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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
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遺跡奥の密談

 ヨルクが放った光の雨は、広間に存在していた魔物に対し正確に狙いを定め放たれた。本来、こうした広範囲系の魔法は、一つ一つの威力は低いものだ。けれど、ヨルクの場合は大きく違った。


 突撃を行った魔物は光の雨をまともに受け、ズタズタになってあっさりと消滅。そればかりではなく、後続にいた魔物達――雨を一つでも受けた魔物は耐え切れず瓦解していく。消滅の連鎖はヨルクを中心にして広がり、後続の魔物達もまともに行動できないまま消滅の一途を辿る。


(これは――)


 内心驚愕しながらフレイラは事の推移を見守る。


 聖賢者である以上実力があるのはフレイラも理解していた。しかし無詠唱魔法でこれだけの威力。それだけでも驚愕なのだが、第二領域の魔物が混ざっていると思しき目の前の群れに対しても、彼にとっては烏合の衆であるという事実。


 まだ聖賢者に対する認識が足りなかったのだと、フレイラは思った。


(これ、私達の存在はいらないのでは……?)


 そんなことさえフレイラが思った時、魔法の放出が終わる。光は消え魔物も明かりの範囲では消えた。しかし、次に生じた咆哮から、垣間見えた巨人を倒すことはできなかったのだと理解する。


「三人は、もう一歩下がってくれ」


 ヨルクはさらに言うと、フレイラ達とは異なり二歩前に出た。直後地響きすら生じさせ前から何かが来る。


「やれやれ、あれだけの質量を倒すのは面倒なんだよな」


 どこか淡々と呟くさまを見て、フレイラは目の前ではなくヨルクを見据えた。直後、光の範囲に巨人が姿を現す。

 彫刻のような精巧かつ見事な肉体に、狼の頭――それがひどくアンバランスでフレイラの目には奇異に映る。


 素手ではあるが、その拳が直撃すればただではすまないだろう――けれどヨルクは魔物を見据えつつ杖をかざし、


「剣よ」


 一言。それと同時に杖の先端に光が収束し、彼の身長くらいはありそうな大きさの剣が生み出された。

 魔物が腕を振り上げヨルクへ叩きつけようとする。しかしそれよりも早く剣は射出される。魔物を拳を振り下ろそうとした瞬間、魔法は直撃。見事、吹き飛ばした。


 閃光と轟音が響き、さらに巨体の魔力が消える。あれだけのものを一瞬で――


「さすが、とでもいえばいいのか」


 オックスが苦笑交じりに呟いた。すると、ヨルクは視線を魔物がいた場所から変えないまま肩をすくめた。


「数も見た目もかなりのものだったけど、それほど強いわけじゃない」

「そうとは思えませんが……とにかく、すごいの一言です」


 フレイラもまた賞賛の声を上げる。対するヨルクはようやく首を振り向け、


「どうもとだけ言っておくよ……さて、ここは当然ながら未踏の場所というわけだが……ハルン」

「はい」


 調査員が答える。そこで一つ思い出す。

 地味な印象を与える彼――名からすると、ヨルクが一度都に戻り謁見した時、同行していた人物――ちなみにこれは、サフィがユティスに伝えた情報だ。


 そしてヨルクは返事を聞いた後、彼に確認を行う。


「今から話すことは、忘れてもらえるか?」

「はい、承知しました」

「……ん?」


 その会話に違和感を覚えたか、オックスは怪訝な声を上げた。


「ちょっと待て、忘れるって何だ?」

「何のためにこのメンバーにしたと思ったんだよ」


 ヨルクの指摘に、フレイラは眉をひそめる。


「何か……あるのですか?」

「ま、ちょっとね。単に君達と話がしたかったという点もあるし……上で人の目がある所だと、おちおち話も出来なさそうだからね。あと、色々とアドバイスでもしておこうかなと」

「アドバイス……その辺りは、ユティスに伝えていますか?」


 幾度となく馬車に同乗したことを思いフレイラが問うと、ヨルクは首を左右に振った。


「いや、彼に話したこととは少し違う……言ってみればそう、今後の戦いについて」

「つまり、技量的な問題?」

「ああ。さすがに調査員があれだけいる中でやってしまうと、どうしても目立つからな」

「……彼は大丈夫なんですか?」


 ハルンと呼ばれた人物を見ながら問う。すると彼は苦笑した。


「私は調査員なのですが……ヨルク様に忠誠を誓う者ですので、例外と見て頂ければ」

「忠誠?」

「ま、ちょっとした縁で俺が学院への入学を薦めたんだよ」


 それだけだった。フレイラとしては抽象的すぎてどう返答していいか最初はわからなかったのだが、ハルンを『目』を通して観察すると、少なくとも嘘は言っていないように見える。


「なぜ俺まで? こうやってフレイラさんをここに案内したということは、彩破騎士団関係だろ? 俺自身は騎士団に参加しているというわけじゃないんだが……それでも、協力を願えると思ったのか?」


 オックスが言う。するとヨルクは「そうだ」と応じ、深く頷いて見せた。


「勇者オックスの場合は……ほら、あなたは彩破騎士団に所属していないといっても、肩入れしているようには見える」

「……そりゃあ、前の事件で深くかかわったからな」

「そういう人物も少なからず必要だということで、念を押しておこうかと」

「あんたも彩破騎士団に肩入れするのか?」


 オックスの問い掛けに、ヨルクは一時沈黙する。フレイラも言動からそのように感じたし、聖賢者が肩入れしてくれること自体は非常に嬉しく思った。しかし――


「肩入れしようにも表向きは絶対にできない、と言った方がいいのかな」


 ヨルクの言葉は、やや重たかった。


「聖賢者は彩破騎士団と同様、王直属で色々な権利を与えられている。遺跡調査に加わること自体は魔法院からの要求ではあるにしろ、命令を下したのは陛下だから俺も従っているわけだが……ともかく、肩入れするには一つ問題がある」

