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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
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勇者二人と判明した事実

 シャナエルが鎧騎士の剣を弾くと同時に、オックスがカバーに入る。しかし剣戟の速度や技量は全て鎧騎士の方が上であり、二人であっても攻めあぐねている。


 これはリーグネストで遭遇した時と同じ。けれどその時と違うのは、鎧騎士が踵を返そうとすること。これはグロウから突破されたらそれを追うように指示されているためだろう。


 もし野放しにすれば、迷わず鎧騎士はユティス達の所へ向かうだろう。だからこそ、体を休める暇はないしここで決着をつけなければならない

 そして相手は不死者であり、魔力の続く限り動き続ける。こうして稼働している間にも魔力は減り続けているはずだが、それよりもシャナエル達の体力が尽きる方が圧倒的に早いだろう。


「オックス――」

「わかってるよ!」


 言わんとしていることを理解しているのか、オックスは斬撃を叩き込む。けれど空しく弾かれ、二人は同時に距離を置いた。

 鎧騎士は動かない。戦闘意志を示していると多少の時間は止まってくれるが、十秒も経つと踵を返そうとする。


 おそらくオックスにはその所作が舐められているなどという風に映っている――目の前の相手に感情があるはずもないが、そうした動きをされている時点で癪に障るというわけだ。


「……三国の勇者二人いて、この体たらくじゃあまずいよな」

「ああ……だが」


 鎧騎士が後方に動こうとする。そのタイミングを見計らい、シャナエルは刺突を繰り出した。

 先端が鎧に当たる――寸前、剣によって捌かれた。次いで横薙ぎを決めるがそれも徒労に終わる。


 オックスが炎を生み出し攻撃するが、鎧騎士は炎を一切ものともしておらず、平然と剣を押し返す。

 これはシャナエルの風も同じだった――オックスとシャナエルは共に『武装式』の魔法を使用するが、刀身から発せられた魔法では効き目がない。先ほど全力を注いだ炎と風の複合攻撃でも、動きを止めるので限界だった。


