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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
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複雑な状勢

 フレイラがティアナやイリアと共に馬車から出た時、まず目に入ったのは調査員のベースキャンプ。人数に比肩する中々の規模であり、それだけ見ると調査を中止にしたくないだろうと魔法院が考えるのも頷ける。


(さて……どうなるか)


 フレイラは胸中で呟く――ユティスから、サフィが刺客に対し言及していることは把握している――そもそもこの遺跡に異能に関する情報があるなどということ自体が怪しいため、罠があるのはむしろ当然と言える。

 問題はサフィを始めとした面々。勇者オックスなどは何かあった時協力してくれそうだが、王女や聖賢者はどう考えているのかわからない。


(サフィ王女には悪いけど……ここは警戒しつつ調査に参加することにしよう)


 頭の中で決断し、フレイラは歩き出す。この場にいた調査員達はフレイラ達に最初目を白黒させていたが――やがてヨルクが近づくと歓声を上げた。


(調査員を統率する役割もあるのか)


 聖賢者という立場を考えれば至極当然と言えるかもしれない――色々と考えつつ、フレイラは後続の馬車に目を向ける。

 勇者オックスを始め、異能者エドルなどもそちらに乗っている。王女達の動向を観察する他に、エドルという人物を見極める必要もある。


(共に行動できるかどうかはわからないけれど……そういえば調査について、まだ具体的に言われていない。それを聞いてから考えてもいいか)


 思いつつ、フレイラはヨルクやユティスを発見。そこでティアナやイリアと共に彼らへ近づき――ヨルクが最初に振り向いた。


「あ、丁度よかった。女性陣についてなんだが……調査に入るまではサフィ王女と共に行動してもらえないか?」

「構いませんが、何か理由が?」

「いや、王女は放っておくとどこかに行ってしまうからお目付け役が欲しい」


 苦笑する王女。それにフレイラは「わかりました」と即座に承諾し、サフィを一瞥。

 表情を戻した後彼女は周囲を見回し始める。そわそわし歩き回りたいという雰囲気がありありと感じられ、ヨルクの懸念がわかった。


 気を付けないと――フレイラは思いながら、ユティスに声を掛ける。


「ユティスは何か指示を?」

「僕は調査に入るまではヨルクさんと共に行動することになるよ」


 そこで彼は別方向へ視線を流す。その先はティアナやイリアの立っている場所。


「どうしたの?」

「いや……何でもない」


 ユティスの声音はやや重い。かといって体調が悪いというわけではなさそうであるため、なんだか気になり問い掛けようとしたのだが、


「騎士フレイラ。悪いが説明は後にするからサフィ王女と共にいてくれないか?」


 ヨルクの声。フレイラは「はい」と応じた時、ティアナやイリアはサフィの近くに移動していた。

 そこで、フレイラは奇妙なことに気付く。イリアはさして緊張しているようには見えないが、ティアナについてはヨルクやサフィに目を向け落ち着かない様子。


(何かあるのかな……いや、仕方がないか)


 相手は何せ聖賢者と第三王女――考える間にヨルクが再度催促。フレイラはそれに従いサフィ王女の下へ。


「よろしく、フレイラさん」

「はい」


 一礼したフレイラに対し、サフィはどこまでも穏やかに笑う。


 一見すると和やかな光景にも思えるが――フレイラは内心確信していた。それぞれ腹の内で色々と抱えている。ティアナはもちろんヨルクやサフィも何を考えてこの調査に参加するのか。


「お待たせしました」


 後方から声。振り向くとエドルが笑みを湛えながら近づく姿。後方では勇者オックス達が馬車から降り、調査員から色々と説明を受けていた。

 彼もまた、少なからず理由がありロゼルストの調査に協力している。加え、ユティスやフレイラも罠なのを承知でこの調査に参加。


(思惑が錯綜している、か)


 雁字搦めとなっている気がしないでもなかった。とはいえこれをすぐに打開することもまた難しいため、一つずつ解決していこうとフレイラは心の中で思う。

 そしてヨルクの説明を受け使用するテントなどの説明を受けている間に、ふとユティスと目が合った。彼は複雑な顔つきでフレイラへと視線を返す。


 それがどういったものなのか――フレイラは考えつつ、これから始まる調査に対し気を引き締めた。



 * * *



 様々な感情が入り乱れる遺跡調査の中――唯一、その範疇から抜け出ているのがイリアだった。


『いやあ、色々と大変な感じねえ』


 調査地点へ到着し、その日は一泊。翌日起きて調査説明を受けている時に、頭の中でアリスの声が響いた。


『ユティスさんやフレイラさんに、色々な人が干渉してくる……その人が敵なのか味方なのかを判断するのも難しい上、隙を見せることもできない……』

(お姉ちゃん?)


