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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
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戦いの結果と手紙

 ラシェンに呼ばれ屋敷を訪れたのは、学院での戦いが終わってから五日後だった。その間にユティス達はスランゼルから帰還。本来ならすぐにラシェンの所を訪れるはずだったのだが、強壮薬の反動によってユティスが倒れてしまい、結果こうして間を置く結果となった。


 呼ばれたのはユティスとフレイラ。そして――


「まずは、君達の処遇だな」


 客室、五人は余裕で座れるソファに向かい合ってラシェンは言う――ユティス達に加え、この場にはレイルとシャナエルがいた。先の言葉は、二人に発せられたもの。


「カールの処遇が暫定的に決まっており、まあ権威は失墜したが……色々あって、魔法院に関する情報と引き換えに一定の身分を保証することになった……城側としては魔法院対策を優先した結果だ。これは、私が工作した影響も大きいな」

「工作……ですか?」


 レイルが聞き返すと、ラシェンは笑った。


「そう言うと悪いように感じるかもしれないが……大したことをしているわけではないさ。それに彼を重く処罰すると恨まれる可能性があること……逆恨みも良い所だが、彩破騎士団の立ち位置を考えるとあまり敵は作りたくなかったため、そういう判断となった」


 と、そこでラシェンは表情を戻し――鋭い声音で告げた。


「無論、処罰をまったくしないわけではない。精々、一つの街で事件を起こした責任は取らせる……絶対に」


 とても強い言葉――ユティスはラシェンの言葉に一瞬だが、背筋がゾクリとなる。

 彼は実際、そのようなことができる身分を所持し、なおかつ彼がここまで言うのならば、カール自身これから苦難に満ちた状況が待っているのは間違いない――


「そして彼の処罰方法については、二人にも関係している」


 さらにラシェンは語る。ユティスは言葉を聞きながら何が言いたいのかを理解する。


「カールを罰すれば、場合によっては加担した君達二人にも……という可能性も考えたわけだ。まあぶっちゃけてしまうと、罰して君達を退場させるよりも、協力を取り付けた方がいいと思ってね」

「……ずいぶん、はっきりと告げるのですね」


 シャナエルが意見する。困惑した様子ではあったが、ラシェンの言動に対しさして不快さは抱いていない様子。


「とはいえ……私達が止められなかったという責任はあるかと思いますが……」

「カールの処罰内容を考えれば、君達をどうこうするつもりは、城側にもないさ」

「わかりました……けれど、私自身負い目はありますし……今回の敵についても気掛かりではあります。彩破騎士団に協力しましょう」

「すまない、頼んだ。無論これは依頼という形で処理させてもらう」

「はい」

「では、勇者シャナエル。君については以上だ」


 そう述べ――ラシェンの言葉により、彼だけは退出した。


 ここからは、より深い話となる。


「……レイル君の場合、事情は少々複雑だな。ファーディル家という名を背負っている以上、今回の件により干渉してくる人物もいるだろう」

「はい……ただ両親を含め、兄上達はカールの責任だと全てを押し付けるつもりのようです」


 レイルはラシェンと目を合わしながら口を開いた。


「僕自身年齢のこともありますから、表立って何かをするということはおそらくないでしょうし……それにユティス兄さんが事件を解決した経緯もありますから、ファーディル家としては、相殺もしくはプラスといったところかもしれません」

