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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
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あの御方

 フレイラが八体目の魔物を倒した時、ここに出現する魔物の強さに改めて辟易した。

 第二領域を超えている魔物も多く、フレイラ自身が言葉を漏らすのも無理らしからぬことだった。


「何なんですか、これ……」

「言いたいことはよくわかる」


 ヨルクが応じる。彼は呼吸一つ乱さないまま超然としている。見た目が魔術師であるため、体力があまりなさそうに見えるのだが――さすが聖賢者といったところだろう。

 一方で勇者オックスも連戦により多少ながら疲れた顔が出ていた。こうしたことで、実力の差が出ている――などとフレイラは思いながら、ヨルクへ口を開く。


「その、よく黙っていましたね。これほど魔物が出るなら、一刻も早く封鎖するべきでは……」

「指示である以上仕方がなかった」


 ずいぶんと簡単な理由だった。ただ表情は厳しく、指示にしても納得はしていないらしい。


「遺跡調査については、陛下からの厳命でもあるため俺は動いているわけだが……その厳命にしたって、魔法院が聖賢者派遣を王に嘆願しているのは間違いない。俺もここに入り込んで魔物の強さを見た時、封鎖するべきだとは思ったよ。今だって納得してはいないが……魔法院は俺がどう思おうと押し通そうとする様子。後に退けないのかもしれないな」

「一つ、いいか?」


 今度はオックスが疑問を投げかける。


「聖賢者が四苦八苦しているなんて情報があったら、さすがに王様も懸念するんじゃないのか? 報告すれば中止になる可能性だって、十分あるんじゃないか?」

「その質問、もっともなんだがおそらく無理だ」


 ヨルクが愚痴をこぼすように言う――その辺りのことはフレイラも予想がついていた。


「まず、俺が陛下に直接進言したとして……魔法院はその説明を調査を続行するのが嫌になったとか、色々と理由をつけるに決まっている。俺の発言力はそれなりにあるんだが、魔法院の方が影響力の方が今は強いからな……ま、この辺りは俺の普段の言動なんかも関係しているだろう。お偉いさんに嫌われている面もあるからな」


 小さく舌を出すヨルク。嫌われるような態度自体を改めるつもりはないらしい。


「それに重臣達を納得させるには進言だけでなく、報告書が必要になってくる……お偉いさんは、書類を見て判断するからな」

「なるほど……だが、それも駄目だということか?」

「ああ。俺が報告書を書いたとしても、それは城の中で正式な手続きを踏まなければならない……で、その手続きの間に間違いなく報告書に修正を加えられるだろう。その辺りにも、魔法院の影響はあるからな」


 そこまで言うと、ヨルクは肩をすくめた。


「ま、言ってみれば魔法院側が色々と情報操作をしているということだよ。あの手この手で問題がないと工作しつつ……しかし実際の所は、強力な魔物の出現などもあって対応に苦慮していると」

「無茶苦茶だな……」

「それだけここに重要なものがあるというわけだろう。俺もやめさせることが難しいのなら……魔法院の目的を解明してやろうと逆に興味を持ったから、今はこうして進んで遺跡に入り込んでいるわけだが」


 そう言うとヨルクは、意味深な笑みを浮かべる。


「現在の所、怪しいものは見つけていないが……ただ遺跡から出てきた物なんて基本用途不明品ばかりだから、その中に重要なものがあるかもしれないが」

「用途不明品?」


 フレイラが聞き返すと、ヨルクは「そう」と返事をした。


「この遺跡は千年以上前に作られたものと調査結果から判明している……過去、高度な文明を築き上げていたという事実は、フレイラさん達も知っているだろう? 現在よりも高度な技術力があったとすれば、俺達では理解できない物だって多いはずだし、実際そうなっている」


 語ったヨルクは、一転して不満げな表情を見せる。


「用途不明品についてあれこれ検証してもいいが、リスクもあるからな……だからこそ現在は遺跡から持ち出して絶賛放置中なわけだが……俺としては明確に用途がわかる物を手に入れたいというわけだ」

「手に入れてどうするんだ?」


 オックスが興味ありげに問い掛けると、ヨルクは一転破顔する。


「どうすると思う?」

「……聞かない方がよさそうだな」


 オックスは態度を見て危ない話題だと悟ったか、誤魔化すように手に握る剣を適当に素振りする。


「で、結構奥まで来たがどうなんだ?」

「一応、私が単独で入った地点までは到達している……お、ここだ」


 彼が声を発したと同時、前方に一枚の鉄扉が姿を現した。


「この先をまだ調べていないんだ……というわけで入るが、いいか?」

「……どうぞ」


 きっと駄目だと言っても開けるのだろうと推測しつつフレイラは承諾。途端ヨルクは嬉々として扉に手を掛ける。


 ――ここに至り、フレイラ自身ヨルクがどう思っているのか少しずつ理解してきた。最初、この遺跡調査についてはヨルク自身乗り気ではなかったのだろう。しかし、魔物の出現度合いなどを考え、何か重要な物が眠っていると彼は推測した。


