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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
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罠と最後の策

 騎士達が先陣を切って中に入った直後、ユティスの目に室内の様相と奥にいるグロウとイリアを捉える。

 部屋は、奥行きのある石室――グロウが作り出した明かりによって全体が照らされ、天井が高いことも理解できた。


 その一番奥には、複雑な紋様が彫られた壁面が紅く鈍い輝きを放ち、その前には台座らしき場所――おそらくそこが、幻獣を封印に関与している場所。

 そしてグロウの表情は――眉をひそめ、イリアに指示を飛ばす。


「防げ――!」


 声にイリアはグロウを庇うように立ちはだかった。それに対し、


「罠は……ありません!」

 解析をしていた後方の魔術師が声を上げる。それと共に騎士が走り、加え――

 魔術師達の一斉唱和による魔法が、繰り出された。


 火球や光弾、さらに風や雷――基本魔法ではなく中級クラスの魔法が、一斉にグロウへと降り注ぐ。

 それに対しイリアは、手をかざすことで応じた。刹那、魔法が届くよりも前に、漆黒の結界が生じる。直後魔法が降り注ぎ――壁となった結界は、その全てを防ぎ切る。


「何……!?」


 ロランは驚愕の声を上げたが――方針は変えないのか、


「このまま突撃する!」


 声と共に騎士が走る。距離が一気に詰まり、漆黒の結界へと剣が振り下ろされようとしていた。

 その時、後方にいたユティスは嫌な予感を覚えた。決して何か確証のあるものではなかった。けれど、今の状況――すなわち騎士達が先陣を切り、魔術師がその後方を追うという形。


 これこそ、敵の狙いなのではないか。


 騎士の剣が結界を突破しようと放たれる。彼らの剣は『武装式』である以上、力強い斬撃は魔力が多大にあるイリアであっても突破できそうな状況ではあった。

 一人目の剣が結界に触れる。金属音が響くと同時に、さらに後方の魔術師達が魔法を放つべく腕をかざし、


「――残念だったな」


 結界の奥で、グロウの声が聞こえた。

 同時に床が突如発光する。罠だとユティスが認識すると共に、先頭にいたロランが何事か叫び、


 室内が、真白く包まれ――爆音が生じた。



 * * *



 音が発生した直後、ヘルベルトは小さく笑みを浮かべた。どうやら、事前に施していた策が決まったらしい。


「風は……本当に、こちらに向いて吹いているというわけか」


 すべては、リーグネストにカールという人物がいたからこそ――だからこそ、金庫の中から魔具を手に入れることができた。

 グロウも語っていた。一番無防備となるのは幻獣を復活させる間。膨大な魔力を捻出するには『星樹の杖』で対処できるのだが、その間他者に護衛をしてもらう必要があった。


 その対処として、聖女を用いるのは最初から頭に入っていたが――学院襲撃に関して言えば杖を奪った時点で半ば成功するはずだった。最大の脅威となったのはユティス=ファーディルを始めとした一団。そして予想以上に早かった騎士団の援護。


 ユティス達だけならば対処はそう難しくなかったはず。しかし騎士団――地下へ侵入した人数を考えると、どれだけ鎧騎士や聖女が優れていても手数が足りなくなるのは必定。

 特にあの勇者二人が面倒――グロウはおそらく厄介な勇者だけでも分断させるために鎧、騎士を道中に待機させ阻むようにしたはず。けれどそうなれば当然、護衛は聖女だけとなり騎士や魔術師達の対処が難しくなる。


 それに対処するにはどうすればいいか――ここでグロウは、カールが保管していた魔具を使用することにした。


「奴が金庫に何を所持しているのかは把握できている。その中で特に強力な魔具……これを使い、いざという時に対処する」


 幻獣復活の際騎士団がいるなどという事象は基本想定していなかった。襲撃した段階で学院は混乱で騎士団を呼ぶ余裕はないと思っていたし、仮に派兵を申し出たとしても駆けつけた時には全てが終わっているはずだった。けれどその予想を覆し騎士団は到着し、グロウへ迫った――だがグロウの準備が騎士団の猛攻を上回った。


