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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
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異能の問題

 移動中に不死者が出現し――それを迎撃しながら、ユティス達は地下への入口を目指す。その道中、ユティスは先ほど戦闘を行った魔術師について考える。


 合流したフレイラ達に彼が『彩眼』所持者だと言おうとして、言葉を止めた。あくまで可能性の話だが、敵が聞き耳を立てていることが頭に浮かんだためだ。今この場で話せば、異能者であることを知っているという事実が、相手にも理解できてしまうのではないか。


 仲間達に話し対応を行った方が良いとは思った。けれど口に出そうとした時ある直感を抱いた――それはユティスが異能者だから、思ったのかもしれない。


 今こちらが、異能者であることを知っているとバレるのはまずいのではないか。


 ユティスはそう思い口を閉ざした――現時点で彼については行動が不可解。加えグロウの動きに積極的に関わっている様子もない――無論今後関わりユティス達に牙を剥く可能性はある。しかし彼を自由にさせるリスクよりも、彼にこちらが異能者だと把握しているのを知られる状況の方が、危険なのではないかと考えた。


 だからまずは、グロウを倒すことを選んだ。


 出現する不死者は緩慢な動きをしたものだけなのだが、今回は決定的に違う点があった。

 ユティス達を発見すると、迷わず向かってくる――今回は以前と異なり、明確な攻撃の意志があった。


 学生が無事であるかなど、気にかかる部分はあったが――ユティスはそれを押し殺し、グロウの進撃を阻むべく地下の入口前に到達。


 そこで、ユティスはアリスへ最後の確認を行う。


「アリス、さっき学院長の部屋で対峙した時、妹さんなど不死者はどんな感じだった?」

「以前と変わらないような気も……あ、でも変な鎧を身にまとう不死者を、腕をかざして生み出していたけど」

「え? かざして?」

「ルエムさんは不死者を圧縮する技術だって」


 その言葉にユティスは多少ながら驚いた――その時、


「……どうやら、こちらの動きを察知しているようだな」


 グロウがその姿を現した。ユティスは思考を戻し相手を観察。

 彼の右手には『星樹の杖』。護衛にはイリアと鎧騎士を伴っている。


 現状、右手に庭園の広がる開放的な廊下で対峙する格好となっている――そして地下への入口はユティス達から見て左側。階段の下には一枚の大扉があり、厳重な結界により侵入を阻んでいるのだが――


「さて、無駄な抵抗さえしなければ痛い目は見ない……と、言いたい所だが、ここまで来て抵抗しないなどとは思わんよ」


 グロウはどこか現状を楽しむように告げる。


「だから抵抗するなとは言わん……私が目的の幻獣を手に入れるまで楽しませてくれ」

「……ユティスさん、容赦はするなよ」


 オックスが言う。ユティスもまた言わんとすることを理解しつつ、言葉を待つ。


「あいつの目……以前もそうだったが、完全に狂気を宿している。それなりに筋の通った計画を立ててここまで来たみたいだが……正直、何をしでかすかわからない」

「うん……」


 答えながら、ユティスはどう立ち回るか思案する。『創生』の異能を用いるにしても、残る魔力はそれほど多くない。リーグネストから数日で溜めれた魔力はたかが知れていたし、その魔力も幾度か使用したためあまり残っていない。


