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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
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権力闘争の相手

今回はラシェンの視点です。

 ラシェンが自室で事件の書類をまとめていると、ナデイルから客人の知らせが入った。


「誰だ?」

「ベルガ=シャーナード様です」


 ナデイルの返答に、ラシェンはほのかに笑みを浮かべる。


「事件についての資料もまとめ終わった所で、丁度よかった。ここに入れてくれ」

「はい」


 承諾したナデイルは部屋を後にして、ラシェンは笑みを消し執務机の上で手を合わせる。


「さて……どのように尋ねるか」


 ――レイル達がスランゼルへ移動したと同時に、ラシェンはベルガを屋敷へと呼ぶよう言い渡していた。名目上は彩破騎士団相談役として、今回関わった事件に関する聞き取り調査をしたい――筋も通っているので怪しむような人物はいないはず。


 目的は、彼が『存在』と関わっているという事実を確認すること。そしてもし、現状も何かしら指示を受けているのだとしたら、彼の扱いについて一考の余地があると思っていた。


 やがて部屋がノックされ、ナデイルとベルガが入室する。ラシェンはすぐさまナデイルに席を外すように言い渡し、扉が閉まった。


「ああ、リラックスしてくれ。そう難しいことを訊くつもりはない。座ってくれ」


 執務机と対面に存在する椅子を指差しラシェンは言う。ベルガは言われるがまま着席し、


「さて……いくつか質問があるのだが、いいか?」

「どうぞ」


 ベルガは事務的な口調で応じる。緊張しているのだと察しつつ、ラシェンは問い掛け始めた。

 手始めに、リーグネストの件から問い掛ける。当たり障りのないレベルで問い掛け、まずは報告の情報について確認を行う。


 次第に、ベルガも質問にしっかりと答える始めるようになり――ラシェンは、いよいよ本題を切り出した。


「ふむ……現地の状況はある程度わかった。さて、次の質問なのだが……」

「はい」

「君自身についてだ」


 言葉に、ベルガは眉をひそめた。


「私……ですか?」

「ああ……君について」


 ラシェンは笑みを浮かべる。ベルガにとってそれは奇異に映ったのか眉根を寄せ、沈黙を守る。

 それにより静寂が生まれ――やがてラシェンは、声を発した。


「……君に干渉している者は、一体誰だ?」


 途端、ベルガの肩が僅かに浮いた。それを見逃さずラシェンは追及する。


「城内に入り込んでいる者がいると私の情報網に引っ掛かった……次いで、彼らについて調べていた時、君に干渉する存在を感知した」

「それは……城でもお話しましたが、スランゼルの手の者です」


 ベルガが冷静さを取り戻し答える。これはラシェンの予想内の言葉。


「私自身、カール殿以外にも別の人物から依頼を請け、不死者に関する情報を伝えていました」

「ふむ……現在も、彼らと手を結んでいるのか?」

「いえ、もう……城の中で諭され、今回のことを不問にする代わりに今後学院と関わるなと」


 無難な落としどころだろう。罰することも案には出たはずだが――彼については後に回し、先に事件や学院に関する権力者と色々と事を起こすのが良いと考えたのだとラシェンは思う。

