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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
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学院内調査

 作戦会議を行った後、ユティスとアージェは即座に死霊術に関する調査を始めるため図書館へ。一方残ったフレイラ達は協議を行い――出歩けば不安がるであろう学生達に配慮するにしても、建物の構造やどこに何があるのかは把握しておいた方が良いということになり、ルエムに依頼し学院の魔術師同伴で敷地内を見て回ることになった。


 商店が並ぶ大通りを中心にして、学院は一つの街のように形成されている――特徴的なのは歩く面々が画一的なローブ姿だということ。その事実により、この場所が魔術師の聖域であるのだと深く認識させられる。


 そして大通りを進めば学院長の部屋や、学び舎としての機能を持つ大きな建物。そこから派生して研究棟などが存在している。

 フレイラは建物を見て、所々で色合いが違う壁面があると気付く。研究棟もそうだが、あらゆる建物が増築を繰り返し大きくなったのだとわかる。


 また、やはり研究棟については立ち入りを遠慮するよう言われた。その建物で好き勝手させたくないという学院の意向はよくわかるのだが――フレイラとしてはせめて構造だけでも確認したかった。


(でも、ここで下手に混乱させてしまうと強制的な退去を言われる可能性もあるし……)


 オックスもその要求に対し不満顔ではあったが、結局研究棟内に入るのは断念した。

 次に建物の周囲を見て回る。大通りや建物を離れると、木々が植えられるなどして庭園とでも呼ぶべきものが存在している。中には小さな森と呼んでも過言ではない場所も見受けられ、もしグロウ達が潜入した場合、身を隠すには十分すぎるとフレイラは感じた。


(潜入するまでの防備は万全でも……潜入されてしまうと厄介かな)


 頭の中で結論付け、その日は散策を終えることとなった。


 その後調べていたユティス達と合流し、まだ調査中ということで結論は出なかった。しかし、


「本を斜め読みして一通り確認してみたけど……それらしい魔法もなかった」


 ユティスが言ったためさらに懸念を募らせる結果となり、夜を迎えた。さすがに学院側も夜は警戒するらしく、フレイラは宿の窓からそれなりの人数が外を巡回する姿を目に映す。ただその視線はフレイラ達にも注がれているようで、暗い中宿近くまで様子を見に来る魔術師の姿もあった。」

 フレイラ達はそのことを考慮に入れつつ、交代で誰かが起きている状態にはして――ひとまず何事もなく、朝を迎えた。


 朝食などを済ませた後、ユティスはアージェと合流し再び図書館へ。そしてフレイラ達は、再度協議し方針を決め――学長の部屋を訪れた。

 ルエムは昨日と同様快く迎え入れてくれた――とは、あくまで表面的な話。内心どう考えているかはわからない。


「どうも、皆様。ご用件とはどのようなものですか?」


 昨日に引き続き丁寧な口調。けれどフレイラは言葉の端々からあまり歓迎していない様子を感じ取ることができた。


「……まず、アリスですが」

「彼女は丁重におもてなしをさせて頂いておりますよ。ご心配なさらずとも大丈夫です」


 それだけだった。結局この場で話をして以後、フレイラ達は彼女と顔を合わせていない。おそらく『潜在式』の魔法を持つ彼女に対しては彼らも大いに興味を持ち、手放したくないというのが本音なのだろう。


 目的は、研究で間違いない。それをアリスが望んでいるのか。もし今回の件を引き合いに出され強要されているとしたら、止めることも必要なのでは――


「皆様、その難しい表情から何が言いたいかは理解できますよ。アリス様の処遇に不安を抱いていらっしゃるのでしょう?」


 優しげな問い掛けに、フレイラ達は押し黙る。


「部外者であるあなた方から見れば、私達は悪逆非道に映るのかもしれませんが……私達とて、下手なことをすれば失脚してしまう。そうした事を考慮に入れて頂ければと思います」


 半ば治外法権と化しているこの学院で、説得力がいかほどのものか――フレイラは思いつつもそれ以上の言及は控え、話を進めることにした。


「ならば、次の話です。下水道に入る許可を頂きたく思いまして」

「……なるほど、あなた方はそこから侵入という可能性を危惧しているわけですね」

「はい」

「確かに物理的に学院と外が繋がっている場所は、門を除けばそこくらいでしょうからね……私としては大丈夫だと言う他ないわけですが」


 ルエムは告げながら苦笑した。言及に対するフレイラの険しい表情を見たためだろう。



「……わかりました。とはいえ下水道は緊急避難路としても活用される場所で、あまり中の詳細を外部に漏らしたくはない。見取り図などを渡すことはできませんが、よろしいですか?」

「構いません」

「ならば……そうですね」


 と、彼は突如フレイラ達へ背を向ける。


「人数は?」

「三人です」

「ならば三つですね」


 言いつつ何やらガサゴソと背後にある棚を探り始める。

 時間にしておよそ一分程度。彼が振り向くと、その手には革製の腕輪が。


「腕のどこの部位でも良いので、これを身に着けてください」

「それは?」

「下水道で衣服に臭いがつくと取れませんからね。その状況で学院内を歩いてもらうのは学生達も不快に思いますから、この簡易結界で臭いを弾いてください。ああ、臭い自体を感じなくしたりするなどの効能や、防御能力はありませんのでご了承ください」

