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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
82/411

聖賢者の帰還

今回は騎士ロランの視点です。

 現在、ロゼルスト王国には『聖賢者』という称号を持つ存在が一人いる。基本魔術師に与えられる称号で、この名が与えられるには国に対する貢献度合いや、過去の功績なども関係してくるが――その中で重要となってくるのは戦闘能力。国民含め、この称号がついた存在は国中の魔術師の中で最強である、という認識がなされている。


 同様に、騎士にも最高の栄誉として『聖騎士』という称号が存在するのだが、ロゼルスト王国では現在空席。よって『聖』という最高の冠を持つ存在は、ロゼルスト王国ではただ一人ということになる。


 騎士も賢者も同じ時期に二人以上存在したことはあったが――西部の魔物の出現などはあれど、式典前まで戦争などもなく長らく平和だったロゼルスト王国で強さの称号はそれほど重要ではなく、そうした人員を増やそうという考えがあまりなかった――しかし先の戦争から、見直そうという意見もある。


 そして現在称号を持つ唯一の人物が、ようやく帰還。ロラン自身出迎えるべく、アドニスと共に城門の前に馳せ参じ――


「出迎え、ご苦労」


 馬に乗りながら右手に木製の杖を握り、白い外套に身を包んだ金髪黒瞳の男性――多少ながら太い眉と鼻が高い顔つきは濃いと表現してもよいもので、世の女性が二度見するくらいの容貌を兼ね備えているが――髪は無造作に後ろで束ね、さらに外套もあちこちボロボロだった。


 傍目から見ればとても城に赴く姿ではないのだが、『聖賢者』という称号故か、そのような格好でも圧倒的な雰囲気に所持している。


「本来は、宮廷魔術師が出迎えるはずだったのですが」


 アドニスが申し訳なさそうに語る。すると相手は、


「いいって。大体の事情は帰還の途上で聞いているよ。スランゼルが色々やらかしたんだって?」


 豪放でいて、芯の通った声音。彼は馬を下り、アドニスに近寄る。


「何でも、弟さんが活躍されたそうじゃないか」

「あ、はい……」

「何だその微妙な顔は」


 ずい、とアドニスに顔を近づける彼。途端にロランは苦笑する。これだ。遠慮のない言動により、騎士隊長の多くは彼が苦手なのだ。


「どうせ家柄とか、権威とかその辺りのことで悩んでんだな?」

「あ、いえ、その」

「お前の考えが手に取るようにわかるぞ。両親は自分達の予定通りにいかず不満を零している。なおかつロイが好き勝手に活動していて、果ては城内で政治闘争と共に兄弟げんかをおっぱじめようという状況だ。しかも騎士隊長としてお前は、仲裁するため席を設けることもできず、微妙な立場にさらされていると。ついでにレイル君も一悶着あったからな」

「……よく、ご存知ですね。ヨルク殿」


 ロランが言及。すると彼――ヨルクは首を向け、


「おおロラン。お前のこともきっちり聞いているぞ。スランゼルでの一件、ご苦労だったな」

「はい」

「というかアドニス。本来はお前が出るはずだったんじゃないのか? 何だ? ロイにでも止められたか?」

「いえ、あの……」

「弟に色々やられて悔しくないのか? お前は?」


 完全に口が縫い止められたアドニス。ロランにとっては新鮮で面白い光景。

 ただこれ以上追及されるとアドニスがしぼんでしまうと思い、口を開く。


「あの、お話はこれくらいにして、入りませんか?」

「ん? そうか? 話し足りないがこのくらいにしとくか。ここからは歩くから他の騎士に馬を頼むぞ」

「……はい」


 アドニスはそれに従い後方にいる部下に指示。そこでロランはヨルクが立つ後方を見る。伴っている人物は、二人。


 一人はヨルクがよく引きつれている学者。名は確かハルン。短い黒髪に眼鏡を掛け、灰色を基調とした旅装姿ということもあり、地味という言葉が似合う人物。

 だがもう一人は見覚えが無かった。少年――おそらくユティスなどと大して変わらない年齢の、茶髪の少年。前髪が多少なりとも伸びているが、ロランの目には青い瞳がチラチラと見えている。


「彼は?」


 ロランが問う。それにヨルクは、


「ああ、それについては玉座で話す、お前ら付き合え」

「は? いえ、しかし――」

「いいって。お前らにもきちんと話しとくべきだしな。それに」


 と、ヨルクはアドニスへ視線を送る。


「そっちにも関係ある事だからな」

「それは、もしや――」


 アドニスが言い掛けた時、彼はロラン達の横を通り過ぎる。


「さあて、それじゃあ謁見といきますか」


 ヨルクと学者。そしてもう一人の少年が追随する。奔放な態度にロランは歎息しつつ、すぐさま追い掛け、彼の左隣へ。


「ヨルク殿、今後はどうされるのですか?」

「ん? 今後? 今回はちょっと依頼したいことがあったため舞い戻って来たまでだ。それほど経たん内に西部に戻るさ」

「戻るの、ですか?」

「魔物は出るが結構快適だぞ? 偉い人達の小言を聞かなくても済むからな」


 言って、ハハハと笑うヨルク――態度や服装からして『聖賢者』という身分には見えないのだが、それでも雰囲気から他の魔術師とは一線を画す存在なのは、わかる。

 彼はそれこそ、圧倒的な力を持っており同世代の魔術師で敵う者はいなかった。だからこそこうして称号を得て――しかし、政治に関わることだけは拒絶した。


「私なんかが執政の立場についたら、一瞬で国が滅びますよ」


 そう言ってのけた彼は、政治に一切関わらず称号を授けた王にただ忠誠を誓っている。重臣から見れば自身の思い通りにならない人物であるため、厄介だと陰口を叩く者もいるが、政治に一切触れようとしないその態度から気に掛けていない者もいる。


