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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
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戦いへと至る道

「いや、まさかあの店で会うことになるとは思わなかった」


 ユティスは店を出て、共に外へと出た女性からそう告げられた。


「ここにいるのが会える可能性が高いと思って」


 ユティスが言うその視線の先には――友人であり、式典の時に軽く話をしたアージェの姿があった。

 格好は他の学生と同じ藍色のローブ。金髪も後ろでまとめており、ドレス姿と異なり地味な印象を与える彼女はユティスの言葉にクスリと笑う。


「なるほど……事件の情報を手に入れるべく私を待っていたわけね」

「そういうこと……確認だけど、学生達は事情を知っているのか?」

「そりゃあ北部出身者を探し回った以上、事情だっておのずとわかるでしょ」

「それもそうか……となると、学生達は認知しているわけだ」


 ユティスは周囲を見回す。現在は昼休みの時間帯で大通りにも人が集まっている。画一的なローブ姿ばかりで、ユティス達の格好を見れば奇異の目を向けてもおかしくないのだが、鎧姿のフレイラや傭兵然としたオックスがいるためなのか、視線を向けてもあまり反応はしなかった。事情を把握し護衛しに来た面々、などと思っているのだろう。


「で、私に会いたかったということは当然教授に話があるということでしょ?」


 アージェが問う。それにユティスは頷き、


「アージェの教授なら、事情くらいは聞いているだろうと思って」

「情報は届いているよ。ついでに、私も知っている」

「……なぜ?」

「いや、教授が資料を机の上に置きっぱなしだったから」

「……盗み見はよくないよ」


 ユティスが言及すると彼女は笑った。


「ま、いいか。ならアージェに直接訊いた方がよさそうだ。教授に会うとなると警戒される可能性もあるし」

「警戒、ね……まあ、その理由わからなくもないけど。ユティスが聖賢者になる、という噂の件でしょ?」

「うん……アージェもそう考えている?」

「まさか」


 肩をすくめるアージェ。


「ユティスがそんな大役やれない体なのは承知しているし……でもさ、そうした体であんな戦争に対抗する手段を生み出すなんて方が、余程ナンセンスだと思うけど」

「まあ……あの時は運が良かったというか」

「そういうことにしておこうか……さて、どうする? さすがにこの人数だと私の部屋は入らないけど」

「どこか話のできる場所は……」


 ユティスは記憶を辿る。けれどプライベート的に話せる空間というものが思いのほか少ないことに気付く。


「なあ、一ついいか?」


 そこで口を開いたのはオックス。


「この場所に宿泊施設ってあるよな?」

「……もちろんあるけど、それがどうかした?」


 問い返したアージェに対し、オックスは彼女と目を合わせ、


「ならそこで話をすればいいだろ? 一応個室的な空間だろうし」

「……ま、確かにそうね。皆の拠点にもなるだろうし」


 と、言うわけでオックスの提案により移動を開始。目的の建物はすぐに見つかった。

 大通りの一角に、その宿は存在している。ユティスも入ったことは無いのだが要人なども宿泊するレベルの部屋もあるという話であり、周囲の建物と比べても中々立派な佇まい。


 入るとフレイラが先導して宿の手配を始める。騎士身分ということが一目でわかるためか宿の人間も愛想がよく、特に何事もなく、さらにアージェに目を向けるわけでもなく部屋を取ることができた。


 状況が状況なので、すぐに態勢を整えられるよう今回は全員が泊まれる部屋。フレイラはともかくティアナについては言及の一つもあっておかしくなかったのだが、彼女はすぐさまこれを了承した。

 部屋は中央に通路があり左右に三つずつベッドが設置されている。警戒のため窓側にオックスとフレイラの二人が陣取り、残る四つの内二つをユティスとティアナとで分け合う形。残りの二つの内一つは、アリスが来た時に使うつもりだった。


「さて、どこから話す?」


 扉にもたれかかりアージェが問い掛ける。それにまず反応したのは、フレイラ。


「その前にいくつか訊きたい……学生達については、今回の件をどう対処すると指示されているの? 普段通りの生活を送っているようだけど」

「さすがに襲撃者本人だけの証言では、学院は動かないというのが実状ね。今は魔術師が襲撃の対応に当たっていて、学生達はいつも通りの生活を送るよう言い渡されている。もっとも――」