「フレイラさん、悪いが援護を頼まれてくれないか?」


 そこで、オックスが告げる。


「俺はあの鎧野郎をやる……が、一人だとちとキツイ」

「わかった」

「で、そっちのお嬢ちゃんは――」

「当然」


 アリスは応じ――イリアと正面から向かい合う。


「ユティスさん達残りの三人は、あのバカ野郎を倒してくれ……大将を討ち取れば俺達の勝ちだ。こっちは時間稼ぎに終始する」

「賢明だな」


 当然だというグロウの言葉。それにユティスは不快感を抱きつつ、頷いて承諾の意を示す。

 ティアナが弓を構え、アージェが手をかざす。そしてユティスは――自分の成すべきことを理解する。


「アージェとティアナは、攻撃してくれ。防御は僕がやる」

「信頼しているわよ」

「……わかりました」


 双方が答えた後、アージェが詠唱に入る。それと同時にイリアが動き、次いでアリスが光を生み出す。

 さらにオックスとフレイラが鎧騎士へと動き――相手もそれに呼応するように剣をかざし、走った。


 ユティスはそこで手に魔力を生み出しながらグロウを見据える。確かにオックスの言う通り、その瞳には狂気――


「さて、『創生』の異能者……楽しませてくれ」

「……やっぱり、僕のことは知っているんだな」

「内通者がいたことは知っているのだろう?」

「ああ……で、それは当然捕まった内通者じゃない」

「仕込んでおいてよかったよ。あれもまた、学院側を油断させる要因となった」

「本物の内通者はどこにいる?」

「聞かれても答えるつもりはないぞ。まあ、正直私も奴に興味はないのだが……まだ利用価値があるかもしれないからな」


 歪んだ笑みを浮かべ――直後、


「輝け――光の剣士!」


 アージェの魔法が発動した。先ほどの魔術師にも放った魔法。まず、グロウの足元から光が――


「残念だが、無意味だぞ」


 発動しない――途端、アージェの顔に驚愕が走る。


「どうして……!?」

「当然だよ。この学院の魔力は不死者生成の魔法によって塗り替えた。その魔法、自身の魔力を土地の魔力と結びつけ発動するタイプのものだろう? ならば、質の変わった状況では使用できない。ただそれだけさ」


 悠然と告げるが――その時、彼女の周囲に光が。相手の足元から発動するものとは異なり、彼女の周囲に生み出される光はきちんと発動したらしい。

 その魔法――光が真っ直ぐグロウへと放たれる。けれど彼は杖で地面をコン、と一つ叩いて対応する。


 刹那、その動作によってか彼の周囲に結界が生まれた。そして突き刺さった光だが、結界に直撃すると跡形もなく砕け散る。


「威力がまるで足らないな。さて、彼女以上の力を引き出せる魔術師は、間違いなくそこの少女だが……」


 アリスへ視線を移す。そこには光と闇を打ち合う少女達の姿があった。


「イリアもまた、凄まじい力を持っている……彼女は、堪えるだけで精一杯だろうな」

「……黙れ!」


 アリスは叫ぶと同時に魔法を炸裂させる。けれどその全てが闇によって叩き落される。


「私としては、やはり『潜在式』の君に興味がある……一度殺して不死者として蘇生させてもいいが、できれば捕らえたいところだな」

「誰が――!」

「まあ、それも幻獣を復活させた後考えればいい」


 途端、闇がアリスへと降り注ぐ。ユティスは一瞬援護しようかと思ったが――アリスはそれを結界で防ぎ切った。


「確か、ユティス君だったかな?」


 そこで、グロウの声。ユティスは名を呼ばれゆっくりと首を向ける。

 果てしなく濁った瞳――ユティスは途端、全身に悪寒が走る。


「私は別段、何かをする必要はないのだよ。君の隣にいる魔術師の女性の魔法は効かず、もう一方は私の結界を壊すことなど不可能な『顕現式』の使い手……むしろ私は攻撃すれば隙を見せることになる。だから私は君達に対し守勢を維持し続ければいい」


 語ると、彼は肩をすくめた。


「戦力的に、私が負ける要素は無い。少しの時間待っていれば、おのずと勝負がつく」


 彼が述べた瞬間、甲高い金属音が響いた。見ると、鎧騎士と戦っていたフレイラが弾き飛ばされたところだった。


「フレイラ――!」

「大丈夫……!」


 ユティスの声にフレイラはすぐさま体勢を立て直し、鎧騎士へ向かう。それを見たグロウは、体を揺らし笑った。


「無駄な足掻きを……ユティス君、わかっているとは思うがどちらかが負けた時点で君達の敗北は決定する。逆にどちらかが勝てば……確かに私も不利になるが、これがある限り負ける要素はない」