「聖騎士及び聖賢者はあらゆる事象に公正であれ、ですね」


 フレイラの言葉にヨルクは「そう」と肯定する。


「絶対的な力を持つが故に、できるだけ政治的組織に肩入れしないようにするべきというのが聖賢者だ。彩破騎士団の場合は同じ王直属なので、例外とみなしてもいいのだが……ほら、変に干渉することで彩破騎士団側に迷惑がかかるかもしれないし。貴族達の妨害だって、あるかもしれないだろ?」

「エドルさんを私達の屋敷に招いた時点で、ヨルク様がどういうつもりなのか類推している人も多いと思いますが」


 フレイラの言葉に、ヨルクは「まあそうなんだが」と返す。


「でもまあ、今は表向き中立だと言えるレベルだろ?」

「はあ……まあ」

「今の段階なら肩入れしているとは言い切れないから、そういう点について言及されれば、逆に相手を言い返すこともできる……彩破騎士団自体まだまだ未熟な組織だから、余計な敵を作らないためにこういった関係にとどめておくのが、今のところはいいんじゃないかと思う」

「そう、ですね」


 フレイラは同意。するとそこで、ヨルクは明るい声で続けた。


「陛下を含め王族大半は彩破騎士団に対して一定の評価を下している。魔法院などが台頭してきている政治の中枢で、君達の存在は大きくなるだろうと陛下も言っている」

「……私達が、ですか?」


 疑わしげにフレイラは問う。評価されていること自体は嬉しいし、その事実はサフィがユティスと話をしている点からもなんとなく窺える。

 しかし彼の言葉からは、彩破騎士団が「王族の要求を何でも言う事を聞く便利な存在」と取ることもできそうな雰囲気。


「色々と言いたいことはあるだろう」


 ヨルクは言う。フレイラの見解を読んでいるような様子。


「魔法院に対抗するような組織にするとか、陛下の手足となるようにするとかそういう話ではない。本来の役目は敵意を持った異能者に対抗する組織……けれどそれ以外に、聖賢者である俺と同様、陛下の傍に立脚し魔法院などへ睨みを利かせることができるようになると嬉しいというわけだ」

「……睨み、ですか」

「君達も色々問題を抱えていて、現状が良くないと思ってはいるだろう? となれば当然、城の中に存在する組織に寄りかかる必要は出てくる……俺としてはそれが陛下の傍で、と思っている」


(――勧誘というわけか)


 不安に思うことは多々あるだろう。しかし陛下の近くならば、他の組織よりも安全だ――ヨルクはそう語っているに違いない。

 また同時に、彼が王の下で働くことを進言しているのは、彼自身王に忠誠を誓っているためだろうとも、フレイラは思う。


「で、話を戻すとだな。勇者オックスは確かに彩破騎士団所属じゃないが、それでも交流があるのは事実。もし何かあれば、彩破騎士団の助けに入るということの確約でももらおうかと」

「そんなこと、言われるまでもなくやるっての」


 オックスの言葉に、当のフレイラは多少ながら驚いた。


「オックスさん……?」

「肩入れしている気じゃないんだがな。まあフレイラさん達のことを見ていて協力したいというのもあるが……異能者との戦い、何やら裏がある気もするからな。できれば最後まで付き合いたいというわけだ」

「勇者オックスなら、十分最後まで戦える戦力にもなるだろうし、ありがたいね」

「お前が言うか」


 オックスの言葉にヨルクは笑う。


「さっきも言ったが、俺の場合は現時点で公然と彩破騎士団と協力できそうにないから……ま、そういうことで勇者オックス。よろしく」

「わかったよ……シャナエルも同じように言っておいてやる」

「助かる……さて、行こうか」


 話を区切り、ヨルクは暗闇へ目を向ける。


「騎士フレイラ。俺は剣術が専門というわけじゃないが……魔物との戦いで少しレクチャーしようじゃないか」

「ありがとうございます……あの、先ほどの話で一つだけ疑問が」

「エドルのことか?」


 先読みしてヨルクが問う。フレイラは即座に頷き、


「ヨルク様は、どのように考えているのですか?」

「個人的には彩破騎士団と合流して欲しいな。異能者をまとめることにも繋がるから、陛下としてもありがたいだろう。それに王直轄となるし……ただ、彼にも事情はある。無理強いもしたくない……けど」


 と、ヨルクは意味ありげな笑みを浮かべフレイラに語る。


「今回彩破騎士団が遺跡調査に加わったのは色々と要因はあるが……俺はそれを利用しようと思った。こういう舞台は、交流するのに適した場でもある」

「……なるほど」


 フレイラは言わんとしていることを理解し、声を上げる。オックスも納得の表情を浮かべ、ハルンも理解した顔を示す。


「ま、そういうことだ。エドルに対し騎士団加入の強制はできないが、彩破騎士団加入へなびかせることは可能だ。俺はユティス君に何も伝えていないが、彼なら何を成すべきなのかは、しっかりと理解できているはずだ」


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