 通用するとなれば全力の一撃――しかし、それは決して届かない。


「どっちかが腕でも犠牲にして止めるか?」


 オックスは剣を放ちながらシャナエルに問う。


「お前がやるというのなら、喜んで賛成しよう」

「減らず口は相変わらずだな……おら!」


 声と共にオックスは渾身の一撃を放つ。全身の力が乗った見事な一撃だったが、鎧騎士はあっさりと弾いた。


「ちっ……やっぱりこのままじゃあ当てられないな」

「そして、こちらの体力が直に尽きる」

「まったくだ……っと!」


 オックスに対し鎧騎士が刃を向ける。それを一度は回避したが、次の攻撃を避けるタイミングが一歩遅れる。

 剣が入る――とシャナエルが思った直後、


「守れ!」


 声の直後、オックスの正面に結界が形成された。緊急回避用の結界――


 それにより鎧騎士の剣戟が押し留められる。しかし相当な威力を乗せているためか途端にヒビが入り、砕けた。

 けれどその間にオックスは体勢を立て直し、攻撃を回避することに成功する。


「ユティス殿の生み出した魔具か」


 シャナエルは呟きつつ、オックスへ視線を向けた。


「危ない、戦っていて忘れていた。こいつの存在を思い出していなかったら斬られていたな」

「そして俺達は退場と」

「……少しは頑張れよ」

「二対一でこの状況だぞ? どちらかが怪我でもしたら確実に負ける」

「ま、確かに」


 オックスが剣を構え直し――シャナエルはそこで、一つ思いつく。


「オックス、さっきの結界をもう一度張れるか?」

「え? どうしてだ?」

「先ほどの攻撃、剣の動きを鈍らせることはできた。それを利用すれば、隙を作れる可能性がある」


 会話の間に鎧騎士が後退しようとする。それをシャナエルは一歩進み出ることで戦意を現し、止める。


「……どうやるんだ?」

「お前に俺の考えをやらせるのには無理があるだろう。ほんの少しでいい。時間を稼げ。後はこちらがやる」


 その言葉にオックスは一瞬不服そうな表情を見せたが――やがて、


「わかったよ」


 承諾。次いで剣に魔力を込める。それにより、鎧騎士が僅かに反応する。


「俺が気を引かせる。その間に上手くやれ」

「言われなくとも……だがまあ、良いタイミングを見つけ出さないといけないな」


 シャナエルは答え――同時に走り出す。そして鎧騎士も反応し、

 双方は同時に、剣を放った。



 * * *



 地上では、フレイラもまた行動を開始しようとしていた。とはいえ多少痛みが残るレベルであるため、あまり無理もできない。


「フレイラ様」


 レイルの声。彼の近くでは教授が解散を始めており、それを見送るアージェの姿もあった。


「ええ……そっちの首尾は?」

「ユティス兄さんの指示通り学院内を見て回りグロウの弟子らしき人物を捕捉しようとしていますが……難しいかもしれません」


 苦い表情の彼。そこでフレイラは一つ確認をする。


「ユティスから何か聞いている?」


 問い掛けに、レイルは僅かばかり目を細め――何か考えているような気もしたが、


「注意をしてくれとだけ」

「そう……グロウとは別行動であることを考えると……」

「目的はわかりませんが、兄さん達がグロウを倒した後……今度は彼が動き出す可能性もあります」

「それを挫く手段は?」

「事前に発見し捕らえるしかないでしょうね」

「私達は、どうすればいい?」

「水の使い手が現れないとも限りませんし、武装状態で待機を」

「わかった」


 フレイラ自身、今回ほとんど役に立っていない状況を鑑みて、歯がゆい思いとなる。

 おそらく怪我をしていなくとも、地下への侵入メンバーには選ばれなかっただろう――ロランは同行してくれと言ったかもしれないが、それにふさわしくないのはフレイラが自分でよくわかっている。


「……もっと」


 強くならなければ――これから『彩眼』の異能者と戦っていく場合に備え。

 無論一朝一夕では決してできない。けれど、フレイラには考えがあった。自身の体に刻む『強化式』の刻印。これを利用すれば――


「フレイラ様」


 ふいに、後方からティアナの声。振り向くと、心配そうに見ている彼女の姿。


「……どうしたの?」

「怖い顔をされていました」


 指摘にフレイラは自身の顔に手を当てる。それで表情がわかるはずもなかったが――


「同時に、ひどく思いつめているように見受けられます」

「……そう?」

「はい。私でなくとも、ユティス様であってもすぐお気付きになられたと思いますよ」


 ティアナの言葉にフレイラは押し黙る。すると彼女は、


「あの……そう警戒されましても」

「一つ、いい?」


 フレイラはティアナの言葉を遮るようにして、口を開く。


「ここまで来て言うのも何だけど……私やユティスは、少なからずあなたのことを警戒している」

「ええ、そうだと思います」


 あっさりと認める彼女。沼に杭でも打つような手応えのなさを感じつつも、フレイラはなおも続ける。


「正直、あなたがそうやって心に押し入ろうとする態度が、それを助長させているようにも思える」

「かも、しれません」


 ティアナの言葉にフレイラはため息を漏らしそうになった。


 こんなことを今更言っても仕方がないとはフレイラも思っている。そもそも彼女はグロウと相対し、戦った。だから少なくともこの戦いで敵になるようなことにはならない――はずだ。今手持ちにある情報を統合すれば。


「フレイラ様達に、信用してくれとは言いません」


 ティアナは語る――フレイラの目から見ても、強い意志を伴った態度。


「私がなぜあなた方に協力するのかは……以前、お話した通りです」

「……もう言ってしまうけど、それすらも私は疑っているわけで――」

「そのくらいは、百も承知です」


 今度こそ、フレイラはため息を漏らした。


 それと共に話が脱線したことに「ごめん」と小さく謝る――フレイラ自身城の人間に対し警戒しているがために、こうしてティアナもまた警戒している。だが、正直な所人間不信一歩手前になっていると言ってもおかしくない。

