんうん!」
ソラ 「おいおい、気持ちは解るがさすがに無茶ブリだろう」
ウズラ 「ソラエモン、お願い・・・ あなたしかいないわ」
ソラ 「ウェディングドレスだぞ。話、変わっちまわないか?」
ウズラ 「より良くなるわ!」
ハトヤマ「娘のウェディング姿! 兵士、萌えぇ!!」
ソラ 「・・・ち、しょうがねぇなぁ。台本」
ウエノ 「はい!(渡す)」
ソラ 「(台本を高速で読み)ふん、ふん・・・ とりあえずこの夢のシーンだけ繋げば
いいんだな」
ウズラ 「お願いできる?!」
ソラ 「ピンチが人を強くするのさ」
ハトヤマ「セリフ、プロンプしましょうか?」
ソラ 「いい。憶えた」
一同 「凄すぎる・・・」
ソラ 「しかし助けるのはこのシーンだけだ。俺はあくまで裏方なんでな。それまで
に・・・(サヨリに)お嬢ちゃん。ちゃんと戻ってこいよ。女優だろ? アン
タの先輩は、しっかり女優やってるぜ」
サヨリ 「・・・はい」
ツバメ 「曲終わります!」
ソラ 「行ってくら(舞台に去る)」
一同 「お願いします!!」
舞台の方を固唾を飲んで見守る一同
ウエノ 「あ、アユミちゃん、あからさまに戸惑ってますね」
一同、ゼスチャーでソラエモンが代役であることを伝えようとする
(作註:動きはそうと見えなくていいです)
ハナモト「あ、わかってくれたみたい! さすが」
ハトヤマ「あのコはできる子です」
おばちゃん、しばしこの状況を心配そうに眺めていた後、安心して
こっそりと去ろうとする
ハナモト、それを見咎めて
ハナモト「おばちゃん! アンタの話は終わってないよ!」
立ち止まるおばちゃん
ハナモト「・・・アンタなんでしょ、チクシ県知事」
おば 「は?」
ウエノ 「とぼけるのもいい加減にしろよ!」
緊迫した間
おば 「もし私が」
ハトヤマ「やっぱりこの」
おば 「黙れ地方公務員!!」
ハトヤマ「どーん(落ち込む)」
おば 「もし・・・もし私が、そのちくちけ(噛む)」
ウエノ 「噛んだ!」
ハナモト「自分の名前噛むってどうかしら」
ツバメ 「いや、誤魔化すためにわざとじゃ」
ウズラ 「侮れないわね」
おば 「ともかく!」
ウエノ 「あ、流した」
おば 「県の財政は逼迫しています。少しでも無駄をなくし、切り詰めていかなければ
いずれここに住む皆さんにその反動がくるんですよ。税金しかり、保険料しか
り」
一同 「・・・・・」
おば 「と、選挙では言ってました。 ・・・あ、チクシ県知事がね!」
ツバメ 「(ぼそっと)はいはい」
と、いつの間にか戻ってきているソラエモンとアユミ
サヨリの様子を気遣いつつ、この話しにも耳を傾けている
おば 「(咳払い)なにも、どれもこれも否応なく潰そうなんて思っていません。県知事
わね。あくまで地元の皆さんの忌憚のない意見を採取した上で考慮を・・・
と、県知事はね!」
ウズラ 「いちいちめんどくさいわね」
サヨリ 「勝手です、そんなの」
おば 「え?」
サヨリ 「勝手すぎます!! 私たちの何を知ってるというの!?」
サヨリ、舞台の方に駆け去る
アユミ 「そうだ、やつらは何もわかっていない。だから戦うんだ僕らが! このステージを護るために! 命を賭して!!」
アユミも舞台へ去る
ハナモト「(おばちゃんに)セリフですよ。ただの」
おば 「・・・」
ソラ 「(壺の作業に戻りながら)老婆心ながら言わせてもらえれば」
ウズラ 「ソラエモン?」
ソラ 「俺は只の流れモンだが・・・縁あってここにいる。(舞台の方を見て)あのコ
