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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
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侵入者

 ユティス達は図書館を出てフレイラ達を探すことにした。下水道を調査すると話は聞いていたのだが、さすがに時間も経過しているため一度戻ってきている可能性も高く、まずは宿へ赴いたが、いなかった。


「調査を継続している可能性もあるけど……ここで待つか? でも――」


 アリス達のことを思い出す。嫌な予感がして図書館を出た。何かあったのだとしたならば、すぐにでもフレイラ達と合流すべき。

 とはいえ敷地の広さから歩き回って見つかるとも思えず、さらに動き回ることによってユティス自身負担も掛かる――今はまだ体調は良いのだが、襲撃に備え無理もできない。


「ねえユティス」


 ここで、アージェが提案を行う。


「フレイラさん達を急いで探すのなら、『創生』の異能を使って道具を作ればいいんじゃない? それならさほど体力も使わないでしょ?」

「……襲撃に備えている状況なのに、魔力を浪費するのも判断に迷う」

「浪費?」


 聞き返したアージェに対し、ユティスは深く頷いた。


「探査系の道具というのは、結構魔力を食うからね……実際学院内にいる人を探すにしても、今溜めてある魔力の大半を放出しないと難しいくらいで」

「へえ、なるほど……なら」


 と、アージェは懐をゴソゴソとやりだす。何事かとユティスが見守っていると、彼女はペンダントを取り出した。


「はい、これ」

「……え?」

「話を聞いている分には学院存続が危ぶまれるレベルに陥りそうだしね。協力してこの魔石をあげる。魔力を吸い出して」


 ユティスは差し出されるがまま受け取る。よく見ると、ペンダントには彼女の言葉通り青い石――魔石が埋め込まれていた。


 ――魔石は基本、魔具として活用される場合は使用者の魔力増幅を目的とし、加工を行わない場合は足りない魔力を補うために活用する使い捨ての物。とはいえ山脈などで採掘して採れるレベルのものだと多少の魔力を底上げする程度で、ユティスの『創生』の補助にするのも難しい。

 けれど今回、アージェから渡されたそれは非常に純度も高く、触れるだけで魔力が伝わってくる。


「これは……」

「研究室で死蔵されていた魔石。教授は結構ズボラだから、こういうお宝も眠っていたというわけ」

「……何でアージェが持っているんだ?」


 問い掛けに、彼女は答えなかった。きっとくすねたのだろう。ユティスとしては咎めるべき場面なのかもしれないが――別のことを尋ねる。


「えっと、じゃあ質問を変えるけど……これ、かなりの物じゃないか? いいのか?」

「元々私の物じゃないし」

「……こういう場合、素直に礼を言っていいのか迷うな」

「そうだね」


 アージェの言葉にユティスは小さく息を零しつつ、「わかった」と言い使用することにした――この魔石を残しておく可能性も考慮に入れたが、学院全体を把握できる魔具はあっても色々と役に立つと思ったため、異能を用いることにした。


 二人は人目のつかないところに移動し、ユティスはペンダントを両手で握り締め、異能を発動する。

 刹那、僅かながら魔力が漏れ――次いでその魔力がユティスの手へと収束。そして全ての魔力を吸い出すと、アージェへ魔石の抜け殻を預け、力を収束させた。


 そうして生み出す探査系の魔具――ユティスとしてはどのような形にするか迷ったが、結果として水晶体のようなものに形を変えた。


「おお」


 アージェがどこか感心したように呟く。ユティスはそれを耳にしながらさらに魔力を収束させ、左手に物質は創生された。


「……これ、どんな風に使うの?」

「水晶体に魔力を当てる。すると一定の範囲内にいる人の魔力を捕捉できるようになる」


 ユティスは答えながら手始めに魔力を込めた。すると――およそ学院の敷地内の人々の魔力を、感じ取ることができた。


 そこから、フレイラ達の魔力を探る――ある程度旅を通して接してきたため、ユティスはフレイラ以外の面々についてもある程度魔力は把握している。特定の人物を探すようなものではなく汎用的な物にした理由は、他の面々も確認する意味合いがあったためだ。


 ユティスはまず意識を地下へと向けた――そこに魔力は感じられず、次いで建物に意識を移す。

 学院長室がいる場所などを探ってみると、アリスの魔力を見つけた。どうやら複数人と移動している様子。それが早足だったので、やはり何かあったのかとユティスは思う。


 次に学院長室へ意識を向けようとして――そこは、魔力が遮断された空間なのか何も感じられなかった。ユティスは盗聴などを防ぐための処置だと見当をつけつつ、今度は研究棟を探る。


 しかし、同じように何も感じない部分がいくつもあった。研究棟に対してはほとんど効果がないとわかった時――研究棟から離れた木々などが存在する場所。そこに、魔力を捉えた。

