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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
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彼からの依頼

今回はラシェンの視点です。

 ユティス達とヨルクが話を始めた時より少し前、ラシェンの下にロイが訪れた。


「彩破騎士団であるラシェン公爵に、この情報をお届けしたくてですね」


 客室でラシェンと向かい合うようにソファに座ったロイは、開口一番そう告げ、説明を始めた。


 内容は、ヨルクの帰還と新たな『彩眼』所持者について――ラシェン自身その辺りについては既に調べもついており、目新しい情報は一切ない。

 ラシェンの情報網をもってすればヨルクが帰還したことは当然として、『彩眼』所持者についても早い段階で把握できた――加え、ヨルク自身がユティス達の屋敷を訪れたことも把握している。


 ただ、ここで問題が一つ――独自の情報ルートを持っている事実を、目の前の彼が知らないはずがない。情報を伝えるということを口実にして、探りに来たのは間違いなかった。


「そうか……できれば私もヨルク殿や『彩眼』所持者と話をしてみたいが――」

「ヨルク様はユティスの屋敷を訪れたようですから、近い内に会うことができるでしょう」


 断定。それと共にロイは柔和な笑みを見せる。


 ――ラシェン自身、彼の行動を大いに警戒している。『彩眼』に関わるとある『存在』と繋がりのあるギルヴェと手を組んでいることに加え、決して心の内を見せない狡猾な態度。若いながら城の中を渡り歩いてきた経験が、彼の心の内をしっかりと隠す。


 例えばファーディル家のアドニスならば、騎士でありなおかつ長男ということである程度行動の予測もできる上、話し合いとなれば表情からどういうことを考えているかなどを読み解くことも不可能ではない。だが、ロイについてはラシェン自身予想外の行動に出ることもあり、だからこそファーディル家の中で最も警戒に値する人物といえる。


 そしてスランゼル魔導学院での騒動の後ユティスは語っていた――ファーディル家全てが和解するには、彼との対決が避けられないと。ラシェンは改めてロイと対面し――それを、心の底から確信する。


 ロイが説明を終える。そこでラシェンは口を開いた。


「……ふむ、そうした情報だけを伝えに来た、というわけではあるまい」


 言葉に、ロイは即座に苦笑する。


「おわかりでしたか……そして、不審に思っているご様子で」


 ラシェンは沈黙。その間にロイは小さく肩をすくめた。


「当然、普段から交流の無い私がここに来た以上、信用なさらないのは無理もない話です」


 ――所作を見ながらラシェンは、ロイが腹の内でどう考えているのかを読もうとしつつ話を聞く。


「実はですね、西部の魔物討伐の件で少しばかりお願いがありまして」

「私にか? それとも、彩破騎士団としてか?」

「両方、とお答えします」


 ロイは表情を戻し告げる。


「実は、ヨルク様が戻られることがわかり……それ即ち、魔物との戦いに一段落がついたということです。そこから一部の調査員を交代、及び新たに調査員を増員するという話がありまして」

「ずいぶんと性急だな。スランゼルには話を通しているのか?」

「ギルヴェ様が対応なさっています」

「そうか」


 ラシェンは腕を組みロイが発した言葉の意味を吟味する。


「ギルヴェ殿の指示ならば増員するのもある程度理解できるのだが……なぜ、そこまで西部の遺跡に入れ込むのだ?」

「ヨルク様がご帰還されたのに合わせ調査結果の報告がもたらされたのですが、さらに調査すべきと即決する内容でして」

「それを聞くことはできるのか?」

「申し訳ありませんが、魔法院関係者以外に漏らすなと言われております」


 すまなそうにロイ語る。ラシェン自身、ここで明確な理由が聞けるとは思っていない。

 というより、ラシェン自身ロイが語った理由も口実だと思っている――ここに来た以上、遺跡を彩破騎士団を打ち崩すために利用するなどと考えていてもおかしくない。


「なるほど、わかった……で、私はどうすればいい?」

「ヨルク様がお戻りになり、なおかつ新たな『彩眼』所持者が見つかった……非常に良い事ずくめですが、これからさらに調査を推し進めるに当たり、その方々だけでは限界が来ると判断致しました」

