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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
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不可解な品

 魔物を掃討した後、調査員達は作業に戻る。原因は結局解明されなかった。魔法自体は正常に起動していたらしいのだが――その状況で調査を継続するというのは大丈夫なのかと、ユティスは不安に思う。

 さらにユティスは、彼らがずいぶん慣れていると感じ――ある種異常な光景だとも思った。


「あれだけの魔物が出現するということ自体、かなり大変なことだと思うのだけれど……」


 サフィもまたユティスと同じような意見を持ったらしく、小さく呟いた。


「ま、この辺りは帰って魔法院に問い質せばいいことか」


 サラリと怖いことを言って、ユティスは首をすくめる。王女である以上、魔法院に対しても物申すことができる。

 サフィやヨルクの言動から、王家は彩破騎士団に味方している――こう考えると、権力的に魔法院に対抗し得る可能性を得たことになるのだが、


(問題は戦力だよな……)


 魔法院が直接力に頼る可能性は低い。しかし、異能者と戦う上でも必要になる以上、そこを突いてくる可能性は極めて高い。

 今回のことでその辺りについても何か進展があれば――そう思った時、ユティスはサフィに近寄った調査員の報告を聞いた。


「魔物が出現したことについては、注意を払います。遺跡を調査している聖賢者様にも、報告を」

「わかったわ」


 彼女はそう返答したものの、どこか訝しげな表情。

 そして調査員が立ち去ったタイミングで、彼女は改めて口を開く。


「やっぱり私が来てよかったのかもしれない……ユティス君」

「は、はい」


 返事をすると、彼女はユティスに指示を送る。


「私は少し周囲を見て回る。魔物が発生する何かがあるのかもしれないから……そちらは、発掘した品について調べて」

「発掘品を?」

「遺跡を調査する以上、魔法院の目的がそこかもしれないからいずれ調べるつもりだったけれど……魔物の出現にそうした品が関わっている可能性もゼロじゃないから、調べるのは早い方がいいと思うわ」


 そう告げるとサフィはすぐさま歩き出し、エドルやシャナエルの近くへ。


「エドル、勇者シャナエル。申し訳ないけれど、私と一緒に」

「はい」

「……承知しました」


 エドルが明瞭な返事。そしてシャナエルがいくぶん緊張を伴い応じ、歩き始めた。それを見送ったユティスは、彼女がどう考えているのかを理解する。

 原因不明の出現。その原因の可能性としては、人為的に魔法を妨害する魔具かなにかをどこかに仕込んだか、あるいは発掘品の中に特殊な魔具が混在していて、それが起動し魔法を阻んだのか――彼女が考えているのは、そういったことだろう。


「イリア」


 近くにいる彼女にユティスは呼び掛ける。


「発掘品を見よう。ただそこで調べたいこともある……手伝ってくれる?」


 イリアはコクコクと頷き、無言でユティスに追随する。

 そこから許可をもらい、ユティスとイリアは発掘品が収められたテントに辿り着いた。


「魔具や重要品と明確にわかるものについては、危険などもありますから別途保管していますが……」

「わかりました。壊したりはしませんのでご安心を」


 調査員は少しばかり気になった様子だが、さすがにサフィ王女と共に行動する人物を無下にもできないらしく、


「もし何かあれば必ずご報告を」


 念を押しただけで、足早に立ち去った。


「さて」

 ユティスは呟きテントの中へ入る。魔具とわかる物については別途保管――当然ながら、調査員もそこについては慎重であるのは当然。

 だが、判断がつかない物も多数あるはず――そうした品が、今回のことを引き起こした可能性はゼロではない。


 入ったテントの中は、かなり雑然としていた。ガラクタのような物が地面に無造作に置かれており、とても大切にしているとは思えない。


「……ずいぶんと、適当だな」


 ユティスは感想を漏らしつつテントの中を見回す――調査員にとって、貴重なのは魔具だけなのかもしれない。

 とはいえ――さすがにこれを一つ一つ丹念に調べていたのでは日が暮れる。調査自体に期限が設けられているわけではないが、この調査参加自体が罠である可能性もあり、追い立てられるように戦う必要が出てくるかもしれない。だからこそ、平穏な間に一通り調べておく必要がある。


「……イリア」


 そこでユティスはイリアに呼び掛ける。彼女はすぐさま反応し、


「は、はい」

「この中に、怪しい物はある?」


 ――彼女を連れてきたのには理由がある。先ほどのティアナ達との会話。魔力によって先ほど魔物の出現をいち早く察した。これは何かがイリアの身に起きているのは事実――イリアはアリスと体を共有することになって以後、ユティス達とは違う視点でものを見ていた可能性がある。それがどういった効果なのかまだ判然としないが、検証する必要がある。


 発掘品の調査は、その検証にうってつけのはずだ。


「……うーん」


 見回し、イリアは唸る。どうやら見た目上、魔力を発した物は見当たらない様子。


(となると、ここに魔具などの類はないということか……?)