「これを想定していたのはさすが、といったところか」


 ヘルベルト自身も考慮の埒外であったことは事実。だからこそ、感じている。

 天は我らに幻獣を復活させるべく微笑んでいると。


「……そして」


 少し間を置いて呟く。ここから自分はどう動くべきなのか。


 北部での実験を重ね、この学院に置いても準備は全て整っている。おそらく不死者生成の実験と合わせて行っていなければ、ヘルベルトが秘める今回の計画は成功しなかっただろう。

 例え『彩眼』を持っているとしてもそれは変わらない――だからこそ、計画成就の時が楽しみだった。


「さて……教授は復活させるのか、それとも、騎士団達が止めるのか」


 観戦する心積もりでヘルベルトはここからの行動を考える――とはいっても、グロウが勝とうが騎士団が勝とうがどちらにせよ結果は変わらない。


「罠が発動したのならば、グロウが一歩有利だろうな……しかし」


 ユティスや、本物の聖女であるアリスという存在。彼らがこの戦いで大きな役割をするのではと、ヘルベルトは直感する。


「ま……精々楽しませてくれよ」


 余裕を抱きつつヘルベルトは呟く――それは既に、勝利を確信した顔だった。



 * * *



「う……」


 ユティスが気付いた時、地面にうつぶせに倒れていると自覚しゆっくりと起き上がる。僅かな気を失っていたようだが、痛みはない。

 周囲は爆発による粉塵に包まれていた――が、突如旋風が粉塵を取り除いた。


 放ったのは真正面に立っていたアリス。彼女もまた多少ながら負傷していたが、ユティスは彼女が防御したためこのくらいのダメージで済んだのだと思った。


「アリス――」


 言葉を掛けようとした時、室内の全容が見えて絶句する。広間自体に一切変化は無かった。しかし、攻撃に出た魔術師や騎士が揃って倒れており、唯一ロランだけが片膝をつきつつも剣を構えていた。


「瞬間的な判断は見事だったが、どのみち結末は変わらなかったな」


 グロウの声が室内に響く。直後、イリアの腕がロランにかざされ――彼は、力の限り後退を行った。

 イリアはそこで腕を下ろした。するとグロウが笑う。


「心配するな、まだ殺しはせんよ。制約に引っ掛かるからな」


 言葉に――ユティスは地面に伏す人物達に視線を送る。確かに彼の言う通り、騎士や魔術師は気配的に生存していることが理解できた。


「制約だと?」


 聞き返したのはユティス達が立つ場所の前まで退避したロラン。


「人を殺めると魔力を噴出するのだが……その魔力噴出が、幻獣を生み出す魔法を阻害させる可能性があるというわけだ……しかし」


 と、グロウは杖を揺らす。


「復活した暁には、是非とも最初の犠牲者となってもらおう」

「貴様……!」


 ロランは怒りに任せ飛び出しそうな雰囲気を見せていたが――寸前で、止まる。


「賢明な判断だ」


 グロウは語りつつ、今度はユティスに目を向けた。


「さて、『彩眼』を持つ魔術師の君に質問だが……今の攻撃、君にはどう映った?」


 問い掛けにユティスは思考する。先ほど後衛の魔術師は罠は無いと断言したが、実際には仕掛けられていた。おそらくこの部屋自体濃密な魔力に溶け込んでいたため罠があるとは判断できなかったと考え――