「……わかりました」


 魔具を見て思う所はあったのだが――穏やかな顔の中に無言の圧力を感じ、フレイラは受け取った。


「それと、私から監視者に言っておきましょう。三名の方が入れば感知魔法を管理する彼らが気付きますからね……外に出たら少し待っていてください。案内をさせる者を用意します」


 フレイラは再度「わかりました」と答え、他の二人と共に部屋を出た。


「本当に、下水道からでしょうか」


 ティアナが呟く。フレイラはそれに肩をすくめ、


「あくまで可能性の一つ、というだけね。何もしないよりはマシだろうし」

「敵が正面から堂々と来る可能性は低いからな。候補となる場所を実際確認して、俺達でどこを見て回るか判断しようじゃないか」


 オックスの発言にフレイラとティアナは頷き、外に出た。そこからおよそ五分程経過した後、ローブ姿の男性がフレイラ達の近くへと来る。

 それから移動を開始し、やがて学院の敷地でも端の方へと辿り着く。そこには石造りの小屋が一つ。看板があり確認すると『下水施設』と書かれていた。


 男性はフレイラ達がルエムからもらった腕輪を身に着けるのを確認した後、扉を開けた。見えたのは石造りの階段。てっきり梯子か何かだと思っていたフレイラは多少驚きつつ――先ほどルエムが避難路の一つだと言っていたのを思い出した。


「人を学院から逃がすために大人数通れる階段、か」

「の、ようですね」


 ティアナが応じ一歩足を前に出そうとした。そこで、フレイラは彼女に声を上げる。


「あの、ティアナさん。今更だけど、いいの?」

「……何がでしょうか?」

「下水道って臭いとか、衛生面であまり良くない場所だし……もらった魔具があれば衣服に臭いはつかないけど、鼻はどうにもならないだろうし……耐えられる?」

「私、そんなに潔癖に見えますか?」


 潔癖とかいう問題でもない気がする――フレイラは胸中で思いつつ、


「いや、正直あなたが行くようなところでも……」

「大丈夫ですよ?」


 ティアナは小首を傾げフレイラに告げる。容姿や格好からはとてもじゃないが似合わないのだが――


「本人が言っているのだから、別にいいんじゃないか?」


 オックスが割り込むようにして言う。


「ついて来れなくなったら帰ればいいだけの話だろ」

「……それは、まあ」

「では、行きましょう」


 ティアナが微笑みすら見せつつ提言すると、オックスを先頭にして地下への階段を下りる。

 その時点で、下水道特有の様々なものが入り混じる臭いが鼻についた。フレイラは顔をしかめつつさらに進み――ふと、ティアナを見る。


 彼女も良い顔はしなかったが、平気なのか表情を変えぬまま歩みを進めている。


(……『顕現式』の魔法を用い弓を扱えるのだから、それなりに色々と経験しているのかな)


 フレイラ自身、騎士という身分から大抵のことはやれるという自負はあるし、この臭いよりもひどい場所に赴いたことがある。ティアナは騎士ではないが、そうした経験があるのかもしれない――見た目では、一切わからないが。


 階段を下り切ると、正面に腐臭を放つ汚水が見えた。濃い茶色の水は泥水とは異なる様々なものが混じったものであると一目瞭然であり――フレイラは二人へ警告する。


「落ちないようにだけ、気を付けて」

「わかっているさ……さて」


 オックスは左右を見回す。階段から先は水路に沿うよう左右に道が形成されて、少し先で曲がりくねっている。さらに水路を挟んで反対側には真っ直ぐと水路が伸び、遠くに似たような階段らしきものが存在していた。


 通路はお世辞にも綺麗とは言えなかったが、魔法でも掛けられているのか汚れが溜まっているなどというわけではなく、歩いていて転びそうな障害物も無い。

 そうした通路を一瞥したオックスは、呟くように口を開いた。


「当然敵は下流の方からやってくるわけだよな……ん、梯子なんかもあるな。こっちは建物の中から入り込むやつかな」

「全部、繋がっているというわけですね」


 ティアナが言う。それに彼は深く頷いた。


「だな。となるとここから侵入した方が色んな場所へ行ける……相手にとっては好都合かもしれない」


 語った後、彼はフレイラに視線を送る。


「で、相手の目的が復讐であることしかわからないわけだが……何を狙うと思う?」

「復讐となれば、個人的な相手であるような気もするけど……追放した相手とかかな? だとすると学院長辺りが濃厚だけど」

「私は、学院そのものに憎悪を抱いているのではと推測します」


 ティアナの意見。フレイラは彼女に目を向け、


「つまり、学院全体を無差別に破壊?」

「そうした可能性もあるのではないかと……」

「だとすると、彼らは学院内に侵入してから派手にやるでしょうね」

「だと、思います」


 それを止められるかどうか――フレイラは以前戦った魔物のことを思い出しつつ、気を取り直し二人へ言った。


「さて……見て回ることにしたのだから、ひとまずどういう経路なのかを確認しましょう」


 言葉の後――三人は、下水道の中を歩き出した。


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