 と、アージェは一度言葉を切る。


「不安がっている人がいるのも事実……内通者、というより洗脳魔法を掛けられた人がいたくらいだから、内心色々と思う学生も多いと思う」

「アージェさんの場合は?」

「私は……幸いながら情報を手に入れることのできたため事情を多少なりとも把握しているからそれほど心配はしていない……実際、学院長の自信過剰っぷりは目に余るかもしれないけど、防備についてはしっかりしているし」

「……僕は下水道辺りが怪しいんじゃないかと思うんだけど」


 ユティスが口を開く。するとアージェは予想していたのか小さく頷いた。


「一番の候補はまさしくそこだけど……下水道の方にも対策は施されているからね」

「結界が張ってあるとか?」


 フレイラの言葉に、アージェは首を左右に振った。


 フレイラの言葉に、アージェは「それもある」と答え、


「感知魔法……?」

「水路には、一応要所要所に土地の魔力を利用した結界が張られているけど、あんまり大量に張るとメンテナンスなんかも大変。かといって結界だけではさすがにまずい。だからそうした魔法が使われている」

「となると、もし下水道に入れば……」

「魔法に引っ掛かるというわけ。ただまあ魔法の特性から、常に流れ続ける排水路については使えないから、あくまで感知魔法は人間が通る通路にした使われていないけど……水の上を進むにしても今度は要所要所に存在する結界に衝突するから、どうしてもそれを突破する必要が出てくる。そうなれば当然魔法を使用するわけで……感知魔法に引っ掛かる」

「つまり、どう足掻いても奇襲は無理だと」


 ユティスの言葉にアージェは頷いた。


「ま、そういうこと……だから敵が奇襲を狙っているのなら、下水道を通る可能性は低い」

「不死者を生み出すのはどうだ?」


 オックスの意見。するとアージェは首を左右に振る。


「下水道は壁も床も特殊な処理をしてあるから、得意の不死者生成もできないはず。だから彼らにとってはかなりリスクの高いルート……けどまあ、だからこそ裏をかくという可能性も否定できないけど」

「それに加え、襲撃に対する策もあるのか?」

「していると思いたいけどね」


 アージェ自身詳細は知らない様子。ユティスは「わかった」と応じ、


「それじゃあ、次の質問……学院長は今回の件が『彩眼』持ちの仕業である可能性は低いと言及したんだけど」

「ああ、そのことか……学院長はとある場所から情報収集をしたみたい」

「ある場所?」


 ユティスが聞き返すと、アージェは小さく笑う。


「この大陸の中央、もっとも魔法と武芸が栄える場所……ネイレスファルト。どうもそこに、異能者が複数いるみたいなのよね――」



 * * *



 ラシェンはカールが城に召喚されたという事実を聞いた後、情報を集め始めた。どうやら彼は一定の処罰を受ける公算が高く――


「……失墜、というわけですか」

「さすがに街の人間を脅かした事実は消し難いからな。挽回しようにも学院が完全に見捨てる気でいる以上、打てる手はないだろう」


 ナデイルの言葉にラシェンはさっぱりとした口調で応じると、嘆息した。


「いずれ、彼自身責任論になり現在保有している城の地位も追われるだろう……おそらくだが、彼の研究室も荒らされているだろう。どう転んでも彼に策は無い」


 言葉に、ナデイルが身震いした。失態の結末――大事となったが故仕方のない面はあるはずだが、それでもこうまで転げ落ちる様は明日は我が身と考えずにはいられない展開だろう。


「ユティス君達は、大丈夫さ」


 彼の表情に対し、ラシェンは明るい。


「報告によれば、騒動を解決したのはユティス君達だそうだ……結果として、カール殿の失態をフォローする役回りとなっている。功績はあれど、落ち度はない」

「そうですか」


 安堵の表情。そこでラシェンはさらに続ける。


「とはいえ一つ懸念があるとすれば、ユティス君の弟か」


 言葉にナデイルは硬い表情となる。


「やはり、レイル様は何かしら行動を起こすのでしょうか……」

「さあな」


 ラシェンは答えつつ――噂に聞く性格であれば、むしろ彼はユティス達の味方をするのではと思っている。


 どういった人物がカールと共に行動していたのかは、報告で既にわかっている――ラシェンはレイルについて言及したが、彼と勇者シャナエルは状況を理解しているだろうし、胸に何か抱えていたとしても問題解決を優先するだろうと予想していた。