 実際ラシェンも国の重臣ならそのように動くだろうと思った――しかし、


 訊きたいのは、それではない。


「なるほど……その別の人物とは?」

「……オーバ教授を始めとした一派ですが、学院長とも繋がっていたようです」

「カール殿はずいぶんと学院内に敵を作っていたようだな」

「あの方のやり口を快く思っていない人物も多かったようですし……急速に権力を手に入れた以上、それだけ人に恨まれることをしているものだと、カール殿からも聞きました」

「彼の場合は魔法院内でも色々と無茶をしていたのだろう。それでもああして重要なポストにいたのだからさすがだと言うべきか……しかし」


 と、ラシェンはベルガと目を合わせる。


「それで、半分だな?」

「……え?」

「別の存在とも干渉していたはずだ……私が訊きたいのは、そちら側」


 ラシェンの言葉に――ベルガは目を大きく見開き、すぐさま戻った。


「……何の、ことでしょうか?」

「とぼけなくてもいい。君に干渉していた存在が城を出ていることを知り、怪しいと思い色々と調査したのだよ」


 ラシェンの言葉に、ベルガは一度視線を逸らした。明らかな動揺であり、ここぞとばかりにラシェンは語る。


「とはいえ……君にとって少なからず後ろめたいことであるのは理解できる。そして私としては、それを公表するつもりはない」

「公表、しない?」

「君の話す内容によって対処法が変わる可能性もあるが、私としてはまだ相手に気付かれているという可能性を抱かせたくない」

「つまり、密かに色々と対処するべく動くと?」

「そういうことだ。もちろんこれだけでは君にメリットもないため、二の足を踏むだろう? 取引といこうではないか」


 ベルガは沈黙。ラシェンは彼の様子を一瞥した後、なおも語る。


「こちらとして提示できるものとしては、君の地位の保証だ。場合によっては私がバックアップしてもいい」

「あなたが……?」

「君としては彩破騎士団に関わる人間である私が……というのは不本意かもしれないが」

「いえ、そんなことは」


 首を左右に振るベルガ。とはいえその顔はありありとわかる。現在フレイラのことを思い浮かべているに違いない。

 ラシェンは次の一手を提示する前に沈黙し、ベルガがどのように考えているのかを読み取る――ラシェンからの援護を受けるべきかどうかで、気持ちが揺らいでいる。


「……私は」


 言葉を濁す彼。そこでラシェンは、さらに追い打ちをかける。


「今回の襲撃……いや、もしかすると先の戦争でも彼らは暗躍していた可能性がある」


 言葉と同時に――ベルガの肩が震えた。


「それ、は……」


 怯え始める――同時、ラシェンは彼の立ち位置を理解する。


 先の戦争にラシェン自身も大いに関与していたが、一点だけ――内通者との連絡役については自前で用意しなかった。というのもラシェンの部下達は基本城内で表立って活動しており面が割れている。なおかつ式典ともなれば下手な人物を寄越すことはできず、その中で『存在』からは「こちらで用意する」という指示を受け、それに従った。


「……無礼を承知で訊くのだが、君は確か何度か式典を中座していたな……もしや、そうした存在との連絡役を担っていたのか?」


 今度こそ、ベルガは絶句した。


 やはりか――ラシェンはおそらく『存在』達が、フレイラとの決闘で追い込まれたベルガを利用したのだろう。『存在』の一派は式典前に城に入り込んでおり、ウィンギス王国側との連絡役を担っていた。ベルガはそうした者に取り込まれたのだろう。

「……君は彼らに利用された、ということか?」

「それ、は」


 声が震える。間違いなくこれは露見すれば大事――いや、反逆罪で処刑されてもおかしくない。


「……なるほど、事情は理解した」


 そしてラシェンは告げる――自身もまた『存在』と関わっているが、まったく知らない所で彼らは活動している。

 その点については、ラシェンとしても面白くない。


「話してくれ。無論口外はしない」


 その言葉に、ベルガは目を見開いた。


「なぜ……ですか?」

「君のことを慮っているから……などという理由では君自身も納得しないだろうな。なあに、私は単に彩破騎士団所属の人間として実利を取っているに過ぎん」

「実利……?」


 問い返したベルガの表情は相変わらず硬い。ラシェンはそれを少しでも解きほぐすために、笑みを浮かべ告げる。


「君と関わりのある人物達は間違いなく、ロゼルスト王国に仇名すものだろう。加え『彩眼』と関わっていることから、彼らは『彩眼』所持者に干渉し色々と事を起こす存在なのかもしれん……彩破騎士団として一番欲しいのは情報だ。こちらも異能に関する内容はある程度揃ってきてはいるが、そうした人物達の存在もいるとわかれば……『彩眼』所持者について、さらに色々と知ることができるかもしれない」

「情報を私が話すことと引き換えに、私の行動は不問にすると?」

「ああ。もちろん先ほど述べたバックアップの件も保証しよう」


 大盤振る舞いといった按配。それにベルガも表情を変える。


 譲歩し過ぎたか――などとラシェンは一度思ったが、ここでベルガに首を振られては困る。さらに取引を成立させてからきっちり釘を刺しておいた方が、将来的に良いだろうと考え直し、答えを待つ。