 単なる人ではない――というより、異質だった。それは言ってみれば、魔具や魔石を大量に抱えているような気配であり――


「……アージェ、常日頃魔具や魔石を大量に持ち歩いている学生とか、いる?」

「そんな人悪目立ちするだろうけど、見た事ないね……そうした人が、いるの?」

「うん。森に」

「怪しいね。フレイラさん達は?」

「いないな……もしかすると研究棟内で魔力を捕捉できない場所にいるのかも」


 本来は彼女達を待つのが一番いい。けれど、それをする間に怪しい人物が行動を起こすかもしれない。


「不審者なら、警備の人に連絡して人を寄越すよう言おうよ。それから、先行して私達が行くってことでどう?」

「……アージェ、大丈夫か? 場合によっては戦うんだぞ?」

「あのね、私はユティスより魔法使える自信あるよ」

「わかった……けど、もしかすると僕らを妨害する意味で警備の人が動かない可能性もある」

「それでも相手を確認する必要はあるでしょ?」

「そうだね」


 ユティスは同意し、移動を開始。学院内にある詰所を訪ね報告はしてみたが、やはり反応は鈍かった。

 即座の対応を期待するのは無理――そう判断したユティスはアージェを伴い進み出す。気配を探ると少しずつ移動をしていた。


 さらに他に異常がないかを確認してみるが、今の所目立った変化がない。フレイラ達がいないのも気になったが、それを深く調べる前に気配のいる場所の近くに到達した。

 研究棟の裏側に存在する、樹木の生える場所――この木々が研究棟などからも死角となり、暗躍するに都合の良い場所となってしまっている。


 ユティスは再度気配を探る――魔力は真正面から感じ取れる。しかし茂みの中で伏せているのか、姿は見えない。


「……アージェ」

「うん」


 応じると同時に彼女は詠唱を始め――途端、前方から僅かな音が生じた。

 ユティスは左手に身に着けた腕輪――自らが生み出した結界の魔具を意識しつつ、前方へ警告する。


「気配は察知している。隠れても無駄だ」

「……やれやれ」


 声と同時に相手が立ち上がった。藍色のローブを着た二十歳前後かつ黒髪の男性。そして右頬に縦に存在する刀傷――ユティスにとっては初めて見る人物だったが、特徴から相手が誰なのかを断定する。


「グロウという人物の、協力者だな」

「……そっちからアプローチしてくるとは、つくづく予定外だな」


 頭をかきつつ、男性。ユティスはその態度がどこか余裕に映り、問い掛ける。


「こちらは既に魔法を撃てる準備を整えている。あんたに勝ち目はないぞ」

「どうだろうな」


 肩をすくめる男性。改めて気配を探れば、ローブの下に魔具を大量に身に着けているのは明白だった。

 ユティスは警戒は緩めず睨みあいの様相を見せ始め――ふいに、男性が笑みを浮かべた。


「……腰の剣を見るに、お前は学院の人間じゃなさそうだな。魔具を身に着けている以上見つかる可能性はゼロじゃなかったはずだが、俺だってそう無警戒だったわけじゃない。だがお前はここに俺がいるとわかって訪れたようだ」

「だから、どうした?」


 問い掛けに、男性はさらに笑みを強くする。それがユティスにはひどく不気味に見え――


「お前が……『創生』の魔術師か?」


 問い掛けに、ユティスは反応しなかった――はずなのだが、無言に対し男性は小さく哄笑を上げた。


「そうか……なるほど。どうやら何かを生み出し、俺の行動を察知しここに駆け付けたのか。ご苦労なことだ」

「そして今あんたは見つかった。何をするつもりか知らないが、これで終わりだよ」

「さあて、どうかな。学院側は積極的に動いていない……実際、俺がこうして自由に動き回っているのがその証拠だ。ついでにここにあんたともう一人しかいない所を見れば、警備の人間が来ないのも容易に想像がつく」


 余裕を見せ、男性は笑い続ける――刹那、


 水晶体の力を通し、ある場所に気配を感じ取る。それは、学長室――どうやら扉が開け放たれたためか、魔力を感じ取ることができた。


「さて、そろそろ始まるだろうな……どうなるのか、楽しみだ」


 男性の言葉と同時に、僅かな殺気。ユティスは気配も気になったが水晶体を懐にしまい剣を抜いた。所作を見て男性は笑みを収め、


「いよいよ宴の始まりだな」


 ユティス達に宣言し――男性は、その両腕に魔力を集め始めた。



 * * *



 アリスと共に行動していた魔術師が異変を察知し、学院長の部屋まで移動。そこには――


「ああ、遅かったな」


 顔を引きつらせ、椅子に座りこむルエムと――白い杖を持ったグロウと、イリアの姿があった。


「あんた、は……!」


 アリスは声を上げ迫ろうとするが、背後にいた魔術師に肩を掴まれて止められる。


「ここまですんなり侵入していることに驚いたか? まあ、この程度学院を熟知している私としては造作もないことだ」


 グロウは言うと、アリスの背後にいる魔術師に目を向ける。


「どうやら、何かしらやっていたようだが……それがこうして私の侵入を許してしまった、という面もあるだろうな」

「何が、目的だ……」


 魔術師の一人が声を上げる。それにグロウは小さく笑みを浮かべ、


「それを今から交渉しようと思っていたところだ……さて、ルエム」


 名を呼び、グロウは学長へと向き直る。アリスは思わずその背中に魔法の一つでも放ってやろうかと思ったが――彼の背を守るようにしてイリアが立ったため、中断する他なかった。


「今から私の言うことを受け入れてもらえれば……少なくとも、学院に手出しはしないでおこうじゃないか」


 背を向けているため、アリスからは表情を見ることはできない。けれど今グロウの顔は、喜悦の笑みで満ちているとアリスは確信した。


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