 普通にしているティアナのことも気付けた以上、微細な魔力であっても勘付くかと思っていたのだが――


(遺跡内部にだってこういった品々は保管されているだろうけど、そちらが影響を与えたという可能性は低いだろうな。そもそもそっちの魔具が発動したら、遺跡内に魔物が出るだろうし……となると、別に原因があるのか?)


 ユティスは考えつつも、一応テントの中を一通り確認しておこうと足を前に出した。


「……ん?」


 その時イリアが声を上げた。ユティスが視線を送ると一点を見据えている彼女の姿。

 そちらを見ると、ガラクタに紛れ、ガラスのように綺麗な表面を持った物が紛れていた。


「……あれが、気になった?」


 ユティスが問い掛けると、イリアは難しい顔をする。


「表面にちょっとだけ、魔力を感じるんですけど……ただ、変な感じではないです。魔力で物を保護しているんだと思いますけど……」

「わかった」


 ユティスは答えると同時にそちらへと歩む。もちろん触った瞬間何かが起きる可能性も否定できないが――少し警戒しつつ、それを手に取った。


「……ん?」


 ユティスは物を確認し、訝しげな声を上げる。


 形は、ハードカバーの本を薄く延ばしたくらいの大きさ。ただし結構軽く片手でひょいと掴めるくらいの重さに留まっている。

 表面は黒く、ガラスのような物で覆われている。裏返してみるとガラスとは異なるツルツルとした素材によって作られている。なおかつ傷は無い。推測通り、魔力によりコーティングされているのだろう。


 ユティスはテント入口に戻りそれをしげしげと眺める。合わせてイリアが隣で覗き込むようにそれを見て、


「……鏡?」


 表面は黒いが、それでも自身の顔が反射されているためだろう。しかしユティスは、まったく別の物を口にした。


「……タブレット端末?」

「へ?」


 目をパチクリとさせるイリア。そこでユティスは我に返り、


「あ、ああ……ごめん。その、イリアには転生前のことについては話しただろ? その時に目にした物に似ているなと思ってさ」


 ――そう口にした途端、黒い部分は液晶画面。そして裏面はプラスチックにしか見えなくなった。


 見た目だけで言えば前世にあったタブレット端末そのもの――さすがにここが転生前の世界の遠い未来などとは思わないが、それでも前世――科学技術が発達した世界の物に近い物がある、というのは少なからず驚きだった。


(発掘品の中にこういう物が存在するということは……やはり過去、人間は高度な文明を発達させたということ……)


 学院の授業でそう習ってはいたのだが――改めて事例を見るとさすがに驚く。


 とはいえ、これが本当にユティスの考えている物なのかはまだわからない。そこでスイッチなどがないか探してみるが、充電するための端子すら一つもなかった。


「うーん、違うのか?」


 ユティスは眉をひそめながら物を眺める。そこで、


「あの」

「ん?」


 イリアが声。見るとユティスが持っている物に対し、興味津々といった様子。

 手に触れる感触からも魔力はほとんど感じられない。おそらく危険はないだろう――そう判断したユティスは、彼女に言う。


「……落とさないようにね」


 魔力で保護されている以上、大丈夫だとは思うが――ユティスは思いつつ彼女に渡した。

 他に何かないものかとユティスは視線を巡らせる。こうして不可解な物が見つかった以上、もしかすると自身の転生前の記憶により思わぬ情報源が手に入るかもしれない――


 その時、ユティスはふとイリアを見た。直後、彼女が持っていた物が突如――白く光った。

 バックライトが作動したらしい――ユティスが声を上げようとしたその瞬間、イリアが驚いて取り落しそうになる。


「わ、っと……!」


 一度空中に放り投げそうになったが、彼女はそれをどうにか堪え、胸に抱く。ユティスはその行動に驚きつつほっと胸をなでおろし、


「変化があった? 見せてもらえない?」


 ユティスが言うとイリアは頷き、それを渡す。

 しかし既に光は消え、元の黒い画面が存在していた。


「……うーん?」


 首を傾げユティスは再度スイッチなどが無いかを確認。だが、起動のとっかかりは得られない。


「……イリア、さっき何をしたんだ?」

「あ、あの……」


 彼女は少し首をすくめて応じる。どうやら怒ろうとしているのではと考えているらしい。

 だからユティスは安心させるべくまずは微笑み、


「怒らないから……ほら」


 ユティスはイリアに再度発掘品を差し出す。


「さっき明るくなったみたいだけど、どうやってやった?」

「えっと、その……」


 イリアが発掘品を受け取り、口を開きかけた――その時、

 突如、テントの外から叫び声が上がった。ユティスはすぐさま反応し、テントの入口を開けて外を確認。


 調査員達が何やら話し込んでいるのが見えた。さらに声を聞きつけたサフィ一行も戻って来ており、


「……行ってみよう」


 イリアへ一方的に告げ、走り出す。

 足音によってサフィ達も気付き、首をユティスへ向け、


「ユティス――!」

「何かあったんですか?」


 サフィに確認を取ると、彼女の口から衝撃的な言葉が告げられた。


「それが、遺跡の一部が崩落したって――」


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