ら、そして(一同を見渡し)こいつらが、必死にこの舞台をやりとげようと
しているところに手助けにきた只のヤクザもんだ。けどな」
おば 「だったら黙って」
ソラ 「黙ってられねぇから喋ってんだ!!!」
おば 「・・・・・」
ソラ 「舞台ってのはなぁ、生モンだ。やり直しがきかねぇ。ま、人生と一緒だな。
それを、いろんな障害に見舞われながら、つまづきながらも、観に来てくれた
お客さんのためにって必死になってやる。今のコイツらの様に。だから俺も手
を貸したくなった。そんな俺やコイツらは・・・つまんないヤツらかい?」
おば 「それは」
ソラ 「アンタの言いたいこともわかる。ここを潰したいなら潰せばいいさ。けどな、
この板の上が無くなったって、(舞台上の)アイツらや俺たちは、どこででも
演目をやり続けるぜ。雑草だらけの原っぱだろうが焼け落ちた廃墟だろうが、
想いがあればそこは板の上だ」
おば 「そう・・・ですか」
ソラ 「それと!!!」
おば 「え?!!」
ソラ 「(完全に元に戻った壺を差し出し)コイツの出番がまだだぜ」
おば 「それは?!!」
ソラ 「この『俺』が直したんだ。アンタにこの意味、わかるか?」
おば 「え?」
ウエノ 「間もなく村娘戻ります!」
ハナモト「壺だ!」
サヨリ、駆け込んでくる
サヨリ 「(周りをきょろきょろし)はぁはぁ・・・(壺に目が留まり)はっ!!」
ソラエモン、サヨリにすっと壺を差し出す
ソラ 「さ、プロの仕事をしたぜ。(スタッフを見渡し)コイツらもな。あとはお嬢
ちゃん、アンタとあの先輩の番だ。頼むぜ」
サヨリ 「(意を決し)はい!!」
サヨリ、勢い良く舞台の方に去る
ツバメ 「よーし、クライマックスだ。BG煽るぜ!」
ハナモト「ツバメちゃん!」
ツバメ 「(冷や汗)あっと」
ハナモト「ガンガン突っ込んで!!」
ツバメ 「はいな!!」
ウエノ 「(インカムで)ミカさん、BGM突っ込むみたいですよ!」
ウエノヤマ、ハナモトにしたり顔でニヤリ
ハナモト、親指を立てる
ミカ(声「なんだと~~ 明かりも負けてられっか! ハルカ!」
ハルカ 「はい!!」
ミカ(声「上がってこーい! いくぜ!!」
ハルカ 「はい!!(去る)」
盛り上がる劇中の音楽
舞台に見入る一同
ウズラ 「あっははっは! たーのし! 私たちの時、こんなのなかったよね!」
ハトヤマ「幸せです。僕も・・・あのコたちも」
ウズラ 「・・・うん」
ハナモト「間もなくエンディング! あ!コール曲は?」
ツバメ 「先生?!」
ハトヤマ「あ、これです! (CDを取り出し)3曲目アタマからでお願いします!」
ツバメ 「(CDのタイトルを見て)『ばっち』か」
ソラ 「(CDを覗き込み)バッハと読む」
ツバメ 「知ってる」
おば 「(同じく覗き込んで)・・・『主よ、人の望みの喜びを』」
ウズラ 「え? それって」
ハトヤマ「はい。僕らが初演の時に使った曲です。アユミくん、ちゃんと調べてたんです
ね。あのコらしい」
おば 「人の・・・」
一同 「え?」
おば 「人の・・・望みの、喜び・・・・・」
一同 「・・・・・」
ミカ(声「暗転! 素晴らしい!!」
盛大に鳴る拍手
スタッフたちも思わず舞台に向かって拍手
戻ってくるアユミとサヨリ
アユミ 「先生、コール曲はあれで」
ハトヤマ「ええ、最高の曲です。ありがとう、アユミくん、サヨリくん」
ア・サ 「先生・・・」
ツバメ 「コール曲入ります!」
ハトヤマ「さ、いってらっしゃい」