 ロランは隣を歩くヨルクに視線を送る。そこで目についたのは右手の杖――彼は杖術もかなり扱える。魔法だけでなく、純粋な格闘であってもアドニスと引けを取らない実力を持ち、もし剣を握っていたのならば『聖騎士』の称号を受けてもおかしくなかった。


「しかし、今回の件はずいぶんと大変だったようですね」


 アドニスがヨルクの右隣に移動し告げる。すると、


「いやあ、まったくだ。四六時中魔物が現れ、それを倒して……俺がいなけりゃいまだに近隣の領地にいる騎士や魔術師が必死に監視していただろうぜ。付近の領主は俺を神様でも崇めるような視線だった……駐屯させるにも金が掛かるからな。そういう出費をしなくて助かったってことだろうな」


 ヨルクはそこで小さく嘆息する。


「監視する事自体は別に苦じゃなかったし、城にこもって書類読んでるよりは良かったんだけどな。魔物を抑える魔法を使用しようにも、さすがに断続的に出てちゃあ俺も対応できなかったわけだ」

「しかし、戻られたということはそれを果たすことができたと」

「その辺りは玉座で説明するさ」


 語る間に城内へ入る。帰還を聞きつけた出迎えの魔術師や騎士が左右に並び、ヨルクを称える声が響く。

 彼もまんざらでもないのか手を振りつつ突き進んでいく。やがて玉座への扉が開き、彼を先頭にして中へと入った。


 玉座には、王ディウル。加えその横には騎士団長であるハイズレイの姿。加え玉座へ進む赤い絨毯の左右に、重臣が少なからず立っていた。


「おや、さすがにギルヴェ殿は来ないか」


 小さく呟くのをロランは聞いた。情報はつぶさに聞いていて、彼がスランゼルの一件でどうなったのかは知っているらしい。

 もしかしたら、彼のことを探りたいのかもしれない。


「ま、いいか……それならそれで話が早い」


 さらに彼は呟き前進する。ロランは場違いだと思いつつ踵を返そうとしたが、それに気付いたヨルクがすぐさま視線を送る。


「ロラン、アドニス。一緒に来い」


 一言。それによりロランはあきらめ、彼に追随した。


 左右に控える重臣達は何も言わない。アドニスもロランも、ヨルクの言葉に従っているとしかとわかっている。彼の破天荒な行動は、今に始まったことでもないため慣れきっているのだ。

 そこで、ロランは一つ気付く。重臣はこの場にいる全員ではない。加え、どちらかというとヨルクの存在を肯定している人物達が多い。


(勘が鋭いからな、この人は)


 悪だくみをしているとすぐに察する勘の鋭さ――どこかで情報を握っているのかもしれないが、それを警戒しているのかもしれない。


 やがて、一行は玉座の階段前に到達し跪く。


「陛下、ヨルク=シューガル。ただいま戻りました」


 先ほどまでとは異なる、どこか威厳を持った声音。


「ご苦労だった……しかし、事前の報告書によるとまた西部へ戻るそうだな?」

「はい。今回は陛下にご依頼したいことがございまして」

「そうか……全員、立って顔を上げてくれ」


 指示に、ヨルクは立ち上がる。合わせてロランやアドニスもまた立ち上がると、陛下の笑った表情が見えた。


「ヨルク、その硬い口調では話しにくいだろう。いつもの口調でよいぞ」

「……構わないのですか?」

「そもそも、私が気持ち悪くてかなわない」

「なら、遠慮なく」


 と、平常通りの声音に戻る。本来なら誰かが咎めてもおかしくないのだが――口を挟む者は誰もいない。

 これは特権とは少し違う――明確な実力を持ち、王へ多大な忠誠を誓っていることを誰もが理解しているが故の、許可だった。


「遺跡調査については、ひとまず落ち着きを取り戻しました……が、これは一時的なもので、根本的な解決には至ってないというのが実状ですね」

「原因はわかっているのか?」

「遺跡に内在していた魔力が、魔物を生み出しやすいものだったというのもありますけど……一番の理由は何より、調査員が結構無茶をしているせいも――」


 と、ヨルクは王へ視線を注ぐ。


「この状況で、中止はあるでしょうか?」

「魔法院次第だが……ないだろうな」

「そうですか……調査が済めば遺跡を丸ごと封印して魔物を湧かなくすることは可能なので、さっさと終わらせるのが一番でしょう」

「わかった……で、彼は?」


 茶髪の少年に視線を送る王。するとヨルクはその反応を待っていたかのように話し出す。


「今回戻って来たのは、彼を紹介したくて」

「彼を?」

「名はエドル=マイフォール。俺がちょっと留守の間に魔物が現れ、それを見事に撃退した人物です……エドル」

「はい」


 返事をした彼は、一歩前に進み出て王と目を合わせる。そして、


「――その目は」


 言葉に、ロランは彼に視線を送る。そして理解する。その瞳――紛れもなく『彩眼』だった。


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