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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
80/411

次なる相手

「まずイリア君から宝剣を奪った人物について聞いてみたが、新しい情報は出てこなかった。人相なども結局わからない……というより、不死者である時に記憶を消されたのかもしれない。どちらにせよ、異能者がいるということ以外は不明のままだ」


 ラシェンはそこまで述べると、一つ息をついた後続ける。


「そして彼女の処遇についてだが……私としては、彼女を学院に任せるわけにはいかないと考えた。精神を共有するなんてこと自体彼らにしてみれば格好の実験対象だからな。非人道的なことが行われないにしろ、干渉させるべきではないと考え、重臣達もそれには同意した」

「彼女についてはどうなるんですか?」


 ユティスが問う。それにラシェンは微笑を浮かべ、


「しばらく彩破騎士団が預かるという形となった」

「預かる、ですか」

「彼女は異能者というわけではないが……少なからず異能者と関わりがある。可能性は低いが、今回ヘルベルトと関わっていた異能者が彼女を狙う可能性もある……そして城に任せると、いずれ魔法院が介入してくるだろう。これでは学院に預けるのと一緒になってしまう」

「だから、僕達に……」

「あくまで暫定的な処置であるため、どうするかは彼女の容体を見て判断することになるだろう。何かしら副作用があるかもしれないし、ひとまず彩破騎士団預かりということで経過観察を行う……ところで」


 と、ラシェンはユティスを見据える。


「口調は戻したのか? 私としてはさっきのでも良いのだが」

「……前世について話す時、普段の口調だと違和感があっただけなので」

「ふむ、そうか」

「私としても別にいいんだけど……」


 フレイラも言及するが――ユティスは小さく息を吐き、


「話を先に進めてください」

「うむ、すまん……次が最後の話題だ。学院についてだが、騎士団が押し入り色々と監視対象にしようとしたのだが――当然だが、魔法院が介入してきた」

「どうなったんですか?」


 フレイラが険しい顔で尋ねると、ラシェンは肩をすくめた。


「学院長については、魔法院所属の人物をひとまず据えるということで決まった……さして状況が変わったというわけではない。しかし」

「しかし?」

「不祥事を起こした原因は学院の体制にも問題があるとして、閉鎖的な魔導学院について改革を行うと魔法院も決断した。まあ、どうやら魔法院側も制御できない部分があったらしいから、政治に関わる面々としては上々の結果だろう」

「学生達に影響がないようにだけ、お願いします」


 ユティスが要望すると、ラシェンは「伝えておく」と応じ、


「そうした中、彩破騎士団としてはフリード=ウェッチェン君と繋がりを持ったことは大きい……これがどういった結果を招くかはわからないが、学院との繋がりを得たこと自体は、成果として考えてもいいだろう」

「ですね……しかし」


 フレイラは途中で言葉を止めた。それにラシェンは頷く。


「ユティス君もわかっているはずだが……動いているのは、ギルヴェ殿だ」


 ラシェンはそこでユティスへ再度顔を移す。


「彼と大いに関わる人物……その中には、ロイ君もいる」


 ロイ――ロイ=ファーディル。ファーディル家の次男であり、類まれない才覚により若くして政治中枢に足を踏み入れた文官。城の者にファーディル家について尋ねれば、アドニスよりもロイの名が口から出ることも多い。長兄であるアドニスも認めている――ロイこそ、兄弟の中で最も秀でた者だと。


「おそらく彼は、レイル君のように簡単に味方にはならないだろう」

「それは僕が一番よく知っています……というより、僕が兄弟と和解するためには、ロイ兄さんと対決しなければならないでしょう」


 ロイこそ、ファーディル家で最も政治中枢に入り込んでいる――だからこそ、今以上に権力を持てば、彼との対決は避けられない。

 言及に対し、ラシェンは深く頷き、


「今回の功績と先の戦争により、ユティス君達を見る態度が変わる貴族もいるだろう……その中でギルヴェ殿やロイ君の介入があるだろう。注意すべきだな」

「……はい」


 ユティスは頷く――そしてようやく、話し合いが終了することになった。






 ユティスは部屋を出て自室へ向かうと、扉の前にレイルがいた。


「どうした?」

「少し話が……ロイ兄さんのこと」


 その顔は、ひどく深刻なもの。


「今後ロイ兄さんが関わってくることは間違いないと思う」

「ラシェン公爵も言っていた。僕もそう思う」

「そう……僕は、ロイ兄さんが何を考えているのか、まったくわからない」


 俯き語るレイルに対し、ユティスは無言で佇む。


「アドニス兄さんは、騎士団所属である以上ユティス兄さんの今回の活躍についても評価、していると思うんだ……けど、ロイ兄さんは――」

「敵意の方が多いだろうね……もちろんこれは、ロイ兄さんの立ち位置も関係していると思うけど」


 ユティスは言う。それにレイルは顔を上げた。


「ロイ兄さんは野心家で、なおかつ自身の邪魔立てする者には容赦がない……それが例え兄弟であっても。そして現在、ロイ兄さんは彩破騎士団に懸念を抱く人達を集めて行動しているのだと思う。そして、やがては――」