「……魔具の力だな」

「ご名答」


 グロウは左手を見せる。そこに、腕輪が一つ。


「周囲の魔力に同調し、魔法を仕込んでおく魔具だ。これは本来カールの所有物で、金庫に保管されるほどの強力なものだったのだが……こうして私が利用したというわけだ」


 カールの――ユティスは理解すると共に、腕輪を注視。


 どんな魔具であれ、今のように攻撃を行うまで利用するには多少なりとも訓練が必要となる。けれどカールの部屋にあったのなら、練習する機会は皆無だったはず。


「……お前は、それが金庫にあると知っていたのか?」

「まさしく。そして私はリーグネストで鍵をすり替えた」

「それもまた、あの戦いの目的だったのか」


 魔具の使用法を把握していたため、カールから鍵を奪いこうして使うことにした――推測と共に放たれたユティスの言葉に対し、グロウは歪んだ笑みを作る。


「他にも、魔法院に関する資料も発見した」


 言いながら懐を叩く。そこに資料があるのだろう。


「実に興味深いことが書かれていたよ。幻獣の力と情報、この二つを使えば、魔法院……ひいてはこの国の支配者となることも可能かもしれん」


 グロウは狂気を伴った瞳で騙り――最後に告げた。


「正直、これがなければ私の敗北もあり得た。だが、神はどうやら私を選んだようだ」

「ぬかせ……!」


 ロランが一歩出る。それを抑えたのは――ユティス。


「騎士ロラン。待ってください」

「……ユティス君?」

「あなたが一人突撃したとしても勝つのは難しい……勝つには、ここにいる全員の力が要ります」


 残っているのは、ユティスとアリス。そしてロランと後方に控えていた魔術師一人。気絶する騎士や魔術師が戦力にならない以上、このメンバーでどうにかするしかない。


「ゆっくり考えてくれて構わないぞ」


 グロウが、余裕のある言葉を紡ぐ。


「直に幻獣復活の手筈が整う。今から戻って援軍を請うたとしても……いや、その前にここにはいない勇者二人辺りが颯爽と到着するか?」


 次いで、グロウはイリアへ視線を落とす。


「あの二人は、私が生み出した鎧の不死者を相手にしているのだろう? まあよしんば倒したとしても……幻獣が復活する方が早いかもしれんな」


 言葉の直後――体を身震いさせるような魔力が室内に満ちる。ユティスはそれで理解する。最早時間は無い。


「さあ? どうする?」


 グロウはあくまで静観の構え――これは至極当然。無理に攻める必要はない。幻獣が復活できれば、その後に攻撃を開始すればいいだけの話。

 だからこそユティスは思案し――思い出したのは、先ほどの戦い。


「彼女は詠唱した素振りは見せなかった……つまり、潜在式の魔術師」


 呟くと同時に、ユティスはアリスへと確認を行う。


「アリス、君の魔法だけど……例えば攻撃魔法を放ちつつ結界を張るようなことは、できる?」

「無理」


 首を振る――ユティスはそこで察した。彼女の発言を照らし合わせれば、攻撃と防御を一度にはできない。先ほどもイリアは結界を張っただけ。これは間違いない。

 加え、グロウはまだ魔法が使えない状態。となれば必然的にグロウ達は守勢に回らざるを得ない。けれど現状で、イリアの結界を打ち破るだけの攻撃を残る四人で加えられるかどうかは――


(……いや)


 一つだけ――相手の防備を考え、結論を導き出す。


「何をすればいい?」


 アリスが問う。ユティスは彼女を一瞥し、やがて、


「……妹さんの結界を打ち破るだけの魔法を、生み出すことはできる?」

「不可能では、ないと思う」

「残った面々で押し切るということか?」


 ロランが問うと、ユティスは小さく頷き、


「……さすがに口頭で説明はしません。ただ、相手の結界を打ち破ることができれば――」

「わかった。やってみる」


 アリスは答えると、右手に魔力を集め始めた。


「突破したらグロウへ攻撃を仕掛ければいいのよね?」

「ああ」


 ユティスは言いながら彼女と同様に魔力を手に収束させる。その間にも、さらに周囲の魔力が濃くなる。時間は、ほとんどない。


「……こっちも、全力で攻撃を行おう」


 ロランが告げると、残り一人となった魔術師も同意するように頷いた。

 気付けば、ユティスの策に全員が乗るという状況――いや、より正確に言えばユティスの持つ『異能』の可能性に賭けたのかもしれない。


「……行きます」


 ユティスが告げると同時に、ロランが走り出す。次いでアリスが続き、その後ろをユティスと魔術師が続く。

 そうした中でユティスは歯を食いしばる。薬を飲んでいるとはいえ、魔力を使い果たせば動けなくなるのは間違いない。だからこそ、この衝突が相手を倒すことのできる、唯一の機会。


 グロウは笑う。彼にとっては無謀な特攻に映っただろう。ユティスはその視線を見据えながら――体にもってくれと祈りつつ、『創生』の異能を発動した。


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