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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
78/411

終わる事件

「完敗、とでもいえばいいんだろうな」


 ヘルベルトは疲れた声で話す。それにユティスは目を細め、確認を行う。


「……僕の説明で、正解なんだな?」

「ああ、間違っていない……どうやら一部の人間にしか伝えていなかったようだが、それは俺に情報が漏れるのを避けるためか?」

「そうだ……それだけ魔具を抱えている以上、気配を消す魔法を使いながら盗聴くらいはしている可能性があると思った。だから魔力を遮断する研究棟の一室で作戦会議を行い、なおかつあなたが怪しむことがないよう、埋めた物を探すことについては少人数かつ、警備をしているフリをさせながら行った」


 そこまで語ったユティスは、小さく息をついた。


「『全知』によりあらゆる魔法を知る以上、勘付かれてしまえばどういう行動を起こすかわからなかったからね……あなたはおそらくグロウの成したことを横取りするつもりで構えていたようだけど……そうした行動を維持させなければ、危険だと判断した。少人数で探せるかは賭けだったけれど、きちんとそれは成功した」

「交戦した場所などを探せばいいだけの話だからな……当然か」

「異能をできるだけ隠すためにこうした行動をしたようだけど……それが仇となったな」


 ユティスが言う。それにヘルベルトは沈黙で応じた。


「……もう一度訊くが、僕の語った通りで間違いないな?」

「そうだが……一つ捕捉することがあれば、過去全ての魔法というわけじゃない。過去、千年間に生み出された魔法だ」


 千年。それについてユティスは眉をひそめたが――それ以上に気にかかることがあったので、話を移す。


「なら、ここからは質問だ。なぜ、こんなことをした?」


 質問に、ヘルベルトは再度沈黙。


「その異能……有効に活用すれば、学院で大成できただろ?」

「過ぎたる力を持てば、いずれ身を滅ぼす……とも思っていたが、そんなことよりももっと単純な理由だよ」

「単純?」

「何もしなければ、俺は間違いなく殺されていた」


 確信を伴った声だった。ユティスは訝しむと共に――同じような異能を持つ人物が殺されていたのを思い出す。


「何か、根拠があるのか?」

「根拠も何も……俺達は、そのために異能を持っているんじゃないか?」

「何を……言っている?」


 ユティスが問う。それにヘルベルトが逆に訝しむ表情を見せ、やがて――


「……そうか、お前はまだ知らないか、読んでいないのか」

「何?」

「手紙が届かなかったか?」

「手紙?」

「真っ白な便箋に包まれた手紙だ。あと特徴的なものとしては……インクでも零したように黒いひし形の刻印がある」


 ――ひし形の刻印という点については心当たりはなかった。けれど、一つ思い出す。リーグネストに赴く前、セルナが届けた手紙。あれは確か、白かった。


「正直、俺の存在が露見すればお前に殺されると思っていた。お前は一つの戦争を終わらせた……異能者を、殺す立場の人間だと思っていた」

「それは……」

「わかっているさ。色々と手に入れた情報から、お前自身戦う意志はないと……だが、その時点では全てが遅かった。俺達は、既に行動を開始していた」


 そして、ヘルベルトは意味深な笑みを浮かべる。


「――この世界にいる、異能者に対抗するために俺は幻獣を従えようと思った」

「それが、あなたの動機だというのですか?」


 ティアナが、疑わしげに問い掛ける。その返答は、頷き首肯するものだった。


「そうだ。俺は他の異能者と契約し、ここに潜入した。そして幻獣を手に入れ、あらゆる異能者に対抗しようとした」

「他の異能者……それは、どんな奴だ?」


 ユティスが問う。対する彼は、表情を戻す。


「言っておくが、俺は大した情報は持っていないぞ」

「……水路を使って潜入したはずだな? それは異能者によるものなのか?」

「ああ、そうだ。持てる魔力で、水を自由自在に操ることができる」


 水――それが異能だと理解する間に、彼はさらに続ける。


「俺達は、その異能を使い浄水施設から水の中を通って潜入した。その人物は完全に水を制御し……というより、俺達の周囲だけ水が来ないよう異能者が操作していたとでもいうべきか」

「なるほど、水路そのものを逆走してきたわけか……それなら結界や探知魔法に引っ掛からない」


 ロランが納得の声。それに対し、ヘルベルトは不気味な笑みを見せた。


「それだけかと思うかもしれないが……そいつは魔力をによって小さな泉の水全てを空中に浮かせて見せた。それでもまだ余裕だったらしく……その気になれば、津波くらいは起こせるのだろう」

「魔力次第で、か」


 ユティスが呟くと、ヘルベルトは首肯する。


「もし魔力が無限にあれば……海水を操りこの大陸を水の底にすることも可能だろう」

「なるほど、相当厄介な異能だ」

「で、そいつは女なんだが、別に組んでいる異能者がいて、そいつと協力して今回のことを行った。どうやらそいつは魔具に関する知識が豊富な……お前らの言う『全知』という能力らしい」

