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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
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阻む者

 地下を封鎖する結界の破壊に成功したのは、宮廷魔術師達が作業を開始しておよそ一時間後。既にユティス達の準備は整い、ロランもまた配下の騎士に学院の警備について指示を終えていた。


「潜入は俺を含めた騎士六名と宮廷魔術師四名……そして、君達だ」


 ロランの言葉にユティスとアリス――そしてオックスとシャナエルが頷いて応じた。

 戦いで負傷したフレイラは現在治療を受け、ティアナも戦力になるのは難しいと断じ残る。そしてレイルは――


「レイル、頼んだ」

「うん」


 複数人の教授に囲まれレイルは頷く――彼の傍らには残ることを表明したアージェや、様子を見に来たフリードの姿もあり、ユティスの味方が一堂に会するような状況となっていた。


「兄さんと交戦した相手については、どうにかする」

「ああ。ひとまずレイル達は騎士や魔術師の人達と一緒に警戒を続けてくれ。水を操る人物について注意をするように……頼んだ」


 ユティスは研究棟の一室で打ち合わせをしたことを思い出し――少しばかり力を込め言った。するとレイルはユティスの考えを汲み取ったか、深く頷いた。

 そこでユティスはロランへ目を移す。彼はそれに同調するように首肯し、


「行くぞ!」


 声と共に、騎士団を先頭にして地下へと階段を下り始めた。ユティスやアリスは列の真ん中辺りで歩を進める。前方に勇者二人と騎士。そして後方に宮廷魔術師。


 扉を一枚抜けると、そこは暗闇。すぐさま魔術師が明かりを生み出すと、石造りの廊下――次に見えたのは、直進の廊下。

 そしてユティスは気付く。通路の真ん中に、狼を模した魔物が複数――間違いなくグロウが生み出した存在だ。


「さすがに、簡単に通してはくれなさそうだ」


 先頭のロランは言いつつ、剣を抜く。


「時間稼ぎのつもりだろう。魔術師方、罠はありそうか?」

「現状、特別な魔力が滞留しているわけではありません」

「ならば、このまま突き進む……!」


 ロランの声と共に、オックスやシャナエルもまた前線に出た。


「俺達も協力するぜ」

「オックス、お前は連戦となる。休んでおけ」

「馬鹿言え。じっとしていられるか」

「……最後までもたせる気があるなら、戦ってくれ」


 ロランは止めても無駄だと理解したか二人へ告げると、走り出した。他の騎士達も追随し、オックスやシャナエルもまた彼らと共に不死者との交戦を開始する。


 そこから――騎士と後方にいる宮廷魔術師によって不死者を倒しつつ地下を進む。散発的に不死者の群れが現れるがそれほど力もなく、ほんの僅かな時間足を止める程度にしか役目を果たさない。


 その気になれば強力な不死者を生み出せるはずなのだが――いや、それをすること自体時間を消費してしまう以上余計な不死者生成は必要最小限に留め、幻獣復活を優先したのかもしれない。

 ともかく、ユティス達はそれほど障害もなく進み続けることができた――途中までは。


 かなり長い回廊を抜け、階段が現れる。そこを下りさらに進んだ時、


「お出ましだな」


 オックスの言葉。廊下の中央に、グロウと共に行動していたはずの鎧騎士が立っていた。

 他に不死者の存在はなく、一体で全てを阻むような気概さえ感じられる。


「さあて、通路はそれなりの広さとはいえ、これだけの大人数が立ち回るのは無理だろうな。戦うにしても数名が限界か……ロランさん、どうする?」

「一刻も早くグロウの下に辿り着く必要がある以上、あまり時間は掛けられないが……魔術師の援護があっても倒すのは難しいのか?」

「三国の勇者二人を平然と食い止める技量だと言えば、その強さはわかるだろ?」

「……さすが、勇者トラードといったところか」


 険しい顔つきでロランは言う。それに対しオックスはさらに続ける。


「これだけの人数がいる以上、倒すことも十分可能だろう。しかしここまで周到に計画を立ててきたグロウがここにこいつを残したということは、俺達を阻み時間稼ぎする役目を仰せつかっているはずだ。技量やこの通路で戦う制約を考えれば……こいつを倒すために戦うと、術中にはまって時間を浪費してしまう他、疲労だって溜まる。だからこの場に全員残って戦うのは得策じゃないだろ」


 そこで、オックスは左手を自身の胸に当てる。


「さらに言えば、こいつがここにいるということは残りはグロウとイリアだけ……なおさらそっちに急行するべきだ。で、おそらく突破したらそれを追撃するくらいの命令はなされているはず……こいつをこの場に釘付けにしておく人間が必要なはずで……俺がやるさ。二度もやられたこともあるし、ここら辺でリベンジもしたい」

「しかし、一人では――」

「つまり、私も協力しろと言いたいわけだな」


 シャナエルだった。ユティスが注目すると、オックスが当然とばかりに声を上げた。


「そういうことだ……ってわけでユティスさん、悪いが騎士さん達と先に行ってくれ」

「……はい」


 ユティスは頷き、ロランへ目配せをする。彼はそこで踏ん切りがついたようで、


「勇者オックス、勇者シャナエル……頼む」

「任せろよ」

「私達はすぐに追いつくよう努力する」


 両者は告げると剣を構え、一歩前進。そこで鎧騎士は反応。話している間も動きが無かったが、近づくことによって警戒した。おそらく一定の範囲内まで近づくと迎え撃つ専守防衛の構えなのだろう。