 言いながら、『星樹の杖』をかざす。


「そうだ、もう一つ付け加えておくと……今剣士二人が戦っているのは、ロゼルスト王国で活躍していた勇者トラードの力を持っている。こちらは事情により元の姿とはいかなかったが、技量はそのまま有していると思ってもらって構わない」

「なるほど、どうりで強いわけだ……!」


 オックスは告げると同時に鎧騎士へ接近。斬撃を見舞うが、相手はあっさりと捌いた。


「彼はロゼルストで活動していた勇者の中でもトップクラスの技量だったらしいな。まさか死してなおこうして剣を振るうとは思わなかっただろう……さて、絶望的な状況は理解できたか?」


 その段に至りオックスとフレイラが同時攻撃を仕掛ける。けれど連携も上手く取れていないことに加え、鎧騎士の力が圧倒的に上なのか、両者はあっさりと弾かれた。


「加え、ユティス君……君にはもう一つ、問題点がある」


 なおも、グロウは語る。そこでユティスは『創生』の力を使おうとしたのだが――


「使えないだろう? まさかこの状況下で、どういった魔具を生み出すか明確に理解できたわけではあるまい?」


 声に、ユティスは硬直せざるを得なかった。


「君の異能は確かに素晴らしい。先の戦争を振り返れば圧倒的な力だと言ってもいい……しかしそれは、魔力がきちんと整っていればの話だ」


 語る間に、アリスやフレイラ達の攻防は続く。徐々に押され気味になってきた。


「君はどうやら限界近い様子。そうした状況下で、どのような物を生み出すべきか……先ほど防御に転じようとしたようだが、私が仕掛けない以上無意味。加え、他者の援護をしようにも、君の魔法的技量ではどうにもできないだろう? 後ろの二人も同じのはずだ。下手に介入すれば、戦いの邪魔になりかねない」


 ――その言葉通りだった。オックス達の剣の応酬については見るので精一杯であり、アリス達の攻防は魔法を撃ちこんだとしても魔力の多寡から徒労に終わるだろう。


「加え、いつ何時状況が変わるかわからない……ここに、君の最大の弱点がある。異能がどれほど強力であろうとも、使用するのは君自身だ。異能発動のタイミングや、何を生み出すかは全て君が戦況を判断して決めなければならない……学院の人間ならば教練くらいはしているだろうから戦闘経験はあるだろう。だが、君は『創生』の異能についてそれほど使用経験が無い様子……言い換えれば使いこなせていない。その事実が判断を迷わせ、対応を遅らせる」


 彼の言葉が、痛いくらいに突き刺さる。ユティスは奥歯を噛み締め、目前の相手を見据えることしかできない。


「先ほど言った通り、戦況の変化が最大の問題……君がどれほど強力な異能を持っていようとも、使うことができない状況に持ち込むことで何とでもなるということだ」


 グロウが決然と言い放った直後――視界に入っていたアリスが、僅かながら後退した。


「っ……!」

「限界のようだな」


 見ればアリスは肩で息をしていた。おそらくイリアの魔法に対し全力で応じ、一気に消耗してしまったのだろう。


「魔力量も、今は君より上回っている……そして」


 と、グロウの言葉と共に――今度は、左。


「っ――!」


 フレイラが呻き声と共に、吹き飛ばされた。ユティスが声を上げそうになった瞬間、彼女は床に激突した。

 確認すると左の肩当て部分が綺麗に両断されていた。加え鎧も大きく損傷。目立った外傷は見当たらなかったが、それでも彼女は上手く立ち上がれない。


「魔力による衝撃波をその身に浴び、一時的に動けないわけだな……では、終わりにしよう」


 そして宣言――直後、動いたのはイリア。彼女の周囲に圧倒的な闇が生まれ――

 ユティスは驚愕しながら――その闇が放たれる寸前、異能の力を開放。そして、


 闇が、到来し――爆音が轟いた。


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