「ということは、騎士団から派兵を?」

「多少なりともそうなりますが、数はそう多くないでしょう……ラシェン公爵もお察しの通り、スランゼルの事後処理で色々と騎士達も動き回り疲弊している状況。さらに言えば、ウィンギス王国に関連する事柄などもありまして……結果、派兵するにしても少数となるでしょう」

「だから、兵数を穴埋めするために彩破騎士団に? しかし――」

「団員数を踏まえれば、それだけで戦力が足らないのはラシェン公爵もおわかりかと思います。そこで、ご依頼したいことが」


 口上からラシェンは内心「なるほど」と思いつつ、問い掛ける。


「私の『決闘会』に所属する面々を、動員して欲しいということか?」

「そうです」


 ロイは深く頷いた。


 ラシェンは彼の発言について思考する。騎士の手が足りないため、外部から人を呼ぶ――というのは、事件が発生した時国が勇者に仕事を頼むという事例も存在するため、不思議ではない。だが今回のような調査に、騎士を派兵できない埋め合わせのため、というのがどうにも違和感があった。


「なぜ、とラシェン公爵はお思いだと愚考します」


 ロイはさらに語る。ラシェンの考えは予想の範囲内らしい。


「色々と、疑問は尽きないでしょう……満足に派兵できない状況で調査員を増やそうとするのかなど、色々と問題点が生じています」

「……そうだな」


 ラシェンは同意し、ロイの出方を窺うように沈黙する。


「まず言っておきますと、この頼みは彩破騎士団に深いかかわりがあるからこそ、打診をしております」

「……というと?」

「どうやら今回調査している遺跡は、異能者との関わりがあるようなのです」


 ――そうきたかと、ラシェンは率直に思った。


 異能者――『彩眼』絡みだと言われれば、彩破騎士団は動かざるを得ない。ラシェン自身過去の遺跡に異能に関する情報があるとも思えないのだが、そうした結論を魔法院が報告すれば、王も対応せざるを得なくなるだろう。

 例えそれが虚言だったとしても、ラシェン達にはそれが嘘だと証明するのは難しい。全ては魔法院が握っている。依頼に関する理由の真偽を確かめるためには、調査に同行して直接調べなければならない。


(罠を張っている、という可能性は高そうだな。だが――)


 聖賢者の存在もある以上、下手をすれば逆に尻尾をつかまれてしまうという可能性をロイ達は少なからず持っている――もし露見すれば破滅は確定的。それでもなお罠を仕掛けるとするならば、どういう意味を持つのか。


(いや、ここは遺跡調査に視線を集中させておき、都で何か行動するという肚なのか?)


 となれば、自らがさらに警戒しなければ――思考していると、なおもロイから話がやってくる。


「先に言っておきますが、『決闘会』全ての人に声を、というわけではありません。勇者オックスを始め、それなりの技量をお持ちになる方だけで構いません」

「……人数などに、制約はあるのか?」

「特には。先ほども申し上げましたが騎士の派遣がゼロではありませんし、人員を補強するという意味合いなので」


 ――口実にしても、それなりといったところだろう。明らかに怪しいが、それを追及することも難しい。


 とはいえここで退いたとしても、彼らはあの手この手で遺跡調査に出させようとする可能性は極めて高い。今ならば妨害されているというわけではない。ならばさっさと受諾した方が混乱もないだろう――ラシェンは頭の中で結論付け、答える。


「……わかった。ユティス君自身異能についてもかなり関心がある様子。遺跡が関係するというのなら、承諾する可能性は高いだろう。だが、念の為ユティス君本人に――」

「では、私から使いを出しておきます」


 ロイは柔和な笑みを伴い応じ――ふと、ラシェンは思う。


 目の前の人物は、ユティスの兄であるのは紛れもない事実。しかし、ユティスについてほとんど言及せず、ラシェンの口からユティスの名を口にしても反応がない。そこに何か気持ち悪さをラシェンは感じる。


(ギルヴェの下にいる以上、ユティス君を排除しようとするのは理解できるが……そうだとしても、この反応の無さは不気味だな)


 何か、別のことを考えているのか――ラシェンは気になりながらもロイの提案に頷き、ひとまずこの場の会話は終了した。


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