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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第三話
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潜入経路と要求

「どうも、納得いきませんね」


 ティアナはユティスと向かい合って座ると、いの一番にコメントする。対するユティスは頷きつつ、


「でも、あの人はこの学院の絶対権力者だ……カールさんが城に引っ立てられたことを考えると、僕らだって追い返された可能性も高かった。それを滞在の許可をしたんだから……まだ、穏当な方だと思うよ」

「その狙いは、アリスだったわけだけど」


 隣のフレイラが言う。ユティスは再度頷き、小さく息をついた。


 場所は大通りの飲食店。メニューなどを見れば学生向けの店で間違いないのだが、内装もそこそこしっかりしており、空気も悪くない。

 ここはユティスが学院で学んでいた時、よく通っていた店だった。昼になったのでひとまず作戦会議をかね店に入り、こうして四人で席についたというわけだ。


「で、これからどうするんだ?」


 オックスが尋ねる。ユティスは一度口元に手を当ててから、答える。


「まず、学院長が言った内容を精査しないといけない……防備についてもある程度情報収集したいけど、まずは内通者の件と異能の詳細が知りたいな」


「で、それを調査してどうするか判断、というわけだな……なあ、ユティスさんとしては襲撃云々についてはどう思う?」

「成功するかってこと?」

「ああ。さすがに正面突破をするわけにはいかないだろうしなぁ」


 彼の意見にユティスは他の三人を一瞥した後、考え込む。


「……うーん、そうだね。まず、この学院に入り込める可能性のある場所からピックアップしてみようか。最初は入口である門だけど、さすがにここを狙うとなるとかなりしんどいと思う。見えないだけで城門付近にはかなり魔法が仕掛けられているし、突破するのはかなり難しいというのが僕の考え。リーグネストで最後に生み出したあの不死者を用いれば可能性はあるかもしれないけど……この場合兵力の問題はあるにしろ、城攻めと何ら変わりがない。そう考えるとグロウ達にとっても確実性がないし、この策を取るとは考えにくい」

「なるほど。それじゃあ城壁を破壊するとかは?」

「こちらも同様だよ。門周辺には結界が張り巡らされているわけだけど、同じような魔法を城壁にも掛けてある。純粋な魔力強度は壁面が存在する城壁の方が上だから、実質正面突破より遥かに多大な魔力を必要とするはずだ」

「となると、この案は無しと……」

「それでは、空からはどうでしょうか?」


 ティアナの意見、学院に多少ながら身を置いていた彼女も色々と考えているらしい。


「……空も似たような結界が見えないながら存在しているし……それに、基本土属性の魔法で空を飛ぶ不死者を生み出すというのは、相性が悪い。もしできたとしても……土属性の魔法である以上、効果は弱くなる。結果、正面突破した方が早いんじゃないかな」

「だとすると……他に道はあるのか?」


 オックスが水を飲みながら問い掛ける。それにユティスは指を一本立て、


「可能性があるとすれば、下水道じゃないかな」

「下水道……?」

「学院から出た排水は、地下の下水道を通って処理施設へと運ばれて、浄化される。下水道からなら学院へ入り込むことは可能だと思うけど……」

「その辺りの予想は、学院側もしていると思うけどね。けど、調べてみてもいいと思う」


 フレイラが言う。同時に料理が運ばれてきた。


 学生向けであるため、ユティス達が屋敷で口に入れるものと比べればまったく違う。ただユティス自身は懐かしい味だと思ったのでさして何も思わない。

 ティアナも同様なのか何度も頷いている。オックスも時折「美味い」という言葉が漏れる。フレイラの場合は黙々と手を動かしている。特段思う所は無いらしい。


「……で、話は変わるが情報源となりそうな人はいるのか? できればその人物に潜入経路についても訊きたいところだが」


 食事を進めながらオックスが問う。


「ついでに言うと、カールと共に行動していたシャナエル達も気になるな」

「レイルやシャナエルさんについてはそれほど心配する必要はないと思う。シャナエルさんは勇者であり、そこそこ認知されているから何かあったとしても今回のことを不問にするのと引き換えに仕事をしてもらう、くらいじゃないかな。それにシャナエルさんは依頼を請けて従っていたわけだし……面倒なことにはならないと思う」


 語りつつ、ユティスはレイルのことを頭に浮かべる。


「そしてレイルについてだけど……宮廷魔術師候補だから利用の価値はあるし、年齢のこともあるからシャナエルさんと同様従っていただけとして、不問になると思う。今回の失態は全てカールさんに押し付け、二人については何事もなく……というのが落としどころじゃないかな」

「貧乏くじを引いたな、カールさんは」

「先んじて動くというのは、そういったリスクもあったということ……で、実際彼は失脚した。それと、ベルガについては……正直、彼についてはわからないな」


 ユティスは語ると同時にサラダを一口。


「……一応、情報を手に入れることができる相手に心当たりはあるよ。あくまで可能性の話だけど」

「それが駄目だったらどうする? 城に直訴にでも行くのか?」

「……おそらくそれをやっても意味がないと思います」


 提言はティアナから。それにユティスも同意する。


「僕も、同感……スランゼルや魔法院は城の中で一定の権力を持ち始めているわけだけど、陛下の言葉にすんなり従うという組織じゃない。おそらく城に訴えても効果がないだろうし、時間だってないと思う……加え、ここから出たら入れないと学院長が言っている以上、外に訴えるのは無理だ」