ア・サ 「はい」
アユミ、サヨリ、また舞台に去る
曲が流れる
また割れんばかりの拍手
ウエノ 「はぁあ~、よかったですね、なんとか終われて」
ハナモト「ホントに。ツバメちゃん、お疲れ。(インカムで)ミカちゃん、ハルカちゃん
もお疲れ」
ハル(声「え?なんか変! ミカさん、おかしくないですか?!」
ミカ(声「あれ? サスが狭まって・・・ ハナさん! サスは?!」
ハナモト「なに?!」
ウエノ 「(舞台上方を見て)ハナさん! サスのバトンが段々降りてきてます!!」
ハナモト「なんだって?!!」
と、ロビーの方から聞こえる雄叫び
(声) 「うおぉおおぉおおーー!!!!」
走り込んでくるイシカワ
下手奥にある綱場に入り、綱を引っ張って止める
ハナモト「イシカワちゃん!!」
イシカワ「客席から観てておかしいなぁって思ったのよ! 照明バトンがずり落ちてるん
じゃないかって・・・(踏ん張りながら)やっ・・ぱ・りぃいい!!」
スタッフたち、イシカワに手を貸し綱を引っ張る
ハトヤマやウズラ、ソラエモンも総出で綱に手を掛ける
おばちゃんだけはどうしていいかわからず立ち尽くしている
ウエノ 「くぅ・・・前からストッパーがイカレてたんだよなぁ」
ハナモト「い、イシカワちゃん・・・なにもアンタがわざわざ」
イシカワ「私だってこのホールの人間よぉ!!」
おば 「!!!」
おばちゃんも手を貸す
何回か全員の掛け声
「せーーの!!」
ハナモト「よし戻った! ウエノくん、ストッパー仕切れ!!」
ウエノ 「はい!!!」
走り込んでくるミカとハルカ
ミカ 「ハナさん!」
ハナモト「収めた。(舞台を見て操作卓に走り)緞帳ダウンでーす」
しばしの間
緞帳が決まり、ホッとする一同
ハナモト「あっ!」
と、ソラエモン、影アナマイクの方に近づいて
ソラ 「(カフを上げ)以上で本日の公演は終了でございます。お忘れ物なきようお気を
つけてお帰り下さいませ。尚、アンケートにつきましては」
ハトヤマ、『そんなのないない!!』とゼスチャー
ソラ 「今回はございませんのでご了承下さい。本日はご来場、誠にありがとうござい
ました(カフを切る)」
ハナモト「最後までホントに」
ソラ 「ふ、水の臭いがするぜ」
舞台から戻ってくるアユミとサヨリ
アユミ 「皆さま、本当にありがとうございました」
サヨリ 「なかなか緞帳が閉まらないんでドキドキしましたが(スタッフたちの満身創痍
な姿を見て)・・・ありがとうございました。またよろしくお願い致します」
アユミ 「・・・また、よろしくお願い致します」
一同、お疲れさまでした、などと
ハトヤマ「ウズラさん。解りましたよ、このお芝居の本当の意味」
ウズラ 「解るはずよ。このコたちを見てれば」
ソラ 「お疲れウズラさん。いい・・・舞台だったな」
ウズラ 「当たり前よ。私が書いたんだから」
ソラ 「ああ。作品もそうだが・・・(周りを見渡し)ここが、な」
ソラエモンと目が合ったスタッフ、そして役者たち、各々照れながらも
笑顔やピースサインなどを返して答える
なんとなく居心地が悪く、こっそり去ろうとするおばちゃん
ソラ 「(おばちゃんに)アンタもお疲れさん」
おば 「え? あ、私は」
ソラ 「な、思わず手を貸したくなるだろ?」
おば 「・・・」
ソラ 「あとあの壺な・・・急場だったから金接ぎで凌いだが、(名刺を切り)必要なら
あとでここに持ってきな。焼き直しで接いでやる。ただな」
おば 「は?」