 言葉にイリアは眉をひそめながら心の中で問い掛けると、アリスのため息に近い声音が聞こえた。


『イリア、もうちょっと場を眺めた方がいいよ。どうもお城の世界というのは、色々考えて行動しないと足元すくわれる感じの場所だし』

(それは……なんとなくわかるけど)

『ユティスさんやフレイラさんはこの調査に対して何も言わなかったけど……二人に調査を頼んだ人が色々と仕組んでいるんだと思う。相手は間違いなく魔法院。私達に話さないのは、変に負担をかけさせないためと、イリアが動揺するかもしれないから、かな? それに罠だとしても、相手が魔法院なら私達を狙うようなことはしないだろうと考えているのかも。学院とかが私達に興味があったくらいだし』


 アリスは一方的に説明を行う。


『で、ティアナさんは色々と内に抱えてユティスさん達と共に行動している……なおかつサフィ王女やヨルクさんも、思惑があって屋敷を訪れたと考えていい』

(エドルさんと引き合わせるために……だよね?)

『顔を合わせてどうする気だったのかはわからないけどさ……ま、王女様も聖賢者さんも権力者であるのは間違いないし、ユティスさん達が敵なのか味方なの迷っているのかもしれないね』

(疑心暗鬼になっているということ?)

『そんな感じ。そういうわけでちょっと皆さん態度が硬いって感じかな?』


 言われてみると説明を受けるユティス達の顔は、緊張とは違ってどこかしら重く感じられる。


(よくわかるね、お姉ちゃん)

『人を観察していればおのずとわかるようになるよ』

(そっか……で、私はどうすればいいのかな?)

『現状は様子見でいいんじゃないの? あ、そういえばイリアは前にティアナさんのことが気になるって言っていたけど――』

「それでは、これから遺跡に入るメンバーを言う」


 ヨルクが言う。その言葉によりさらに場の雰囲気が硬質になった。


「調査については、前と同様午前と午後でメンバーを変える。引き継ぎ手段については各調査員は再度確認しておくこと……なお、今回から調査については護衛の人間を入れることになった。さらに奥へ進むことになるため、警戒が必要だというのがその理由だ」


 調査員はその言葉に首肯する。危険だという自覚はあるらしい。


「メンバーの選定についてはこちらで勝手に行わせてもらった……なお護衛の面々は、遺跡内の調査から外れた場合も外の警戒はすること。魔法を使って魔物の出現を抑えているとはいえ、出現しないとは限らない」


 誰かが小さく声を上げる。返事のようだ。


 そこから、ヨルクは護衛の人間を読み上げる。聞き慣れない名前についてはラシェンの『決闘会』からの人物であるのが容易に想像でき――加え、ヨルクとフレイラ。さらにオックスの名前が呼ばれた。


「午後からの調査については、疲労度などを加味して再度連絡する……それでは、遺跡に入る者は十分後ここに集合してくれ」


 そして一度解散。イリアの名前は呼ばれなかったので、必然的に遺跡の外にいることになる。


『ま、私達の場合は何もしなくていいかもね』


 アリスからそんな言葉まで聞かれる。


『私達はちょっと訳ありだし、遺跡みたいに閉ざされた空間の中で何かあったらどうしようもないからね』

(そうだね。だとすると私達は――)

「イリア」


 その時、ユティスの声が横から。それにイリアは少しビクついた後、首を向けた。

 目には、優しげな表情を浮かべるユティスの姿。


「あ、はい」

「ちょっと話いい?」

「はい」


 神妙に頷くイリア。それにユティスは苦笑し、


「ほら、こっち」


 と、手招きしつつ歩き出す。


 無言でイリアは追随する。傍から見ればちょっと怯えながら魔術師についていく少女の図――加え、イリアの頭の中ではアリスの笑い声が聞こえる。

 少し挙動がおかしいことはイリア自身よくわかっている――原因は、いまだにユティスと話すことに慣れていないイリアに起因している。


 スランゼルにおける事件以後、ユティスやフレイラはイリアのことを色々と目を掛けていた。その中で特にユティスについては、イリアと話をすることが多かった。

 おそらく、私が魔法を使ったから――と、姉はイリアに言っている。複雑な事情はあれど、こうして姉と共にいること自体はさして不快に思っていないイリアだったが、ユティス自身内心思う所があったのだろうとなんとなく推察していたし、接してくれること自体は不快ではなく、むしろ嬉しかった。


 ただ――そのことについて姉はかなりはやし立てている。彼女曰く、イリアがそうした態度をとってしまうのは――


「イリア?」


 ユティスが声を掛ける。するとイリアは首を小さく振り、


「あの、その……姉さんが」

「アリスが何か言っているのか……」


 ユティスは視線を逸らす。どういう話をしているのか、無理に訊こうとはしなかった。

 ただ、アリスの名を呼ぶと少しばかり複雑な表情をする時がある。それを見てイリアは常々「大丈夫」だと語ってはいるのだが、


「もし何かあったら言ってほしい」

「はい」


 その言葉、何度聞いただろうか――イリアはユティスの心情を推し量ろうとするが、想像できない領域のものであるのは間違いなかった。


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