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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
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第三の異能

 昼食後少しして、唐突に来客があった。


「あ、私が対応します」


 セルナが言ったのだが、ラシェン公爵かと思いユティスも同行。他の面々が庭園でくつろぐのを確認した後玄関に向かい、


「はい」


 セルナが扉を開ける。そうして現れたのは――男性三人だった。

 その内、後方にいる一人は騎士ロランであると認め、さらに、


「……え?」


 ユティスは片方――身長も体格も良い男性を見て、驚いた。


「ヨルク様……?」

「おおっと、公の場でもないのに様付けは勘弁してくれ。さん付けでいいぞ」


 陽気に告げるヨルク。だがユティスはなんだか変に緊張してしまい、言葉を失くす。


「あの、お知り合いですか?」


 セルナが小声で問い掛ける。客人の前でその問い掛けは――とユティスは思いつつ、


「……現、聖賢者の」

「ええっ!?」

「名前知らない人も多いからな。ま、仕方がないな」


 豪快な笑い声。ユティスは何度か城を訪れこの性格を知っていたので驚きもしないが、逆にセルナは口を馬鹿のように空けて呆然とする。


「……セルナ」


 ユティスが見咎めて呼び掛けると、彼女は我に返り、


「あっ、申し訳ありません。えっと、本日は――」

「彩破騎士団の面々に会いに来た。彼を連れて。あと依頼もある」


 言って、隣にいる少年の頭をポンポンと優しく叩く。


「彼……?」

「君と同じ『彩眼』所持者だ」

「――っ!!」


 短く呻き少年と顔を合わせるユティス。すると彼はじっと見返し、


「エドル=マイフォールといいます」

「……ユティス=ファーディルです」


 互いに自己紹介をした後、沈黙。セルナもどう反応していいかわからず口を閉ざしていると、さらに陽気なヨルクの声が。


「彩破騎士団は他にも構成員がいるだろ? 実質二人だったか? 協力者はいるはずだが……」

「え、ええ……庭園にいますが」

「ならそっちに案内してくれよ。そこで話をしよう」

「わかりました」


 ユティスは承諾し案内を始める。

 そして庭園に向かう途中、ユティスは唐突に現れた異能者のことを考える。


(戦う意志はあるのか?)


 聖賢者が同伴している以上、表面上そうした態度を見せる可能性は低い。しかし、心の内はどうなのか――


「おお、変わったメンバーだな」


 庭園に到着直後、ヨルクが感想を漏らす。その場にいたフレイラ達は三人の来客に目をしばたたかせ――特にティアナが驚いた様子を示すのにユティスは気付きつつ、フレイラの声を聞いた。


「ユティス……? 騎士ロランと、他の方々は?」

「聖賢者であるヨルクさんと、『彩眼』所持者だそうだけど」

「え?」


 取り合わせに驚いたか、フレイラは声を上げた。ティアナも彼女と同様の心境なのか目を見開いているが、イリアは首を傾げている。おそらく聖賢者という単語自体聞き慣れないものなのだろう。

