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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
73/411

勇者の一撃と魔術師の懸念

 下から魔力が胎動し始めた時、シャナエルは鎧騎士に何度目かわからない攻撃を弾かれる。


 策を考え実行しようとしたものの、オックスはそのタイミングを計るためかまだ打ち出せていなかった。鎧騎士は会話を聞いていたわけではないはずだが、それでも動きが変化したことに警戒したらしく、剣筋が変化。それによってさらに策を用いるタイミングが難しくなった。


 さらに戦っている最中に下からの魔力――焦燥だけが募る。


「ちっ!」


 オックスは小さく呟きつつ鎧騎士が放った剣を弾く。時間的な余裕に加え体力も減り続けている。策を実行するにしても、余裕がなくなっているのは事実だが――焦ってもいけない。

 その時、オックスの剣筋が多少鈍った。シャナエルに目でその原因を追うことはできなかったが――鎧騎士はそれを見逃さず、彼へ間合いを大きく詰める。


 シャナエルは思わず声を上げそうになったが――オックスはどうにか防いだ。そして体勢を立て直すが、動きを見てシャナエルは限界が近いのだと直感する。


 するとここでオックスと目が合う。


「――心配すんな」


 そして彼は言った。


「悪いな、これだけ時間が掛かって……だが」


 なおかつ、彼は笑みを浮かべる。


「十分だ……いくぜ、シャナエル!」


 同時、オックスは勢いよく間合いを詰める。傍から見れば無謀な特攻に見えたかもしれない行為。だが、シャナエルは彼がどういう考えを持って戦っていたのかを理解しているからこそ、何をするのか把握した。


 これまでの攻防で、オックスは相手の動きを頭の中で解析していた――どれほど技量が強力であったとしても、鎧騎士は命令を受け生前の力で戦っている。つまりそれはあくまで人間ベースであるということで、剣筋にも癖が出る。それをオックスは時間を掛けたが見極め、理解した直後攻勢に出たということだ。


 次いでシャナエルも動き――鎧騎士はまずオックスへと攻撃を仕掛けた。それに対し全体重を乗せたオックスの一撃が防ぐ。そして、反撃。

 勢いを殺さないままの一撃に鎧騎士は回避に移り――体勢をやや崩しつつも反撃に転じた。おそらくシャナエルが迫る状況であるため、弾き返そうとしたのだろう。


 だがそれを、オックスは結界によって防いだ。腕輪の魔力を全て注ぎ込んだのか、その結界は僅かな時間ではあったが鎧騎士の攻撃を防ぎ――


 シャナエルは、刀身へ一気に魔力を収束させ、斬撃を放った。それと同時に結界が壊れるが、オックスは剣戟を回避しつつ、シャナエルと同様反撃に転じた。


 ――シャナエルの狙いは、胴体でも、頭部でもなかった。風の魔法をまとわせたその一撃の目標は――剣を握る、右腕。


 体に比べて魔力が薄いと感じたシャナエルは、そこに狙いを絞り剣ではなく手首の破壊に出た。とはいえ通常ならば狙うのは難しい。しかし、結界を破壊し僅かに硬直したその一瞬――シャナエルは、そこを突くことによって。ほぼ狙い通りの斬撃を放つことができた。


 刹那、風を組み合わせた豪剣が鎧騎士の右手首に触れた。勢いよく放った一撃は胴体とは異なり刃を僅かに入れ――


「まだだ!」


 オックスが告げ、剣をシャナエルと同様右手首に注いだ。二つの斬撃――小手によって守られていた腕だったが、二つの斬撃が手首を挟み込んだことにより、今度こそ鎧騎士も耐え切れなくなり、


 右腕から先が、体から離れ吹き飛んだ。


 鎧騎士はたまらず後退する。逃げるのではなく、剣を失ってもなお構える所作を見せた。


「こういう所を見ると、やっぱり操られた存在だなって思うな――!」


 オックスは畳み掛けるべく走る。シャナエルも追随し、鎧騎士が右腕を振る。けれど手を失ったためその行動は限りなく無意味であり――オックスはとうとう、首筋に一撃を叩き込んだ。

 シャナエルもまた、彼に合わせこめかみに剣を叩き込んだ。結果、刃が食い込み――振り抜いた時は頭部は完全に吹き飛び――塵となった。


「終わった……」

「そうだな」


 息をつくオックスに対し、シャナエルは走り出す。


「進むぞ! この魔力――」

「わかってるよ! ったく! 死んでなきゃいいけどな!」


 悪態をつきつつもオックスは追随。疲労した体に鞭打ち、両者は走る。


(間に合わないかも、しれないが……)


 シャナエルは内心懸念を抱かずにはいられなかった。否定的な思考は悪いと思ってはいるが、先ほどから感じられる強い魔力から考えて、幻獣が復活間際に差し掛かっているのだと認識する。


 となれば当然、ユティス達が食い止められなかったか、それともまだ交戦中か――まだ戦っていてくれとシャナエルは半ば祈るように思いつつ、必死で足を進めた。



 * * *



 地面から魔力を感じられ始め、地上にいた教授達はにわかに動揺し始めた。それを騎士や宮廷魔術師が上手く取り成すのを見ながら、フレイラは祈るような気持ちで地面を見据える。