 逆に言えばそれだけ警戒しなければならない――だからこそこうやって押し問答をしている。


「フレイラ様」


 そこで、ティアナは強い瞳を伴い声を上げた。


「私はどのような形で扱われても構いませんよ。ご不満であれば監視も……」

「……わかった」


 フレイラは言いたいことを全て飲み込み、話を打ち切るべくそう告げた。


 視線を逸らすと、レイルがアージェと共に話をしている光景。思考を戦いへとシフトさせ、これからどうするべきなのかを頭の中で必死に巡らせる。

 これから自分に何ができるのか――追うことは当然できないため、ユティス達が勝つことを祈り、それが終わった後レイルと共に弟子と思しき人物を探すのが一番だとは思う。


 けれど――フレイラの胸中には懸念があった。騎士や魔術師と共にユティスは地下へと入った。幻獣を復活させるとしたらグロウはそれだけに意識を集中させる必要があるのはフレイラにも容易に想像できる。だからこそ護衛としてイリアや鎧騎士を伴っているのだろう。


 ただ戦力的に見ればたった二人の護衛。数で押し寄せたユティス達に対し、幻獣を復活させることに注力するはずのグロウに勝ち目がないように思える――しかし、


「……敵が」


 ふと呟く。その声は誰にも聞かれなかったようで周囲の人々は反応を示さない。

 そうした中、フレイラは心の中で呟く――敵の心理まで考え行動していた相手が、この状況を果たして想定していなかったのだろうか。


 敵には『魔術師殺し』という宝剣もある――ただ先ほどの戦いで使用してはおらず、持ち込んでいない可能性も否定できない。となれば、彼はどうやって対処するのか。


 とめどなく思考を重ねていた時、フレイラの視界に慌てて駆け寄ってくる魔術師の姿が。そちらを注視した時、彼は教授へ駆け寄り話を始め、周囲の人物達が色めきたった。


「どうしたのでしょうか」


 不穏な空気を感じ取ったらしいティアナが声を上げる。フレイラも気になりじっとそちらを見据える。そこで今度はレイルと何事か会話を行った。

 彼も話を聞いて、険しい顔をする。一体――フレイラが気にかかった時、レイルがフレイラ達へと首を向け、近寄った。


「一つ、お話が」

「どうしたの?」

「カール殿のことですが……失墜するという状況から、ラシェン公爵が手を差し伸べました。結果としては『魔法院』に関する情報を伝える代わりに、ある程度身分は保証すると」

「……取引、というわけね」

「態度から見て『魔法院』を打ち崩す好機などと思ったのかもしれません……まあ、彼に逆上されて色々妨害されては厄介ですからね。どういう形になるのかは騒動が静まってからになりますが……今後あなた方を邪魔立てすることはなくなると思います」

「そうなるといいけど……先ほどの険しい顔は、それが理由じゃないよね?」

「はい……実はカール殿から依頼され、研究室がどのような状況となっているかを確認した」

「荒らされていて愕然としたでしょ?」

「それはカール殿も予想できていましたが……一つだけ、予想外の状況が」

「予想外?」


 それが不穏な空気の正体――察したフレイラは言葉を待つ。


「実は、重要書類などは魔石と金属を組み合わせた特殊な金庫に保管し、カール殿が常に持ち歩いている鍵でしか開かないようになっていた……それには鍵も掛かっており、中身を確認して欲しいと渡された鍵で開けようとしたのですが」

「開かなかった、と?」


 フレイラの質問に、レイルは頷いた。


「教授達も、それだけは開けられなかったと言っていました。そして渡された鍵ですら開かなかった以上、ある結論が導き出される」

「……グロウが?」

「リーグネスト襲撃時に、すり替えたということでしょうか?」


 ティアナが問う。レイルはすぐさま頷いた。


「カール殿とグロウは見知った人物で、それなりに交流もあった……だからこそ、鍵を常に持ち歩いていると知っていて、襲撃時にすり替えた」

「でも、偽物の鍵を用意していたというのは……」

「事前に準備していたのは、相手がカールだと内通者の情報から把握していたからだと思います。似せた鍵を購入したか作ったかはわかりませんが……ともかく、相手がカール殿だとわかり、鍵のすり替えを行ったのは間違いないかと」

「……その金庫の中には、何が入っていたの?」


 レイルは途端に難しい顔をした。それに不安を覚えたフレイラは答えを催促しようと口を開きかけた時、


「――『魔法院』に関する資料と、とある魔具。それはカール殿が持っている物の中で特に優れた物で」


 そこまで言った時、地鳴りのような音が地面からの振動と共に、フレイラに耳へと飛び込んできた。


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