 そして残るオックスは――『彩眼』を持つエドルへと言及した。


「お前は、ユティスと戦う気でここに来たのか?」


 直球な問い掛け――ユティスは驚き慌てて何か言おうとした時、


「いえ、私自身争う気はありません」


 男性にしてはやや高めの声――エドルが首を振る。


「むしろ、私は皆様に協力を仰がなければいけない立場でして」

「……力が欲しくないってことか?」

「必要以上の力は欲しません。それに、成すべきこともありますから」


 彼の言葉に、オックスも「そうか」と呟いた。


「ああ、すまん。変に疑ってしまって」

「いえ、警戒するのは当然です……ヨルクさん、お話する際どうしても異能に関して説明しなければならないので、それを先に見せた方がいいと思います」

「ん、そうか? けどその前に、自己紹介からだな」


 ――そこでユティス達は改めて自己紹介を行い、一段落した後異能の説明に入った。


「えっと、模擬戦闘を行うのが一番手っ取り早いな……よし、それじゃあ君」


 と、ヨルクが指で示したのはイリアだった。当の彼女は指名されピクンと体が跳ねる。


「ほら、君って確かスランゼルで関わった『潜在式』の魔術師だろ? 名前は確か、イリア=リドールさん。で、姉のアリスさんの意識が同居してる」

「よくご存知ですね」

「西部にいても情報収集は欠かさなかったからな」


 ユティスの言及にヨルクが答える。


「俺としては君の技量も知りたい……というわけで、手伝ってくれ。君に対しては何もしないし、怪我することもないよ」


 するとイリアはまごつき――あまつさえ、ユティスの後ろに隠れてしまう始末。


「……あれ?」

「すいません、ちょっと人見知りが激しいので」

「そういうユティス君は、ずいぶんと懐かれているな」

「まあ、はい」

「けど話が進まないんだ。悪いが彼女に協力を願えないかな?」

「……イリア、いいかい?」

「……うん」


 小さく頷くと、おぼつかない歩調で少年の下へ歩く。だがその途中、突如背筋をピンと伸ばし、しっかりとした足取りとなった。


(心の内でアリスが何か言ったんだろうな)


 時折態度が豹変することがある――そうした時は必ず姉に何か言われているとイリアからユティスは聞いていた。

 そして、エドルとイリアが向かい合う。そこからユティスはヨルクを注視。


「イリアさん、彼に魔法を撃ちこんでくれ」


 いきなりの指示に当のイリアは面食らう。そこでユティスはイリアへ、


「イリア、ヨルクさんの言葉に従って」

「……わかった」


 彼女は承諾と共に、腕をかざす。それによって生じたのは光の剣。


「ユティス君、彼女の魔法はお姉さんの時と比べて変わっているのか?」


 ヨルクが隣まで来て問い掛ける。


「制御法自体は体が覚えているようなので問題ありませんが、使い方自体はイリアの意思で行われるので……」

「戦術的な点が未熟と言いたいわけか」

「元々使っていた姉が体の中にいるので、一応指導は受けているみたいですけど――」


 さらに説明を行おうとした時、イリアの魔法がエドルへと放たれた。ユティスはそちらに釣られ視線を向ける。

 イリアと対峙する彼は、右腕をかざす。手の先に魔力は一切感じられない。大丈夫なのかと不安に思った。おそらくこの場にいた面々全員がそう感じたはず――直後、光が腕に衝突。


 そして光が、突然消えた――


「え……」


 ユティスはその光景を眺め、結界か何かで弾いているのかと思ったのだが、


「イリアさん、もっと本気出していいよ」


 ほのぼのとした様子のヨルクが言う。反面、イリアは最初戸惑ったが、またもや背筋がピンとなり、すぐに魔力の収束を始めた。


(アリスに発破掛けられたな)


