呉秀三博士、『疑疾』を説明する。
楽廣という河南地方の長官の友人で、役所でよく一緒に酒を飲んでいた人が、ばったりと来なくなってしまったという話が『晋書』にある。楽廣が話を聞いてみると、「以前一緒に飲んだときに、盃の中に蛇が見えて気分が悪くなった。蛇が腹に入って来るような感じがして、全然気が休まらない」という。その後、同じ役所でもう一度酒席をともにした時に楽廣はピンと来た。壁の上に、動物の角で作った弓が飾ってあり、それに蛇の絵が描かれていたのだ。楽廣が友達を以前と同じ場所に座らせて盃を渡し、また蛇が見えるか、弓の絵が酒に映っているんだと教えてやったら、たちまち友人の病気は治ったという。有名な「杯中蛇影」の故事である。
類話を挙げよう。
『北夢瑣言』より。ある婦人が夫について南中に帰ったが、ある時あやまって何かカエルらしきものを飲み下してしまった。それ以来、ずっとそれを心配していて、とうとう病気になってしまった。何人もの医者に見せたのだが治らない。そこで京城の名医であった呉元禎に診せたところ、呉は家の人を呼んで言った。「今から患者に薬を与えて吐かせるから、お盆で吐いたものを受ける時、小さな蛙が飛び出してきたと言いなさい。このことは秘密だぞ」この方法はうまくいき、女性の病気はたちまち治ったと書かれている。
『名医類案』にも似た話がある。ある人が婚家でお酒を飲み過ぎ、泥酔してその晩は泊っていった。夜中に喉が渇いて、暗いなか外に出て石の水槽をみつけて、お椀一杯ぶんくらいの水を飲んだ。朝になってその石槽を見てみると、その中には赤い小さな虫がウジャウジャ湧いていたのだった。びっくりして震え上がり、鬱々としていた。胸に蛆が湧いてみぞおちを塞がれてしまったようだった。日が経つにつれて病気は酷くなり、どんな治療も効果がなかった。呉球という名医を招いて治療を求めたところ、心配のし過ぎから来る病気だと見抜いて、紅色の糸をほどいて細かく切り、ハズの種と米とともにこね混ぜて丸薬を作った。そして暗い部屋の中で病人に丸薬を飲ませた。そのまま病人には暗室にいるように命じ、用便は水を入れた盆の中にさせていた。その後、部屋の窓を開けて本人に、便の中に漂っている蛆のようなものを見せると、病気はだんだん良くなって半月で全快したという。
なかなか面白い大昔の精神療法である。