「兄さん……」


 不安げなレイル。それに対しユティスは彼の頭に手を置き、撫でながら安心させるように告げた。


「大丈夫……と絶対に言い切ることはできないけど、いずれロイ兄さんとも話すチャンスはあるはずだ……それまでに、城の中でも色々と貢献しないといけないな」

「……うん」


 頷いたレイルはなおも不安を顔に見せたままだったが、それ以上語らず引き下がる。


「兄さん」

「ん?」

「僕は、ユティス兄さんのことを誇りに思っている」


 面と向かって言われ――ユティスは思わず、苦笑しそうになった。


「僕は、正直今回の件もあるし何もできなくなると思う……けど、もし味方が必要だったら――」

「ありがとう、レイル。それなら兄さん達と話す機会が来る時までに、話し合いができる最高のロケーションを用意してもらえるかな」


 半ば冗談のつもりで言ったものだったが――レイルは深く頷いた。


「うん」

「……レイル、しばらく会えなくなるけど、元気で」

「兄さんも」


 言って、互いに笑い合う。


(大丈夫――)


 ユティスは胸中呟く。きっと、家族全員で笑い合える日は来る――そう、ユティスは思った。



 * * *



 転生者という情報を手に入れたラシェンは、なるほどと思いながらもどこか腑に落ちない心境を抱いていた。


「話す必要がないと言えばそれまでか……とはいえ」


 書斎で一人、今回の事件に関する資料に目を落としながら思考する。転生などという話については確かに荒唐無稽であるし、ラシェンも直接話されて信じたかどうかはわからない。

 とはいえ――問題がある。彼らの目的と照らし合わせた場合、転生に関連することを話していないという可能性がある。


「この辺りは、今後異能について解明していくことを考慮に入れ考えるとしよう……それに――」


 国外でも動き出しているという情報がある。そして在野にいる異能者が辿り着く場所はどこかと言えば、間違いなくネイレスファルト――

 その時、ノックの音が響いた。やや力強い音で、ラシェンは誰が来たのか察しつつ呼び掛ける。


 扉が開くと、ラシェンの予想通りオックスがいた。


「よう」

「どうした?」

「ちょっと話があってな」


 扉を閉め、大股で彼はラシェンの前に到達する。


「依頼についてなんだが――」

「追加報酬に満足できないのか?」

「違うっての。しばらく彩破騎士団と協力を、という話だ」

「ああ。シャナエル君も協力してもらえるようだが」

「そうか。ま、あいつならそう言うだろうな……で、それ自体はまあいいんだけど、一つ気になったことがあって」

「どうした?」


 ラシェンは資料を横に押し退けつつ問い掛ける、すると、


「お前……何を考えている?」

「何?」

「だから、何を考えてこんなことをしているのかって話だ」


 ――ラシェンはそこで、オックスと目を合わせながら直感する。カマを掛けている。

 根拠はないが、何かしらラシェン自身裏で動いていると思ったのだろう。それなりに付き合いがある中でラシェンは彼の勘の鋭さは理解していたため、さして驚くことはない。


 よって、彼に対する応答は非常にシンプルなものだった。


「何の事だ?」

「……ま、そう言うだろうと思ってたよ」


 オックスはそれ以上追及する気はないのか、あっさりと踵を返した。


「あんたが悪だくみをしているっていうのは、見てなくとも察しはついているさ……ま、そこはいいや。けどまあ、俺も今回の事件に関わり、少しくらいユティスさん達の肩を持つ気になった、くらいは認識しておいてくれ」

「わかった」


 答えにオックスは歎息し――けれど扉まで到達した時、声を出した。


「そういや、一つ……ベルガってやつはどうなった?」

「ん? なぜオックスがその名を知っている?」

「リーグネストで会ったからな」

「ああ、そうか……彼についても相応の事は成すつもりだ。フレイラ君も気に掛けていたが……私に任せてもらえればいい」

「悪だくみに使うのか?」

「さあな」


 首を傾げたラシェンに対し、オックスは勝手にしてくれと言わんばかりに肩をすくめ、退出した。

 残ったラシェンは――やがて椅子の背もたれに体を預けると、目を細め虚空を見つめる。


「ベルガ=シャーナードか」


 尋問して以来、干渉はしていない。だが間違いなく、彼にラシェンも関わる『存在』が色々と近づき言及しているだろう。

 それは今後も続けられることになる――ベルガについては餌で釣ってみたはいいが、ラシェン自身どの程度効果があるのか疑問に感じている部分もある。


「とはいえ、やりようはいくらでもある……しばらく泳がせるか」


 結論を出しつつ、ラシェンはさらにギルヴェのことを考える。彼にも色々と情報が入っているだろう。多少なりとも諜報に力を入れるべきなのは事実。


「まあ、しばらくは様子を見てもいいかもしれん……今は地盤固めをするべきかもな。学院を突き崩す材料を重臣達に与えることができた以上、それなりに彩破騎士団の存在を認める人物も出てくるだろう」


 その中で――何かをきっかけとして、ギルヴェ達は動き出すはず。そして――


「その何かによって動き出せば、おそらく止まらんだろうな」


 どうなるのか、ラシェン自身も予想がつかない。しかしユティス達を勝たせるために、工作活動に尽力するという決意は、紛れもなかった。


 そしてラシェンは一人笑う――決して不気味なものではなく、ただ未来を期待する子供のような、邪気のないものだった。


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