 むしろ懸念はベルガ=シャーナード。現在彼はカールと共に城に滞在しているが――彼こそ、何をするかわからない。


 最初の戦争が終わった後、ラシェンは彼のことが気になって多少ながら調査していた。結果、ラシェンのあずかり知らぬ所でとある『存在』の息が掛かった者と接触している可能性が浮上してきた。どういう経緯でそうなったのかはこれから調べる必要があるが――どうやらそれこそが、彼自身この事件に関わる主だった理由のようだった。


 加え彼は、現在フリードを『聖賢者』にしようとする一派と接触している。おそらくカールと共に行動したこともどうにかして逃れ、彼はフリードへと接近しようとするだろう。そしてその裏には『存在』が関わっているとラシェンは思う――彼に、何をさせようとしているのか。


 最大の問題は、ラシェン自身が認知しないところで『存在』が動いているという事実。彼らの目的を理解しているラシェンだったが、それでもベルガを利用するなどの行動は目に余る。


「……好きなように動いていいと、言われていたな」

「え?」


 呟きに、ナデイルが反応。ラシェンは即座に「何でもない」と応じ、


「ともかく、今はユティス君達が動きやすいよう城の中で味方を作るのを優先としよう……リーグネストの件は少なからず追い風となるはずだ。なおかつスランゼルの件もある。あとは無事を祈ろう」

「……はい」


 首肯するナデイル。その表情には僅かながら懸念が見て取れたが、笑みを見せるラシェンに黙し、用のために退出した。


「……さて」


 ラシェンは一人となり、思考する。好きなように動いていい――ひいては、反逆しても構わない。それが『彩眼』を呼び寄せることになるかもしれないから。

 彼らの目的はあくまで『彩眼』だけ。そしてその目的の行き着く先は――


「……やれやれ、協力しているとはいえ、面倒だとは思ってしまうな」


 呟き、ラシェンは椅子を座り直す。そして書類を手に取ろうとした時、ノックの音。呼び掛け扉が開くと、再度ナデイルが現れた。


「度々すみません。来客が」

「……誰だ?」


 聞き返したラシェンに対し、ナデイルはやや硬い表情で、


「レイル様と、勇者シャナエル様です」


 言葉に――ラシェンは笑みを浮かべた。


「――二人を、ここに連れてきてくれ」



 * * *



「……さて、いよいよか」


 森の中――学院襲撃のために移動するヘルベルトは小さく呟く――傍らには聖女ことイリアが控え、その後方にはグロウもいる。


「明日、襲撃を開始することになるな」


 グロウがヘルベルトへ告げる。彼は無言であったが、グロウはそれを肯定とみなし、


「ヘルベルト君、そちらも頑張りたまえ」

「……はい」

「そして、潜入時は頼むよ」


 グロウはさらに言葉を重ねる――その視線の先には、藍色のローブに身を包んだ小柄な女性がいた。

 肩に届くくらいの黒髪に、整った顔立ち――傍目から見たら単なる学生にしか見えない彼女は、無言でグロウへと首肯する。


 ヘルベルトはふと、背後を意識する。森の中で気配もないが、自身の後方には女性と共に行動する『彩眼』所持者が、追随しているはずだった。


「全ては明日、実を結ぶ……」


 そうした中、グロウは呟く。明日のことを考え気分が高揚しているのだとヘルベルトは直感した。


(ここまでは、計画以上のことができている……後は、学院に入りこんだ後だな)


 ヘルベルトはグロウの様子を見ながら胸中呟いた――そう、グロウがどのようになろうとも、自分のやることは変わらない。

 勝利者は自分だ――そうヘルベルトは考えながら、グロウと共に学院へと進み続けた。


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