 ユティスが胸中で推察した時、彼女の周囲に先ほどと同様の光の剣が十数本現れた。これはさすがに避けられないだろうと思ったユティスは、ヨルクへ言う。


「あれは、まずいんじゃないですか?」

「いやいや、そうでもない。イリアさん、存分にやってくれ」


 ヨルクがなおも陽気に語り――イリアは、剣を一斉へエドルへと放った。


「大丈夫なの――!?」


 フレイラが不安げに声を上げた直後、エドルに魔法が直撃する。まばゆい光に包まれ、一時ユティスも不安になったのだが――

 次に生じたのは、全ての光が塵のように分解される姿。その奥からは、超然と立つ彼。


 さらに、大気中に魔力が僅かに残っている――その時点で、ユティスには推察がついた。


「……まさか、彼の異能は」

「そういうことだ」


 ユティスの呟きにヨルクは応じ、


「二人とも、もう戻って来てもらっていい」


 呼び掛けるとエドルとイリアはユティス達へと歩み寄る。それに加え他の面々もヨルクに近づき――集合した時、ヨルクが説明を始めた。


「ユティス君は理解できているみたいだが……エドルは、自身の魔力を用いて他者の魔力を分解させる力を持っている」

「分解?」


 オックスが単語を並べ疑問を提示。それにヨルクが解説を加える。


「自然界に存在する物質と、魔力で生み出した物質というのは見た目は一緒でも構造的には大きく違う。彼の場合はその中でも魔力に特化したものであり、魔法や『顕現式』などで生じた武具を、触れることで先ほどのように粒子に分解させることができる。もっとも、消滅ではないため大気中に魔力は残るよ」


 ヨルクはそこまで解説をすると、視線をエドルへ。


「彼自身、というより魔力の特性がそうとでも言うべきか……例えば彼が外部に魔力を放出し結界を形成した場合、それに触れた魔法も全て分解する。加え全身を魔力により覆った場合、外部からの魔力を完全に遮断するため、精神系の魔法なども通用しなくなる。これは実証済みだ。また彼の手から離れた魔力も、分解の能力が存在している」


 次に彼は目をユティスへ移す。


「君の力を見せてもらっていいか?」

「え? あ、はい」


 言われるがままユティスは両腕をかざす。そうして発した光がやがて形を成し、一本の剣を生み出した。


「これでいいですか?」

「間近で見ると変わった能力だな……ぜひともその魔力を解析したいところだが……ひとまず、その話は置いておくとして」


 言いながら彼はユティスから剣をひったくり、


「さっきの説明だが、つまりこういうことだ」


 その剣をエドルへ振り下ろす。刃が彼の頭部に触れ――刀身が、突如分解し粒子となる。


「君の『創生』の異能であっても、魔力で創られた物には違いない……より魔力を収束すれば完全な物質とすることも可能だとは思うが」

「そうですね……えっと、つまり彼には魔法の類が一切効かないと?」

「そう。加え魔力の塊である魔物の攻撃が通用しない上、逆に彼の攻撃によってどれほどの存在であろうとも倒せる」


(なるほど、この能力なら確かに遺跡で大いに活躍できるだろうな)


 納得しつつユティスは他の仲間に目を向ける。反応としてはフレイラとティアナが納得。イリアがあまり知識のないせいか首を傾げ、オックスが難しい顔をしていた。

 そんな状況の中で、ヨルクはさらに解説を進める。


「で、これについてはもちろん弱点もある……ところで、『彩眼』を持つ人物の異能の種類についての知識は?」

「三つあるとだけは」


 フレイラが代表して答えると、ヨルクは笑みを浮かべ、


「そうか。ここで周知なのはユティス君の『創生』と特定の知識を持つ『全知』という名の異能……彼の場合は、いわば『全能』とでも言えばいいのかもしれない。彼の場合は魔力に対しどんなものであっても分解させる。この点においては例外なく『全能』的に力を発揮するというわけだ」

「……まあ、便宜上そう呼ぶとしましょう」


 ユティスがまとめ、ヨルクへ続きを促す。


「それで、弱点とは?」

「ああ、それは――」


 と、ヨルクは突如杖を掲げた。何をするのかと思った直後、その杖がいきなりエドルの頭を打った。

 結構な勢いであったためユティスは驚き、さらにエドル当人もうずくまった。


「おおおお……」

「と、物質に対しては完全に無力な上、異能を用いていなければ丸腰同然……つまり、油断していると足元をすくわれる。特化した能力故に、問題点も多いな」

「説明はいいんですけど、彼大丈夫ですか?」

「……あれ?」


 ユティスの言及にヨルクは慌ててエドルに声をかける。対する彼は顔を上げ、ちょっとばかり涙目になっていた。


「……ひとまず席について、お茶でも飲みながら続きを聞くことにしましょうか」


 ユティスはため息をつきつつ提案。ヨルクはちょっとばつが悪そうに「お願いする」と告げ、いまだに頭を抱えるエドルに謝り始めた。


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