(とはいえ……そうした重要品が眠っている遺跡を聖賢者に調べさせる魔法院の考えもよくわからないけれど)


 魔法院側は、聖賢者に調査を手伝わせることに対し懸念を示してもおかしくない。現にヨルクは調査員とは別に自由に動き回っている。これは間違いなく、魔法院側としては不都合な状況のはずで、野放しにしておくのは変だ。


 ここを調査する経緯を始めとして、合理的に説明できない点が多いとフレイラは思った。最初は単なる遺跡調査の協力だと思っていたが、どうやらこれ一つとっても複雑な事情が絡み合っているのは間違いないようだった。


(ともかく……今は目の前の敵に集中か)


 フレイラは気を取り直し胸中呟き――扉の奥に存在する気配を感知した。



 * * *



 ロイ自身、時折ギルヴェの行動を不可解に思う所がある。それを詮索するようなことをすれば危険なのは承知しているため口には出さないが――まず間違いなく、隠していることがあると考えて間違いない。


 与えられた書斎で、ロイは椅子に腰掛け物思いにふける。気付けば文官として若年ながらかなりの地位を与えられている。これもひとえにファーディル家という立ち位置と、何より『あの御方』の支援があったからこそ――


「……『あの御方』は、彼の行動について把握しているのか?」


 ギルヴェとも少なからず関わりがある――というより、ギルヴェ自身『あの御方』の指示で動いている。

 すべては『あの御方』のために――ロイは胸中で呟きつつ、もしギルヴェが反旗を翻すようであれば――


 そうロイは心積もりをしつつ、さらに思考する。


「今後、計画を阻む存在となりそうなのは、聖賢者ヨルクと……彩破騎士団のユティスと、フレイラか」


 弟のことを想像し、ロイは呟く――そこには、表立って感情が乗っていない。


「しかし……ずいぶんとまあ、数奇な運命となったものだ」


 弟と戦う――戦う事自体に躊躇いはない。そもそも計画を進行させていく間に、兄であるアドニスと戦うことになるだろうと思っていた。

 それがアドニスではなく、ユティスになった――ただ、それだけのこと。


「直接的に戦うのはまだ先の話だろう……ともあれ、先に疑問は解決しておきたいな」


 すぐさま思考をギルヴェへ移す――彩破騎士団に対し遺跡を利用してある対処をするというのは、ギルヴェの発案だった。策そのものを考えたのはロイだったが、その舞台を用意したのはギルヴェ。ここに、一つ疑問の感じる。


 彼、というより魔法院はずいぶんと遺跡に執着していた。情報操作をしているとはいえ、聖賢者が対応に苦慮する遺跡調査については異論が出ているのもまた事実。それが今回彩破騎士団や王女が関わることで白日の下に晒されるのは間違いなく、だからこそ解せなかった。


 あれだけこだわっていた遺跡調査について、なぜこうも策に利用しようと考えたのか。


「鍵となるのは、調査報告か……?」


 当たり障りのないことしか書かれていないはずだったが、ギルヴェの目から見れば何か重要なことが書かれていた可能性もある。

 報告を知り、最早調査の継続は必要なしとして、利用しようと考えたのか――あるいは、既に目的を果たし、用済みとなったということなのだろうか。


 考えていた時、唐突にノックの音が耳に入った。短いいらえを返すと扉が開き、側近である騎士服の男性が姿を現す。


「報告です」

「どうした」


 ロイの返答に相手は背筋を伸ばし、


「所定の場所に、連絡役の者が現れました……遺跡に一行が到着し、聖賢者が調査に入り次第動き出す、とのことです」

「――わかった」


 ロイは頷き、男性は退出。一人となった時、その面には笑みが浮かんでいた。


「おそらくユティス達は遺跡に到達しているだろうし、既に行動は開始しているだろう……さて、どうなるか」

 ここでもしやられてしまえば――彩破騎士団はそれこそ、その程度の相手だったということになる。


 しかし、ヨルクの存在もあるため難しいとは思う。


「まあ、どちらにせよ……既に策は実行している。じたばたしても仕方がないだろう」


 背もたれに体を預け、ロイは天井を見上げた。


 既に策は仕込んである。後はそれが役目を果たすかどうか――感情もなく天井を見ながら、ロイは遺跡のことを思い浮かべ、策が成功することを祈ることにした。


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