「ってことは、俺達でどうにかしないといけないというわけか」

「うん……それと、外については一つ思うところがある」

「それは……?」


 オックスが問い掛けた時、ふいに店の入り口が開く。学生を示す藍色のローブを着た男性だった。

 まだ授業中のはずだが――ユティスは内心思いつつ目が合うと、彼はすぐさま近づいてくる。


「用みたいね」


 フレイラの言葉の後、男性が食事をするユティス達の前に到達する。


「ユティス=ファーディル様は?」

「僕です」

「こちらにいらっしゃると連絡を受け、参りました。ご伝言です」


 どこからか監視でもされているのか――あまり良い気分ではなかったが、ユティスは表情には出さず聞き返した。


「誰から?」

「弟君である、レイル様からです」


 伝言――ユティスは小さく頷き、


「話してください」

「……外に出て、色々準備する、と」


 ――ユティスはその言葉で、何をするのか明確に悟る。


 レイル自身、ユティスとは異なり期待されてはいるが権力的なものを抱えている立場ではない。だからこそ今は身軽な立場――なおかつ現在カールが城へ追い立てられたため、完全にフリーとなっている。

 よってどうとでも動ける――事件のことを懸念していた以上、間違いなくラシェンの所へ行くだろうとユティスは推測できた。セルナもいるし話すことはそれほど難しくないし、王と関わりのある人物である以上、他の誰よりも即座に対応できるとレイルも判断しているはず。


 もし騎士が動き出しても学院がすんなり応じるのかという疑問はあったが――ユティスはレイルが動くと表明しているのを聞き、学院の外は襲撃に対し準備を行うだろうと思った。


「わかりました。ご伝言ありがとうございます」


 ユティスが言うと学生はものも言わず去っていく。それを見送りつつ、呟く。


「……外は、大丈夫」

「なるほど、な」


 オックスもまた声を上げた。


「なら、こっちはこっちで動くとするか……で、その情報の候補者はどこにいるんだ?」

「それについては、ここで待っていればたぶん会えると思うよ」

「学生なのですか?」


 ティアナが問う。それにユティスは小さく笑い、


「まあ、そうだね……この店でいつも食事をとっていたのは間違いないし、たぶん来ると思う。それまでは、ここでゆっくりしようよ」



 * * *



 アリスが連れてこられたのは、会議室のような場所。そこで、ルエムから質問攻めを受けた。


 一人学院の面々と向かい合わせで座るアリスに対し、質問を行う魔術師はルエムを含め合計で四名。その全てが例外なく年配で、おそらく学院内で権力を保有する人物なのだろうと、アリスでも予測をつけることができた。


「なるほど……不死者となった経緯はわかりました」


 ニコニコとルエムは告げる――その態度がアリスにとって癇に障る。明らかに胸に一物抱えているはずなのに、それを誤魔化すために笑みを浮かべている。


 他の面々は無表情のまま話を聞いているが、少なくとも襲撃に際し動揺している様子は一片たりとも見せなかった。学院長の言葉に従い防備をしっかりと行っているからこそ――今回の聞き取り調査という名の尋問は、その補強と彼らの興味によるものなのだろう。


「妹さんの身に起きたことは真に悲しいですね……それで、アリスさんはなぜこの事件を追うことに? 首謀者を倒すために? それとも――」

「妹を救うため」


 明瞭な返答。それにルエムは驚きを禁じ得なかったようで、目を見開く。


「妹さんを……? しかし、彼女は――」

「もちろん、妹は半年前に死んでいる。けれど、あんな傀儡のような存在となっているのを、見過ごせない」

「なるほど、そういうことですか」


 ルエムはうんうんと何度も頷く。それを見ながらアリスは、内心の怒りをぐっと抑える。

 彼らに対して、ではなかった――自身の過失で、何の罪もない妹が村の人々に殺されてしまった。あまつさえ、現在は死霊魔法によって故郷の人々を殺し、なおかつ学院襲撃まで行おうとしている。


 そうした凶行を止めたいという心情は大いにある。けれど、それ以上に――


「……一つ」

「ん?」


 呟きに、ルエムは即座に反応。


「何かあるのかい?」

「学院の襲撃は、必ず止められると思いますか?」

「無論です。準備は全て整えてありますよ」


 絶対の自身を持った発言。そこでアリスはさらに追及。


「妹は……どうなりますか?」

「襲撃ができないと判断したのならば、彼らも一度退却せざるを得ないでしょう。そうした状況下で、我らが打って出るという寸法……まあ、襲撃時に返り討ちにするのもありかと思いますが」


 説明を加えた後、ルエムはアリスと目を合わせた。


「もし……もしですが、君が私達に協力してもらえるのならば、妹さんの処遇については君の意向に沿うような形にしましょう」

「協力?」

「この事件に関する情報提供もそうですが……私達としては君ほど卓越した『潜在式』の魔術師について、興味を持っているのです」


 それは何を意味するのか、アリスにもおぼろげながら理解できた。実験体とまではいかないだろうが、色々と魔法に関して調べられるのだろう。


「ああ、学院はどうも非合法な研究をしているというイメージが世間に多少ながらあるかもしれませんが、非人道的なことは決してしませんよ。そもそもそんなことをして城にでも訴えられれば、私達は一巻の終わりです。そんな馬鹿な真似はしないと約束しましょう」


 アリスは考える。提案は紛れもなくリーグネストで関わったユティス達と決別することになるだろう。

 けれど――ここでアリスの胸中には別のことが思い浮かぶ。


「……私は」


 呟き、俯く。決して、こんなやり方は妹も望んではいないはず。けれど――


「……一つだけ、頼みが」

「はい、どうぞ」


 了承するルエム。それにアリスは顔を上げ、言った。


「できるかどうかわかりませんが、妹についてあることをしてもらいたいのです――」


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