「ユティス……」


 フレイラは名を呼ぶが、今更行っても間に合わないだろうし、足手まといにしかならないだろう。だからこそ今は、信じるしかない。


「どちらにせよ、戦いは直に終わりを迎える……」


 横にいるレイルが言う。もしそれが相手の勝利であれば――大惨事は免れない。


「今から城へ連絡しても遅いでしょうし……幻獣が暴れるのであれば、今から外へ避難しても遅いでしょうね」


 彼がさらに語った時、学院にいる魔術師の一人が近寄って来た。


「学生達だが……現在待機しているような状況。避難させるべきか?」

「いえ、どちらにしても逃げることはできないでしょう。むしろ一ヶ所に集めて多重結界を張った方がまだ無事に済む可能性があります」

「そうした方が、良いのか?」


 レイルは何も答えなかった。判断できないのだろう。


 魔術師は「わかった」と短く答え、立ち去っていく。気付けば周りの人間全てがざわついており、少しずつではあるが動揺が広がりつつあった。


「騎士フレイラ」


 そこへ、呼び掛ける声。視線を移すと、フリードだった。


「様子を見に来たんだが……現状の魔力から考え、苦しい展開のようだな」

「後は、ユティス達を信じるしかない」

「そうか」


 目を細め、俯く彼。しかし少しすると目線を変えてレイルを捉える。


「……君は確か、ユティスの弟」

「レイルと申します」

「そうか……今回、巻き込まれて災難だったな」

「……カール殿の責任とはいえ、私も加担したのは事実。ユティス兄さんではなく、私が色々と問題を起こした形になりますね」

「こうして事件解決に貢献している以上、そう問題にならないとは思うが」

「どうでしょうね」


 肩をすくめるレイル。本来なら権力争いに巻き込まれ、良い結果でない以上もっと暗い表情をしてもおかしくない。けれど今の彼は、どこかさっぱりとしていた。


「そちらは『聖賢者』に一歩前進、ということでしょうか」

「いや……俺もその気はなくなった上、今回の件で全てがご破算だろう。学院長や俺を支持していた教授が亡くなったからな」


 フリードは複雑な表情をする。レイルはその事実を聞き嘆息する。


「今回の事件で、学院関係者の多くが犠牲となりましたね」

「展開次第ではさらに犠牲者が増えるだろうけどな……どちらにせよ、学院の権力構造が変わるのは間違いない」


 両者の表情は硬い。フレイラはあまり学院や魔法院に関わることがなかったため今一つピンと来ないのだが、それでも死者を出した以上変わらなければならないというのは、理解できる。


「後は騎士の面々がグロウを打倒してくれればというわけだが……」

「悪い情報も入っています。一筋縄ではいかないでしょう」

「そうか」


 言葉にフリードは頭をかきつつ、


「……騎士フレイラ、一ついいか?」

「構わないけれど……どうしたの?」

「今回の件で、もしユティス達が勝ったのなら……学院は、彩破騎士団から身を退くことになる……というより、そうせざるを得ない状況に追い込まれたとみるべきか」

「不本意だけど、そうだと思う」

「その点についてだが、一つだけ言いたいことがある……今後、学院がどのような体制となるかだ」


 首を傾げるフレイラ。反面レイルには何が言いたいのか予測できているのか、険しい顔をしていた。


「学院長は、確かに学院で絶対的権力者として君臨し、カール殿の研究室を荒らしたように、傍若無人な行動をしていたのも事実だ。だがそれでいて、魔法院の人間達からの干渉を最小限にとどめるよう努力はしていた。独立性を保つように尽力していた、とでも言うべきか」

「魔法院からの突き上げがあったという話も聞きますからね」


 レイルが補足するように言う。フレイラは眉をひそめ、フリードに問う。


「つまり……魔法院がこれから強く干渉すると?」

「学院長が亡くなった以上、そうなることは必定だろう。もっとも外面上は特に変化はないはずだ。魔法院側とて無茶な命令を与えた結果、そっぽを向かれてしまうのも困るからな。しかし」


 と、フリードは憮然とした面持ちとなる。


「もし……もし、ギルヴェ殿が関わって来たのならば、彩破騎士団にとってまずいことになる」

「ギルヴェ……魔法院を管理する一人ね。彼が危険?」

「危険かどうかまではわからない。だが現状、ギルヴェ殿は彩破騎士団を敵対的に見ている……その結果どういうことが起こるかと言うと――」


 フリードはフレイラと視線を重ね、そして、


「彼が関わる場合……十中八九、彩破騎士団は魔法院及び魔導学院から直接的な協力――具体的に言えば魔術師を騎士団に加えることなどは、できなくなるだろう。もし何かしら調査を依頼したならば俺やアージェが協力するだろう。しかし、魔術師の登用などについては――」

「わかった」


 フレイラは憮然とした心境を抱えつつ頷き――直後、足元に存在していた魔力がさらに変化した。


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