「魔具……」


 厄介だとユティスは思いつつ――予感を覚え、確認を行った。


「もしかして、リーグネストの宝剣はそいつの手に渡っているのか?」

「そうだ。契約として都市などに眠る強力な魔具を渡せと言われた……俺達はカールが動いたリーグネストを実験の舞台として選び、宝剣を奪い取った」

「追うには十分すぎる理由だな」


 ロランが険しい顔を見せる。ユティスもそれには深く同意する。


「では訊こう……そいつの名は?」

「ああ、それは――」


 死なばもろともという顔つきで答えようとした時――彼に、変化が起きた。


「っ……!?」


 突如、顔が強張る。次いで俯き、呻き声を上げた。


「おい――?」

「が、あ……っ!」


 様子がおかしいのを見て取った周囲の騎士は、ヘルベルトに声を掛ける。さらに魔術師まで近寄り――


「魔力が……!」

「くっ!」


 おそらく、契約した異能者が口封じのために密かに対策していたのでは――ユティスは思うと同時に彼に駆け寄り、


「名を言え!」

「……ふ」


 小さく、ヘルベルトは笑む。その顔には先ほどまで存在していた生気が喪失し、死に絶えるのは時間の問題だと瞬時にわかる。


「奴らは、何かを探している……異能者を殺し回る他に、何か別の目的があるように見える……魔具を手に入れたのも、その内の一つだろう……」


 せめて、奴に抵抗を――ヘルベルトの意思が、ユティスには透けて見えた。


「他にわかっていることは……奴らはどうやら、同じ世界からの転生者らしい」


 その言葉に――周囲で話を聞いていたフレイラ達が眉をひそめた。

 この話題が理解できるのはユティスだけ――だからこそ、息を飲む。


「恋人同士で心中した結果、そいつらはこの世界に来たらしい……結局、前世からの因縁はこの世界でも断ち切ることはできなかったと……で、そいつらは今も組んで活動している……」

「何を……言っているの?」


 フレイラが問う。けれどそれには一切答えず――彼は、力を失くした。

 騎士が支え容体を確認するが、小さく首を振る。


「駄目か……結局、手に入れた情報は少しだけか」


 ロランが疲れた声を上げる。戦いの終わりとしてあまりにしっくりこない結末であるため、周囲の騎士達も複雑な表情を浮かべている。


「とはいえ……まだ事件は終わっていない。別の異能者の存在が判明した以上、そちらについて調査をしなければならないな」


 ロランは断ずると、ヘルベルトを拘束していた騎士達に指示を始めた。

 一方、ユティスは倒れ伏す彼を見て――沈黙し続ける。


「ユティス……?」


 フレイラが声を発する。視線を向けると、彼女と、その隣にいるティアナが不安げな表情を浮かべていた。

 先ほどの言葉、何か嫌なものを感じたのだろう。それにユティスは「大丈夫」と答え、


「……ひとまず学院での戦いは終わりだ。後は……騎士達に任せることにしよう」


 そう述べ、彼女達へ笑い掛けた――ひどく、疲れた笑みだった。



 * * *



「本当に、良かったの?」


 スランゼルから離れたとある丘の上――遠方に学院の城壁が見える位置で、藍色のローブ姿の女性は問い掛けた。

 その相手は――銀髪を肩に掛かる程度に伸ばした男性。装いこそ地味な配色の旅装だったが、その顔立ちは肉食獣を想起させる程獰猛さが滲み出ていた。


「問題ないさ。俺達の名が奴から漏れる心配はない……そうだな?」


 彼が問い掛ける先には、黒いローブ姿の男性。眼鏡を掛けており、彼はそれを直しながら首肯する。


「密かに仕込んでいた魔具です。もし捕まっていればその魔具も取り上げられてしまうでしょうが……長らく所持していたその魔具の効果が反映されることは間違いなく、その効果により私達の名を口にしようとすれば口が強制的に止められ、なおかつ魔法により体の内部を破壊します」

「だ、そうだ」


 彼はローブの男性の言葉に続けて言う。そこで女性は「わかった」と応じ、


「それで……これから――」

「ひとまずロゼルストから出るとしようか。名は知られていなくとも、奴に協力者がいることはロゼルスト側も理解していることだろう。ま、見つからないように立ち回ることは可能さ。そう心配するな」


 答えた彼は、右手に握る物を彼女へ見せつけるように掲げる。それは、リーグネストにあった『魔術師殺し』の名を持つ宝剣。


「欲しい物も手に入れた……そして、おそらくこれから続々と『彩眼』を持つ者が現れるだろ」

「その中に、探している人物が……」

「ああ、そうだ。そしてここからは俺でも予想できる。国に所属していない異能者は、間違いなくネイレスファルトに集結させるだろう」

「品評会、というわけね」

「言い方は悪いが、そういうことだ。そこで異能者達は少なからず交流することになるだろ。俺達は見つからないように接近し、そして狙いの人間がいるかを確認し――」


 彼は笑う。これからの計画を想像し――


「ま、それにしても今回は見つかる寸前までには至った。今後はもう少し気を付けながら動くことにしようじゃないか」

「ええ、そうね」

「それじゃあ、行くぞ」


 彼は告げ足を動かすと、他の二人も歩み始める。けれど、彼はふとスランゼルのある方角を見据えた。


「……次会う時は、命のやり取りだな。創生の魔術師」


 十万の兵を生み出した異能者に向け放った言葉。それは風に乗ってやがてかき消え――彼は、再度歩き出した。


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