「そうか……で、君の決断は変わらないんだな?」


 ラシェンが問う。ユティスはベッドに臥せていた時、レイルから直接これからどうするかは聞いていた。ラシェンにもそれは事前に伝えてあり、それを改めて彼は告げる。


「はい。僕自身思う所もありますから、領地に帰ります……騒動を起こしたのは事実ですから、もう都には来ないかもしれません」


 その言葉に、ユティスは何も言わなかった。けれど胸中は複雑であり――それでも、レイルの意見を尊重するべく無言に徹する。


「……現在、戦争と合わせ事件を解決したことから彩破騎士団について興味を示す者も出てきた」


 そこで、今度はラシェンが言う。


「とはいえこちらの様子を探る間者などという可能性もゼロではない以上、今以上に慎重になる必要がある……レイル君」

「はい」

「我々はまだ味方が少ない……もし、私達が力が欲しいと思った時……君に協力を仰いでも良いだろうか?」


 難しい質問だった。現在ファーディル家の中で争っているような状況。ラシェンはその中でユティスの味方について欲しいと語っているも同然であり――


「私は」


 レイルが、口を開く。


「私は……ユティス兄さんの味方でありたいです」


 ――ユティスはすごく、嬉しかった。


「もちろん、兄弟同士で争うようなことが無い方がいいのですけれど」

「衝突を防ぐよう努力はするさ……ありがとう、レイル君」

「はい」


 レイルは答え、ユティスへ視線を送る。顔にはほのかな微笑が見え――ユティスは黙って頷き返した。

 そこで、彼もまた退出する。これから彩破騎士団の活動について相談する必要があるためだ。


「……さて、色々と手間取ってしまったが、ひとまずそれなりに情報は手に入った。特に気になるのは、ユティス君に渡されたという手紙だが……」

「持ってきています」


 ユティスは懐から手紙を取り出す。それはヘルベルトの言っていた通り、ひし形の刻印が存在するものだった。


「見せてもらっていいか?」

「はい」


 ユティスはラシェンに渡し、彼は中身を取り出して確認する。


「……『巡りにより異界から再誕した異能者よ。他の異能者を滅し、我が元に来た暁には力を与えよう』か」

「ここから察するに、僕が異能を持っていること自体、作為的なものだと考えることができます」


 言葉に――ラシェンは、目を細める。


「……再誕とは、どういうことだ? それに異界とは?」

「それは……」


 ユティスは押し黙る。同時にフレイラから視線が注がれる。


 彼女にとっては、ヘルベルトの言葉も気にかかるだろう。それはあの場にいたロランやティアナ、そしてレイルも同じであるのは間違いないが――まだ、ユティスは話していない。

 レイルはあくまでユティスが自発的に話すのを待つスタンスのようだし、ロランは関わることをやめ、無闇に取り上げたりはせず胸の奥に封じ込めるつもりのようだった。けれど、フレイラとティアナは――


「……別に、話すことに抵抗があるわけではありません」


 ユティスは前置きをする。


「ただ、その……異能に関することで関係している事象ではありますが、彩破騎士団として活動する上では必要あるかどうか――」

「話してくれ」


 ラシェンが催促。それにユティスは視線を向けつつ、


「ただ正直……話して信じてもらえるかどうかというのも――」

「確かに、ヘルベルトという人物が話していたことと手紙の内容については、にわかに信じられないものではある」


 フレイラが語る――その目は、ひどく真剣。


「内容から察するに、ユティスは一度死に、生まれ変わった人間ということでしょう? 転生というのはあると言う人もいるけれど、人は死にどうなるのか解明できていない以上、現実的な内容でないと思うのは当然と言えるよ」

「なら……」

「けど、思い返せば私達が遭遇している異能だって、十分荒唐無稽……そこにもう一つ、加わるだけだよ」


 言葉と同時に、フレイラは小さく笑みを浮かべた。ユティスはその表情を見て、踏ん切りがついた。


「……大筋は、フレイラが語った通りだ。僕――」


 言い掛けて、言葉を詰まらせた。前世のことを頭に浮かべ伝えようとした時、前世の口調が喉の奥からやって来た。

 こうして誰かに話すことがなかったため、転生前の口調が自然と出そうになるという事自体初めての経験。だからこのまま話すべきかユティスは迷った――しかし、自身が転生したのだと少しでも理解してもらうためには、この方がいいのではないかと思い、口を開いた。


「――いや、俺には前世の記憶がある」


 口調が変化したことに、フレイラとラシェンは面食らった様子。けれど、ユティスは続ける。


「普段演技をしているわけじゃないというのは言っておく……とにかく、俺は前世の記憶を保有している。しかも前世は、この世界とは全く違う」

「それが異世界、ということ?」


 フレイラの問いに、ユティスは頷く。


「信じられないもしれないけど、事実だ……なおかつ以前の戦争で出会ったガーリュは、俺が死ぬ時に関係していた人物だった」

「だから、あれだけ驚愕していたと」


 フレイラがさらに言及すると、ユティスは深く頷いた。


「けど関係は、はっきり言って無いに等しい……ガーリュがとある事故を起こし、俺はそれに巻き込まれて死んだというだけで、面識もない……だから、なぜ俺やあいつがこの世界に転生したかもわからない。ヘルベルトに詳しく訊ければヒントになることがあったかもしれない……結局、わからなかった」

「なるほど、そうか」


 どこかラシェンは興味深そうに呟き、そして――


「それについても、ユティス君は調べたいようだね?」

「……はい」

「ふむ、そうだな。私としても興味がある。異能者を調べるうちに色々とわかるだろうが……ともかく、そちらについても調査しよう。裏で糸を引いている存在も気にかかるしな」

「お願いします」


 頭を下げるユティス。それにラシェンは「わかった」と応じ――残る議題は二つ。


「そして、次だが……アリス、いやイリア君のことだ」

「はい」


 それは大いに気になる点――ユティスは耳を傾け、ラシェンの言葉を待った。


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