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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
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王女の発言

 旅程は片道およそ十日ほどであり、幸いユティスの体調も悪くならずに目的地付近へと到達することができた。

 西部には大きな山脈が存在しており、それによって大陸を大きく分断している。遺跡の場所はそうした山岳地帯の一角。商人達などが通る山道からずいぶんと離れているため、今の所魔物の出現により一般人に被害が出たという話はない。


(まあ、犠牲者が出れば調査中止になる可能性もあるから、必死にもなるか)


 ユティスはそんな風に胸中呟いた時――向かい合って座るサフィが声を上げた。


「そういえば、情報が届いたわ」


 彼女が語ると共にユティスは視線を送る――十日の間でユティスは数度王女とヨルクの馬車に同乗した。その間の会話は実りがあったとは言い難いが、時折王家が保有する情報網から、有益な情報を得ることができた。


「新たな異能者を発見したとの事……ただその人物は大陸西部の国の庇護を受けているみたいだけれど」

「風の聖剣を生み出した他、『全知』の異能は非常に魅力的だ……大金積んだとしても欲しい国は腐る程あるだろう」


 ヨルクは窓の外を眺めながら一言。


「で、その異能者はどういう系統の能力だ?」

「どうやら、私達が把握しているものとは異なる種類みたいね」


 彼女の言葉に、ヨルクは興味を示したのか首を向ける。


「どういった異能だ?」

「そこまでは……けど、今までとは異なるのは確定らしいわ」

「異なる、か」


 ヨルクは神妙な顔つきで呟くと、ユティスへ口を開いた。


「これで四種類目だが、彩破騎士団としては他に心当たりはないか?」

「無いですね」

「……やれやれ、神様というのはどれだけ面倒なものを生み出すのか」


 皮肉っぽくヨルクは告げると、視線を窓の外へと戻した。


「ま、ひとまずそういう異能があることを頭に留めておこう」


 と、ヨルクは再びユティスへ目を向けた。


「ところでユティス君。魔具はできているのか?」

「……一応は。それなりに魔力は込めていますが、第二領域以上の魔物に相対できるかどうかは……」

「十分だよ」


 そう言って彼は笑う――移動当初、ユティスはとある指示をヨルクから受けていた。


 遺跡の調査に当たり、魔物は調査員に牙を剥く可能性がある。今まではそれでもどうにか対処していたが、不安があるのも事実だったため、ユティスの『創生』の力を利用し、簡易的な結界を生み出せる物を創って欲しいと要求されたのだ。

 調査員は合計二十数名。その人数分というのは中々難儀ではあったが、旅を続ける間にそれを生み出すことに成功していた。


「ただ、一つ……内にある魔力はひと眠りすればある程度回復しますが、魔力を溜める腕輪にはもう残っていません。あまりお役には――」

「いや、むしろ魔力は無い方がいいぞ」


 ヨルクの言葉。ユティスは訝しげな視線で応じる。


「え?」

「当然だろう。遺跡の中は魔物ばかりで、さらに遺跡の特性なのか魔力にかなり敏感だ。魔力を溜めた腕輪なんか下げていたら、それこそ的にされかねない」


 指摘され、ユティスは小さく呻く。


「的、ですか……」

「魔物は魔力を糧として、人間を含めた生物なんかを襲うが……どうやら遺跡の魔物にも好みがあるらしく、人間が発した魔力に釣られる傾向が強い。魔具などに秘められたものは敵意があると思ったか警戒されるくらいなのだが……まあ、魔物の目から見るとそれらの魔力には明確な違いがあるのかもしれないな」

「そういうことですか……しかし、そうなると僕は――」

「体調が良ければ働いてもらうことになるが……まあ、後方支援の方がいいかもしれないな。その辺りは、到着してから協議しよう。サフィ王女、それで構いませんか?」

「ええ」


 ニッコリと彼女は笑う。


「その辺りの編成は、また後でもいいと思うわ……そうね、できればティアナにもどうするのか訊いて――」

「――ティアナ?」


 唐突に出た名前にユティスが呟く。途端、サフィは表情が固まった。それは「しまった」という表情。

 加え、ヨルクも似たように一瞬だが硬直する――こちらはすぐさま表情を戻したが、ユティスは変化に気付くことができた。


「そうして名前が出るということは、ティアナとお知り合いなのですか?」

「あ、えっと……」


 狼狽えるサフィ。王女に問い質すのはどうかと一瞬思ったが――それでもユティスは気になる部分であったため、食い下がる。


「僕としても、ティアナと多少ながら親交はありますが――」

「ちょっと待ってくれ」


 そこでヨルクが会話に割り込んだ。


「えっとだな、エゼンフィクス家はちょっとばかり城と関わりがあって、だからこそ王女は彼女と知り合いなんだ」

「……ということは、ご友人?」

「そう、だと、言えるかも」


 なんだかぎこちないサフィの返答。ユティスとしては疑問に思ってしまう。


(かなり気になる部分だな……でも、深く訊いて大丈夫なのか?)