「……わかり、ました」


 ベルガは多少引っ掛かる物言いではあったが承諾。ならばと、ラシェンは再度追及する。


「では、訊こう。先の戦争を引き起こした人物と関わりがあった、ということでいいのだね?」

「……はい」


 ベルガもついに認める。そこから、彼は少しずつ語り始めた。


 彼によるとフレイラとの決闘後、干渉してくる存在があったらしい。その人物は式典内の状況を伝えて欲しいとのことであり、ベルガは合計三度式典中に退出した。

 そして戦争が起き――当該の人物は姿を消した。おそらく襲撃の計画に参加した間者だったのだとベルガは結論付け、


「ふむ……その話の中で、解せない部分があるな」


 ラシェンが言及。対するベルガは予測していたようで流れるように問う。


「なぜ私がその相手を信用したか、ですね」

「そこには権力者が一枚噛んでいたと?」


 ラシェンは問いながら――それが誰なのかおおよその予測がつき、


「はい……ギルヴェ=カドランド様です」


 答えに、ラシェンの推測は正しかったと確信する。


 ギルヴェ――魔法院は長に相当する人物が三人おり、基本運営はその三人によって決められている。彼はその中の一人であり、魔法院だけでなく城でも絶対的な権力を握る人間の一人。

 なおかつ彼は――城内の中で誰よりも権力欲が強く、魔法院内でも他の二人を差し置いて多くの権力を握っている。


「彼が、か……しかし、国家転覆まで考えるとは、正直驚いたな」

「どういう事情なのかは私にもわかりません……私はあくまで彼らに協力しただけで、まさかああなるとは……」


 ベルガは口元に手を当てる。王を殺めようとした襲撃に荷担したのは間違いなく、少なからず恐怖を感じている様子。


「その縁で、今回の事件も協力していると?」

「……脅されているというわけではありませんが、引き続き協力してくれと」

「そうか……」


 ここで、ラシェンは一つ思い出す。ギルヴェと話をしたことはもちろんある。その中で、彼は魔導学院の長であるルエムに少なからず不満を抱いていた。

 魔法院と魔導学院は一心同体というわけではない。特にギルヴェは全てを自分の手にしたいという強欲さが存在する。ここの辺りと、式典襲撃に関わったことを頭の中で絡ませてみる。


 今回の件について彼が荷担しているかどうかは現状不明。しかしもし関わっているとしたら、彼自身魔導学院の関係者である以上、本来襲撃など行わせないはずだ。


 もし襲撃されているとしたら――そこで次に考えたのは魔法院自体も派閥争いが盛んであること。

 そこからラシェンは一つ推測する。


「……学院長は、殺されているかもしれないな」


 言葉に、ベルガの表情は大きく軋む。


「学院長が……!?」

「あくまで可能性だ。式典の事件に加担していたということは、ギルヴェ殿は『彩眼』と関わりのある存在とコネクションを持っている。仮にだが……防備も整っているスランゼルは普通ならば襲撃なんて成功しない。しかし、ギルヴェ殿や『彩眼』が荷担しているとなると話は別。彼は『彩眼』を利用し学院長を殺し、魔導学院でも絶対的な権力を握る、などと考えているかもしれない」


 襲撃が成功したとすれば、十中八九――ラシェンの言葉にベルガも顔を青くする。


 表情を見ながら、ラシェンはさらに思考する。どうやら『存在』は式典襲撃時にギルヴェとも連絡を行っていた。ガーリュという『彩眼』所持者との連携を確実に行うため、別のコネクションである彼を利用したのだろう。これは襲撃を盤石のもととするための処置のはず。

 けれど、その事実はラシェンに伝わっていない――『存在』がどれほど根を張っているのかと驚くべき点でもあったが、ラシェンはそれよりもギルヴェの目的が気になった。


 あの貪欲さを考えればもしかすると――『彩眼』を利用した王位簒奪かもしれない。そしてそれができる可能性は、先の戦争で示唆されている。


「なるほど、事情はある程度把握した……ならベルガ君。今回私が話したことは内密にお願いするよ。それが私の言ったことを実行する交換条件だ」

「……はい」


 頷くベルガ。そこからさらにラシェンは彼に対しいくつか釘を刺しておく――場合によっては今回の事をギルヴェに話すかもしれない。よって、そうなったとしても問題が出ないよう対応することを決める。

 そして『存在』はラシェンとも関わりがあるとギルヴェに話しているだろうか――これについてや今後ベルガの動向ついては、探りを入れる必要があると思った。


 ――現在ギルヴェがどのように考えているのかはわからない。けれど、ラシェンは一つ確信する。

 彼は間違いなく、『彩眼』を利用しさらなる権力を手にしようとしているのだ。


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