ソラ 「モノはいつか壊れて消えるが、想いは残る。いつまでもな」
一同 「・・・・・」
ソラ 「んじゃ、俺は行くわ。ウズラさん、みんな・・・縁があったらまたどっかで
会おうぜ」
ウズラ 「ソラエモン! あなた、これからどうするの?」
ソラ 「さぁな。風にでも聞いてくれ」
ソラエモン、颯爽と去る
一同、感嘆
ふとハルカ、おばちゃんの手にあるソラエモンの名刺を覗き込み
ハルカ 「え? えーー!! この人!!!」
ミカ 「なにハルカ、知ってるの?!」
ハルカ 「き、『北大路空人』・・・かの日本を代表する美術家であり陶芸家の北大路
魯山人の息子さんです!」
一同 「ええー!!!」
ミカ 「なんでアンタそんな知識」
ハルカ 「『美味しんぼ』の海原雄山のモデルになった人ですもの!!」
一同 「へ、へぇ・・・」
ハルカ 「あの空人先生が接ぐ・・・つまり補修して下さったものなら、現物以上の価値
が出ますよ!」
一同 「おおぉ」
ハトヤマ「しかし魯山人先生の息子さんなら、年齢的に60は超えてるんじゃ」
一同 「!!!」
ウズラ 「さすが。只者じゃないわね」
イシカワ「(おばちゃんの顔を見て)あら? そういえばあなた見ない顔ね。新人さん?」
おば 「え? わ、私は」
ハナモト「さーて! バラシだよみんな!」
ウエノ 「撤収撤収!(舞台の方に去る)」
イシカワ「え?え??」
ミカ 「ハルカ!」
ハルカ 「まずはコロガシとSSバラシます! サスは?」
ミカ 「うん。1サスから降ろすから灯体常戻し。色も全部抜いて」
ハルカ 「はい!!(舞台に去る)」
ミカ 「・・・わかってきたじゃん(去る)」
ツバメ 「音響卓もバラしまーす。(ハトヤマにCDを差し出し)先生、これ。また使う
でしょ?(片付けを始める)」
ハトヤマ「ありがとうツバメくん。(アユミとサヨリに)ふたりともホントお疲れさま。さ、
片付けましょう」
ア・サ 「先生・・・」
ハトヤマ「ダメ出しは明日放課後にね。さ。(舞台の方に去る)」
ア・サ 「はい!(追いかけて去る)」
ウズラ 「ハトヤマくん・・・私もダメ出しに行くわよ!(同じく去る)」
イシカワ「えっと、ハナさん?」
ハナモト「この見慣れない掃除のおばちゃんは、明日もこの舞台をキレイにしてくれるん
だってさ。明日も明後日も・・・これからもずっと」
おば 「え?!」
イシカワ「え? ・・・ああ!! も、もしかし」
ハナモト「想いがこの板の上にある限りずっと・・・でしょ?」
おば 「・・・」
ハナモト「さて、私もバラシ手伝うか。イシカワちゃん、受付は?」
イシカワ「おっと。いっきまーす」
ハナモト「んじゃおばちゃん、明日からもよろしく」
おば 「え?」
ツバメ 「はは、明日からもよろしく(去る)」
イシカワ「よろしく~(去る)」
ひとり残ったおばちゃん、去ったスタッフたちや周りをゆっくり見渡し
M
おば 「明日からも・・・よろしく、か」
ポケットから携帯を取り出すおばちゃん
電話をかけ始める
ゆっくりと暗転
暗転中、電話の呼び出し音
やがて繋がり
おば(声「私だ。遅くにすまない。例のそよかぜホールの件だが・・・ そ・よ・か・ぜ。
え? 何? 私よ。ですから私です! ちくちけ(噛む)」
M、カットアウト
おば(声「噛んじゃった」
音楽!!
カーテンコールなど
初稿 2008年11月8日
役者であれ、裏方であれ、ただの掃除のおばちゃんであれ・・・ 舞台に携わっているひとは須らく大好きだ、という想いをいっぱい込めて書きました。