 ただこれは、ティアナが味方なのか間者なのかを推し量る一つの手掛かりとなるのは間違いなく、だからこそユティスは――


「訊きたいことはわかる。だからこそ待ってくれ」


 問おうとした矢先、またもヨルクに止められた。


「その、ユティス君自身何が聞きたいのかはわかるんだが、実を言うと俺やサフィ王女もその点についてはわからないんだ」

「……わからない? それでは、なぜそうまで――」

「まあ、色々と理由があるんだ」


 引っ掛かる物言い。だからこそ余計気になる。


「そうだな……まず、ユティス君が訊きたいことから整理するか。訊きたいのはそのものズバリ、彼女がスパイかどうかだろう?」

「はい、そうです」

「それについてはどうとも言えない、というのが俺達の意見だ……で、なぜ俺やサフィ王女が話したがらないのかは、ちょっと理由がある」

「それをお話して頂くことは、できないと?」


 尋ねると、ヨルクとサフィは互いに視線を合わせる。一時妙な沈黙が車内に生じ、規則的に流れる馬車の車輪の音が耳に響く。


「……ティアナから、口止めされているの」


 そして答えたのは、サフィだった。


「実は、彼女と王家はちょっとしたことで関わりがあった。けど、彼女の意向で……その件については口止めされているの」

「……なぜですか?」

「ごめんなさい、そればかりは彼女の問題だから」


 納得がいかない回答だったが――ユティスは尋ねようとしていたことが、ティアナの個人的な用件を大いに含むことなのは、理解できた。


「その、できればティアナが自ら話すまで待っていて欲しいの」

「……話す機会が、訪れると思いますか?」

「きっと、ね」

「それらは彩破騎士団と関係あることですか?」

「微妙、と言わざるを得ないわね。でも」


 と、サフィは難しい表情を示し、


「フレイラさんには、知られたくないかもしれない」

「フレイラには?」

「まあ……ちょっとね」


 言葉を濁す。ユティスとしては内容がまったくわからないため押し黙るしかなく、結局以後無言となってしまった。

 けれど、ティアナが隠し事をしているというのは理解できた――加え、王女達は事情を把握し、話しにくい様子。これは――


(怪しいけど……)


 疑い出すとキリがないのはわかりきっているのだが――ユティスは、目の前の二人に対しても疑義を抱きそうになる。

 それを察しない二人ではなく――ユティスが沈黙していると共に苦笑いをした。ただここで変に言及するのもまずいと思ったのか、言葉は発しなかった。


 そうして嫌な沈黙が生じた時、馬車が停まる。ヨルクがこれ幸いとばかりに窓の外を見ると、


「到着だ」


 言って、微妙な空気となった馬車から先んじて降りた。


「さあて、ユティス君。仕事をしようじゃないか」


 ヨルクの無理矢理な話題転換にユティスは険しい瞳。すると彼は再度苦笑し、


「……いや、色々複雑な事情が絡んでいるから話せないんだよ」

「複雑……サフィ王女の言葉からすると、ティアナの個人的な……家柄とかの問題ですか?」

「あー、えっとだな……」


 頬をかきどう説明するか迷う様子のヨルク。するとここで、サフィから提案がなされた。


「ユティス君、一ついいかしら?」

「はい」

「その、事情は話せないのは察して欲しい……疑うのは無理もないけれど。そして、私としてはあなた達に協力したい。だから私はユティス君の要望に合わせるように行動してもいいわ」

「……それは?」

「ティアナは事情により私達と知り合いであるということ自体、話す気はないだろうから私が口を滑らせなければきっと話題にも出なかったと思うの」

「そうですね。城に出入りしていたとはいえ、お二方と知り合いというのは予想がつきませんでした」


 硬質なユティスの声音。サフィは途端困った表情をして、


「態度から私達を疑っているのもわかるのだけれど……その疑いを払拭するため、遺跡調査ではあなたの要望に沿って行動してもいいし、私達がおかしな行動をしないか見張ってもいい。それなら、少しは信用してもらえる?」


 かなり踏み込んだ提案なのはユティスも認識でき、また驚いた。


(そこまで訊かれたくないのか……)


 なぜ――彼女達とティアナの関係が親密であるというのもまた関係しているのかもしれないが、王女がそうした提案をするということ自体が、相当異例だと考えていい。

 さすがにそれは恐れ多い――とユティスは答えたいところだったし、こうまで提案する以上王女やヨルクが敵でない可能性は高い。


「……その」

「私に要求したこととかは、私達三人だけの秘密ということなら、いいでしょう?」


 決して口外したりしないということらしい。さらに疑えば、実はそう言っておいて、ユティスが実際要求すれば後で罰するなどという可能性だって――

 そこまで考えて、ユティスはなんだか馬鹿らしくなった。あらゆることを疑いすぎて、処理能力を超えた。


 こうなった結果、至った結論はひとまず様子を見ることだった。


「……いえ、大丈夫です。話すようなことはしませんから、ご安心を」


 先ほどとは異なった穏やかな言動。それにサフィは驚いた表情を見せた後、


「あ、あの――」

「それでは、調査に入りましょうか」

「……そうきたか」


 ヨルクが呟くように口を開く。それを無視するようにユティスは馬車の外へと出た。

 さすがに王女が敵に回るというのは考えにくい――だが、何かしら考えがあり今回の調査に参加したのは紛れもない事実。


 ヨルクは気付いたようだが、最後の最後でユティスは口外しないことを約束し様子を見る方針を取った。これが果たして吉と出るか凶と出るか。


(ま……幸いサフィ王女はこっちに接近しようとしている態度を見せているから、当分は大丈夫だろう)


 打算的な考えでユティス自身も嫌になるが、ここは割り切らなければ彩破騎士団としての地位が危うくなるかもしれない。


(調査の上で、ヨルクさんやサフィ王女……そしてエドルさんがどう立ち回るのか……それについてはしっかりと見させてもらうとするか)


 心の中で決意を秘め、ユティスは風が吹く山を歩き出した。


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