「シャナエル、最初の猛攻で奴の動きを止めるぞ」

「ああ」


 承諾と共にオックスがロラン達騎士団へ視線を流す。それに彼らは頷くと――二人は同時に、駆けた。

 鎧騎士が動く。その剣戟はユティスが目を見張るものであり、自身がまともに受ければ剣ごと真っ二つかもしれないと思った。


 けれどオックスはその一撃を受け――耐えた。次いでシャナエルが風をまとわせた一撃を放つ。すると鎧騎士はオックスから剣を離すとそちらをあっさりと(さば)く。


 隙がない――ユティスがまずいのではと思った次の瞬間、

「おらっ!」


 オックスが声を上げ、大振りの一撃を放った。間合いギリギリの一太刀であり、鎧騎士はシャナエルの剣を受けつつもそちらも弾いた。

 そして、炎が生じる。それは一瞬で鎧騎士を舐め回すが、炎の向こうで相手は動く。


 次いでシャナエルが斬撃を放つ。炎に包まれながらも鎧騎士は弾くが――今度は、風が生じた。

 炎を吹き飛ばすような風ではなかった。炎と融合し、鎧騎士を取り囲むような調和の突風。


 それに相手は剣を振ろうとした――が、さらに放たれた剣戟の応酬と魔法により、一時完全に足をを止めた。


「――今だ!」


 オックスの声と同時に、ロランが走り出す。ユティスやアリスも追随し、二人の魔法によって動きを縫い止められている鎧騎士の横を、通過した。

 鎧騎士は最後の抵抗とばかりに剣を騎士達へ差し向けたが、それもシャナエルが弾き風が舞う。ユティスは横を抜けると一度振り返る。なおも鎧騎士は炎と風の牢獄に捕らわれ、魔術師達が横を通り過ぎていく。


「余程、連携のとれた二人だな」


 ロランが言う。その顔は、感心に満ちていた。


「あの勇者達なら大丈夫だろう……私達は自分達のできることをやろう」

「……はい」


 ユティスが返事をすると同時に、またも階段。今度は螺旋階段であり、ロランや数人の騎士を先頭にして下り始める。

 そして――ユティスは知覚する。進むごとに魔力が恐ろしい程濃くなっていく。


「どうやら、終点が近いようだ」


 ロランは断定。ユティスやアリスも意識しないまま頷き、


「さて、まずは作戦を立てないといけないな」


 彼は言う。声に、全員が押し黙り言葉を聞き続ける。


「相手はこちらの動向くらいは把握しているような気はするが……事前準備ができる内が勝負だ」


 ロランは後方にいる魔術師達に目を向けつつ、ユティスに問う。


「ユティス君に訊きたいのだが、実際に相対してみて……戦うとなればグロウはどう出ると予想する?」

「難しいですけれど……彼はイリア……聖女を盾にする可能性が高い。いや、もしかすると彼女の内包する魔力を用いて結界を作り出し防戦する可能性も」

「そうであれば話は早いんだがな……グロウ自身は間違いなく幻獣を復活させるための準備を行っていることだろう。そうなれば当然そちらに集中するはずで、彼は魔法が使えないはず」

「そう思います……けれど、これまで綿密に計画を立てていた彼が何かをしないとは思えない」

「使うとすればリーグネストから持ち出した『魔術師殺し』の剣だろう……とはいえ教授自身が剣の手ほどきを受けているとは思えないが……」


 ロランはそう語ると一度騎士達に目配せをする。


「俺が考えている策は、前衛に騎士を立たせ防御しつつ、魔術師の一斉砲火……とはいえ、彼女の妹を盾にする可能性があるんだったな」

「……場合によっては、それでも」


 アリスが言う。主語の無い言葉だったが、ユティスは言いたいことがすぐにわかった。


「アリス……」

「私は私なりの考えがあるけれど、その躊躇いによって幻獣なんてものが復活してしまったら……」

「わかった……いいんだな?」


 ロランが確認すると、アリスは頷いた。


「ならば話は早い。魔法による集中砲火を行い、それが駄目ならば接近戦に持ち込む。加え、魔術師の一人は攻撃を行わず、罠があるかどうかの確認をしてくれ」

「はい」


 後方の魔術師の一人が声を上げ――同時に、階下に辿り着いた。その正面には鉄の扉が一枚、侵入者を阻むように鎮座していた。


「準備を」


 ロランが指示を出すと、魔術師達が詠唱を始める。その間にユティスはアリスへ一度視線を向けてみる。

 唇を噛み締め、何かを耐えているような様子だった。もしかすると図書室に赴いた時、妹に対して何かをしようと思っていたのではないか――


 考える間に詠唱が終わる。ロランはそこで一度深く頷き、


「ユティス君、準備は?」

「……大丈夫です」

「わかった。勝負はできれば一瞬でつけたいところだが……果たしてうまくいくか」


 ロランは呟きつつ先んじて扉へと歩き始める。


「では……攻撃を開始する」


 ロランが端的に告げた直後、騎士が前に出てその後方に魔術師達が。


「ユティス君は、後方にいてくれ……もしもの場合、対応を頼みたい」


 ――そう言われ、ユティスは何をすべきなのか判断に迷った。


 これはロランもまた同じことが言えるだろう。できることが多いが故に、ロランも具体的な言動ができない。


(確かに奴の言う通りだな……)


 ユティスは胸中でグロウに言われたことを認める。経験不足。

 やはり何もかも足りない――リーグネストの時に思ったことがまたも頭の中に漏れる。


 そしてすぐに首を小さく振りネガティブな思考を止めた。今は目の前の相手に集中するべきで――必死に頭を回転させ、自分ができることを考える。


「アリスさんは、臨機応変に……できるか?」

「ええ」


 ロランの言葉にアリスは首肯し、彼は大きく頷いた。


「では――行くぞ」


 端的な言葉と共に、ロランは勢いよく扉を開け――ユティスは視界正面に、グロウとイリアの姿を捉えた。


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